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1章-4 月が欠ける
月の用事
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アイネの計画はわしにとっても予想外のものだった。
月に赴く。確かにヨグフラウであればできなくはない。そして気球でもおそらく不可能ではないのだ。
それにしてもアイネは何をしに月に行くのだ?
そして以前にも忍び込んだと言っていた。月が機能を停止するのは百年に一度。とすれはアイネは人に見えるが、やはり純粋な人間ではないのだろう。
あの月は魔女ラキの居城だ。世間では月が眠りにつくと同時に魔女も眠りにつくと言われる。しかしそれは月が反応しないからそう言われているだけで、確定情報ではないはずだ。
実際には魔女は月の外側と世界を放置して月と自らのメンテナンスをしているだけで、純粋に寝ているわけではない。
だから例えばこれを機に魔女を害そうというのであれば全く不可能な話だし、同様に魔女の私物を奪うというのも不可能だ。魔女に気づかれないように世界情報を直接得ようとしても、全ての機能がシャットダウンしているから覗き見ぬことすら出来ぬだろう。
畢竟、魔女から奪えるものがあるとすれば魔女自身しかない。しかしそれとて。
……考えてもわからぬな。
少なくとも魔女ラキの居城には換価できるようなものは情報しかない。ラヴィのように非常食とかそういう目的であれば多少ちょろまかしても問題にならぬだろうし、魔女は歯牙にもかけぬだろうが、まさかそれが目的でもあるまい。そうするとやはり、アイネの目的は魔女自身なのだろう。魔女というのは領域の全てに等しい権能を持つ。人が魔女に会うなどと大それたことを考えるはずはないのだが。
ただまぁ、このままラヴィが無計画にエグザプトに向かうよりは、魔女の方が危険性は少ないのだろうなぁと思う。ラキは真に魔力の運行以外は興味がないのだから。ラヴィを取って食おうとすることもない。
ただ、わしはちょっとラキが苦手ゆえ、あまり会いたくはないのだが……。
そうこうしているうちに時間は過ぎ去り、月はその動力を最低限の浮遊が行えるまで落とす。全天に瞬く星の一部が大きく丸く陰った。
光ることをやめた月。それはすなわち巨大な影である。
そしてそれは静かに山頂に近づいていく。本当にこれほどまで近づくのだと、そしてその至近で見る巨大さに驚く。
「それではヨグフラウさん、お願い致します」
「心得た」
ヨグフラウは既にベリーとナッツで買収されている。ラヴィはもとより行く気満々だ。帽子の端にぶらさがってるだけのわしにはもはや抵抗の余地がない。もとの大きさに戻っても頭部だけのこと。移動するだけでも無駄な労力をつかうというもの。
はぁ。
闇の訪れと共にヨグフラウが再び羽を広げる。
念のため小さな魔力を打診しても、月からも魔女からも応答はなかった。かんたんな通信機能すら停止しているのだろう。
魔女というものは基本的には引きこもっている存在だ。外を歩き回っている魔女もいるが、それはごく少数だ。
それにしてもラキは無防備すぎるように思われる。
ヨグフラウはふわりと飛び立ち風に乗り、そしてすぐにその月の天辺に降り立つ。あっという間だ。種族によっては助走もいらぬほどの距離。
そしてアイネが月の天辺にある頑丈そうなハッチを慣れた手つきで開けば、そこには細長い竪穴通路が現れた。降りたそこも柔らかな金属壁に囲まれた幅2メートルほどの通路だった。素材はガリウムなのだろうか、銀色の表面がたゆたゆと揺れて光沢を放っている。
「ラヴィ、それは石だ。食えぬ。喉に詰まるぞ」
「えぇー」
「とりあえず先に食べられるものがあるところに行ったほうがいいかな。確かこっちだよ」
ラヴィはてらてら光る表面を引っ張って齧ろうとしていた。平常運転だ。
それにしても来たことがあるというのは本当のことなのだろう。アイネは案内標識もないのにすらすらと歩いている。そして1つのハッチを開くとそこは倉庫のようだった。
「あれ? これってエネルギーバーじゃないの?」
「まぁそうだねぇ、非常食だ。この月に存在するタンパク質を凝固させたものでソイレントグリーンと呼ばれている。とりあえず食べられるものと思って倉庫に来てみたんだけど」
「エネルギーバー以外が食べたいです!」
「齧りながらいうでない」
「それじゃあ僕は魔女様に会いに行くけど一緒に行こうか?」
「はい!」
魔女の部屋。
そのハッチは他の部屋と同じくらいの大きさで、アイネがその表面に触れるとするりと開いた。
月に赴く。確かにヨグフラウであればできなくはない。そして気球でもおそらく不可能ではないのだ。
それにしてもアイネは何をしに月に行くのだ?
