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第二章 四神
2-8 乗合馬車
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鉱山都市マリザンまでは、歩きだと最短でも五日ほどかかるが、馬車だと二日ほどの道のりだという。
フロンは自分の馬車を出すと言ってくれたが、甘えてばかりいられないので断ると、せめて乗合馬車を利用するよう勧められた。セインは歩いていくつもりだと言ったが、それは父にも姉にも止められた。
初めての一人旅、現地に着くまでにくたくたになっては、それこそ本末転倒だと。
それに街道には魔物だって出る。下手をすれば、目的を果たす前に途中で帰宅、なんてことにもなりかねない。
「うちの周りは閑静で、やたら大きな屋敷が多いけど、ここまで歩いてくると町って感じがするなあ……」
屋敷の敷地を出て、しばらく道なりに下っていくと、やがてガラッと風景が変わる場所がある。そこからは小さな家がひしめき合うような雑多な住宅街があり、さらに進んでいくと、街道の入り口がある割と大きい町に出る。ここまでは侯爵のおひざ元で、セインも数回だけ来たことがある。
ベンと一緒だったが、馬車置き場に置き去りにされて大変な目にあった。今考えると、セインの面倒を見る気はなかったのだろう、何時間も放置したのち、何事もなかったかのように屋敷へ帰った。
世情に疎くならないようにと、いくらかの金銭を貰って買い物をするミッションだったが、当然ながら、ただベンがいい思いをしただけである。セインが告げ口をするはずがないと高を括っていたのだろう。
「さて、ここは出発地点だ。いろいろ興味深くはあるけど、さっさと鉱山都市行きの馬車に乗らなくては」
そんな事情で、セインにとってほぼ初めての場所ではあるが、飽くまで通過点、楽しんでいる場合ではない。乗合馬車の時間を確認しておこうと、馬車がたくさんいる街道側の町はずれに足を向けた。
平安の人であった晴明は、当然ながら乗り物と言えば牛車である。馬が引く車を見たことがないわけではないが、最初はそのことに驚いたものである。
スピードはともかく、乗り心地なら牛車のほうが断然いい、と雅な世界に生きていた彼は思うのだった。
馬留めの向こう、到着したばかりの乗合馬車があったので、御者らしき人に次の行き先はどこか、出発時間などを聞いた。
「そうだな、馬を休ませて二時間ほど後だな。急ぎなら、近くの村からここを経由して、そのまま出る馬車が確かもうすぐ来ると思うが」
万一それを逃しても、少なくとも二時間後には出発できるということだ。
「それなら、移動中の携帯食と、今食べる軽食を買うか」
朝食はしっかり食べたが、ここまで歩いてきたせいか、育ち盛りのセインはお腹が空いてしまった。ここ最近は、それなりの食事を取っていたおかげか、以前のように病的な痩せ方はしていないが、それでも平均的な同じ年代に比べればまだまだだった。
馬留めを後にして、セインはあらためて商店街の方まで戻った。
中央に大きな広場がある中心地の周りには、たくさんの食べ物を売る店がある。広場自体にも、出店のようなものがいくつもあり、とても賑やかだった。
日持ちする黒パンと、干し肉、干し豆などを買って、リュックに詰め込む。
準備資金は、セインが書いた特製のお札数枚と等価交換で手に入れた。これは売り物ではなく、姉フロンの身体安全と、病除などの霊符である。
書いてある文字にフロンは興味深々だったが、こちらの世界にありもしない梵語の説明をしてもきりがないので、造語だと適当にごまかした。要はどこの言葉でも、込めた想いが同じなら効果は同じなのだ。
「さて、これを食べたら戻るか」
広場に設置してある椅子の一つに腰かけ、紙袋に入ったほかほかの饅頭を取り出した。肉がたっぷり入っており、頬張ると熱い肉汁があふれ出した。
「うま、熱っ! ……お前も食べるか?」
ちょんちょんと腕を伝ってひよこが手元まで来たので、セインは、それを少しだけちぎってくちばしの前に差し出した。コウキはもちろんひよこではないので、何を食べても問題ない。肉体を持った式は、好みこそ十人十色ではあるが基本的に何でも食べることができる。
