ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

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9章 この世界におけるプレイヤー

新たな仲間

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 けれども勝った。
 次の瞬間、ガドナークの背後に7本のニーの枝が突き刺さり、ガドナークはそのままぐらりと頭から床に崩れ落ちる。
 そして一拍の後、その体の内側から風が吹いた。
 通った。先程の魂から感じた清涼な風だ。とするとこれはガドナークではなくヤークか。

 目の前のガドナークの行動原理は至極単純だった。
 それは自らに危険を及ぼすものを排除する。
 だから俺はHとIの2本の枝にガドナークの目を引きつけ、強引にグラシアノの魔道具から解放した俺の一部を媒介に、既に撃ち落とされた7本分の枝の術式を再起動した。枝は魔法をリピートし、座標として定められたヤークの魂にその背後から突き刺さった。けれども無茶な魔法の反動で、グラシアノに装備させた俺の一部は壊れてしまっただろう。仕方がない。
 そう思って再びヤークに戻ったその存在を見ると、ヤークを中心に吹き荒れていた風はさらに逆巻き、この場所のバグを次々と除去していく。まずい。

ーヤーク、止めろ!
「何故だ」
ーこの世界は既にバグに汚染され尽くされ、バグと共生している。全てを一方的に剥げば崩壊に至る。
「ふむ」
ーあと、俺の真名は秘密にしてくれ。

 ふわりと風が止み、ふわりと空気がゆれた。
 そしてその金色混じりの美しい黒羽がしっとりと広げられた。そこに現れたのは尾の長い鳥。これが本当のヤークの姿。ふわりと宙に浮かびあがり、まるで風に乗るように長い尾をたなびかせながらあたりを優雅に見回している。
 急いでニーの結界内の体まで戻って目を開けると、心配そうなマリーと目があう。
 立ち上がると目の前がふらふらと揺れる。
 魔力の使いすぎだ。この間から体からいろいろなものが欠けていく。このダンジョンは消費が激しすぎる。

「ソル、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。心配かけたかな、マリー」
「なるほど、心得た。ところでここはどこなのだ」
 ヤークは疑わしげな声をあげる。ヤークはどこまでを認識しているのだろう。
「多分、山の底だ。あんたの守っていたドワーフたちの村のすぐ近くだよ」
「はて。このような場所はなかったが」
 ヤークの疑念はますます深まったように聞こえる。
 けれども、このような場所はない?
 グラシアノたちが山の中と言っていたからそう思っていたが、ひょっとしたらこの洞窟は全く異なる空間なのかもしれない。
「それよりそいつを解放してほしい。あんたに不要なんだろ」
「無論、不要だ」
 ヤークは浮遊をやめてふわりと俺の肩に着地する。
 グラシアノの前に移動したが、見る限り様子に変わりはなかった。ガドナークの力が失われても水晶は消滅していない。この水晶がバグに作られたガドナークの齎したものであるということならば、この世界にバグが存在する限りその影響は継続するのかもしれない。
 やはりやるなら全てのバグを一度に除去する必要がある。
 この領域に満ちるバグを?
 道のりは果てしなく遠い。

「なんだこれは」
「ガドナークがあんたの体を使って閉じ込めたんだ」
「不快な」

 次の瞬間、水晶は消え失せ、グラシアノが床に崩れ落ちた。
 これはガドナークの水晶を操る力ではなく、ヤークの調停者としての事象改変の力によるものだろう。様子を見るふりをしてこっそり魔道具を回収する。そうしてグラシアノを簡単に調べる。やはりグラシアノもバグに塗れている。けれどもマリーとも違う。
 続けてギローディエを解放し、最後のドワーフに向かう。
「これはブロッコではないか」
「ブロッコ?」
「ああ。うちの村のドワーフだ。炭焼きをやっている。まて。なんだこれは……おい、私はどのくらい眠っていたのだ」
「厳密には異なるかもしれないが800年かな」
「800年だと?」
 ヤークの声音が複雑に戦慄いた。
「なんだこの呪いは。何がこれほど強固に」
「あの、その人を助けると何か困ることがあるのでしょうか。その」
 背後から心配そうなマリーの声が聞こえた。
 そういえばマリーには何も説明をしていない。
 突然の出来事とヤークに混乱しているのかもしれない。
「娘よ、助けないというわけではないのだ。いや、何か妙な細工がしてあるな」
「細工、ですか?」
「ああ。ブロッコはこの地の奥底の龍脈と繋げられている。小賢しい」
 水晶が砕け、ブロッコが床に倒れ落ちた。
 首筋に触れて様子をみると、衰弱しているが命に別状はない。そしてやはり思った通りだ。魂に僅かに何かの根が張っている。

「ヤーク、ブロッコの魂を観測しろ」
「……何だこれは」
「バグの幼生だ」
「……なんと惨いことを。一体何だというのだ。この呪いはどこから来たというのだ。何を目的としている!」
「呪いは恐らく異世界から来たんだよ。目的はわからない。それからそれは解除できない。魂自体にすでに分かち難く同化している。除けば魂が破れる」
「あの、さっきから何の話をしているの?」
 うーん。マリーには何と説明をしたものかな。
 この世界について俺が認識していること、そこからの将来の予測。
 ……いや、全ては未だ不確定だ。それにただ俺の認識を話しても仕方がない。何らかの解決方法とセットでなければ嫌な気分にさせるだけだろう。

「この鳥はティーフベルグのドワーフの神ヤークだ。バグによってガドナークとなっていた」
「バグで、ガドナークに、なる?」
「うん、まぁちょっと意味がわからないよな。でもそうとしか言えない。それでヤークに戻ったから3人を解放してもらったんだ。とりあえず外に出ようか」

 ニーに命じて3人を運び、困惑するマリーとともに地上に戻れば、ジャスがマリーに駆け寄った。少しだけ睨まれた。確かに無理やり追い出したのはフェアじゃないなと反省する。マリーを強奪したいわけじゃないんだし。
 俺たちは入ったときと同じように列石の真ん中に立っていて、涼しい風が吹いていた。
 時間の経過はあの洞窟の中と変わりはないらしい。

「何故この村がこのようなダンジョンの中にあるのだ」
「さてな。元々はどこにあったんだ?」
「サマルアリア南部の森深くにあったのだ。人もめったに立ち寄らぬところよ」
「そうか。やはりそうなのか」
 ヤークから怪訝そうな声が漏れる。
「やはり? やはりとはどういうことだ」
「ヤークはどうするんだ? その返答次第だ」
「そうだな。私はこの世界を調べたい。何がこのような悲劇を齎しているのかを」
 それならば、俺と目的は同じだ。
「手伝ってくれるならありがたい」
「手伝うのではない。私は私とこの村のために行うのだ。そうでなければ浮かばれぬ」
「ああ。俺もそう思うよ」

 結論からいうと、俺たちの旅に時折ヤークが加わることになった。
 ヤークはグラシアノたちと異なり転移陣を自由に通れる。ヤークは調停者として世界を改変する力を有する。その力は魔女と言えるほど強大ではないものの、転移陣を少々塗り替える程度は何の妨げにもならない。
 そしてベルセシオは死んで、グラシアノに吸収された。俺はついでにスヴァルシンも混ぜた。
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