晴明、異世界に転生する!

るう

文字の大きさ
91 / 137
第五章 拠点

5-8 居場所

しおりを挟む
 ――二か月前。 

「え、あ……こ、このお屋敷は……、ご、ご主人様、は一体……」

 鉱山都市から、ゲイルと彼の家族を連れて帰ってきた時、彼は侯爵邸の天を衝く様な門を前に、言葉通り腰を抜かしていた。
 セインが彼らを買い取ったといっても、今回の報酬を使ってのことだ。専属の戦闘奴隷を連れたハンターということで、もしかしたらお金持ちのおぼっちゃんかも、くらいには思っていたかもしれないが、これほどとてつもないお屋敷に連れてこられるとは想像してなかったに違いない。

「ああ、あの奥の豪邸は気にしなくていいよ。暮らしてもらうのはそっち、ボロ屋だから気がねしなくていいから」

 そう言って、門番に脇の小さな扉を開けてもらってゲイルたちを通した。
 使用人たちは基本的に裏門や、こちらの小さな門から出入りすることになる。今回は、説明のためにセインも一緒にその門を通って、広い庭の脇を通って裏庭に出た。
 そうしてセインは、例の元使用人館を指さしたのである。

「ぼ、ボロ……って、いえ、普通に立派なお屋敷ですが」

 二階建てで、更に屋根裏もあり、大きな厨房、ゆうに二桁以上は有ろうかといういう部屋と、かつては大人数が一斉に食事ができた大きな食堂を兼ねたホール。
 確かにボロだが、侯爵家ともなれば、使用人とて良家の子女に、食い詰め貴族の子弟までが働くのだ。当然ながら、放置される以前は外観も中身もそれなりのお屋敷だったのだ。
 普通の庶民の常識からすればそんな反応になるのは仕方がない。
 そこへ来て、セインは彼らに自分の身の上を話してなかったことに気が付き、簡単に自己紹介をした。

「こ、こ、侯爵家のご子息様であらせれれっ……たてまつり、だっ!」

 面白いほどしゃちほこばり、おまけに舌を噛んでうずくまったゲイルに、妻と娘が慌てて駆け寄った。

「いやホント、気にしなくていいって。今まで通り、普通に話してくれて構わないよ。僕はここではただの九男で、一番下なんだから」

 あの鉱山での遭難の後、ゲイルの妻や娘の奴隷契約書の書き換えのために、彼らとともに奴隷商会を訪ねた時以来なので、セインが都主であるデオルの弟だということさえ知らなかったのだろう。
 遠慮がちながら、彼の視線がセインの髪を一瞥したことに気が付いた。
 もちろん、そのことについて彼は何も言わなかったけれど、ロルシー侯爵家の灰色の髪の意味は、この地方に住んでいる者なら、それこそ子供でも知っている。
 とはいえ、ゲイルはむしろ噂などあてにならないな、程度にしか受け止めていなかった。なぜなら、その目で見たものが真実ですべてだからだ。少なくとも彼にとっての真実は、セインが命の恩人で、かつ家族の命の恩人である、そのまぎれもない事実だけだった。

「ここが新しい生活の場だ。父上に許可を取ったら、臨時に人を雇って本格的に改装を始めようと思っている。ゲイルたちには、それまでは暫定的な仕事についてもらうけど、その後は正式にここで働いてもらう」

 ここを、これからの拠点にする。そう決めたのは、鉱山都市に出発する以前からである。意地を張っているわけでも、セインを虐待した兄に当てつけるためでもないし、そもそも独立といっても完全じゃない。
 なんたって、ここは親の敷地内だ。
 それはセインがまだ十歳の子供なので、致し方がないことだ。
 この旧使用人館の前の荒れた空き地を小さな畑にして、完全とはいかなくともプチ自給自足を狙っていた。
 これは別に家族と別離したいとかではなく、小さな居場所ホームを作りたいと思ったからだ。もともと、式たちのことがあるし、本館に戻るつもりはなかった。
 後に、ここを改装するにあたっての侯爵との取引条件、館の一部を弟子や研修生貸すことを了承したのは、遠い未来、いずれここを解放することも考えてのことだった。それまでに、使用人たちもこの館での地位を築いて貰って、誰に憚ることなく、ここの責任者として任せられるようにしたい。
 先のことはわからないけれど、セインが本当の意味で自立して、ここを出るその時が来た時には、この場所が孤立しないようにしておきたい。
 この別館の大改造には、そんな思惑もあったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない

戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――! 現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、 中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。 怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として 荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。 だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、 貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。 『良領主様』――いや、『天才王子』と。 領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、 引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい! 「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく! ――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚! こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています 是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい

学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。

さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。 聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。 だが、辺境の村で暮らす中で気づく。 私の力は奇跡を起こすものではなく、 壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。 一方、聖女として祭り上げられた彼女は、 人々の期待に応え続けるうち、 世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。

超能力者なので、特別なスキルはいりません!

ごぢう だい
ファンタジー
 十歳の頃に落雷の直撃を受けた不遇の薫子は、超能力に目覚める。その後十六歳の時に二度目の落雷により、女神テテュースの導きにより、異世界へ転移してしまう。ソード&マジックの世界で、薫子が使えるのは超能力だけ。  剣も魔法も全く使えない薫子の冒険譚が始まる……。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

処理中です...