仮に食べなくても生命維持にそれほど影響はないが、彼らにはちゃんと味覚はあるので、食事を楽しむことはできるのだった。
フロンは自分の馬車を出すと言ってくれたが、甘えてばかりいられないので断ると、せめて乗合馬車を利用するよう勧められた。セインは歩いていくつもりだと言ったが、それは父にも姉にも止められた。
初めての一人旅、現地に着くまでにくたくたになっては、それこそ本末転倒だと。
それに街道には魔物だって出る。下手をすれば、目的を果たす前に途中で帰宅、なんてことにもなりかねない。
「うちの周りは閑静で、やたら大きな屋敷が多いけど、ここまで歩いてくると町って感じがするなあ……」
屋敷の敷地を出て、しばらく道なりに下っていくと、やがてガラッと風景が変わる場所がある。そこからは小さな家がひしめき合うような雑多な住宅街があり、さらに進んでいくと、街道の入り口がある割と大きい町に出る。ここまでは侯爵のおひざ元で、セインも数回だけ来たことがある。
ベンと一緒だったが、馬車置き場に置き去りにされて大変な目にあった。今考えると、セインの面倒を見る気はなかったのだろう、何時間も放置したのち、何事もなかったかのように屋敷へ帰った。
世情に疎くならないようにと、いくらかの金銭を貰って買い物をするミッションだったが、当然ながら、ただベンがいい思いをしただけである。セインが告げ口をするはずがないと高を括っていたのだろう。
「さて、ここは出発地点だ。いろいろ興味深くはあるけど、さっさと鉱山都市行きの馬車に乗らなくては」
そんな事情で、セインにとってほぼ初めての場所ではあるが、飽くまで通過点、楽しんでいる場合ではない。乗合馬車の時間を確認しておこうと、馬車がたくさんいる街道側の町はずれに足を向けた。
平安の人であった晴明は、当然ながら乗り物と言えば牛車である。馬が引く車を見たことがないわけではないが、最初はそのことに驚いたものである。
スピードはともかく、乗り心地なら牛車のほうが断然いい、と雅な世界に生きていた彼は思うのだった。
馬留めの向こう、到着したばかりの乗合馬車があったので、御者らしき人に次の行き先はどこか、出発時間などを聞いた。
「そうだな、馬を休ませて二時間ほど後だな。急ぎなら、近くの村からここを経由して、そのまま出る馬車が確かもうすぐ来ると思うが」
万一それを逃しても、少なくとも二時間後には出発できるということだ。
「それなら、移動中の携帯食と、今食べる軽食を買うか」
朝食はしっかり食べたが、ここまで歩いてきたせいか、育ち盛りのセインはお腹が空いてしまった。ここ最近は、それなりの食事を取っていたおかげか、以前のように病的な痩せ方はしていないが、それでも平均的な同じ年代に比べればまだまだだった。
馬留めを後にして、セインはあらためて商店街の方まで戻った。
中央に大きな広場がある中心地の周りには、たくさんの食べ物を売る店がある。広場自体にも、出店のようなものがいくつもあり、とても賑やかだった。
日持ちする黒パンと、干し肉、干し豆などを買って、リュックに詰め込む。
準備資金は、セインが書いた特製のお札数枚と等価交換で手に入れた。これは売り物ではなく、姉フロンの身体安全と、病除などの霊符である。
書いてある文字にフロンは興味深々だったが、こちらの世界にありもしない梵語の説明をしてもきりがないので、造語だと適当にごまかした。要はどこの言葉でも、込めた想いが同じなら効果は同じなのだ。
「さて、これを食べたら戻るか」
広場に設置してある椅子の一つに腰かけ、紙袋に入ったほかほかの饅頭を取り出した。肉がたっぷり入っており、頬張ると熱い肉汁があふれ出した。
「うま、熱っ! ……お前も食べるか?」
ちょんちょんと腕を伝ってひよこが手元まで来たので、セインは、それを少しだけちぎってくちばしの前に差し出した。コウキはもちろんひよこではないので、何を食べても問題ない。肉体を持った式は、好みこそ十人十色ではあるが基本的に何でも食べることができる。
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