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第五章 怪物
第2話 善悪
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男達が次々と交代をして、青髪の侍女を凌辱していた。
そこで見知らぬ男に人が歩いていた。自分達がいる森側とは逆の方に寄って、何事も無いような会話しながら歩き去ろうとしている。こちらをまるで気にしないのには多少違和感を感じていたが、考えている時間は無かった。ルーベンは言う。
「後どのくらいで着くんだ」
「五時間はかかるんじゃないか?」
「遠いな」
「走るか?」
「そうだな」
そこで侍女が思いっきり叫んだ。
「お、お願い致します! どなたかは存じませんが、お助けてくださいッ」
そこでようやく彼等は女性達の方を向いた。さっきまで夢中で気が付かなかった盗賊も、二人を押さえつける役割の者以外はしっかりと振り向いて警戒する。それを見た金髪の女性がここぞとばかりに大声で叫んだ。
「私はアーガイル公爵の娘です! お礼はしますから助けて下さい!」
「黙れッ! 余計な事を言うんじゃねぇっ」
盗賊はライラの顔を殴り無理やり黙らせる。彼が口を開く前に数人が前に出て圧力をかけてくる。
「おいッ、何見てんだッ!? 殺すぞぉっ!」
しかし、ルーベンはそれを気にせずに令嬢に向かって言う。
「公爵令嬢の護衛が太刀打ち出来ない程の盗賊。それを通りすがりの俺達に倒せ、と?」
「ぁっ……それはっ」
「ッ……無理を言っているのは承知しておりますッ……ライラ様を助けて頂ければ金貨10枚、いえ! 15枚払いますっ。お願いしますっ!」
「それなら、令嬢を人質に公爵を脅したほうが儲かりそうだな」
「な、何という事を……ッ」
「くっくっく、利口な男達だ。それに免じて何もせずに消えれば、今回は見逃してやる」
「勿論、この事は誰にも話すんじゃねーぞ。言えばどうなるか分かるな?」
「そうだボス! こいつらを!?」
「くっくっく、なるほど……」
盗賊はお互いに顔を見合わせて嫌らしく笑ってた。
「おい、お前達。良かったら見て行くか?」
その提案に男が答える。
「確かにこんな珍しい事はそうそう無いな……」
ライラはそれを聞いて怒りを爆発させた。
「この外道! それでも誇り高き人族ですか!?」
それを聞いた男はつまらなそうに言う。
「盗賊をしなければ生きていけない。恨むべきはそんな状況を作った領主じゃないか?」
彼は適当な理由を令嬢にぶつけて見る。
「ち、違います! 盗賊になっている者は彼等だけです! 悪いのはこんな事をする盗賊ですッ!」
「それはまだ余裕がある者達の話だろ? これからもっと増えていくぞ……悲しみの連鎖は止まらない」
「おい、ルシ。時間の無駄だ。早く街に行くぞ」
ルシは偽名、彼はルーベンだ。盗賊が彼等を見て、どうでも良いといった感じで言う。
「ふっ。何だ、見て行かないのかぁ。残念だ」
興味が無さそうなのは、令嬢を精神的にいたぶる為にだけに提案したようだ。武力で勝っているので、無視しても害は無いと判断している。そんな彼等を見てライラは絶望した表情になっていた。
「何と野蛮な……最低です。あ、貴方達もこの盗賊達同じよ……人族じゃないッ」
「それを増やしているお前達は何なんだ?」
「違うっ」
盗賊はそのやり取りを愉しそうに見ている。侍女はそれでも引かなかった。
「そ、そんな……お願いしますっ。どうかっ。何でもしますからッどうかっ」
その頼みを無視して二人は歩き始める。セシリアは目を伏せて涙を流し、力無くライラに手を伸ばす。またライラも観念したように侍女を見つめていた。
その時、ルシと呼ばれた男が隣の男に話しかけた。
「あ……なぁアノ。金貸してくれないか。家に忘れて来た」
「またか。一割増しで返せよ」
そう言いながらアノと呼ばれた男は金貨を五枚を渡す。そして、もう一人の男はルディだ。
「ありがとよっ」
しかし、それを見た盗賊達は驚きを隠せなかった。ニヤケながら彼等を呼び止めた。
「へへへへへ! にいちゃん達、ちょっと待ちなぁ」
