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第七章 醜いお姫様
第6話 純粋な
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【ルーベンの遊び】
ルーベンが蜘蛛サイズの紙を二枚用意していた。酒を飲みながらルディが、それを面白そうに見ていた。紙を二枚置くとそれぞれにマルとバツが書かれていた。
「お前は人族の言葉が分かる。マルかバツか」
(あ! そういう事ですか)
ティナはマルの方に移動して、嬉しそうに飛び跳ねる。
「分かるみたいだぞ」
「面白いな。俺もやるか……お前は人族の料理が好きだ」
ティナはマルに止まったままで、一本の足を地面にポンポンと連続で叩きつけていた。意思疎通が出来て嬉しいようだ。
「ほー、感情表現も可能なのか」
「じゃあ……1の次は6である」
彼女は余裕そうにバツへと移動する。
「一個前の質問の答えは、2である」
すると嬉しそうにマルに移動した。
「凄いな」
「天才だな」
(えへん!)
「あれルディ……こいつ」
「あるかもな」
(? なんですか? 何がですか?)
その時、ルーベンが楽しそうな表情をした。悪戯をしそうな勢いだ。
「貴方は女の子である」
マルの位置で止まったまま、飛び跳ねていた。その時ふと思い出す。
(? あれ? 貴方?)
それを見たルディが確信をついた。
「今から半月くらい前、リベムール王国に現れた蜘蛛である」
(え!? ちょっと! なんで! 急に!)
急いでマルから離れると、急いでバツに移動する。その紙の上で伏せて、前足を頭に乗せて震えているようだった。
「貴方はティナ王女殿下である」
(え? 今何と? 私が化け物出なく……? いえ、そんな事よりも)
ティナは動けずに固まっていた。どうすれば良いのか分からないといった様子だった。顔を上げるとルーベンが彼女を両手で捕獲した。間入れずに体中をまさぐる。
(な、な、な、なっ! 何をするのですか!?)
「へ~、ここが糸出すところか~」
「この姿。もしそうだとしたら、凄まじい怨念が込められた呪術だな」
(この方も何故か答えに! ってやめて! そこは駄目! 大切な所で!)
彼女がジタバタするが彼はもの凄い力で引き剝がせない。
「早く白状しないと、もっと恥ずかしい目にあうぞー……こっちはお尻? この付近が生……」
彼女がたまらずに化け蜘蛛の姿になってルーベンを引き剝がす。ご飯を食べた事。そして、さっきルーベンがさり気なく魔素供給をしてくれたおかげで戻れた様だ。ティナは顔を両手で覆っていた。
「あ、ぁ、あっ、な、何をするんですかぁー--~!?」
彼女は手をずらしてちらりとこちらを見て来た。
「お、びっじ~ん」
「お姫様だな」
ルーベンが男物の上着を渡す。森林で一度変化した時に服は置いて来たらしい。
「あ、そ……な! いやぁぁぁああああ! み、見ないでくださいぃぃいい!!」
ティナは顔を真っ赤にしながら服を急いで着ている。ルディは酒に夢中で、ルーベンは何かを作っていた。彼女が服を着た頃、ルーベンが良い香りの紅茶を出した。
「あ、ありがとうございます……」
両手で可愛らしくコップを持つと、足を折りたたんで、ゆっくりと味わいながら飲んでいた。久しぶりの紅茶。そして、そのおかげもあって少し落ち着いて来たようだ。二人はその姿でありながら、毒を全く警戒してないのを不思議そうに見ていた。
「あ、あの……私が……こ、ここ、こ、怖くないんですかっ?」
「か弱そう」
「敵意がないしな」
「……何で、私が……王女だと分かったのですか?」
「適当に入った来た情報と組み合わせれば、普通にそうなるだろ」
彼等の『適当に』入って来る情報の質と量は、凄まじいモノである。時には、彼等に恩を着せるために、勝手に入って来る情報もある。
「な、なりません! 現に誰もが……私を……っ」
悲しそうな表情で言った。散々流した涙が自然にあふれて来る。
「お父様やエドガー様でさえ……ぅっ……ぐすっ……」
「ティナ・ディ・ル・マーシア。王女殿下で間違いないのか?」
「え、ぁ、はい……そうです。リベムールの国王、ライオネル・ディ・マーシアの娘です」
「じゃあ、とりあえず今日はもう寝とけ」
「え……?」
「疲れただろ? 久しぶりの安眠だぞ。話なら明日でも構わない」
「……」
「怖いのか?」
