ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

Tempp

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9章 この世界におけるプレイヤー

正月の記憶とバグ

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「グラシアノを助けられなかったら諦めてくれ」
「助けられなかったら……?」
「そうだ。あれは魔女に類するものだ。だから何が起こるかわからない。そのくらいヤバいものだ。いいな」
「本当にあれが魔女だというのか?」
 アレクの瞳は明らかに狼狽えていた。
 魔女。それは世界の根幹で、私のマリオンとしての記憶の中でも物心付いた時から近寄ってはならない、触れてはならないものと教え込まれている。けれども普通に生活している限り魔女に出会うことなどない。魔女が現世に顕現することなどないのだ。
 それは前世の地球では神に出会うにも等しいこと。つまり普通はありえない。
「何故魔女がこんなところにいる」
「さぁ、それを聞いてみるよ。多分あいつも『バグ』に狂わされた、んだと思う」
「バグ? バグとは何だ」
「さぁね。俺にもわかんね。それも含めて俺たちは、その存在に認識を書き換えられているんだよ、多分な。記憶に残らないように。それを自覚した上で弾けるのはこの中では俺だけだ」
「ソル、それって」
「ああ。マリーが言っていた正月のバグだよ」

 記憶に残らないように存在の認識を書き換える。
 それはあの、お正月に世界がバグで埋まっていく光景をみんなが見たはずなのに、誰も覚えていない現象のこと? あんな風に、気がつかないうちに様々な物事を忘れてしまうというの? そしてそれに気づくことができないの?
 そうすると、このガドナークもバグのせいで異常な行動をしているの?
「ソル、魔女は強大です。安易に関与すべきではありません。このままの場合、グラシアノはどうなるのですか」
「このまま? さてな。おそらくグラシアノが一番保つだろう。俺が魔法をかけているからな。その次はギローディエだ。なぜだかアブハルアジドに守られている。そして奥の奴は何の守りもうけていない。だから奥の奴が先に壊れる。奥の奴が大丈夫なうちは大丈夫、と思うがこの状態がどのくらい継続するかは俺にもわからん」
「それであれば……一旦保留にしましょう」
「ジャス!?」
「ここへの入り方はわかりました。ソルとあのガドナークの行動を観察しました。水晶に関与しない限りは積極的な関与はなさそうです。つまりグラシアのにすぐに危険が及ぶものではない。それでしたら適宜様子を見に来て、それまで研鑽を積みましょう」
「ジャス、何を言うの!?」
「いや、マリオン嬢。俺も異存はない。魔女は危険すぎる」
「アレクまで?」

 ジャスティンはまだわかる。
 ジャスティンはベルセシオを放置するという選択肢を知っているからだ。ベルセシオが何百年も昔からここで水晶に埋まっている、ことになっていて、ベルセシオが存在する限りおそらくこの階層は崩壊しない、ということを。
 けれどもアレクまで。
 そう驚いて眺めた2人は眉間に皺を寄せ、鎮痛をその表情に浮かべていた。2人にとっても苦渋の選択、それがわかって思わず口をつぐむ。
 魔女というものはそれほどのものなの? 『幻想迷宮グローリーフィア』ではここまで順調に進んだパーティがガドナークを倒せない、なんてことはなかったはずなのだけど。

「いや、その選択肢はナシだ。俺は俺のためにやる。お前らが止めてもな。今は敵意がないようだがこいつは狂っている。いつどうなるかわからない。それに俺は俺の魔法を回収しないといけない。だからまぁ、お前らは外に出ろ。ここは危険だから」
「ソル、それは後ではダメなのか? グラシアノも大切な仲間だがお前もそうだ」
「駄目だ。バグは魔法を伝ってくる可能性がある。グラシアノがバグに浸されれば何らかの方法で俺に及ぶ恐れがある。アレク、お前ならその意味はわかるよな」
「それは……」
「でも1人では置いていけないわ」
 ソルは放っておくと無茶ばかりする。この間もアブハル・アジドのウロで倒れていた。あのあたりは火の海だった。あのまま焼け死んでいたかもしれない。それにフレイムドラゴンの時だって。
「マリー1人ならかまわない。そのくらいなら守れる」
「それなら俺が残る」
「アレクは駄目だ」
「何故だ」
「バグを認識できないからだ。マリーは覚えてるんだろ? その新年のバグ」
「え、ええ」
「なら本当にヤバくなったら、自分で判断できる。俺のニーの端っこをあの列石に繋げている。いざとなったら伝って逃げればいい」
「ソル、それなら私が残ります。私も覚えています」
「うん? そうなのか? だが駄目だ。マリーだけだ。お前らは魔女から逃げた。日和る奴はギリギリのところで使えない。マリーは残るか? 危険だから無理強いはしないよ」
 ソルは真剣に私を見つめる。本当に危険があるということだろう。けれどもソル一人で残すと、何をするかわからない。
「ソル、私はどうしたらいいの?」
「さすがマリー。俺がやばかったらニーに命じろ。強制的に引き上げるように指示しておく。それに今だけマリーに従うように命じたから」

 ニー?
 ニーというのはこのソルの蔦のことだよね。
「そうだな、俺の半分がバグに覆われたら撤退を命じてくれ。そうなった場合、地上に出たらこの笛を吹け。それでなんとかなる」
 ホイッスルくらいの大きさの小さな石笛を渡された。そしてアレクとジャスは追い出された。ニーによって強制的に。
 そうして蔦が私の足首に絡まった。
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