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第五章 拠点
5-8 居場所
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――二か月前。
「え、あ……こ、このお屋敷は……、ご、ご主人様、は一体……」
鉱山都市から、ゲイルと彼の家族を連れて帰ってきた時、彼は侯爵邸の天を衝く様な門を前に、言葉通り腰を抜かしていた。
セインが彼らを買い取ったといっても、今回の報酬を使ってのことだ。専属の戦闘奴隷を連れたハンターということで、もしかしたらお金持ちのおぼっちゃんかも、くらいには思っていたかもしれないが、これほどとてつもないお屋敷に連れてこられるとは想像してなかったに違いない。
「ああ、あの奥の豪邸は気にしなくていいよ。暮らしてもらうのはそっち、ボロ屋だから気がねしなくていいから」
そう言って、門番に脇の小さな扉を開けてもらってゲイルたちを通した。
使用人たちは基本的に裏門や、こちらの小さな門から出入りすることになる。今回は、説明のためにセインも一緒にその門を通って、広い庭の脇を通って裏庭に出た。
そうしてセインは、例の元使用人館を指さしたのである。
「ぼ、ボロ……って、いえ、普通に立派なお屋敷ですが」
二階建てで、更に屋根裏もあり、大きな厨房、ゆうに二桁以上は有ろうかといういう部屋と、かつては大人数が一斉に食事ができた大きな食堂を兼ねたホール。
確かにボロだが、侯爵家ともなれば、使用人とて良家の子女に、食い詰め貴族の子弟までが働くのだ。当然ながら、放置される以前は外観も中身もそれなりのお屋敷だったのだ。
普通の庶民の常識からすればそんな反応になるのは仕方がない。
そこへ来て、セインは彼らに自分の身の上を話してなかったことに気が付き、簡単に自己紹介をした。
「こ、こ、侯爵家のご子息様であらせれれっ……たてまつり、だっ!」
面白いほどしゃちほこばり、おまけに舌を噛んでうずくまったゲイルに、妻と娘が慌てて駆け寄った。
「いやホント、気にしなくていいって。今まで通り、普通に話してくれて構わないよ。僕はここではただの九男で、一番下なんだから」
あの鉱山での遭難の後、ゲイルの妻や娘の奴隷契約書の書き換えのために、彼らとともに奴隷商会を訪ねた時以来なので、セインが都主であるデオルの弟だということさえ知らなかったのだろう。
遠慮がちながら、彼の視線がセインの髪を一瞥したことに気が付いた。
もちろん、そのことについて彼は何も言わなかったけれど、ロルシー侯爵家の灰色の髪の意味は、この地方に住んでいる者なら、それこそ子供でも知っている。
とはいえ、ゲイルはむしろ噂などあてにならないな、程度にしか受け止めていなかった。なぜなら、その目で見たものが真実ですべてだからだ。少なくとも彼にとっての真実は、セインが命の恩人で、かつ家族の命の恩人である、そのまぎれもない事実だけだった。
「ここが新しい生活の場だ。父上に許可を取ったら、臨時に人を雇って本格的に改装を始めようと思っている。ゲイルたちには、それまでは暫定的な仕事についてもらうけど、その後は正式にここで働いてもらう」
ここを、これからの拠点にする。そう決めたのは、鉱山都市に出発する以前からである。意地を張っているわけでも、セインを虐待した兄に当てつけるためでもないし、そもそも独立といっても完全じゃない。
なんたって、ここは親の敷地内だ。
それはセインがまだ十歳の子供なので、致し方がないことだ。
この旧使用人館の前の荒れた空き地を小さな畑にして、完全とはいかなくともプチ自給自足を狙っていた。
これは別に家族と別離したいとかではなく、小さな居場所を作りたいと思ったからだ。もともと、式たちのことがあるし、本館に戻るつもりはなかった。
後に、ここを改装するにあたっての侯爵との取引条件、館の一部を弟子や研修生貸すことを了承したのは、遠い未来、いずれここを解放することも考えてのことだった。それまでに、使用人たちもこの館での地位を築いて貰って、誰に憚ることなく、ここの責任者として任せられるようにしたい。