「何だ? 俺達は見逃すんじゃないのか?」
「悪いなぁ。さっきまでとは話が違うんだよ。そいつを置いて行きなっ」
「断ったら?」
「お前達にはなんの価値も無い。殺すまでだッ」
するとルーベンは悲しい表情で言った。
「そうか。それは残念だ……」
「さあ、早くよこせっ」
ルーベン達はそれを無視して歩き出すと、それを見た盗賊五人が彼等に一斉に飛び掛かる。
だが、少し遠くにいた盗賊達は等しく驚愕する。襲い掛かった盗賊が一瞬にして動かなくなったからだ。シーンと静まり返るこの場で、盗賊の倒れた音だけが響いた。そして、赤黒い液体が地面に染み込んで行く。
一人はいつの間にか剣を抜いていた。もう一人は最早何をしたのかすら分からなかった。
「え……?」
「ぉ、おい……どうした……?」
数秒の間、彼等は動けなかったが、ボスらしき男が正気に戻って指示を出す。
「おい、陣を組め! 油断するなっ。奴等を確実に殺せ!」
八人の男達が浅い呼吸を繰り返しながらじりじりと近づいて行く。真正面の男がわざとらしく大袈裟に大剣を構える動作をした。
その瞬間、背後の男達が一斉に飛び掛かる。そして。少し突撃をずらした正面の男達も飛び掛かる。しかし、結果は変わらない。彼等は皆、例外なく倒れ、地面を染めていく。
「ば、馬鹿なっ……」
ルーベンがボスの方に向いた。彼が何かを言う前に、ボスが怯えと力強さを混ぜた口調で叫ぶ。
「来るなッ! この女達がどうなっても良いのか!?」
「あのさ、お前。さっきのやり取りを見て無かったのか?」
「は、はぁ……ささ、さっきの……?」
「ならば敢えて口にしてやる……好きにしろ。それ等は俺達には関係ない」
「ハ、ハッタリだ……お前等はこいつを助けるためにわざとッ……ぁ……」
ボスはふと二人の顔を見た。視線が合った瞬間に背筋が凍り着く。その深く冷たい瞳を見て、最後まで言葉を紡ぐのを止めたのだ。そして、自らの直感に素直に従った。
「う、うわあぁああぁぁああ! 化け物ッ」
ボスが声を上げて逃げ出すと、手下も悲鳴にならない声を出しながら一目散に逃げだした。
☆☆☆☆☆☆☆
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そこで見知らぬ男に人が歩いていた。自分達がいる森側とは逆の方に寄って、何事も無いような会話しながら歩き去ろうとしている。こちらをまるで気にしないのには多少違和感を感じていたが、考えている時間は無かった。ルーベンは言う。
「後どのくらいで着くんだ」
「五時間はかかるんじゃないか?」
「遠いな」
「走るか?」
「そうだな」
そこで侍女が思いっきり叫んだ。
「お、お願い致します! どなたかは存じませんが、お助けてくださいッ」
そこでようやく彼等は女性達の方を向いた。さっきまで夢中で気が付かなかった盗賊も、二人を押さえつける役割の者以外はしっかりと振り向いて警戒する。それを見た金髪の女性がここぞとばかりに大声で叫んだ。
「私はアーガイル公爵の娘です! お礼はしますから助けて下さい!」
「黙れッ! 余計な事を言うんじゃねぇっ」
盗賊はライラの顔を殴り無理やり黙らせる。彼が口を開く前に数人が前に出て圧力をかけてくる。
「おいッ、何見てんだッ!? 殺すぞぉっ!」
しかし、ルーベンはそれを気にせずに令嬢に向かって言う。
「公爵令嬢の護衛が太刀打ち出来ない程の盗賊。それを通りすがりの俺達に倒せ、と?」
「ぁっ……それはっ」
「ッ……無理を言っているのは承知しておりますッ……ライラ様を助けて頂ければ金貨10枚、いえ! 15枚払いますっ。お願いしますっ!」
「それなら、令嬢を人質に公爵を脅したほうが儲かりそうだな」
「な、何という事を……ッ」
「くっくっく、利口な男達だ。それに免じて何もせずに消えれば、今回は見逃してやる」
「勿論、この事は誰にも話すんじゃねーぞ。言えばどうなるか分かるな?」
「そうだボス! こいつらを!?」
「くっくっく、なるほど……」
盗賊はお互いに顔を見合わせて嫌らしく笑ってた。
「おい、お前達。良かったら見て行くか?」
その提案に男が答える。
