賢者の世迷言

テルボン

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第1章 賢者の世迷言

世迷言 その弐

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 火口付近に亜空間ゲートて姿を現したヨハンは、眼下で黒煙が上がる入江に念話を送る。

『フィリア、片付いたよ。そっちはどうだい?』

 すると、入江とは逆方向の背後から念話が返って来た。

『ヨハン、我はこっちだ。早めに片付いたので島内を散策していた』

  大きな翼を羽ばたかせ、ゆっくりと降下して来た。舞い上がる土埃が収まるまで待つと、美しい白のエンシェントドラゴンのフィリアが、優しい面持ちで見下ろしていた。

「それで、島内の様子はどうだった?」

『北部から西部にかけての山岳荒野地帯には、小さな村が三つ程。北東から東部一帯に広がる平野部には大きな都市跡が一つあり、村は離れた場所に六つ程点在している。南部にある入江付近には、港街跡があるだけで後は段々畑が広がっているな。入江付近の魔物は殲滅したが、他の地域は、我は感知能力は高くないので残党が居るやもしれん』

「残党の事は大丈夫だよ。色々調べてくれて助かった。ありがとう」

『もう姿を変えても?』

「ああ、大丈夫だよ」

 フィリアは翼を畳み体を屈める。同時に体を眩く発光させると、見る見るうちに小さくなって、発光が終わって現れた姿は、ヨハンより小柄で童顔な、とても美しい少女であった。

「ふぅ。やはり私は、目線の高さは見上げる方が好きだ」

 そう言いながらヨハンの胸元に抱きついて見上げる。ヨハンは優しく、彼女の白く美しい頭髪を撫でてあげる。
 彼女みたいに人型になれるドラゴンは少なく、出来てもドラゴンの姿が多く残る竜人ドラゴニュートまでがほとんどである。
 それに、見た目は幼く見えるが、ドラゴンは人族とは違い長命種族である。フィリア自身は180歳程で、彼女の種族ではまだまだ若い年齢である。人型になる際に、姿は裸体になるのだが(ドラゴン時は裸)、長い頭髪を衣状に変化させ、白いワンピースを着ているように見せている。

「それで、この後はどうするのだ?」

「そうだね。先ずは、サリマドールとの交信手段が必要だな」

 ヨハンはフィリアに離れてもらい、亜空間を開いて中から一本の凍った苗木を取り出した。それを、日照条件の良さそうな場所を探して植える。

「キュア」

 状態回復魔法を掛け苗木の凍化を解く。亜空間内には生きた物は保管できないので、仮死状態にしてあったのだ。
 元の緑緑しい姿の苗木に戻ったところで、今度は時空間魔法を掛ける。

『陽の熱き力、終わりを告げる闇を消し去り、芽吹く生命の導き手となれ。望む頂きの為に過去を捧げよ…ヘイスト』

 掛けた時空間魔法は、対象の時間軸を無理矢理進行させる魔法。苗木がある程度の大きさに成長するまで掛け続ける。

「良し、これくらいかな。流石は世界樹の木だ。魔力の負担は半端ないな」

 通常より倍以上の魔力を消費して、苗木はようやく充分な大きさに成長した。背はヨハンの倍に、枝は広範囲に広がり葉が生い茂っている。

『サリマドール、サリマドール=マナ。聞こえるか?私だ。ヨハンだ』

 世界樹に向かい念話を送る。しばらくして、幹の部分が異様な形に波立つ。そこからググッと女人型の上半身が姿を現した。

『おお、ヨハン。ここは新たな陸地の様だな。して、何か進展があったのかな?』

『ああ。屍魔王を倒し、アヴァロン島を手に入れた』

 島の名を聞き、サリマドールは少し眉をひそめたが、直ぐにそうかと頷いた。

『まぁ、分かってはいた事だが、とうとう始めるのだな?』

『流石、理解が早くて助かるよ。そこで、君の力を借りたい。世界各地の要人達に私のビジョンを伝えたいんだ。頼めるかな?』

 できるか?と言われサリマドールは鼻で笑う。

『我を誰だと思っている?元々我にしか出来ない事だろう。今準備する。しばし待て…』

 彼女が目を閉じて数分の時間が経つ。ヨハンはその間に変身の指輪を取り出して、老人のヨハンに姿を変える。世界で認識されている彼は年老いた姿だからだ。そして、突然サリマドールの瞳が開かれる。

