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第二章 四神
2-17 憑依
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「コウキ、周りに広い結界を」
不気味な姿となり果てながらも、こちらに攻撃してくる様子がない相手に、セインはすぐそばまで近寄ることができた。何が起こるかわからない状態なので、すぐにコウキの炎の壁で大きくぐるっと囲んだ。
これで、万が一にも逃亡されることはないし、他に被害が及ぶのも防げるはずだ。
「ゆらは、どうだ?」
『こちらはいつでも大丈夫です。セイン様、精神統一を』
セインは頷いて、片手で刀印を結んで目を瞑り、意識だけをゆらに向ける。姿を小さな球状に変化させたゆらは、音もなくセインの額に吸い込まれた。
結界で視界が封じられていなければ、他の人たちからはセインが目を瞑っているだけに見えただろう。
ほんの数秒の後、セインは静かに目を開き、数回瞬きした。
普段は灰色の瞳が、深海のような群青色に変化し、姿はセインのままでありながら、どこか嫋やかな大人の女性のような雰囲気があった。
「……意識はそのままなんだな」
憑依といっても、飽くまで主導はセインのままだった。ゆらが考える、また知識にあるものが、不思議と違和感なくセインに理解できた。
この状態では、ゆらと会話はできないようだった。
けれど、ゆらができることなら、セインの妖力の範囲内でなんでも可能だと思えた。
「自分の身体なのに、なんだか不思議な感覚だ」
セインであり、ゆらである感覚。
この状態をどう表現すればいいのか、ただの憑依といってしまっていいのか、セインにはわからなかった。魂が繋がっているというのはこういうことなのか、と改めて思った。
どちらにしても、考察するのは後回しである。
なんとか理性を保っていた山羊獣人が、コウキの炎に怯えたように身を捩り、辺りを見回すような仕草を見せる。なんとかして、ここから逃れようとしているのかもしれない。
穢れ祓いの炎を怖がる状態は、あまりいいとは言えない。
「ゆらの術でも、完全なオニになってしまえば、穢れを祓うのは難しいだろう。早くしないと」
セインは上着のポケットから札を一枚出し、刀印で素早くなぞって相手に向けた。
「ゆらが請う、我が……っあ! っつ!?」
と、それに気が付いたのか、いきなりこちらに跳んできた。
文字通り、バネ仕掛けの如くあっという間にセインの懐まで詰めたのだ。そのまま掴みかかってきたので、咄嗟に両手を使って相手の手首を掴んだ。
手放した札が、ひらひらと足元へ落ちた。
大きな山羊獣人の体重を支え切れず、セインは堪らず背中から倒れ込む。お互いの両手を掴みあって、そのまま上から押さえ込まれてしまい、すぐ近くで睨みあう恰好になった。
けれど、そこは百戦錬磨、いくつもの修羅場を越えてきた経験の賜物である。考える間もなく、セインは脊髄反射で反撃していた。
「炎よ、疾く閃け!」
両者の間に、爆竹のように、光とともに破裂音が起こった。
ほとんど熱も感じられず範囲も小さかったが、ただ相手を驚かせ、怯ませるだけの威力はあった。いわゆる猫騙しである。狙い通り、顔を隠すように後ろに仰け反ってセインの手を離した。
その隙に、素早く起き上がって札を拾うと、セインはすぐさま先ほどの姿勢に戻った。
「大いなる海に請う。我が手に溢れよ、白く砕ける波となり、濯げ、清めよ! 水神たるゆらが命ずる! 急急如律令!」
差し出した両手からは、本当に大量の水が流れ落ちた。
やがて、それは勢いよく獣人を包むように渦を巻き、さらに上昇した。コウキの炎の壁の、さらに上空まで達し、周囲で見守っていた人たちは何が起こったのかと、戦々恐々とざわめくことになった。
不気味な姿となり果てながらも、こちらに攻撃してくる様子がない相手に、セインはすぐそばまで近寄ることができた。何が起こるかわからない状態なので、すぐにコウキの炎の壁で大きくぐるっと囲んだ。
これで、万が一にも逃亡されることはないし、他に被害が及ぶのも防げるはずだ。
「ゆらは、どうだ?」
『こちらはいつでも大丈夫です。セイン様、精神統一を』
セインは頷いて、片手で刀印を結んで目を瞑り、意識だけをゆらに向ける。姿を小さな球状に変化させたゆらは、音もなくセインの額に吸い込まれた。
結界で視界が封じられていなければ、他の人たちからはセインが目を瞑っているだけに見えただろう。
ほんの数秒の後、セインは静かに目を開き、数回瞬きした。
普段は灰色の瞳が、深海のような群青色に変化し、姿はセインのままでありながら、どこか嫋やかな大人の女性のような雰囲気があった。
「……意識はそのままなんだな」
憑依といっても、飽くまで主導はセインのままだった。ゆらが考える、また知識にあるものが、不思議と違和感なくセインに理解できた。
この状態では、ゆらと会話はできないようだった。
けれど、ゆらができることなら、セインの妖力の範囲内でなんでも可能だと思えた。
「自分の身体なのに、なんだか不思議な感覚だ」
セインであり、ゆらである感覚。
この状態をどう表現すればいいのか、ただの憑依といってしまっていいのか、セインにはわからなかった。魂が繋がっているというのはこういうことなのか、と改めて思った。
どちらにしても、考察するのは後回しである。
なんとか理性を保っていた山羊獣人が、コウキの炎に怯えたように身を捩り、辺りを見回すような仕草を見せる。なんとかして、ここから逃れようとしているのかもしれない。
穢れ祓いの炎を怖がる状態は、あまりいいとは言えない。
「ゆらの術でも、完全なオニになってしまえば、穢れを祓うのは難しいだろう。早くしないと」
セインは上着のポケットから札を一枚出し、刀印で素早くなぞって相手に向けた。
「ゆらが請う、我が……っあ! っつ!?」
と、それに気が付いたのか、いきなりこちらに跳んできた。
文字通り、バネ仕掛けの如くあっという間にセインの懐まで詰めたのだ。そのまま掴みかかってきたので、咄嗟に両手を使って相手の手首を掴んだ。
手放した札が、ひらひらと足元へ落ちた。
大きな山羊獣人の体重を支え切れず、セインは堪らず背中から倒れ込む。お互いの両手を掴みあって、そのまま上から押さえ込まれてしまい、すぐ近くで睨みあう恰好になった。
けれど、そこは百戦錬磨、いくつもの修羅場を越えてきた経験の賜物である。考える間もなく、セインは脊髄反射で反撃していた。
「炎よ、疾く閃け!」
両者の間に、爆竹のように、光とともに破裂音が起こった。
ほとんど熱も感じられず範囲も小さかったが、ただ相手を驚かせ、怯ませるだけの威力はあった。いわゆる猫騙しである。狙い通り、顔を隠すように後ろに仰け反ってセインの手を離した。
その隙に、素早く起き上がって札を拾うと、セインはすぐさま先ほどの姿勢に戻った。
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