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7章 エルフの森の典型的で非典型なイベント
ゲームでは全く考えなかった身分関係、王子を廃嫡されて公爵家に?
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探索の結果、エルフの森はおよそ60名程度の冒険者に囲まれていた。とはいえその3分の1は輜重のようだ。今現在急襲されることはない、と思う。
『幻想迷宮グローリーフィア』ではエルフの森は高確率で冒険者に襲撃される。原因をいろいろ考えてみたけれど、現実的な目線で見れば、エルフの戦略の幅がとても狭いからだと思う。このエルフの森にとって、そもそも森以外の種族と交流すること自体が初めてなのだろう。だから、現在エルフの取っている不適切なものを除外するという戦略の結果が何を生むか、想定しきれていないんだ。
1度禁を破れば立ち入れない。立ち入れない以上、それ以降その者がエルフの森から恩恵を受けることはない。恩恵を受けるためには掠奪するしかない。
そして人間とエルフは文化が異なる。例えば、特別に許されたものを除き、森へはいかなる理由があっても火の持ち込みは禁止だ。だからエルフも特別に許された飲食店等の限られた場所で、許可された範囲で煮炊きをする。だから冒険者はエルフの森では食事は外食に頼るしかなく、自分で煮炊きをすることはない。そういった細かな決まりがたくさんある。
人間にとってはエルフの文化とそれに基づく除外が不当であると認識する者も多いだろう。それがエルフの森自体への不満を醸造させ、人が集まることによってその不満が正当化され、そして攻め入ることへのハードルを下げてゆく。
「ザビーネ様、これ以上、冒険者の人数は増えるのでしょうか」
「そうですね……。カステッロ様ならより多くを動かせるでしょうから増えるでしょう。マリオン様はどうされるおつもりですか? ウォルターの依頼を受けているのですよね」
「ええ。だから採取が終わるまでは動けません」
「状況が変わったということで撤退されては。採取であれば後ほどでもできるでしょう」
後ほど。それはエルフの森が滅んだ後という意味合いだろう。
今エルフの森に滞在する冒険者パーティは私を別途すればザビーネ様を含めた4人だけ。とても叶う人数差ではない。エルフの森が滅んだ後はここで木材系の資源を手にすることはできなかったと思うけれど、土瀝青はどうなんだろう。
「そう、ね。状況に応じるつもりではありますが、なるべくギリギリまでここにいるつもりです。ここは得られるものが多いから。お気遣いありがとうございます」
エルフの森の知識、技術、素材。
素材はともかくエルフの森が消失してしまえばその知識と技術は失われる。
そういえばエルフの森に神樹があることは知られていないのかもしれない。神樹アブハル・アジドはひと目見ただけでは一際大きな巨木にしか見えない。
「それからあの、ウォルターはこの階層に止まるのでしょうか」
「当面その予定です。採掘があるでしょうし、お一人では転移陣まで戻れませんので」
「それでしたらしばらくは安心でしょうか、いえ、むしろ危険かもしれませんね」
「それはどういう?」
「カステッロ様はビアステット家の嫡子ですからウォルターとの関係は微妙です。そのご性格上ウォルターの存在は許せないのでしょうが、立場上、今のウォルターに手は出しづらい。それをどう見るかですわね」
ビアステット?