「はい……とても……少し前までは大好きだった人族が……今はこの上なく恐ろしい……」
「俺達も信用出来ないか?」
「…………分かりません」
打算の無い、正直にそう言って来る彼女を見て二人は僅かに笑う。
「なぁ、その国……滅ぼしてやろうか? 復讐したいだろ?」
「ッ……そんな事! か、考えていません……それに一個人がそんな事っ……質の悪い冗談はおやめ下さい」
「そっか……まあ、信用出来ないなら出て行っても良い」
「ぁ……ッ。その……」
「だが、戻って来ても良い……俺達は大体、夜にここに居る」
「……何故……私を助けてくれるのですか?」
「その理由が欲しいか?」
「え? は、はい……出来れば……欲しいです」
二人がその質問に答えた。
「気まぐれだ」
「少しだけ気に入った」
その答えは適当だと思った。しかし、彼女はそれを聞いて安心した。純粋に嬉しかった。誰かと入れる事が。
「そうですか」
ティナが微笑んだ。そこで、ルーベンが重要な事を思い出して彼女に言う。
「あっ」
「な、何でしょうか?」
「このアジト、外敵用に罠があるから気を付けろよ。一回認証させたから、一度外に出るまでは罠感知されないから問題ない」
「え……っ? き、気を付けます……」
ルーベンが剣を適当に投げた後に床へ、ルディがソファーに横になって寝た。自分の前で無警戒に寝る男達。しばらくジッと見ていたが、考えるのが面倒になり、周りを見渡す。ベッドが一つ余っていた。
彼女はそこに移動すると蜘蛛に変化して布団の中に潜った。疲労は勿論、満腹になったのもあるだろう。強烈な眠気が彼女を襲う。
「ぅ~暖かい……♪ ふかふかぁ~♪ おやすみなさい。ええっと……」
彼女は思い出す。ルーベンさんとルディさん? でしたか?
「ルーベンさん、ルディさん。おやすみなさい~」
二人はそれに答えなかった。彼等は変装をしている。だが今回、名前を隠していない。蜘蛛が初見だった事もある。しかし、そういう時の対策は既にしている。だがら彼等は焦る必要は無い。
果たして、彼等の本当の名を知る者はいるのだろうか? 誰かが言った。彼等は嘘つきだと。
深夜、ルーベンとルディは目を覚ました。蜘蛛姿のティナが起き上がり、テクテクと音を立てて歩いて来たからだ。
仰向けになっているルーベンのお腹の上に乗ると、座る。その大きさの割に恐ろしく軽い。そこで何かを思い出したのかベッドに戻ると服をもって来た。
服をそこに乗せると、再びお腹に乗り、服の中に潜る。しばらくすると彼女は何をする訳でなくスヤスヤと眠りについたようだ。彼は蜘蛛の足に、ソッと指を添えて眠りについたのであった。
朝になり目を覚ますとティナが適度に距離を取って座って居た。
「も、申し訳ありません」
「乗っかった事か?」
「っ……はい……」
「寂しかったのか?」
彼女は恥ずかしそうにしていた。気づいてない振りをしたのだから、黙っておけば良い物をと彼は思った。
「……はい……人肌が恋しくなって、その……」
人の体温とは不思議なものである。人族への恐怖は本心だろう。しかし、彼女はそれ以上に孤独を恐れた。
「何で腹だったんだ?」
「え? ……胸元や腕付近も考えましたが、朝起きて目の前に居たら驚くかと思いまして」
「なるほど……」
そこでルディが重要な質問をした。
「それで、その呪いの解除方法は聞いているか?」
「分かりません。そんな暇ありませんでしたから」
「……」
「ルーベン、ギルドはどうする?」
「いいや、今日はここにいる」
「了解。俺は行って来る。ついでに行くところもある」
「また後でな」
ルディはそう言って出かけて行った。その間にルーベンは、ティナから事件の一連の事情を聞いた。彼女は泣きながらも途切れ途切れで、それを話した。
「なるほどな……」
「もう私は家族も家も失ったも同然……剰さえこんな化け物の姿にっ……この先どうすればっ」
泣き止まないティナにクッキーを出すと、無言でモグモグしていた。ティナは凄まじい空腹を味わった。食べれるというだけでストレスの緩和になるようだ。
そして、彼女はそのまま泣き疲れて寝てしまった。余程疲れているのだろう。彼はベッドに運ぶと布をかける。
日が落ちるとルディが帰って来た。その音で目が覚めたようだ。
「あ、ルディさん。おかえりなさい」
「ああ……」
彼等は晩御飯を食べながら、今後についての方針を訊いた。
「それで姫様はこの先どうする?」
