ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

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8章 このゲームはこの世界のどこまで影響を及ぼしているのか

ウォルターと私の違い

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 儀典部の記録でも、マリオン嬢がダンジョンを倒した時、必ずしもウォルターがパーティに含まれているわけではない。マリオン嬢がダンジョンを倒したケースの多くは、様々なパターンはあれどもエスターライヒは大きく繁栄している。それは内務卿の保有する資料にも示されている。ウォルターがいなくても何らかの方法で街を発展させてダンジョンを倒すのだろう。
 改めて考えればマリオン嬢自体に卓抜した能力があるわけではない。けれども様々な要素の中心にいて、物事を動かす役割を果たしているのだろうか。司令部のように。
 そうであるならば、私にも私として、何かできることがあるのだろうか。
 かつての私がマリオン嬢とともにダンジョンに潜った時、どのようなことをしていたか調べよう、そう思った。
 そしてマリオン嬢がこぼした武闘大会という言葉も。その言葉は初めて聞いたはずなのに、どこか聞き覚えが会った。

 マリオン嬢がパナケイア商店を立ち去った後、少し気が咎めながらも、ウォルターにどうやってアイス・ドラゴンを倒したか聞いた。5人で倒せるはずがない。仮にできたとしても、通常はその技術は秘匿されてしかるべきものだ。けれどもウォルターは意外にも、あっさりとその攻略方法を教えてくれた。
 ジャスティンが陽動し、ウォルターが囮となってアイス・ドラゴンの動線を制限する。そこをアレクサンドルとソルタンがその体力を奪い、マリオン嬢の術式陣でアイス・ドラゴンの飛翔の術を奪い、テイムした魔族が魔法でアイス・ドラゴンの行動を阻害して、アレクサンドルが首を落とす。
「そんなこと、可能なのか?」
「可能も何もそれで倒したし」
「その、何故ウォルターが囮を? 死ぬ可能性もかなり高いと思うのだが」
「そんなこといったって他に手が空いてるやつがいなかったからな。俺が1番役立たず・・・・なんだよ。あのパーティで。それに倒せないんじゃ仕方ないじゃん。めっちゃ怖かったけど」
 めっちゃ怖かったけど。
 その軽い言葉は理解できなかった。
 王族の生命は何よりも重視すべきものだ。確かに今、ウォルターは厳密には王族ではないがそれにしても。
 まて、他に何らかの安全策がある、のか?
 わからない。

「けれどもそれはアレクサンドルとソルタンという強い戦力があればこそだろう?」
「うちはそうだけど、やり用の問題じゃないの? アルバートの国軍やエリザベートの魔法部も選りすぐりで潜ってるんじゃないの?」
「それは……そうだが……」
「それに王族の許可状ならいざとなれば100人単位で潜ればいいだろ」
「それなんだが、何故マリオン嬢はパーティメンバーを増やさないんだ? どこのパーティでも10人で潜る」

 そこでウォルターは初めて目に悩みを見せ、少し首を傾げながら手元でペンを回し始めた。器用だな。
「主人公仕様じゃないかなあ? CPは解除されてるようだけど」
「CP?」
「いや、今のは無しで。うちは基本、少数精鋭だからさ。今から新しくメンバーをいれて潜り直すのは無理なんじゃないかな。ほら、1階からだろ?」

 その時間のロスは確かに大きな問題だ。
 私の新しいパーティも、新規追加の人員が転移陣を使用するために今潜り直しているが、人数を揃えるためにかなりの時間がかかっている。私の王家パーティは軍から挑発しているから何も問題はないが、ギルド等で人員を集めるなら相性や戦略もある。人員の追加は予想以上に大変なのかもしれない。
「もともとマリーはジャスと2人で22階層まで潜ってたのを、すでに同じ深度をクリアしてたアレクとソルが加わった形だから。それに毎日王都に戻るスタイルだから輜重はいらないんだよ。ダンジョンに素材剥ぐためにダンジョンに留まって輜重に金を払うよりは、必要な素材で装備を作る方が重要なんじゃないかな」
「男爵家は困窮しているんではなかったのか?」
「王家が金を出したってジャスティンに聞いたぞ?」
 それは……確かにそうだ。
 ウォルターの婚約無効の慰謝料に王家からそれなりの金額が払われているはずだ。それでなんとかなったのかな。王家と男爵家では経済規模が大きく異る。いやそれはともかくとしてアイス・ドラゴンだ。私のパーティでも討伐自体は可能だったが、より効率的に安全に倒すということができるのかな。
「お前のとこは輜重が2人だっけ」
「そうだな。10人というのは変えるつもりはないが、ボス戦は戦闘職10人であたろうと思う」
「10人かぁ。お前は囮にはならないんだろうけどさ。誘い込むとかは? お前地形バッファーだろ?」
「誘い込む?」
 ウォルターは棚から新しい紙を引っ張り出して図を描き始める。
 そうしてウォルターと考えた作戦とマリオン嬢に描いてもらった何枚もの小さな術式陣を携えて再びアイス・ドラゴンに挑んだのはしばらく後だった。

 轟音と共に吹き荒ぶ氷原は変わらず白く煙り、1メートル先の視界をも隠す。エリザベートを含む4名の魔法部隊は私が起動させた存在隠蔽と魔力効果の術式陣を手に私を中心に半円状に散開し、私はその中心部分に地形効果、つまり吹雪を低減させるバフを発動する。その上で何人かの兵士とともに、マリオン嬢から譲り受けた大きな術式陣を手早く敷き、その四方を地面に縫いとめる。
 しばらく様子を見るが、わずかに風雪が陣の上に舞い落ちるけれども、降り積もり陣を隠すほどではない。埋まりはしなさそうだ。目印としては十分だ。
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