今世の貴族関係の記憶を遡る。ビアステットは公爵家。この国の貴族として最も高位な家の一つ。
ウォルターのお母様、皇后様は現ビアステット公爵の妹御。とすればカステッロとウォルターは従兄弟にあたるのか。ウォルターはこれまで王族としてビアステット家とは切り離されていたけれど、それが廃嫡となった。
「そういえばウォルターはビアステット家の継承権を有しているのでしょうか。本人は全く気にしてないか気づいていなさそうでしたが」
「ああ……高位の貴族では有名な話なのですが、マリオン様はご存知ありませんのね。そこが今、とても微妙な問題なのです」
ビアステット家の継承権は一風変わっている。現当主と当主代理、そしてその先代と次代の当主及び当主代理うち10歳以上の者、最大6人の合議それに基づいて領の統治が行われる。
原則、当主の長男と次男が次代の当主及び当主代理となる。当代及び先代が死亡した場合に補充はないが、次代の当主または当主代理が死亡した場合、家内の男子が繰り上がる。現当主に他に子がない場合、先代当主直系女子が生んだ男子で他家に婿や養子に入っていない者が継承権を持ちうる。継承権を持つ男子以外の子女及び当主として相応しく無いとみなされた男子は、10歳になった時点で他家に出されて承継権を失う。各代の当主及と当主代理は対等で、全ての財産を共有し、複数の同じ妻を娶る。そんな関係だから、同じ家で同じ価値観で育つことが絶対なんだそうだ。
現在の領地運営協議の参加者は王都に住む先代当主とカステッロ、領地に住む当代当主とその当主代理の4名が参加している。
先代当主の弟は既に死亡くなり、現当主にはカステッロの他に女子が2人と5歳の男子がいるけれど、5歳の男子は10歳になるまで正式な継承権と協議の参加権はない。この次男が死亡した場合、現当主に新たに男児が生まれない限りは、現当主の妹の男子であるウォルターが継承権を持ちうる。
「でもウォルターは多分、ビアステット家に入るなんてちっとも考えていないわ」
「ウォルターを預かっている先代当主もそのつもりはないらしいのだけど、ビアステット家にいる以上、どこかの養子か婿に出さざるを得ないのよ。でも今は難しいの」
「ウォルターは王子に返り咲こうとしてるからなぁ」
「ビアステット家も王家に戻せるなら戻したいそうなのだけれど」
そういえば『幻想迷宮グローリーフィア』ではウォルターがパーティに加入していれば、エルフの森で敵対する冒険者側の攻勢が緩くなる傾向があった。前世ではウォルターのラックせいかと思っていた。けれども探索許可証をもっているのはみんな貴族。だからウォルターの王族という立場が、敵対する側の遠慮やら忌避感を生んでいたのかもしれない。
けれどもウォルターは今、極めて微妙な立場にある。王族としての役目を果たせないとみなされて廃嫡されたのに、今のウォルターは国の発展に尽力している。エスターライヒを発展させ、貴族位に居ながら王族としての務めを果たしている。普通に考えれば一旦廃嫡されれば通常は復位の目はないのに。
貴族とはその領土を富ませる者。
貴族であるならその領地の発展を目指すべきで、ビアステット家にウォルターが入るのであれば、その領地の発展に寄与させるだろう。けれどもウォルターはビアステット領の発展には全く役立ってはいない。
ウォルターは先代ビアステット公爵の孫にあたるけど、現ビアステット公爵やその嫡子であるカステッロにとってはどうなんだろうか。全く異なる家で育った異分子に他ならないだろう。ひょっとしたら事故死といった暗殺を目論む、ような関係なのかもしれない。
ウォルターからはビアステット家についての話は全く聞かない。本人は王族に戻るつもりだから、ビアステット家の継承権なんて気にもしないか、気づいてもいないのだろう。
はぁ。なんでウォルターはあんなに能天気なのかしら。ウォルターだからか。
『幻想迷宮グローリーフィア』ではエルフの森は高確率で冒険者に襲撃される。原因をいろいろ考えてみたけれど、現実的な目線で見れば、エルフの戦略の幅がとても狭いからだと思う。このエルフの森にとって、そもそも森以外の種族と交流すること自体が初めてなのだろう。だから、現在エルフの取っている不適切なものを除外するという戦略の結果が何を生むか、想定しきれていないんだ。
1度禁を破れば立ち入れない。立ち入れない以上、それ以降その者がエルフの森から恩恵を受けることはない。恩恵を受けるためには掠奪するしかない。
そして人間とエルフは文化が異なる。例えば、特別に許されたものを除き、森へはいかなる理由があっても火の持ち込みは禁止だ。だからエルフも特別に許された飲食店等の限られた場所で、許可された範囲で煮炊きをする。だから冒険者はエルフの森では食事は外食に頼るしかなく、自分で煮炊きをすることはない。そういった細かな決まりがたくさんある。
人間にとってはエルフの文化とそれに基づく除外が不当であると認識する者も多いだろう。それがエルフの森自体への不満を醸造させ、人が集まることによってその不満が正当化され、そして攻め入ることへのハードルを下げてゆく。
「ザビーネ様、これ以上、冒険者の人数は増えるのでしょうか」
「そうですね……。カステッロ様ならより多くを動かせるでしょうから増えるでしょう。マリオン様はどうされるおつもりですか? ウォルターの依頼を受けているのですよね」
「ええ。だから採取が終わるまでは動けません」
「状況が変わったということで撤退されては。採取であれば後ほどでもできるでしょう」
後ほど。それはエルフの森が滅んだ後という意味合いだろう。
今エルフの森に滞在する冒険者パーティは私を別途すればザビーネ様を含めた4人だけ。とても叶う人数差ではない。エルフの森が滅んだ後はここで木材系の資源を手にすることはできなかったと思うけれど、土瀝青はどうなんだろう。
「そう、ね。状況に応じるつもりではありますが、なるべくギリギリまでここにいるつもりです。ここは得られるものが多いから。お気遣いありがとうございます」
エルフの森の知識、技術、素材。
素材はともかくエルフの森が消失してしまえばその知識と技術は失われる。
そういえばエルフの森に神樹があることは知られていないのかもしれない。神樹アブハル・アジドはひと目見ただけでは一際大きな巨木にしか見えない。
「それからあの、ウォルターはこの階層に止まるのでしょうか」
「当面その予定です。採掘があるでしょうし、お一人では転移陣まで戻れませんので」
「それでしたらしばらくは安心でしょうか、いえ、むしろ危険かもしれませんね」
「それはどういう?」
「カステッロ様はビアステット家の嫡子ですからウォルターとの関係は微妙です。そのご性格上ウォルターの存在は許せないのでしょうが、立場上、今のウォルターに手は出しづらい。それをどう見るかですわね」
ビアステット?
