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10章 この世界への溶性
ギローディエとの試合
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「グラシアノ、頑張れよ」
「ありがとう、ソル」
ソルが僕の頭を撫でた。
ソルが闘技場に来るのはこれが初めてじゃないかな。これまでの試合の時にはいなかった。今日はいる。それはきっと、次の試合の対戦相手がギローディエだからだ。不測の事態があればソルが介入する。それで僕とギローディエが戦って、僕が勝ったらギローディエから魔王を取り出す。そんな予定になっている。
でも多分それほど、すんなりとはいかないと思う。ベルセシオも僕が名前を呼ぶまで魔王じゃなかった。だから多分、僕がギローディエの名前を呼んで、ギローディエを魔王にしないといけない。そうでなければ、魔王を吸収できない気がする。マクゴリアーテが僕に魔王を譲渡してくれたのと同じように、多分魔王を吸収するにはその意志が必要なんだ。
マクゴリアーテとスヴァルシンは、出会った時にすでに戦える状態じゃなかった。だから僕と一緒に行くことを選んでくれた。
けれどもギローディエは多分、そんな人じゃない。今はすごくいいお姉さんだけど、本当の、というよりは魔王のギローディエはあんなにいい人じゃない気がする。ベルセシオも魔王になった時、その前のブロッコは眠りにつくのを了承していたようだったのに、名前を呼んだら雰囲気がガラリと変わって戦いになった。
だから、多分、ギローディエが魔王になってから、もう一度戦いになる。
魔王は魔王の特殊能力がある。
ベルセシオも多分、魔王になって初めてあの岩の魔法を使った。僕も自分が魔王だってことがわかって初めてモンスターの動きを止められるようになった。
両手のひらを握りしめる。
ギローディエと戦う。あのお姉さんを魔王にして、殺し合いをする。なんだか、現実感がない。それは多分、ギローディエの魔王がまだ目の前にいないからだろう。
それでも僕がダンジョンの奥底にある本当の魔王を倒すには、きっとギローディエを、その魔王を吸収しないといけない。
「グラシアノちゃん、今日はよろしくね」
「よろしくお願いします」
最初にジャスが闘技場に登って僕が戦うことを宣言した。そしてジャスと交代する。アナウンスがそれを宣言すると、パラパラとした拍手と、頑張れよという声が聞こえた。
僕が魔族だって聞くと最初は怖がられていたけれど、6回ほど戦って、だんだん好意的な声が増えてきた。ソルが言うには僕が子供の姿で、その魔族的な特徴も額から生える小さな角とハーフマントからのぞく細長い尻尾だけだからってだからだろうってことだけど。
ギローディエの伸ばされた柔らかな手と握手すると、さらに拍手が沸き起こる。けれども当のギローディエは少し困惑そうに眉を顰めていた。
僕たちは戦いたくない。もっというなら殺し合いたくない。けれども僕たちの中の魔王は本能的に互いの存在を許せない。だから相反する戦いたい、という気持ちが心の底から湧き上がる。
「私が負ければ、この嫌な気持ちも無くなるのね」
「ソルはそう言っています」
「私、グラシアノちゃんと仲良くなりたいの。だってまだ一度も私の名前を読んでくれていないでしょう?」
「……はい」
「けど、私はグラシアノちゃんに負けたくないわ。ごめんなさいね」
「僕もです」
僕がそう言うと、ギローディエはニコリと微笑んだ。負けたくない、もっというと負けられないというのは僕たちにとってある意味本能的なもの。お互いの魔王は負けることを容認しないから。そして改めて距離をとる。
ギローディエは長い髪を頭頂で一纏めにして、エント系の繊維を編み上げて硬化させた頭冠にドラゴンの鞣し革を体に沿って縫い合わせた白い革鎧を身に纏い、右手にはスモールソードを構え、左腕には直径50センチほどのバックラーを装備している。
僕はもう少し軽装で、ニーヘリトレの端っこを体に巻き付けて硬化させた使い捨ての軽鎧にグレーターワイバーンのハーフマント、それからショートソード。
スモールソードとショートソードは同じくらいの長さだけど、前者は刺突武器で、後者は斬撃武器だ。ギローディエの攻撃は僕に対して直線的に伸びてくる。僕は盾は持ってない。ジャスと同じくいつも避けることを前提にしているから。
ジャスと稽古する時はいつも、本当に命のやりとりだ。ダンジョンだからモンスターとの戦闘も同じ。でも、この殺し合いを前提にしない試合というのものは不思議な感覚になる。これまでの5回は正直言って手加減が難しかった。けれどもギローディエなら僕と力が拮抗してる。だから多分、力一杯やってよくて、少しだけドキドキした。握るショートソードが熱い。心のなかでいろんなものが渦巻いていて落ち着かない。
呼吸を整える。始めの掛け声と同時に僕から踏み込む。ギローディエが剣を持つ方、左側から回り込めば、ギローディエもふわりと距離をとりつつ後退し、等距離でぐるりと回る。
間合い。それはなんとなく、相手のことがわかる距離。その距離であれば自分が有利なことがわかる距離。
僕の間合いはものすごく狭い。でも自分の間合いが分かるってことは勝機を見つけられるっていうことだ。ジャスの間合いはものすごく深い。だからジャスに勝つには掻い潜って隙を突くしかない。ずっとそんな稽古をしてきた。
