ワイズマンと賢者のいし

刀根光太郎

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侵入者

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 上空に多くの魔物が飛んでいた。そんな中、闘技場の柱に座る者が一人。黒いゴシックの服装に身を包んだ少女。
ご機嫌な様子で足をぶらつかせ、体と共に黒い髪のツインテールが左右に揺れる。まるで魔物に襲われる心配などしていないかのように。

 不気味でいて引き込まれそうな赤い瞳は逃げ惑う人々をジッと見つめていた。口角が大きく広がっている。時折ケタケタと笑っていた。


「楽しそうだな。お嬢ちゃん」


 マグナが話しかける。その逆側、挟む様にラルクロも立っていた。彼の方は話しかけずに周りを警戒している。彼女は二人を見ずに答えた。

「そうね。とても楽しいわよ」

「お名前とママが何処にいるか言えるかな?」

 わざと子供に話しかけるように優しく言い放つ。

「失礼ね。名前を訊くときにはまず、先に自分から名乗るものでしょう?」

「俺はマグナ、そっちはラルクロ」

 急に笑い出した。

「ママが何処にいるか覗けた?」

「……お前のような奴等は大体分からん」

「それは残念ねー」

 ラルクロもアイコンタクトで、駄目だと合図を送る。マグナが行ったのは心属性の魔法。精神攻撃、実力次第では心を掌握したりが可能。ラルクロは知の魔法で解析を試みたがやはり防がれた。

 その時、隠れていた。というよりも、何もない場所から急に現れた飛竜五体が突然襲い掛かる。マグナは杖を振り、風の刃を飛ばす。ラルクロは鉱の魔法で金属の礫を。

 飛竜がそれをかわした瞬間、凄まじい風の塊が上から降り注ぐ。五体の飛竜は地に落ちた。そして、待っていたかのように地から木が生え、飛竜をくし刺しにした。魔物は絶命する。

 圧倒的に見えるが、これは位の高い飛竜だった。その凄まじい火力の攻撃をもらえば、たちまちピンチになっていただろう。

「確かに56匹でしたね」

「みたいだな」

「うーん。なんで分かったのかな? けっこー魔力割いたんだけどなー」

 マグナたちはここに来た時、視認こみで再び探知魔法を使っていた。やはり51匹の魔物しか確認できなかった。しかし、この状況でリルルナが適当を言ってる風にも見えなかった。なので彼等は数の誤差。つまり警戒を怠らなかった。


 不気味に笑う少女。ようやく興味が湧いたのか、顔だけを向けた。

「さてな。当ててみろよ」

「へー。もしかして面白い人?」

 少女はゆっくりと立ち上がる。同時に先ほどまでバラバラに暴れていた空の魔物たちが、一斉に近づいて来た。

「これはお嬢ちゃんの魔物のか?」

「あっちの人が借してくれたの」

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