ワイズマンと賢者のいし

刀根光太郎

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 リルはそれに喜んでいた。歩いていると建物の影で男が手招きをしていた。

「お嬢ちゃん。バラックさんの居場所を知りたいのか?」

「知ってるんですか!」

「勿論、こっちにおいで」

『おい、リル』

 呼び止める間もなく、路地裏に入る。

「どっちですか?」

「お嬢ちゃん、魔法は得意かな?」

「結構自信あります!」

「ふふふ、じゃあ。おじさんの魔法を見せてあげよう」

「え? どんな?」

「ふふ、運命の魔法さ」

 男は自身のズボンに手をかけた。そのまま脱ごうと力を込める。しかし。

「あれッ! なんで!?」

(……無駄な魔力を使わせるなバカチンが)

 男は未だ必死に力を込めるも、まるで固定されたように動かない。やがてバランスを崩して地面に転がる。何故かいう事の効かない足を見ると。

「はぁ? なんで紐が脚にっ! くそッ、取れん!!」

 足首に紐がグルグル巻きで絡みついており取れない。地面に伏せて必死にもがいていた。

『行くぞリル』

「あ、でも魔法を」

『奴の脚を見て見ろ。あれだ』

「わーすごーい。丁寧で力強い魔法。器用な人だね」

 二人は路地裏を後にした。

(これくらい距離が離れればいいか。爆ぜろ……これだけやれば懲りるだろう)


 遠くで微かに叫び声が聞こえた。数日後、路地裏で足を縛られた裸の男が、ストーカー男に捕まったと街でそこそこの噂となった。



 街に潜む危険な行為を話しつつ、街を回る。まずは市場に行った。迷うことなく果物を買う。甘いモノでお腹を満たしご機嫌になっていた。

 さり気なく本や魔道具が置いてある店に誘導した。お宝を前に激しく興奮する。

 遥か昔なら解析魔法で全ての書物を記録していたが、今はそんな事はしない。値が張ったので、安めな一冊だけ購入してその場を後にした。

 その本の内容を自身の脳に転写し、本として読める形にした。無理やり説明するなら本を石に格納したという表現が近い。

「何買ったの?」

『ほん』

「むー」

 リルは知っている。こうなったフーは当分喋らない。仕方ないので市民に話しを聞いて、商人を探す。


【バラック商会】


 大きなお屋敷が目の前に建っていた。どうやって説明したらよいか分からず、その辺をウロウロしていた。衛兵が少女に気が付いた。

「君、何をやっている!」

 圧のかかった声を向けられ、ひゃんといった変な声が出た。シドロモドロになりながらも要件を伝えた。

「バラックさんに会いに来たのですが……」

「んー? 子供が……約束は取り付けてあるのか?」

「い、何時でも訪ねて来ていいと……」

「そんなもん社交辞令に決まっとるだろ……全く」

『リル、羊皮紙だ』

「あっ……」

 本を読みながら発せられた言葉を聞き、慌てて小さな鞄に手を入れる。そして、衛兵に渡す。訝しみながらもそれを魔法を絡めて調べる。

「これはッ……!!」

「申し訳ない。近頃、巧妙な手口が増えていてな。おい、ポロッコ。早急にバラック様へお伝えしろっ」

「はっ!」


「少々お待ちください。お客人」

 衛兵にそう言われ、その場に佇む。リルは若干緊張しているが、無意識に建物の中を覗こうと体を伸ばしていた。
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