ギローディエの突きを交わす。けれどもその突きは鋭すぎて、なかなか近寄れない。懐に入る隙がない。入れないと勝機がない。こういう時はジャスはよく油断を誘った。ものすごく自然に。僕でもうまくできるかな。
「ありがとう、ソル」
ソルが僕の頭を撫でた。
ソルが闘技場に来るのはこれが初めてじゃないかな。これまでの試合の時にはいなかった。今日はいる。それはきっと、次の試合の対戦相手がギローディエだからだ。不測の事態があればソルが介入する。それで僕とギローディエが戦って、僕が勝ったらギローディエから魔王を取り出す。そんな予定になっている。
でも多分それほど、すんなりとはいかないと思う。ベルセシオも僕が名前を呼ぶまで魔王じゃなかった。だから多分、僕がギローディエの名前を呼んで、ギローディエを魔王にしないといけない。そうでなければ、魔王を吸収できない気がする。マクゴリアーテが僕に魔王を譲渡してくれたのと同じように、多分魔王を吸収するにはその意志が必要なんだ。
マクゴリアーテとスヴァルシンは、出会った時にすでに戦える状態じゃなかった。だから僕と一緒に行くことを選んでくれた。
けれどもギローディエは多分、そんな人じゃない。今はすごくいいお姉さんだけど、本当の、というよりは魔王のギローディエはあんなにいい人じゃない気がする。ベルセシオも魔王になった時、その前のブロッコは眠りにつくのを了承していたようだったのに、名前を呼んだら雰囲気がガラリと変わって戦いになった。
だから、多分、ギローディエが魔王になってから、もう一度戦いになる。
魔王は魔王の特殊能力がある。
ベルセシオも多分、魔王になって初めてあの岩の魔法を使った。僕も自分が魔王だってことがわかって初めてモンスターの動きを止められるようになった。
両手のひらを握りしめる。
ギローディエと戦う。あのお姉さんを魔王にして、殺し合いをする。なんだか、現実感がない。それは多分、ギローディエの魔王がまだ目の前にいないからだろう。
それでも僕がダンジョンの奥底にある本当の魔王を倒すには、きっとギローディエを、その魔王を吸収しないといけない。
「グラシアノちゃん、今日はよろしくね」
「よろしくお願いします」
最初にジャスが闘技場に登って僕が戦うことを宣言した。そしてジャスと交代する。アナウンスがそれを宣言すると、パラパラとした拍手と、頑張れよという声が聞こえた。
僕が魔族だって聞くと最初は怖がられていたけれど、6回ほど戦って、だんだん好意的な声が増えてきた。ソルが言うには僕が子供の姿で、その魔族的な特徴も額から生える小さな角とハーフマントからのぞく細長い尻尾だけだからってだからだろうってことだけど。
ギローディエの伸ばされた柔らかな手と握手すると、さらに拍手が沸き起こる。けれども当のギローディエは少し困惑そうに眉を顰めていた。
僕たちは戦いたくない。もっというなら殺し合いたくない。けれども僕たちの中の魔王は本能的に互いの存在を許せない。だから相反する戦いたい、という気持ちが心の底から湧き上がる。
「私が負ければ、この嫌な気持ちも無くなるのね」
「ソルはそう言っています」
「私、グラシアノちゃんと仲良くなりたいの。だってまだ一度も私の名前を読んでくれていないでしょう?」
「……はい」
「けど、私はグラシアノちゃんに負けたくないわ。ごめんなさいね」
「僕もです」
僕がそう言うと、ギローディエはニコリと微笑んだ。負けたくない、もっというと負けられないというのは僕たちにとってある意味本能的なもの。お互いの魔王は負けることを容認しないから。そして改めて距離をとる。
ギローディエは長い髪を頭頂で一纏めにして、エント系の繊維を編み上げて硬化させた頭冠にドラゴンの鞣し革を体に沿って縫い合わせた白い革鎧を身に纏い、右手にはスモールソードを構え、左腕には直径50センチほどのバックラーを装備している。
僕はもう少し軽装で、ニーヘリトレの端っこを体に巻き付けて硬化させた使い捨ての軽鎧にグレーターワイバーンのハーフマント、それからショートソード。
スモールソードとショートソードは同じくらいの長さだけど、前者は刺突武器で、後者は斬撃武器だ。ギローディエの攻撃は僕に対して直線的に伸びてくる。僕は盾は持ってない。ジャスと同じくいつも避けることを前提にしているから。
ジャスと稽古する時はいつも、本当に命のやりとりだ。ダンジョンだからモンスターとの戦闘も同じ。でも、この殺し合いを前提にしない試合というのものは不思議な感覚になる。これまでの5回は正直言って手加減が難しかった。けれどもギローディエなら僕と力が拮抗してる。だから多分、力一杯やってよくて、少しだけドキドキした。握るショートソードが熱い。心のなかでいろんなものが渦巻いていて落ち着かない。
呼吸を整える。始めの掛け声と同時に僕から踏み込む。ギローディエが剣を持つ方、左側から回り込めば、ギローディエもふわりと距離をとりつつ後退し、等距離でぐるりと回る。
間合い。それはなんとなく、相手のことがわかる距離。その距離であれば自分が有利なことがわかる距離。
僕の間合いはものすごく狭い。でも自分の間合いが分かるってことは勝機を見つけられるっていうことだ。ジャスの間合いはものすごく深い。だからジャスに勝つには掻い潜って隙を突くしかない。ずっとそんな稽古をしてきた。
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