そして以前にも忍び込んだと言っていた。月が機能を停止するのは百年に一度。とすれはアイネは人に見えるが、やはり純粋な人間ではないのだろう。
あの月は魔女ラキの居城だ。世間では月が眠りにつくと同時に魔女も眠りにつくと言われる。しかしそれは月が反応しないからそう言われているだけで、確定情報ではないはずだ。
実際には魔女は月の外側と世界を放置して月と自らのメンテナンスをしているだけで、純粋に寝ているわけではない。
だから例えばこれを機に魔女を害そうというのであれば全く不可能な話だし、同様に魔女の私物を奪うというのも不可能だ。魔女に気づかれないように世界情報を直接得ようとしても、全ての機能がシャットダウンしているから覗き見ぬことすら出来ぬだろう。
畢竟、魔女から奪えるものがあるとすれば魔女自身しかない。しかしそれとて。
……考えてもわからぬな。
少なくとも魔女ラキの居城には換価できるようなものは情報しかない。ラヴィのように非常食とかそういう目的であれば多少ちょろまかしても問題にならぬだろうし、魔女は歯牙にもかけぬだろうが、まさかそれが目的でもあるまい。そうするとやはり、アイネの目的は魔女自身なのだろう。魔女というのは領域の全てに等しい権能を持つ。人が魔女に会うなどと大それたことを考えるはずはないのだが。
ただまぁ、このままラヴィが無計画にエグザプトに向かうよりは、魔女の方が危険性は少ないのだろうなぁと思う。ラキは真に魔力の運行以外は興味がないのだから。ラヴィを取って食おうとすることもない。
ただ、わしはちょっとラキが苦手ゆえ、あまり会いたくはないのだが……。
そうこうしているうちに時間は過ぎ去り、月はその動力を最低限の浮遊が行えるまで落とす。全天に瞬く星の一部が大きく丸く陰った。
光ることをやめた月。それはすなわち巨大な影である。
そしてそれは静かに山頂に近づいていく。本当にこれほどまで近づくのだと、そしてその至近で見る巨大さに驚く。
「それではヨグフラウさん、お願い致します」
「心得た」
ヨグフラウは既にベリーとナッツで買収されている。ラヴィはもとより行く気満々だ。帽子の端にぶらさがってるだけのわしにはもはや抵抗の余地がない。もとの大きさに戻っても頭部だけのこと。移動するだけでも無駄な労力をつかうというもの。
はぁ。
闇の訪れと共にヨグフラウが再び羽を広げる。
念のため小さな魔力を打診しても、月からも魔女からも応答はなかった。かんたんな通信機能すら停止しているのだろう。
魔女というものは基本的には引きこもっている存在だ。外を歩き回っている魔女もいるが、それはごく少数だ。
それにしてもラキは無防備すぎるように思われる。
ヨグフラウはふわりと飛び立ち風に乗り、そしてすぐにその月の天辺に降り立つ。あっという間だ。種族によっては助走もいらぬほどの距離。
そしてアイネが月の天辺にある頑丈そうなハッチを慣れた手つきで開けば、そこには細長い竪穴通路が現れた。降りたそこも柔らかな金属壁に囲まれた幅2メートルほどの通路だった。素材はガリウムなのだろうか、銀色の表面がたゆたゆと揺れて光沢を放っている。
「ラヴィ、それは石だ。食えぬ。喉に詰まるぞ」
「えぇー」
「とりあえず先に食べられるものがあるところに行ったほうがいいかな。確かこっちだよ」
ラヴィはてらてら光る表面を引っ張って齧ろうとしていた。平常運転だ。
それにしても来たことがあるというのは本当のことなのだろう。アイネは案内標識もないのにすらすらと歩いている。そして1つのハッチを開くとそこは倉庫のようだった。
「あれ? これってエネルギーバーじゃないの?」
「まぁそうだねぇ、非常食だ。この月に存在するタンパク質を凝固させたものでソイレントグリーンと呼ばれている。とりあえず食べられるものと思って倉庫に来てみたんだけど」
「エネルギーバー以外が食べたいです!」
「齧りながらいうでない」
「それじゃあ僕は魔女様に会いに行くけど一緒に行こうか?」
「はい!」
魔女の部屋。
そのハッチは他の部屋と同じくらいの大きさで、アイネがその表面に触れるとするりと開いた。
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