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「一体どうしたの?」
フィリアがアベルのもとに歩み寄る。
「鞍が勝手にバラバラになってしまって・・・どうしよう、これじゃあ俺はともかくフィリア様の負担が・・・」
アベルが地面に散乱した鞍の部品を拾い上げて眉をひそめる。
「ヒモに切れ目が入れられていた形跡があります。もしかして、この鞍は予めこうなるように仕組まれていたのか・・・?」
「よく分からないけど、鞍がないとそんなに良くないのかしら?」
「ええ、やはり鞍がある方が乗っていて疲れません」
アベルがフィリアの問に答える。
ふとフィリアの目が、この場にそぐわないものを見とめた。
「ねえアベル、これは何かしら?」
地面に転がる鞍のパーツの中に混ざっていたソレをフィリアが拾い上げる。
それは封筒だった。
明らかに元から地面に落ちていたものではない。
2人とも心当たりがなく、そろって首を傾げる。
「とりあえず開けてみましょう」
中に入っていた紙をアベルが広げ、間もなく瞳に驚愕の色を浮かべたまま静止した。
「アベル、何が書いてあるの?」
フィリアが尋ねるもアベルは目を見開いたまま微動だにしない。
不審に思ったフィリアはアベルの肩越しに覗き込んだ。
『この書状を持ちし者、忠義に篤く、武勇に秀でた者なり。
この書状を持ちし者と、そして伴いし者の両名を厚遇されたし。
両名の身元と人柄はサドゥーク帝国の名において保証する。』
簡素な文面だが、書いた者の教養の高さをうかがわせる達筆な文字だった。
書面の下部にはサドゥーク帝国の紋章が象られた印が押されている。
「これ・・・推薦状です・・・それも皇帝陛下直筆の・・・」
アベルが声を震わせながら答えを出した。
「それって・・・」
フィリアも事情を理解し思わず言葉を失った。
「陛下・・・俺のような未熟者にここまで・・・ありがとうございます」
アベルが書状を持ったまま、ひざまづく。
その光景フィリアは何も言えず、ただ見守った。
しばらく背を震わせていたアベルはやがて立ち上がるとフィリアに向き合った。
「フィリア様、このまま西方へ向かうつもりでしたが行き先を変えましょう。ここから少し東にそれた道を数日ほど進めば西方辺境伯の城があります。この書状があれば、きっと受け入れてくれるはずです」
「わかったわ、そうしましょう」
改めて行き先を定めたフィリアとアベルは一緒に焚火にあたりながら、道中で買った干し肉と黒パンを火であぶり夕食にした。
月が高く昇り、気温が低くなる。
2人は焚火に並んであたりながら同じ布にくるまり暖をとる。
口数は少ない。
「ねえアベル」
「何でしょうか?」
「戻ってもいいのよ?」
アベルが顔を横に向けてフィリアを見つめてくる。
「どういう意味でしょう?」
「今からでも皇帝陛下の騎士としてやり直してもいいと言ってるのよ」
「フィリア様・・・」
アベルが切なげな声を漏らす。
「さっきの顔を見て、あらためてアベルが皇帝陛下に忠義を誓っていたのが分かったわ・・・もし貴方が戻りたいと望むなら 「フィリア様! 馬鹿を言わないでください、俺は生半可な気持ちでここまでフィリア様をお連れしたわけじゃないんですよ・・・あまり俺を舐めないでください」
アベルがフィリアの言葉を遮って声を荒げた。
思いもよらぬ剣幕にフィリアは気圧されてしまう。
「・・・野暮なことを言ってしまってごめんなさい。あなたの覚悟は理解していたつもりだったのに」
「いえ、俺も声を荒げてしまいました。すみません」
再び2人の間を沈黙が満たす。
しばらくすると、フィリアが口を開いた。
「ところで、貴方は私と一生を添い遂げてくれるってことでいいのよね」
「ええ、そのとおりです」
「じゃあ、そろそろ敬称つきで呼ぶの止めてくれない? もう私たちは対等なパートナー同士なんだから」
「え」
アベルが赤面した。
「ダメかしら? 」
フィリアが訊き返す。
「いえ、そんなことは・・・えっと、その・・・」
しどろもどろにアベルが応える。
うつむいたアベルは少しすると、つっかえるようにしながら声を絞り出した。
「フィ、フィ・・・フィリア」
「・・・ありがとう、アベル」
蚊の鳴くような小さな声だったが、フィリアは満足だった。
「あの、フィリア様・・・いえフィリア」
「何かしら?」
今度はアベルの方から声をかけてきた。
「俺からもお願いをしていいでしょうか?」
「いいわよ、何でもいってちょうだい」
「えっと、その・・・」
アベルの赤くなった顔がさらに朱くなる。
「キスを、させてもらえないでしょうか?」
「え、キス?」
「あいやフィリアが嫌ならいいんですただ男女としてもう一歩先まで進んでもいいんじゃないかと思ったりしちゃったりして別に決して下心があるわけでは▲×¥%★*~~」
唐突に早口になったアベルが聞き取れない言葉をつぶやきながら口を閉ざしてしまった。
「別にいいわよ・・・アベルからしてくれる?」
そう言うとフィリアは目を閉じて顔をアベルの方に軽く差し出した。
「う・・・それじゃあ、いきますよ」
アベルも意を決した。
まもなくフィリアの唇とアベルの唇が合わさった。
それは永遠の誓いだった。