先のことはわからないけれど、セインが本当の意味で自立して、ここを出るその時が来た時には、この場所が孤立しないようにしておきたい。
この別館の大改造には、そんな思惑もあったのである。
「え、あ……こ、このお屋敷は……、ご、ご主人様、は一体……」
鉱山都市から、ゲイルと彼の家族を連れて帰ってきた時、彼は侯爵邸の天を衝く様な門を前に、言葉通り腰を抜かしていた。
セインが彼らを買い取ったといっても、今回の報酬を使ってのことだ。専属の戦闘奴隷を連れたハンターということで、もしかしたらお金持ちのおぼっちゃんかも、くらいには思っていたかもしれないが、これほどとてつもないお屋敷に連れてこられるとは想像してなかったに違いない。
「ああ、あの奥の豪邸は気にしなくていいよ。暮らしてもらうのはそっち、ボロ屋だから気がねしなくていいから」
そう言って、門番に脇の小さな扉を開けてもらってゲイルたちを通した。
使用人たちは基本的に裏門や、こちらの小さな門から出入りすることになる。今回は、説明のためにセインも一緒にその門を通って、広い庭の脇を通って裏庭に出た。
そうしてセインは、例の元使用人館を指さしたのである。
「ぼ、ボロ……って、いえ、普通に立派なお屋敷ですが」
二階建てで、更に屋根裏もあり、大きな厨房、ゆうに二桁以上は有ろうかといういう部屋と、かつては大人数が一斉に食事ができた大きな食堂を兼ねたホール。
確かにボロだが、侯爵家ともなれば、使用人とて良家の子女に、食い詰め貴族の子弟までが働くのだ。当然ながら、放置される以前は外観も中身もそれなりのお屋敷だったのだ。
普通の庶民の常識からすればそんな反応になるのは仕方がない。
そこへ来て、セインは彼らに自分の身の上を話してなかったことに気が付き、簡単に自己紹介をした。
「こ、こ、侯爵家のご子息様であらせれれっ……たてまつり、だっ!」
面白いほどしゃちほこばり、おまけに舌を噛んでうずくまったゲイルに、妻と娘が慌てて駆け寄った。
「いやホント、気にしなくていいって。今まで通り、普通に話してくれて構わないよ。僕はここではただの九男で、一番下なんだから」
あの鉱山での遭難の後、ゲイルの妻や娘の奴隷契約書の書き換えのために、彼らとともに奴隷商会を訪ねた時以来なので、セインが都主であるデオルの弟だということさえ知らなかったのだろう。
遠慮がちながら、彼の視線がセインの髪を一瞥したことに気が付いた。
もちろん、そのことについて彼は何も言わなかったけれど、ロルシー侯爵家の灰色の髪の意味は、この地方に住んでいる者なら、それこそ子供でも知っている。
とはいえ、ゲイルはむしろ噂などあてにならないな、程度にしか受け止めていなかった。なぜなら、その目で見たものが真実ですべてだからだ。少なくとも彼にとっての真実は、セインが命の恩人で、かつ家族の命の恩人である、そのまぎれもない事実だけだった。
「ここが新しい生活の場だ。父上に許可を取ったら、臨時に人を雇って本格的に改装を始めようと思っている。ゲイルたちには、それまでは暫定的な仕事についてもらうけど、その後は正式にここで働いてもらう」
ここを、これからの拠点にする。そう決めたのは、鉱山都市に出発する以前からである。意地を張っているわけでも、セインを虐待した兄に当てつけるためでもないし、そもそも独立といっても完全じゃない。
なんたって、ここは親の敷地内だ。
それはセインがまだ十歳の子供なので、致し方がないことだ。
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これは別に家族と別離したいとかではなく、小さな居場所を作りたいと思ったからだ。もともと、式たちのことがあるし、本館に戻るつもりはなかった。
後に、ここを改装するにあたっての侯爵との取引条件、館の一部を弟子や研修生貸すことを了承したのは、遠い未来、いずれここを解放することも考えてのことだった。それまでに、使用人たちもこの館での地位を築いて貰って、誰に憚ることなく、ここの責任者として任せられるようにしたい。
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