「……どう、ですか……」
彼女は悲しい表情をした。二人を見ると目を瞑る。そして、ゆっくりと目を開けて言う。
「私はチェルシー嬢と話してみようと思います……彼女はおそらく呪いの解き方を知っている」
彼女はさらに続けて言った。
「ルディさん、ルーベンさん。ありがとうございました。こんな私のお話を聞いて頂けて、嬉しかったです。救われた気がしました。今夜ここを出ようと思います」
「公爵令嬢に近づけるのか?」
「……おそらくは無理でしょう。しかし、これが私の運命ならっ」
「もし人の姿に戻れたら何をする?」
「何を……今まで通りとは、いきませんよね……私は人族を知ってしまいました……」
「憎いのか?」
「……憎くない、と言えば嘘になりますね……確かにそのような感情が溢れて来るのを感じました。でも、お二人のような人族もいる……それはとても嬉しい事です」
「残念、俺達はそうじゃない」
「え?」
ルディが言う。
「勘違いして騙されるなって事だ」
「騙される?」
「極悪人ってのは、善人に見える事もある……そして、善人の良心を喰らって生きるのさ」
「だとしたら悲しいですね……」
「ん?」
「いえ……上手く言えませんが……そう思っただけです」
「……その中から極まれに、全てを喰らう化け物が生まれる事もある」
「? 全てを……ですか……」
「まあ、困ってるなら俺達が手を貸そうか?」
「え……いえ、これ以上ご迷惑をおかけするわけには……それに最悪の場合、貴方たちが殺されていまします。それはとても悲しい事です」
キョトンとした彼女を見てルーベンは笑った。ルディも一瞬だけ頬を緩めた。
「いいね、お姫様。ルディ、暇つぶしに行かないか」
「悪くない」
「え?」
「俺達は勝手について行く」
「頼みたい事があれば言うがいい。報酬はもらうがな」
「お、お二人は一体?」
「依頼主の願いを叶える……そうだな……人でなし、だ」
「護衛でも、殺しでも大抵の事は請け負う」
「……殺し……そんな人には見えませんが……」
「依頼主じゃなくても会話の相手にはなれる」
「何かの縁だ。国の近辺まで送ってやろう」
「……よく分かりませんが、それはとても嬉しいです」
ティナはルーベンの持っている鞄に入り込む。彼等は馬車に乗って、リベムール王国へと向かうのであった。道中は平和だった。何故か魔物に一度も襲われなかった。
数日後、彼女が鞄の中でクッキーを捕獲して食べていると、御者が言う。
「お客さん到着しました~」
「お、着いたって」
彼等が馬車を降りる。鞄から顔を出すと見渡す。懐かしき風景が広がっていた。
「信じられません……まさかもう一度この地に帰って来れる何て……」
ティナはこの風景に感動していた。二人はそれを静かに見守っている様だった。しばらくすると歩き出し、彼等は城下街で宿屋に入る。
「俺達はこの宿屋に二週間はいる。何か合ったらまたここに来い」
「何から何までありがとうございます!」
丁度日暮れ時で動きやすい。彼女はそう言って屋根の中に入って行った。
「か弱いんだか強いんだか……」
「何年も姫様をやっていたんだ。それは強くもなるだろう」
少しだけ沈黙が続く。するとルーベンが喋り出す。
「目覚めは咎の始まり。夢の果実は決して実らず……」
「善を求め盲信す。懇篤の鬼は業を逃さず」
二人はまた少し沈黙すると一瞬だけ口元を緩めた。交互に言葉をのせる。
「純粋なる風骨。己と踊る。愉快に踊る」
「然れば神聖はいらず」
「我々も愉快に踊るだけ」
「いざ、参ろう。理不尽と共に」
「宵のお酒を手土産に」
「地酒は我等が貰い受けよう」
二人は遊ぶように言葉を紡いだ。
ルーベンが蜘蛛サイズの紙を二枚用意していた。酒を飲みながらルディが、それを面白そうに見ていた。紙を二枚置くとそれぞれにマルとバツが書かれていた。
「お前は人族の言葉が分かる。マルかバツか」
(あ! そういう事ですか)
ティナはマルの方に移動して、嬉しそうに飛び跳ねる。
「分かるみたいだぞ」
「面白いな。俺もやるか……お前は人族の料理が好きだ」
ティナはマルに止まったままで、一本の足を地面にポンポンと連続で叩きつけていた。意思疎通が出来て嬉しいようだ。
「ほー、感情表現も可能なのか」
「じゃあ……1の次は6である」
彼女は余裕そうにバツへと移動する。
「一個前の質問の答えは、2である」
すると嬉しそうにマルに移動した。
「凄いな」
「天才だな」
(えへん!)
