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11章 選択可能限界
魔王グローリーフィア
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「なら何故ヘイグリットなら俺を捕まえておけるんだ?」
「お主はヘイグリットと魂を交えたのだろう?」
「気持ち悪い言い方すんなよ」
魂を交えた。その自覚はなくもない。正面から対峙し、真剣にその距離を図ろうとし、互いを探り合った。間合いを把握し、その範囲を掌握した。だから俺はこの世界で誰よりもヘイグリットを知っているし、正しく今、俺はヘイグリットの間合いの内側にいるわけだ。
つまりヘイグリットが俺を捉える限り、俺は魂の形でこの世界に留まれる。というかヘイグリットが今俺を丸呑みにして吸収しようとすればあっという間なわけだ。
「そんなことしないわよ。勝たないと意味がないもの」
「……お前、俺が考えてることがわかるのか」
「ぼんやりとだけど。だからまぁ、ええと、ごめんなさい」
ヘイグリットは困惑やら慚愧やら、複雑な表情を浮かべている。これはプライバシーだのTPOだのいう話ではないのだろう。そんなものはこの世界にはない。
「……どうしようもないなら仕方ない。俺の頭の中は誰にも喋るなよ」
つまり、俺が考えていることをヘイグリットが知ってしまったということだ。
「でも、ええと」
「後にしろ。ダルギスオン、例えば俺をあの体から抜いて、どうやってるのかは知らんがお前と同じように存在することは出来るのか?」
ゲーム内で詳細な説明はされていないが、ダルギスオンの肉体は設定上すでに死んでいて、そこに自らの魂を下ろしているはずなのだ。だからゾンビのようなものだと認識していた。何せ死霊術師だからな。けれどもゲームの設定とこの世界は同じではない。ヘイグリットの形状が『ヘイグリット』であるけれどもその本質が『ヘイグリット』でないのと同様に。
「お主がわしをどのように認識しているかはわからぬが、わしの方法はわしでしか使えぬ。そうよな。肉体という枷は魂にとって不自由なものなのだ。わしはわしの望むこの体にわしの魂を下ろしている。けれどもそれは丁度よいものでなければならぬ。そうでなければ、純粋な自己の魂の形というものを保てぬのだ。そもそも魂の行動は全て肉体を通じて行われるゆえ、否応なく肉体にの枠に収まってしまうのだ。あのウォルターのように」
「なるほどな……ようは俺にばっちりの俺の意思を阻害することのない体を用意しないといけないわけか。……たとえば俺のホムンクルスを作ってその体に魂を下ろすのはどうだ」
「ほう。そんなもの、よく知っておるな。だが不可能だ。お主の素体の情報は異世界にある。だからその組成の入手のしようがない」
確かにこの魂にばっちり合う体は前世であのトラックに跳ね飛ばされた体なのだろう。あれがばっちり合うというのも俺的には耐え難いのだが。
うまくいかねぇな。どのみち俺は、少なくともこのダンジョンが踏破されるまで、俺の体、つまり魔王の機能の維持をしなければならないだろう。そうしなければトゥルーエンドを迎えるという事象の観測ができない。恐らくトゥルーエンドの発生条件はダンジョンの存在または不存在の確定、つまり物語の完成だ。一つの物語が完成し、新たな物語が始まる。魔王ルートのトゥルーエンドの意味を考えればその構造は自ずと見えてくる。
「あの、三船ちゃん、その」
「ヘイグリット、俺はお前に食われてもかまわないと思ってるんだ。本当にな。だから俺がお前に敗けられない理由はそれだ。つまりこの世界はどん詰まってる」
「けど、それじゃぁ私たちは」
「後だ。ヘイグリット。俺はとりあえず体に帰る。とりあえずな」
ソルタンが調査を終えたようだ。……怪我とかはちゃんと治ってるようだな。痛みに耐性はあっても無駄に痛いのは御免だ。
ヘイグリットは再び俺の体の額にぴたりと手を付け、俺はそれを通じて横たわっている体に戻り、ダルギスオンが体と俺の魂を縫い合わせて固着する。目を開けると、その視界はやはり魔王のものだった。俺は再びこの体に囚われたわけだ。短い春だった。
「ソルタン、何かわかったか」
「お前が根源そのものだということがわかった。何故こんなことになっている」
「……それは俺が」
見渡す。ここにいる者の中で俺が魔王であることを知らないであろう人間が一人だけいる。エルトリュールだ。もともとのこの世界の純粋で記録を取り戻した住人。
本来、この世界のことはこの世界の住人に委ねるべきことなのだ。だから確認しなければいけない。
「エルトリュール、一つ尋ねたい」
「何でしょうか」
「お前の描く未来は何だ。それを伺いたい」
「……私はサマルアリアを復興したいのです。アレックスを王とし、全てを再生する。それこそが王族である私たちの義務です」
「ダンジョンとバグについては?」
「ダンジョンを倒さなければ現在の世界の崩壊は収まらない。何故なら崩壊の原因はこの地にかけられた呪いと、その呪いが想定していたその外側にある現状の位相差によって生じた異常が原因だからです。バグはそれをもとに戻そうとして、悲鳴を上げている。そして呪いの想定する正常な状態とは1年を永遠に繰り返すこと。私は世界の崩壊も、繰り返しも拒否します。だから呪いを解く算段をつけた上で、ダンジョンを倒すと同時にこの呪いを解かなければならない。そうでなければ意味がなく、私たちはいつまでも新しい一歩を踏み出せない。そして恐らくこれが、私の望みをかなえる最後の機会でしょう」
