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第七章 海への道
7-6 気がかりな札2
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「そちらが、なにか?」
「い、いえ、この札は正規の店で買いましたか?」
「すみません、こちらは前々回のハンターの方が、違約金代わりにと置いていったものなので」
――出所はわからない、か。
この紙はロルシー特製のものだ。検品済みの刻印こそないが、間違いない。ロルシー家には独自の製紙技術があり、術式に適した墨の作成とともに、それらを専門に担う部署がある。いずれも門外不出で、関わる人員には技術流失を防ぐための契約魔法を義務づけ、徹底している。
――出荷前に施されるはずの再使用防止の加工もされてないな。
封印として使ったはずのこの札は、剥がされた今もなんの変化も見られない。ロルシー製なら、一度使った札にはもれなくストライプの透かしが入るはずだ。
こんな中途半端なものが正規ルートで流通するとは到底思えない。弟子たちが作った物も含め、能力者が最後の検品をして不良品は弾かれ、すぐさま焼却処分になるはずなのだ。
ともあれ、封印の札はそれなりの役割は果たしていたようだ。腐った匂い、これは比喩だが、がする拗れた穢れを、それでも一応は押さえてくれていたのだから。
「あの……それで、どうでしょうか?」
札を穴が開くほど見ていたセインだったが、仕事中だったことを思い出して「ああ、すみません」と、ルーカスに向き直った。
「残念ですが、こちらは手遅れですね。穢れが内部まで侵しているため、正常に浄化が出来たとしても、これらは姿を保っていられないかもしれません」
生き物なら穢れ者、オニになった状態である。完全なオニの穢れを強引に祓ってしまうと存在自体が消滅するように、穢れが進んだ物質は浄化とともに崩れ去ってしまうのである。
「そ、そうですか。それで、穢れ払いの方は可能ですか?」
「できますよ。ただ、先ほど言ったように、いくつかはお祓いとともに使用できなくなりますが、よろしいですか?」
ルーカスは、明らかにほっとしたように頷いた。
「もちろんです。穢れに汚染されたものは廃棄も禁じられているので、本当に困っていたんです」
生物の穢れ者同様、穢れた品物は不吉な呪物のようなものだ。災いを呼び込むとか、魔物を引き寄せるとか、ともかくいいことはない。そして、穢れた物を不法投棄することは、帝国はもちろん、ほとんどの国で犯罪となる。
効き目のない似非祓い札より、この不気味なロルシー製の札の方が厄介なこと極まりない。複数回使う穢れ札もそうだが、下手に効力があるだけに、中途半端に穢れが消えたように見え、より重なることでおかしな状態になっているようだ。
ともかくこうなってしまうと、汎用の札ではどうにも解決ができない。関わったハンター達のほとんどが銅ランクだったため、ギルドで販売されているプロ用の高価な札を使わなかったに違いない。値段が十倍以上違うため、銅ランクが日課にするようなクエスト程度には使用できなかったのだ。
――初期のうちならギルドの札程度でも簡単に解決したんだろうけど……。
『セイン様、ここはわたくしがやりましょう。この地は海も近く、わたくしの能力にも良い影響があるようです』
珍しくゆらが名乗りを上げた。確かに札を使うより手っ取り早い。浄化はコウキも得意だが、炎を使うのでこういう場合には適さない。セインも近頃では自力でいろいろ出来るようにはなったが、それでも得手不得手があり、とかく浄化やその後のケアまで考えると、守護に特化したゆらに任せる方がいいだろう。
「じゃあ、そうしよう」
セインが背を向けていたためルーカスには見えなかったが、セインがゆっくり瞬きすると、瞳の色は青く揺らめき、海面が光を反射するようなゆらゆらとした蜃気楼が部屋の中を包んだ。
「……え? わっ、うぷ」
ルーカスが慌てて口と鼻を押さえて息を止める。
なぜなら、水の中に入っているように空気が身体にまつわりつき、軽い浮遊感まであったのだ。
「う、う……、ううっ!」
「終わりましたよ」
「う? ……ん、えっ、終わっ?」
「終わりました。封印が不十分だったため、念のためこの部屋も浄化しておきました」
これはサービスです、とセインはスマイルゼロ円の笑顔で答えた。