『…繋がった。たった今から、我が目から其方の姿は世界各地に投影されている』

 ヨハンは軽く咳払いをして姿勢を正すと、彼女の目の奥に居るであろう要人達に向かい語り始めた。

「世界各地の皆様、突然の事でさぞかし驚いておいででしょう。儂の名はヨハン=アシュミード。皆皆様より、賢者の称号を頂いた者ですじゃ。今日は、皆様方に重大な発表がありましての。こうやってお伝えさせて頂く次第となったのじゃ。…今、各地で起こっておる争いや問題に、儂の噂が付いて回っておるらしいが、正直、何の身に覚えも無い事。じゃが、貴方方の賢者は不必要という考えは受け入れようと思う。よって、儂は今日手中に収めたアヴァロン島を、我が国家として立ち上げる」

 後ろで聞いていたフィリアも、新国家…?と少し驚いている。この島を、余生を送る隠れ家的に手に入れたのだと考えていたようだ。

「よって、頂いた賢者の称号は返上し、このアヴァロン島をアシュミード王国とした上で、我が初代国王する。アシュミード建国に対し、協力する方々、不満を抱く方々、同盟を結ぶなり、侵攻するなり、ご自由に為されよ。其れ相応の対応で歓迎致しましょうぞ」

 ここでサリマドールは投影を終了した。彼女自身も驚きを隠さないまま、指輪を外すヨハンに問いただす。

『新国家建設って、どういう事だ?突然の世迷言に、世界各国で騒動になっているぞ⁉︎魔王を一人倒したくらいで、世界を相手にしようなどと無謀にも程がある!世界の必要悪になるつもりか?』

「必要悪…そんな大層なものでは無いさ。一種の願望を叶えたかっただけだよ。その後押しを魔王達がしてくれただけさ」

『だからと言って、少人数過ぎるだろう!何もできやしないぞ⁉︎』

「まぁね。だから、今から集めるんだよ。私の全ての嫁に連絡を入れてくれないか?アヴァロン島ここで一緒に暮らそうと」

 その発言にフィリアがいち早く食らいつく。

「本当か⁈今までみたいに年に数日ではなく、ずっと一緒に住むのだな?」

「ああ、ずっとだよ」

「分かった!ならば直ぐに故郷に帰らせてもらう。息子を連れてくるから!」

  フィリアは再びドラゴンの姿に戻り、勢いよく飛び立って行った。

『幾ら家族を集めたところで、数は知れている』

「まぁね。でも、それで構わないんだ。移住したいという者が来たら歓迎するし、攻めて来た者も懐柔する。国が発展すれば、自ずと国民は増えて行くよ」

『それは難しいだろう』

「ああ、だから君とウォーレンにも協力して貰いたいんだ。君達の力が有れば、実現可能な事なんだよ。一緒に国作りをしよう?」

 ヨハンの信じ切った笑顔に、サリマドールはとうとう折れた。ふぅと溜め息をつき、笑顔を返す。

『分かった。しかし、やると決めたからには、妥協は許さないからな』

 そう告げて、サリマドールは元の世界樹の姿へと戻って消えた。

「助かるよ。…良し。それじゃあ、待っている間に残っているアンデットの確認と集結をやっておこう」

 ヨハンは島全土を探知して周り、見つけたアンデットを全てネクロマンスの力で操り、城下の地下ダンジョンへと亜空間ゲートで移動させた。全てが終わった頃には陽は沈み、アンデットが活発に動ける夜になっていた。
 活発化したアンデットにはダンジョン内の掘削工事や整地をさせる班と、夜中の時間帯だけ荒れた街を補修工事させる班に分けて行動させた。彼等も充分、使える労働力である。

「さぁ、国作りの始まりだ」

 ヨハンは満天の夜空を見上げて、頑張るぞと拳を突き上げた。
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