つまり、この場所にいる人間の目的は、枝葉は違えども根本は一致している。それだけわかれば、十分だ。
「なるほどな。俺の望みはこの呪いを解き、全てから自由になることだ。つまり……俺が魔王グローリーフィアだ」
「お主はヘイグリットと魂を交えたのだろう?」
「気持ち悪い言い方すんなよ」
魂を交えた。その自覚はなくもない。正面から対峙し、真剣にその距離を図ろうとし、互いを探り合った。間合いを把握し、その範囲を掌握した。だから俺はこの世界で誰よりもヘイグリットを知っているし、正しく今、俺はヘイグリットの間合いの内側にいるわけだ。
つまりヘイグリットが俺を捉える限り、俺は魂の形でこの世界に留まれる。というかヘイグリットが今俺を丸呑みにして吸収しようとすればあっという間なわけだ。
「そんなことしないわよ。勝たないと意味がないもの」
「……お前、俺が考えてることがわかるのか」
「ぼんやりとだけど。だからまぁ、ええと、ごめんなさい」
ヘイグリットは困惑やら慚愧やら、複雑な表情を浮かべている。これはプライバシーだのTPOだのいう話ではないのだろう。そんなものはこの世界にはない。
「……どうしようもないなら仕方ない。俺の頭の中は誰にも喋るなよ」
つまり、俺が考えていることをヘイグリットが知ってしまったということだ。
「でも、ええと」
「後にしろ。ダルギスオン、例えば俺をあの体から抜いて、どうやってるのかは知らんがお前と同じように存在することは出来るのか?」
ゲーム内で詳細な説明はされていないが、ダルギスオンの肉体は設定上すでに死んでいて、そこに自らの魂を下ろしているはずなのだ。だからゾンビのようなものだと認識していた。何せ死霊術師だからな。けれどもゲームの設定とこの世界は同じではない。ヘイグリットの形状が『ヘイグリット』であるけれどもその本質が『ヘイグリット』でないのと同様に。
「お主がわしをどのように認識しているかはわからぬが、わしの方法はわしでしか使えぬ。そうよな。肉体という枷は魂にとって不自由なものなのだ。わしはわしの望むこの体にわしの魂を下ろしている。けれどもそれは丁度よいものでなければならぬ。そうでなければ、純粋な自己の魂の形というものを保てぬのだ。そもそも魂の行動は全て肉体を通じて行われるゆえ、否応なく肉体にの枠に収まってしまうのだ。あのウォルターのように」
「なるほどな……ようは俺にばっちりの俺の意思を阻害することのない体を用意しないといけないわけか。……たとえば俺のホムンクルスを作ってその体に魂を下ろすのはどうだ」
「ほう。そんなもの、よく知っておるな。だが不可能だ。お主の素体の情報は異世界にある。だからその組成の入手のしようがない」
確かにこの魂にばっちり合う体は前世であのトラックに跳ね飛ばされた体なのだろう。あれがばっちり合うというのも俺的には耐え難いのだが。
うまくいかねぇな。どのみち俺は、少なくともこのダンジョンが踏破されるまで、俺の体、つまり魔王の機能の維持をしなければならないだろう。そうしなければトゥルーエンドを迎えるという事象の観測ができない。恐らくトゥルーエンドの発生条件はダンジョンの存在または不存在の確定、つまり物語の完成だ。一つの物語が完成し、新たな物語が始まる。魔王ルートのトゥルーエンドの意味を考えればその構造は自ずと見えてくる。
「あの、三船ちゃん、その」
「ヘイグリット、俺はお前に食われてもかまわないと思ってるんだ。本当にな。だから俺がお前に敗けられない理由はそれだ。つまりこの世界はどん詰まってる」
「けど、それじゃぁ私たちは」
「後だ。ヘイグリット。俺はとりあえず体に帰る。とりあえずな」
ソルタンが調査を終えたようだ。……怪我とかはちゃんと治ってるようだな。痛みに耐性はあっても無駄に痛いのは御免だ。
ヘイグリットは再び俺の体の額にぴたりと手を付け、俺はそれを通じて横たわっている体に戻り、ダルギスオンが体と俺の魂を縫い合わせて固着する。目を開けると、その視界はやはり魔王のものだった。俺は再びこの体に囚われたわけだ。短い春だった。
「ソルタン、何かわかったか」
「お前が根源そのものだということがわかった。何故こんなことになっている」
「……それは俺が」
見渡す。ここにいる者の中で俺が魔王であることを知らないであろう人間が一人だけいる。エルトリュールだ。もともとのこの世界の純粋で記録を取り戻した住人。
本来、この世界のことはこの世界の住人に委ねるべきことなのだ。だから確認しなければいけない。
「エルトリュール、一つ尋ねたい」
「何でしょうか」
「お前の描く未来は何だ。それを伺いたい」
「……私はサマルアリアを復興したいのです。アレックスを王とし、全てを再生する。それこそが王族である私たちの義務です」
「ダンジョンとバグについては?」
「ダンジョンを倒さなければ現在の世界の崩壊は収まらない。何故なら崩壊の原因はこの地にかけられた呪いと、その呪いが想定していたその外側にある現状の位相差によって生じた異常が原因だからです。バグはそれをもとに戻そうとして、悲鳴を上げている。そして呪いの想定する正常な状態とは1年を永遠に繰り返すこと。私は世界の崩壊も、繰り返しも拒否します。だから呪いを解く算段をつけた上で、ダンジョンを倒すと同時にこの呪いを解かなければならない。そうでなければ意味がなく、私たちはいつまでも新しい一歩を踏み出せない。そして恐らくこれが、私の望みをかなえる最後の機会でしょう」
つまり、この場所にいる人間の目的は、枝葉は違えども根本は一致している。それだけわかれば、十分だ。
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