「あれルディ……こいつ」
「あるかもな」
(? なんですか? 何がですか?)
その時、ルーベンが楽しそうな表情をした。悪戯をしそうな勢いだ。
「貴方は女の子である」
マルの位置で止まったまま、飛び跳ねていた。その時ふと思い出す。
(? あれ? 貴方?)
それを見たルディが確信をついた。
「今から半月くらい前、リベムール王国に現れた蜘蛛である」
(え!? ちょっと! なんで! 急に!)
急いでマルから離れると、急いでバツに移動する。その紙の上で伏せて、前足を頭に乗せて震えているようだった。
「貴方はティナ王女殿下である」
(え? 今何と? 私が化け物出なく……? いえ、そんな事よりも)
ティナは動けずに固まっていた。どうすれば良いのか分からないといった様子だった。顔を上げるとルーベンが彼女を両手で捕獲した。間入れずに体中をまさぐる。
(な、な、な、なっ! 何をするのですか!?)
「へ~、ここが糸出すところか~」
「この姿。もしそうだとしたら、凄まじい怨念が込められた呪術だな」
(この方も何故か答えに! ってやめて! そこは駄目! 大切な所で!)
彼女がジタバタするが彼はもの凄い力で引き剝がせない。
「早く白状しないと、もっと恥ずかしい目にあうぞー……こっちはお尻? この付近が生……」
彼女がたまらずに化け蜘蛛の姿になってルーベンを引き剝がす。ご飯を食べた事。そして、さっきルーベンがさり気なく魔素供給をしてくれたおかげで戻れた様だ。ティナは顔を両手で覆っていた。
「あ、ぁ、あっ、な、何をするんですかぁー--~!?」
彼女は手をずらしてちらりとこちらを見て来た。
「お、びっじ~ん」
「お姫様だな」
ルーベンが男物の上着を渡す。森林で一度変化した時に服は置いて来たらしい。
「あ、そ……な! いやぁぁぁああああ! み、見ないでくださいぃぃいい!!」
ティナは顔を真っ赤にしながら服を急いで着ている。ルディは酒に夢中で、ルーベンは何かを作っていた。彼女が服を着た頃、ルーベンが良い香りの紅茶を出した。
「あ、ありがとうございます……」
両手で可愛らしくコップを持つと、足を折りたたんで、ゆっくりと味わいながら飲んでいた。久しぶりの紅茶。そして、そのおかげもあって少し落ち着いて来たようだ。二人はその姿でありながら、毒を全く警戒してないのを不思議そうに見ていた。
「あ、あの……私が……こ、ここ、こ、怖くないんですかっ?」
「か弱そう」
「敵意がないしな」
「……何で、私が……王女だと分かったのですか?」
「適当に入った来た情報と組み合わせれば、普通にそうなるだろ」
彼等の『適当に』入って来る情報の質と量は、凄まじいモノである。時には、彼等に恩を着せるために、勝手に入って来る情報もある。
「な、なりません! 現に誰もが……私を……っ」
悲しそうな表情で言った。散々流した涙が自然にあふれて来る。
「お父様やエドガー様でさえ……ぅっ……ぐすっ……」
「ティナ・ディ・ル・マーシア。王女殿下で間違いないのか?」
「え、ぁ、はい……そうです。リベムールの国王、ライオネル・ディ・マーシアの娘です」
「じゃあ、とりあえず今日はもう寝とけ」
「え……?」
「疲れただろ? 久しぶりの安眠だぞ。話なら明日でも構わない」
「……」
「怖いのか?」
「はい……とても……少し前までは大好きだった人族が……今はこの上なく恐ろしい……」
「俺達も信用出来ないか?」
「…………分かりません」
打算の無い、正直にそう言って来る彼女を見て二人は僅かに笑う。
「なぁ、その国……滅ぼしてやろうか? 復讐したいだろ?」
「ッ……そんな事! か、考えていません……それに一個人がそんな事っ……質の悪い冗談はおやめ下さい」
「そっか……まあ、信用出来ないなら出て行っても良い」
「ぁ……ッ。その……」
