かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第八章 謎の男たち

第3話 外堀から

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【宿屋】

 厄介ごとを片付けて二人が部屋に戻る。姉妹が唖然としていた。

「な、何がどうなって、そうなったんだ?」

「軽く話し合っただけだ。中々良い奴等だった」

「お前等から絡みに行かない限りは大丈夫だ。もう忘れろ」

「……き、君達、一体何者なの……?」

「一般市民だ」
「……ちっ、聞くなって事か……」

 姉妹は助かったなら何でもいいやと考え始める。そこで、プリシラが思いついた様に言った。

「あ、そうだ。魔導都市グリモマギアスの使い魔って、知ってる?」

「知らん」「知らねー」

「うわっ。なんか嘘くさっ」

「なぁ、本当に知らないのか?」

「本当に知らん。都市には行ったのか?」

「行ったに決まってんだろ。それでも分からなかったんだよ」

「それなら聞くまでも無いだろ」

「……まぁな。思ったほど大都市って訳じゃなかったしな。噂だったか」

「はぁ~。諦めるしかないか~」

 プリシラがそう言いながらベッドに潜り込んだ。テーブルを見るとおけがあった。既に体を拭いた後のようだ。

「どしたのぉ? 私の事気になるー?」

「人の部屋でよくもまあ、遠慮が無いな、と」

「アハハ♪ 可愛い女の子と一緒なんて嬉しいでしょー。あ、君たちは雰囲気が好みだよ~」

「そうか……じゃあもう寝ろ……ん?」

「もーそんな事言って~。嬉しい癖に~」

「……」

 ルーベンが一瞬止まった。何かに気が付いたようだ。そして、言う。

「嬉しい。実は最高に好きだ。その性格とかが最高だな。というかもう愛してると言っても良いな。次会った時に結婚しよう」

 ルーベンが急に方向転換をした。

「え~ほんとに~?」
「ほんとほんと」

「うれしぃ~。でも、残念だけど。先約が居るからごめんね~。もう少し会うのが早かったら分からないかったかもー」

 ルーベンが心の中で舌打ちをした。そこで遅れて気が付いたルディも乗って来た。

「姉上の方……お名前は?」

「な、何だよ急に……」

「ヘシカお姉ちゃんだよ」

「ヘシカか。好きだ。次会った時結婚しよう……」

「わわ、わ、私も先約がいるんだよ……わ、悪いな……その、嬉しいけどよ……すまん……ッ」

 ヘシカはそういう経験が少ない様で照れていたが、しっかりと断った。プリシラは何時もと対応が違って、珍しいなと思いながらそれを見ていた。そこでルーベンがふと疑問に思った。

「……ところで、その先約? 誰なの?」
「え~、嫉妬ぉ? 可愛いぃっ♪」

「……うん、恋敵だからな」
「んー。殺すのは無しだよ?」

「しないしない。俺は正々堂々と心を奪う主義だ」

「仕方ないな~。クロウって人だよぉ」
「わ、私はコールって男だっ……言わせんなよっ……」

「?」「?」

 二人は聞き間違いを疑った。しかし同時に、あやふやにするのは危険だと感じた。ルディが風魔法を使ってルーベンの背中に文字を書いた。ルーベンは背中に手を回してジェスチャーで会話する。

(なんの話か知っているか?)

(まったく知らない)

「その、クロウ君? って言ったっけ? つ、付き合ってるの?」

「そのコールさんとやらも……」

 プリシラが照れ、モジモジとしながらも言った。

「う、うん……毎日お互いが寄り添って離れないくらいだよ。結婚ももうそろそろだね」

「ま、まあ。そうとも言えるなっ。うん」

 ヘシカもそれに同意する。

(お前は分かるが、俺は知らないぞ)

(いや、そんな話は無い。こいつら勝手に捏造してんぞ)
(まさか、記憶の破損では? その部分が勝手に補完されているとか)

(分からん。分からんが、こいつ等がやばいという事は分かった)
(そうだな……はっ。同名なのでは)

(それだ!)

「その男は今何処に?」
「ん~細かく聴き過ぎじゃない~。君達強そうだし、何か怖いよ~」

「いや、絶対そういうのじゃない。暇が合ったら顔が見たいというか」

「でもまあ、助けてもらったし、大丈夫そう……かも?」

「はっ。コールなら大丈夫だ。黒等級と見せかけた金等級だからな」

「う~ん。そうなんだよね……クロウは白等級だから……」

「あ、その等級でクロウって言ったらもしかして、ファクティスの酒場で聞いたかも」

「ぅ……あ、あのさ……絶対に殺さないでね……」

 さっきまでの強気でからかう感じは無く、若干涙目だった。一度、似た様な経験があるのだろう。

「ああ……約束する」
「良かった……」

(どういうこと?)
(分からん……)

(とにかく帰ったら状況確認、最悪の場合は誤解を解かねばな)
(だな……)

 ヘシカもベッドに入って言う。

「それにしても、部屋が一緒か。久しぶりだな」
「だね~」

「姉妹なのに違う部屋なのか? 一緒の方が安くすむだろう?」
「えー、なにー……興味あるの?」

 それに返答する前にヘシカがウンザリとした様子になる。

「最近、夜になると五月蠅いんだよ。布団の中でもぞもぞと動くし。思い人の名前を繰り返すし……」

「あー……」

 ルーベンは察したので、それ以上何も聞かなかった。

「違うよ! ていうかお姉ちゃんも似たようなもんじゃないっ」

「プリシラ……残念だが、それは無い」

「俺たちは外に出てようか?」
「いや、居てくれた方が助かる……ほんとにマジで……ッ」

「だから違うってっー!」

 珍しく姉にからかわれる妹がいた。その後姉妹はベッド、男二人は床で寝るのであった。一日ぶりに熟睡出来るので自然に笑顔になる姉妹。気持ちよさそうに寝ていた。朝になると、姉妹は旅の支度をする。

「色々とありがとね♪」
「本当に助かった」

「……この辺には少し寒い地域もある。ローブを羽織った方が良い。お腹が冷える」

「でも、この辺にずっといるわけじゃないし~」

「体調管理は大切だ。そんな事じゃ強くなれないぞ。後ケチ臭いと、その故郷の男に嫌われるんじゃないか?」

「そうかな~? ん~。じゃあ買おっかな」
「私もマントじゃなくローブにするか……」

「二人はこの辺の人?」
「いや、旅人だ」

「そっかー。じゃあまた何処かで会うかもしれないね」
「かもな」

「またね~♪」「またな」

「ああ……」「じゃあな」

 姉妹は笑顔で去って行った。二人は彼女等の姿が見えなくなると言う。

「今までよく生きてたな……」

「厄介ごとを惹きつけるが、運も惹きつけるようだな」

「本当に計画性の無いギリギリの遠征だな。今回の使い魔、丁度良いかもな」

「そうだな」

 二人は呆れながらポツリとそんな会話をしていた。


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