「確かにこんな珍しい事はそうそう無いな……」
ライラはそれを聞いて怒りを爆発させた。
「この外道! それでも誇り高き人族ですか!?」
それを聞いた男はつまらなそうに言う。
「盗賊をしなければ生きていけない。恨むべきはそんな状況を作った領主じゃないか?」
彼は適当な理由を令嬢にぶつけて見る。
「ち、違います! 盗賊になっている者は彼等だけです! 悪いのはこんな事をする盗賊ですッ!」
「それはまだ余裕がある者達の話だろ? これからもっと増えていくぞ……悲しみの連鎖は止まらない」
「おい、ルシ。時間の無駄だ。早く街に行くぞ」
ルシは偽名、彼はルーベンだ。盗賊が彼等を見て、どうでも良いといった感じで言う。
「ふっ。何だ、見て行かないのかぁ。残念だ」
興味が無さそうなのは、令嬢を精神的にいたぶる為にだけに提案したようだ。武力で勝っているので、無視しても害は無いと判断している。そんな彼等を見てライラは絶望した表情になっていた。
「何と野蛮な……最低です。あ、貴方達もこの盗賊達同じよ……人族じゃないッ」
「それを増やしているお前達は何なんだ?」
「違うっ」
盗賊はそのやり取りを愉しそうに見ている。侍女はそれでも引かなかった。
「そ、そんな……お願いしますっ。どうかっ。何でもしますからッどうかっ」
その頼みを無視して二人は歩き始める。セシリアは目を伏せて涙を流し、力無くライラに手を伸ばす。またライラも観念したように侍女を見つめていた。
その時、ルシと呼ばれた男が隣の男に話しかけた。
「あ……なぁアノ。金貸してくれないか。家に忘れて来た」
「またか。一割増しで返せよ」
そう言いながらアノと呼ばれた男は金貨を五枚を渡す。そして、もう一人の男はルディだ。
「ありがとよっ」
しかし、それを見た盗賊達は驚きを隠せなかった。ニヤケながら彼等を呼び止めた。
「へへへへへ! にいちゃん達、ちょっと待ちなぁ」
「何だ? 俺達は見逃すんじゃないのか?」
「悪いなぁ。さっきまでとは話が違うんだよ。そいつを置いて行きなっ」
「断ったら?」
「お前達にはなんの価値も無い。殺すまでだッ」
するとルーベンは悲しい表情で言った。
「そうか。それは残念だ……」
「さあ、早くよこせっ」
ルーベン達はそれを無視して歩き出すと、それを見た盗賊五人が彼等に一斉に飛び掛かる。
だが、少し遠くにいた盗賊達は等しく驚愕する。襲い掛かった盗賊が一瞬にして動かなくなったからだ。シーンと静まり返るこの場で、盗賊の倒れた音だけが響いた。そして、赤黒い液体が地面に染み込んで行く。
一人はいつの間にか剣を抜いていた。もう一人は最早何をしたのかすら分からなかった。
「え……?」
「ぉ、おい……どうした……?」
数秒の間、彼等は動けなかったが、ボスらしき男が正気に戻って指示を出す。
「おい、陣を組め! 油断するなっ。奴等を確実に殺せ!」
八人の男達が浅い呼吸を繰り返しながらじりじりと近づいて行く。真正面の男がわざとらしく大袈裟に大剣を構える動作をした。
その瞬間、背後の男達が一斉に飛び掛かる。そして。少し突撃をずらした正面の男達も飛び掛かる。しかし、結果は変わらない。彼等は皆、例外なく倒れ、地面を染めていく。
「ば、馬鹿なっ……」
ルーベンがボスの方に向いた。彼が何かを言う前に、ボスが怯えと力強さを混ぜた口調で叫ぶ。
「来るなッ! この女達がどうなっても良いのか!?」
「あのさ、お前。さっきのやり取りを見て無かったのか?」
「は、はぁ……ささ、さっきの……?」
「ならば敢えて口にしてやる……好きにしろ。それ等は俺達には関係ない」
「ハ、ハッタリだ……お前等はこいつを助けるためにわざとッ……ぁ……」
ボスはふと二人の顔を見た。視線が合った瞬間に背筋が凍り着く。その深く冷たい瞳を見て、最後まで言葉を紡ぐのを止めたのだ。そして、自らの直感に素直に従った。
「う、うわあぁああぁぁああ! 化け物ッ」
ボスが声を上げて逃げ出すと、手下も悲鳴にならない声を出しながら一目散に逃げだした。
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