「だが、戻って来ても良い……俺達は大体、夜にここに居る」
「……何故……私を助けてくれるのですか?」
「その理由が欲しいか?」
「え? は、はい……出来れば……欲しいです」
二人がその質問に答えた。
「気まぐれだ」
「少しだけ気に入った」
その答えは適当だと思った。しかし、彼女はそれを聞いて安心した。純粋に嬉しかった。誰かと入れる事が。
「そうですか」
ティナが微笑んだ。そこで、ルーベンが重要な事を思い出して彼女に言う。
「あっ」
「な、何でしょうか?」
「このアジト、外敵用に罠があるから気を付けろよ。一回認証させたから、一度外に出るまでは罠感知されないから問題ない」
「え……っ? き、気を付けます……」
ルーベンが剣を適当に投げた後に床へ、ルディがソファーに横になって寝た。自分の前で無警戒に寝る男達。しばらくジッと見ていたが、考えるのが面倒になり、周りを見渡す。ベッドが一つ余っていた。
彼女はそこに移動すると蜘蛛に変化して布団の中に潜った。疲労は勿論、満腹になったのもあるだろう。強烈な眠気が彼女を襲う。
「ぅ~暖かい……♪ ふかふかぁ~♪ おやすみなさい。ええっと……」
彼女は思い出す。ルーベンさんとルディさん? でしたか?
「ルーベンさん、ルディさん。おやすみなさい~」
二人はそれに答えなかった。彼等は変装をしている。だが今回、名前を隠していない。蜘蛛が初見だった事もある。しかし、そういう時の対策は既にしている。だがら彼等は焦る必要は無い。
果たして、彼等の本当の名を知る者はいるのだろうか? 誰かが言った。彼等は嘘つきだと。
深夜、ルーベンとルディは目を覚ました。蜘蛛姿のティナが起き上がり、テクテクと音を立てて歩いて来たからだ。
仰向けになっているルーベンのお腹の上に乗ると、座る。その大きさの割に恐ろしく軽い。そこで何かを思い出したのかベッドに戻ると服をもって来た。
服をそこに乗せると、再びお腹に乗り、服の中に潜る。しばらくすると彼女は何をする訳でなくスヤスヤと眠りについたようだ。彼は蜘蛛の足に、ソッと指を添えて眠りについたのであった。
朝になり目を覚ますとティナが適度に距離を取って座って居た。
「も、申し訳ありません」
「乗っかった事か?」
「っ……はい……」
「寂しかったのか?」
彼女は恥ずかしそうにしていた。気づいてない振りをしたのだから、黙っておけば良い物をと彼は思った。
「……はい……人肌が恋しくなって、その……」
人の体温とは不思議なものである。人族への恐怖は本心だろう。しかし、彼女はそれ以上に孤独を恐れた。
「何で腹だったんだ?」
「え? ……胸元や腕付近も考えましたが、朝起きて目の前に居たら驚くかと思いまして」
「なるほど……」
そこでルディが重要な質問をした。
「それで、その呪いの解除方法は聞いているか?」
「分かりません。そんな暇ありませんでしたから」
「……」
「ルーベン、ギルドはどうする?」
「いいや、今日はここにいる」
「了解。俺は行って来る。ついでに行くところもある」
「また後でな」
ルディはそう言って出かけて行った。その間にルーベンは、ティナから事件の一連の事情を聞いた。彼女は泣きながらも途切れ途切れで、それを話した。
「なるほどな……」
「もう私は家族も家も失ったも同然……剰さえこんな化け物の姿にっ……この先どうすればっ」
泣き止まないティナにクッキーを出すと、無言でモグモグしていた。ティナは凄まじい空腹を味わった。食べれるというだけでストレスの緩和になるようだ。
そして、彼女はそのまま泣き疲れて寝てしまった。余程疲れているのだろう。彼はベッドに運ぶと布をかける。
日が落ちるとルディが帰って来た。その音で目が覚めたようだ。
「あ、ルディさん。おかえりなさい」
「ああ……」
彼等は晩御飯を食べながら、今後についての方針を訊いた。
