ワイズマンと賢者のいし

刀根光太郎

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侵入者

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 ノラは苦い顔をしていた。万全でないとはいえ、二人で戦っているはずなのに一撃も当たらない。それどころか、敵の攻撃には当たってしまう。爪の斬撃。流石に相手も深くは切り込めないようだ。だが、確実に。ゆっくりとこちらが不利になっていくのを感じる。

 何度も攻防を繰り返したある時、副会長の動きが止まった。ダメージの蓄積や疲労。限界だった。そして、ノラも動きが止まった。フォローが間に合わない事を悟る。彼女もまた限界だった。その男は度重なる攻防を耐え、それをずっと待っていた。

「良い声で哭けぇ、女ぁ!」


 リルは最小の魔力で魔物を次々と屠っていく。フーが必要な情報を共有をして、さらに命中の補正をしているからだ。

『リル……魔力を借りる。結構持ってくぞ』

(『うん? わかった』)

 遮蔽物で見えない場所での戦闘。フーはリルの死角で戦うノラたちをしっかりと捉えていた。



 女を切り刻んだはずの爪の男は困惑していた。その切ったはずの女に手ごたえが無かったからだ。何故か空振りをしていた。誰も居ない所にポツンと一人で立っていた。

「はぁ……?」

 思わず間抜けな声を出してしまう。本当に何もない虚空に向かってその鋭い爪を振っていた。力を振り絞ったノラがその一瞬の隙を付いて、男の背中を切った。

「がぁあああ!!!」

 男が初めて深い傷を負う。追撃は叶わず、すぐに跳んで距離を取った。

「何が……ッ。起きやがったぁ……」

 副会長もノラも顔を見合わせるだけで何も言わない。この状況を誰一人も理解出来ていなかった。苦痛にもがく男だけが現実を直視する。傷をつけられた憎悪。男はただただ喚き散らす。

「殺す!! 絶対に殺してやるぞぉ!!」


 しかし、爪の男は何かに気が付き、急に静かになった。不思議な現象が起きる。目の前の男が背景と同化する様に消えていく。ノラと副会長は魔法で攻撃するが、ダメージは無い。

「……お前等の顔は覚えたぞッ……次に会う時は殺す……!!」


 生徒会長と戦っていた女もまたどこかへと消えていった。


 少し前に遡る。マグナたちと黒髪の少女が対峙していた。主に青年と飛竜対マグナ、ラルクロが戦っていた。少女は最初と変らずケタケタと笑っていた。

「じゃあ。少しだけ難易度を上げるわね」


「……黒い霧……?」

「マグナ、気を付けてください」

「分かってる……ッ」

 少女を中心に黒い霧が発生していた。触れると吐き気を催す程の瘴気を帯びていた。その時、知らない男の声が聞こえた。低い声であった。

「何をやっている?」

「もう見つかっちゃった。は~、空気を読んで欲しいわね~」

 巨大な剣を持った男が少女に話しかけた。マグナたちの内心は最悪だった。しかし、それを顔には出さない。

「お前のお守りをしているわけでない」

 少女は大剣を持つ男から目線を外し、マグナたちの方を見る。

「また遊びましょーねー」

 屋上にいた3人の侵入者、及び地上で暴れていた15人は戦線を離脱する。死んだ者たちは地面へと吸い込まれた。目的が不明な彼等は魔物だけを残し、消え去った。

「本当に何しに来やがったんだ……」

「分かりません。今はただ無事だった事を喜びましょう」

 その後、残りの魔物を掃討し、この事件は幕を閉じた。


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