今世の貴族関係の記憶を遡る。ビアステットは公爵家。この国の貴族として最も高位な家の一つ。
ウォルターのお母様、皇后様は現ビアステット公爵の妹御。とすればカステッロとウォルターは従兄弟にあたるのか。ウォルターはこれまで王族としてビアステット家とは切り離されていたけれど、それが廃嫡となった。
「そういえばウォルターはビアステット家の継承権を有しているのでしょうか。本人は全く気にしてないか気づいていなさそうでしたが」
「ああ……高位の貴族では有名な話なのですが、マリオン様はご存知ありませんのね。そこが今、とても微妙な問題なのです」
ビアステット家の継承権は一風変わっている。現当主と当主代理、そしてその先代と次代の当主及び当主代理うち10歳以上の者、最大6人の合議それに基づいて領の統治が行われる。
原則、当主の長男と次男が次代の当主及び当主代理となる。当代及び先代が死亡した場合に補充はないが、次代の当主または当主代理が死亡した場合、家内の男子が繰り上がる。現当主に他に子がない場合、先代当主直系女子が生んだ男子で他家に婿や養子に入っていない者が継承権を持ちうる。継承権を持つ男子以外の子女及び当主として相応しく無いとみなされた男子は、10歳になった時点で他家に出されて承継権を失う。各代の当主及と当主代理は対等で、全ての財産を共有し、複数の同じ妻を娶る。そんな関係だから、同じ家で同じ価値観で育つことが絶対なんだそうだ。
現在の領地運営協議の参加者は王都に住む先代当主とカステッロ、領地に住む当代当主とその当主代理の4名が参加している。
先代当主の弟は既に死亡くなり、現当主にはカステッロの他に女子が2人と5歳の男子がいるけれど、5歳の男子は10歳になるまで正式な継承権と協議の参加権はない。この次男が死亡した場合、現当主に新たに男児が生まれない限りは、現当主の妹の男子であるウォルターが継承権を持ちうる。
「でもウォルターは多分、ビアステット家に入るなんてちっとも考えていないわ」
「ウォルターを預かっている先代当主もそのつもりはないらしいのだけど、ビアステット家にいる以上、どこかの養子か婿に出さざるを得ないのよ。でも今は難しいの」
「ウォルターは王子に返り咲こうとしてるからなぁ」
「ビアステット家も王家に戻せるなら戻したいそうなのだけれど」
そういえば『幻想迷宮グローリーフィア』ではウォルターがパーティに加入していれば、エルフの森で敵対する冒険者側の攻勢が緩くなる傾向があった。前世ではウォルターのラックせいかと思っていた。けれども探索許可証をもっているのはみんな貴族。だからウォルターの王族という立場が、敵対する側の遠慮やら忌避感を生んでいたのかもしれない。
けれどもウォルターは今、極めて微妙な立場にある。王族としての役目を果たせないとみなされて廃嫡されたのに、今のウォルターは国の発展に尽力している。エスターライヒを発展させ、貴族位に居ながら王族としての務めを果たしている。普通に考えれば一旦廃嫡されれば通常は復位の目はないのに。
貴族とはその領土を富ませる者。
貴族であるならその領地の発展を目指すべきで、ビアステット家にウォルターが入るのであれば、その領地の発展に寄与させるだろう。けれどもウォルターはビアステット領の発展には全く役立ってはいない。
ウォルターは先代ビアステット公爵の孫にあたるけど、現ビアステット公爵やその嫡子であるカステッロにとってはどうなんだろうか。全く異なる家で育った異分子に他ならないだろう。ひょっとしたら事故死といった暗殺を目論む、ような関係なのかもしれない。
ウォルターからはビアステット家についての話は全く聞かない。本人は王族に戻るつもりだから、ビアステット家の継承権なんて気にもしないか、気づいてもいないのだろう。
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