フィリアがアベルのもとに歩み寄る。
「鞍が勝手にバラバラになってしまって・・・どうしよう、これじゃあ俺はともかくフィリア様の負担が・・・」
アベルが地面に散乱した鞍の部品を拾い上げて眉をひそめる。
「ヒモに切れ目が入れられていた形跡があります。もしかして、この鞍は予めこうなるように仕組まれていたのか・・・?」
「よく分からないけど、鞍がないとそんなに良くないのかしら?」
「ええ、やはり鞍がある方が乗っていて疲れません」
アベルがフィリアの問に答える。
ふとフィリアの目が、この場にそぐわないものを見とめた。
「ねえアベル、これは何かしら?」
地面に転がる鞍のパーツの中に混ざっていたソレをフィリアが拾い上げる。
それは封筒だった。
明らかに元から地面に落ちていたものではない。
2人とも心当たりがなく、そろって首を傾げる。
「とりあえず開けてみましょう」
中に入っていた紙をアベルが広げ、間もなく瞳に驚愕の色を浮かべたまま静止した。
「アベル、何が書いてあるの?」
フィリアが尋ねるもアベルは目を見開いたまま微動だにしない。
不審に思ったフィリアはアベルの肩越しに覗き込んだ。
『この書状を持ちし者、忠義に篤く、武勇に秀でた者なり。
この書状を持ちし者と、そして伴いし者の両名を厚遇されたし。
両名の身元と人柄はサドゥーク帝国の名において保証する。』
簡素な文面だが、書いた者の教養の高さをうかがわせる達筆な文字だった。
書面の下部にはサドゥーク帝国の紋章が象られた印が押されている。
「これ・・・推薦状です・・・それも皇帝陛下直筆の・・・」
アベルが声を震わせながら答えを出した。
「それって・・・」
フィリアも事情を理解し思わず言葉を失った。
「陛下・・・俺のような未熟者にここまで・・・ありがとうございます」
アベルが書状を持ったまま、ひざまづく。
その光景フィリアは何も言えず、ただ見守った。
しばらく背を震わせていたアベルはやがて立ち上がるとフィリアに向き合った。
「フィリア様、このまま西方へ向かうつもりでしたが行き先を変えましょう。ここから少し東にそれた道を数日ほど進めば西方辺境伯の城があります。この書状があれば、きっと受け入れてくれるはずです」
「わかったわ、そうしましょう」
改めて行き先を定めたフィリアとアベルは一緒に焚火にあたりながら、道中で買った干し肉と黒パンを火であぶり夕食にした。
月が高く昇り、気温が低くなる。
2人は焚火に並んであたりながら同じ布にくるまり暖をとる。
口数は少ない。
「ねえアベル」
「何でしょうか?」
「戻ってもいいのよ?」
アベルが顔を横に向けてフィリアを見つめてくる。
「どういう意味でしょう?」
「今からでも皇帝陛下の騎士としてやり直してもいいと言ってるのよ」
「フィリア様・・・」
アベルが切なげな声を漏らす。
「さっきの顔を見て、あらためてアベルが皇帝陛下に忠義を誓っていたのが分かったわ・・・もし貴方が戻りたいと望むなら 「フィリア様! 馬鹿を言わないでください、俺は生半可な気持ちでここまでフィリア様をお連れしたわけじゃないんですよ・・・あまり俺を舐めないでください」
アベルがフィリアの言葉を遮って声を荒げた。
思いもよらぬ剣幕にフィリアは気圧されてしまう。
「・・・野暮なことを言ってしまってごめんなさい。あなたの覚悟は理解していたつもりだったのに」
「いえ、俺も声を荒げてしまいました。すみません」
再び2人の間を沈黙が満たす。
しばらくすると、フィリアが口を開いた。
「ところで、貴方は私と一生を添い遂げてくれるってことでいいのよね」
「ええ、そのとおりです」
「じゃあ、そろそろ敬称つきで呼ぶの止めてくれない? もう私たちは対等なパートナー同士なんだから」
「え」
アベルが赤面した。
「ダメかしら? 」
フィリアが訊き返す。
「いえ、そんなことは・・・えっと、その・・・」
しどろもどろにアベルが応える。
うつむいたアベルは少しすると、つっかえるようにしながら声を絞り出した。
「フィ、フィ・・・フィリア」
「・・・ありがとう、アベル」
蚊の鳴くような小さな声だったが、フィリアは満足だった。
「あの、フィリア様・・・いえフィリア」
「何かしら?」
今度はアベルの方から声をかけてきた。
「俺からもお願いをしていいでしょうか?」
「いいわよ、何でもいってちょうだい」
「えっと、その・・・」
アベルの赤くなった顔がさらに朱くなる。
「キスを、させてもらえないでしょうか?」
「え、キス?」
「あいやフィリアが嫌ならいいんですただ男女としてもう一歩先まで進んでもいいんじゃないかと思ったりしちゃったりして別に決して下心があるわけでは▲×¥%★*~~」
唐突に早口になったアベルが聞き取れない言葉をつぶやきながら口を閉ざしてしまった。
「別にいいわよ・・・アベルからしてくれる?」
そう言うとフィリアは目を閉じて顔をアベルの方に軽く差し出した。
「う・・・それじゃあ、いきますよ」
アベルも意を決した。
まもなくフィリアの唇とアベルの唇が合わさった。
それは永遠の誓いだった。
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