「それで姫様はこの先どうする?」
「……どう、ですか……」
彼女は悲しい表情をした。二人を見ると目を瞑る。そして、ゆっくりと目を開けて言う。
「私はチェルシー嬢と話してみようと思います……彼女はおそらく呪いの解き方を知っている」
彼女はさらに続けて言った。
「ルディさん、ルーベンさん。ありがとうございました。こんな私のお話を聞いて頂けて、嬉しかったです。救われた気がしました。今夜ここを出ようと思います」
「公爵令嬢に近づけるのか?」
「……おそらくは無理でしょう。しかし、これが私の運命ならっ」
「もし人の姿に戻れたら何をする?」
「何を……今まで通りとは、いきませんよね……私は人族を知ってしまいました……」
「憎いのか?」
「……憎くない、と言えば嘘になりますね……確かにそのような感情が溢れて来るのを感じました。でも、お二人のような人族もいる……それはとても嬉しい事です」
「残念、俺達はそうじゃない」
「え?」
ルディが言う。
「勘違いして騙されるなって事だ」
「騙される?」
「極悪人ってのは、善人に見える事もある……そして、善人の良心を喰らって生きるのさ」
「だとしたら悲しいですね……」
「ん?」
「いえ……上手く言えませんが……そう思っただけです」
「……その中から極まれに、全てを喰らう化け物が生まれる事もある」
「? 全てを……ですか……」
「まあ、困ってるなら俺達が手を貸そうか?」
「え……いえ、これ以上ご迷惑をおかけするわけには……それに最悪の場合、貴方たちが殺されていまします。それはとても悲しい事です」
キョトンとした彼女を見てルーベンは笑った。ルディも一瞬だけ頬を緩めた。
「いいね、お姫様。ルディ、暇つぶしに行かないか」
「悪くない」
「え?」
「俺達は勝手について行く」
「頼みたい事があれば言うがいい。報酬はもらうがな」
「お、お二人は一体?」
「依頼主の願いを叶える……そうだな……人でなし、だ」
「護衛でも、殺しでも大抵の事は請け負う」
「……殺し……そんな人には見えませんが……」
「依頼主じゃなくても会話の相手にはなれる」
「何かの縁だ。国の近辺まで送ってやろう」
「……よく分かりませんが、それはとても嬉しいです」
ティナはルーベンの持っている鞄に入り込む。彼等は馬車に乗って、リベムール王国へと向かうのであった。道中は平和だった。何故か魔物に一度も襲われなかった。
数日後、彼女が鞄の中でクッキーを捕獲して食べていると、御者が言う。
「お客さん到着しました~」
「お、着いたって」
彼等が馬車を降りる。鞄から顔を出すと見渡す。懐かしき風景が広がっていた。
「信じられません……まさかもう一度この地に帰って来れる何て……」
ティナはこの風景に感動していた。二人はそれを静かに見守っている様だった。しばらくすると歩き出し、彼等は城下街で宿屋に入る。
「俺達はこの宿屋に二週間はいる。何か合ったらまたここに来い」
「何から何までありがとうございます!」
丁度日暮れ時で動きやすい。彼女はそう言って屋根の中に入って行った。
「か弱いんだか強いんだか……」
「何年も姫様をやっていたんだ。それは強くもなるだろう」
少しだけ沈黙が続く。するとルーベンが喋り出す。
「目覚めは咎の始まり。夢の果実は決して実らず……」
「善を求め盲信す。懇篤の鬼は業を逃さず」
二人はまた少し沈黙すると一瞬だけ口元を緩めた。交互に言葉をのせる。
「純粋なる風骨。己と踊る。愉快に踊る」
「然れば神聖はいらず」
「我々も愉快に踊るだけ」
「いざ、参ろう。理不尽と共に」
「宵のお酒を手土産に」
「地酒は我等が貰い受けよう」
二人は遊ぶように言葉を紡いだ。
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