貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田

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騎士との邂逅

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フィリアの出発は、パーティの翌日、まだ日が昇ってすぐの早朝であった。

見送りに来る人もなく、用意されていたのは王宮で1番のボロ馬車だった。

嫁入り道具の類は無い。

フィリアの身の回りのものを全て詰め込んでも大きなカバン1つ分にしかならなかった。

カバンをとともに座席に乗り込むと馬車は動き出す。


季節は5月、春の半ば。

温かくも爽やかな風が大地を駆け抜け、草木は若々しい緑に染まっている。

しかしフィリアがその景色に胸打たれることはない。

「もう、この国の景色を見るのも最後なのだけれど、何の感慨も湧かないわね・・・」

窓の外の景色を眺めながら、フィリアはつぶやく。

フィリアが冷淡なのでない、幼いころからの境遇を鑑みれば当然といっていい。

つややかな黒髪と黒の瞳が評判だった侍女に父王が1晩だけ情をかけた結果、産まれてしまったのがフィリアだ。

王家の血をひいていたために王宮で暮らしていたが、平民であった実の母とは引き離されたうえに文字通り最低限の待遇しか与えられなかった。

そのうえ王族の中で1人だけ黒い髪に黒い眼をしていたものだから悪目立ちして、腹違いの兄・姉にはよくいじめられた。

そんなわけだから郷愁も愛国心も育つはずがなく、祖国の景色にも感じ入ることはないのである。

こうして大人しくサドゥーク帝国へと向かう馬車に乗っているのも、モールド王国をサドゥーク帝国から助けるだなんて崇高な意思があるわけではなく、単に逃げる意思も逆らう気力もないからだった。


街道を馬車は高速で駆けていく。

早朝に出立したおかげで、日暮れには目的地に到着してしまった。


「間もなく国境に到着いたします。降りる準備をしてください」

御者からの声掛けに顔をあげたフィリアの目が車窓越しに捉えたのは、一見すると何の変哲もない小さな丘。

平らな円状になっている頂上がモールド王国とサドゥーク帝国の国境になっていて、迎えの者たちとの合流地点だった。


丘の緩やかな傾斜を馬車は滑らかに登り、頂上にたどり着いた。

周囲を見回すと銀色の鎧をまとった男性たちとサドゥーク帝国の紋章のレリーフが取り付けられた馬車がフィリアの目に留まる。

フィリアを護送にしにきたサドゥーク帝国の騎士たちだった。

「私の役目はこれで終わりです。お達者で」

「ええ、ありがとう」

御者と形ばかりのやりとりを済ませ馬車から降りる。

カバンを抱えながら馬車の扉を開け、ステップを降りようとしたときだった。

「フィリア様。お荷物、持たせていただきます」

男性にしては柔らかい声ともにフィリアと変わらない大きさの手が差し出された。

声の方を見るとフィリアよりも何歳か年下に見える金髪の少年がいた。

鎧をまとっているところを見るに彼もサドゥーク帝国の騎士らしい。

「お願いしてもいいかしら?」

「ええ、もちろんです」

少年騎士は片手で荷物を受け取ると、もう片方の手を差し出してきた。

手すり代わりに使ってくれ、ということらしい。

「・・・ありがとう」

差し出された手に掴まりながら、フィリアはステップを降りる。

少年騎士の甲斐甲斐しい振る舞いにフィリアは好感を抱いた。

何せ今まで、こんな風に気遣われたことはなかったから。


そしてフィリアはサドゥーク帝国の馬車に乗るよう誘導される。

たった1つの荷物であるカバンは、少年騎士が馬車の後部の収納スペースに収めてくれた。

フィリアが乗り込むと、間もなく馬に鞭打つ音とともに馬車は動き出す。

同時にサドゥーク帝国の騎士たちも馬に跨ると、手綱を打って馬車を囲うようにして走り出した。

車窓からを外を見ると馬車の右隣に、あの少年騎士が馬に乗って並走している。

背筋をピンと伸ばしても、他の騎士たちと比べて頭1つ分低い姿がやけにフィリアの印象に残った。
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