息を止めてほんの数秒の出来事で、ルーカスは驚きと息をいきなり吸ったせいで、思わず咳き込んでしまった。
「い、いえ、この札は正規の店で買いましたか?」
「すみません、こちらは前々回のハンターの方が、違約金代わりにと置いていったものなので」
――出所はわからない、か。
この紙はロルシー特製のものだ。検品済みの刻印こそないが、間違いない。ロルシー家には独自の製紙技術があり、術式に適した墨の作成とともに、それらを専門に担う部署がある。いずれも門外不出で、関わる人員には技術流失を防ぐための契約魔法を義務づけ、徹底している。
――出荷前に施されるはずの再使用防止の加工もされてないな。
封印として使ったはずのこの札は、剥がされた今もなんの変化も見られない。ロルシー製なら、一度使った札にはもれなくストライプの透かしが入るはずだ。
こんな中途半端なものが正規ルートで流通するとは到底思えない。弟子たちが作った物も含め、能力者が最後の検品をして不良品は弾かれ、すぐさま焼却処分になるはずなのだ。
ともあれ、封印の札はそれなりの役割は果たしていたようだ。腐った匂い、これは比喩だが、がする拗れた穢れを、それでも一応は押さえてくれていたのだから。
「あの……それで、どうでしょうか?」
札を穴が開くほど見ていたセインだったが、仕事中だったことを思い出して「ああ、すみません」と、ルーカスに向き直った。
「残念ですが、こちらは手遅れですね。穢れが内部まで侵しているため、正常に浄化が出来たとしても、これらは姿を保っていられないかもしれません」
生き物なら穢れ者、オニになった状態である。完全なオニの穢れを強引に祓ってしまうと存在自体が消滅するように、穢れが進んだ物質は浄化とともに崩れ去ってしまうのである。
「そ、そうですか。それで、穢れ払いの方は可能ですか?」
「できますよ。ただ、先ほど言ったように、いくつかはお祓いとともに使用できなくなりますが、よろしいですか?」
ルーカスは、明らかにほっとしたように頷いた。
「もちろんです。穢れに汚染されたものは廃棄も禁じられているので、本当に困っていたんです」
生物の穢れ者同様、穢れた品物は不吉な呪物のようなものだ。災いを呼び込むとか、魔物を引き寄せるとか、ともかくいいことはない。そして、穢れた物を不法投棄することは、帝国はもちろん、ほとんどの国で犯罪となる。
効き目のない似非祓い札より、この不気味なロルシー製の札の方が厄介なこと極まりない。複数回使う穢れ札もそうだが、下手に効力があるだけに、中途半端に穢れが消えたように見え、より重なることでおかしな状態になっているようだ。
ともかくこうなってしまうと、汎用の札ではどうにも解決ができない。関わったハンター達のほとんどが銅ランクだったため、ギルドで販売されているプロ用の高価な札を使わなかったに違いない。値段が十倍以上違うため、銅ランクが日課にするようなクエスト程度には使用できなかったのだ。
――初期のうちならギルドの札程度でも簡単に解決したんだろうけど……。
『セイン様、ここはわたくしがやりましょう。この地は海も近く、わたくしの能力にも良い影響があるようです』
珍しくゆらが名乗りを上げた。確かに札を使うより手っ取り早い。浄化はコウキも得意だが、炎を使うのでこういう場合には適さない。セインも近頃では自力でいろいろ出来るようにはなったが、それでも得手不得手があり、とかく浄化やその後のケアまで考えると、守護に特化したゆらに任せる方がいいだろう。
「じゃあ、そうしよう」
セインが背を向けていたためルーカスには見えなかったが、セインがゆっくり瞬きすると、瞳の色は青く揺らめき、海面が光を反射するようなゆらゆらとした蜃気楼が部屋の中を包んだ。
「……え? わっ、うぷ」
ルーカスが慌てて口と鼻を押さえて息を止める。
なぜなら、水の中に入っているように空気が身体にまつわりつき、軽い浮遊感まであったのだ。
「う、う……、ううっ!」
「終わりましたよ」
「う? ……ん、えっ、終わっ?」
「終わりました。封印が不十分だったため、念のためこの部屋も浄化しておきました」
これはサービスです、とセインはスマイルゼロ円の笑顔で答えた。
息を止めてほんの数秒の出来事で、ルーカスは驚きと息をいきなり吸ったせいで、思わず咳き込んでしまった。
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