賢者の世迷言

テルボン

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第1章 賢者の世迷言

白竜一族

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 建国を宣言してから一夜明けて、ヨハンは入江で唯一外海からの侵入できる場所を確認していた。
 反り立つ自然の岩壁は、大型帆船が一隻通れるだけの幅を除いては島全土を囲っている。隆起してできた岩壁なので、外海側に鼠返し状に沿っている。したがって、よじ登るという事も不可能に近い。
 外敵が船でこの島を攻めて来る場合には、一隻ずつ順番に入江に入るしか無いという事だ。だから、その唯一の通り道に門を作ってしまえば、船での侵入経路は絶たれるという事だ。
 今はまだその必要は無いだろうけど、後々には門の設立も考えておこう。
 ヨハンは入江を後にして、今もなお仕事をしている城下ダンジョンの様子を見に行く事にした。

 自ら召喚して破壊したアネモスの通路は、埋め戻しにかなりの時間を有する。
 ダンジョンとして機能するにはもうしばらく掛かるだろう。
 魔法で巻き戻せば済むと考えたくなるが、現在、時空間魔法には、ヘイスト(促進)、スロウ(遅延)、ストップ(停止)しか存在しない。
 未だに時空間魔法だけは、魔力の消費量も練成も最高難度過ぎて、賢者と呼ばれたヨハンでさえも詠唱破棄は一度も成功していない。 故に現在、魔法による時間を戻す事は不可能と言えるだろう。

 昨日から働かせているアンデットは二班に分けている。三時間置きに交替させる為だ。アンデットとはいえ、疲労が溜まっている者は休みを与える必要がある。ゾンビ系は筋肉硬直が酷くなるし、スケルトン系は疲労骨折とかもあるんだから、不死者の概念が理解しづらいよね。ただ、一定期間休むと回復するから助かるよ。回復魔法やアイテムを与えると逆にダメージ与えちゃうからね。

『ヨハン、何処にいる?』

 アンデット達に指揮 監督をしていると、真上の城から念話が届いた。亜空間ゲートを開きその場に向かう。
 ゲートから出て、始めに出迎えてくれたのは人型のフィリアだった。

『お帰り、フィリア。おお、カイン達も来てくれたか』

 フィリアの後ろから竜人ドラゴニュート姿の息子カインと、部隊長である彼の部下の竜人ドラゴニュート達がぞろぞろとやってきた。因みに彼等の竜鱗も白く美しい。フィリアの艶に比べれば、三分艶くらいではあるが。

『フィリア、カインはともかく、彼等を連れて来たら族長に怒られるのではないかい?集落を守る大事な部隊だろう?』

「父上、その心配には及びません。何故なら、我々白竜族全員をこの島に移住させたいと族長自らが考えておいでで、返答次第で集落を立つとの事です。あ、それと、彼等は人語を解するので竜人ドラゴニュートの時は念話の必要はありません」

「そうか。もちろん、移住は大歓迎さ。族長にそうお伝えしてくれ」

 直ちに!と一人の若者が直ぐに飛び立って行った。少しは休んでくれて良かったんだけど。

「元々、我等一族は故郷を持たない。娘の私がここに住むなら、其処に住もうと簡単に決めていたぞ」

 フィリアは白竜一族の族長の娘で、族長はフィリアをかなり溺愛している。ヨハンと結婚するとなった時も、反対騒動はその地域に戦争規模の爪痕を残した。
 年に一週間しか会えないという決まりも、族長を譲歩させる一つの条件であった。

「来て早々で悪いけど、今から君達が住む場所を決めなきゃね。フィリア、候補はあるかい?」

「あるよ。火口の北部に住居にするにはもってこいの山岳がある。彼処なら約二百いる一族全員住めると思う」

「よし、じゃあ行ってみよう」

 変身したフィリアに飛び乗り、皆んなで目的地へと移動する。
 着いた場所は山岳地帯で、凹凸の激しい箇所や崖等も多い。しかし、彼等にしたら横穴を掘り易く、住居作りには適しているらしい。完全な人型になれるフィリアとは違い、竜人ドラゴニュートやドラゴンの姿のままの者達は、寝る際には必ずドラゴンの姿で寝るのである。だから大きい横穴であれば、ドラゴン姿のまま気にせず出入りがしやすいのだ。

「これは良い場所だね。早速、後から来る皆んなの分の寝床も確保しよう」

 カイン達、竜人ドラゴニュートもドラゴンに変身して、次々と穴掘り作業を開始する。

『私は城に住むからな。折角近くにいるのに、夫と離れて寝る等あり得んし…他の妻達が来たら独占できなくなる。よって、私達も城に戻り寝室等の修繕工事だ』

 そう言って、息子達の作業を見届けずに城へと踵を返す。

『城の修繕工事は簡単だよ。元々屍魔王は地下ダンジョンを寝床にしていたみたいで、城自体はほぼ手付かずのまま劣化しているだけだから。まぁ、アネモスで開けた穴はあるけどね』

『修繕は必要。そして部屋割り。先着の有利を活かす』

 フィリアは着地と共に変身を開始して、直ぐ様走り出すがその姿は可愛らしいとしか言い表せない。
 ヨハンは彼女の後ろをゆっくりとついて行く。
 この城は三階建てと低めの山城である。城壁の四隅に見張りの塔が建っているが、精々五階の高さくらいだ。元々山の頂に近いから、今更高さは必要無かったのかもしれない。
 一階部は中央エントランス、客間が10部屋、会食堂、給仕部屋、衛兵控室、二つの大広間、武器庫等の倉庫。
 二階部は謁見の間、臣下の間が5部屋、来賓の間が5部屋、礼拝堂、資料室、浴場。
 三階部には王の間、貴人の間が5部屋、王室専用浴場、王室専用礼拝堂。
 見張り塔の地下にはそれぞれ牢屋がある。どれも出入り口は二階のみとなっていて、出入り口横には衛兵控室が当然ある。

 フィリアは三階の貴人の間へと向かい、一つ一つ部屋をチェックしていく。石材部は劣化はしていないが、布地や木材でできた棚や椅子は痛みが酷い。

「私の部屋はここにする!」

 フィリアは奥から二番目の部屋を選ぶと満足気にそう宣言した。

「何故この二番目の部屋?」

「王の間に近い一番奥は、テレサの部屋だ。だから私は二番目だ」

 フィリアは順番を気にしている。それはヨハンに嫁いだ順番だけではなく、尊敬の意も含まれている。
 フィリアと知り合った当時は、ヨハンは既にテレサと結婚していた。
 当時の二人は冒険者稼業で生計を立てていて、素材調達のクエストで偶然フィリアと遭遇したのだ。二人の冒険者に初めて敗北を味わったフィリアは、ヨハンに求婚をしたのだ。
 当然、テレサがそれを許す筈が無く、テレサとフィリアは結婚を掛けて決闘を行った。
 テレサは人間の女性であったが、拳聖と呼ばれる程の格闘家であった。勝てると甘く見ていたフィリアは、全力で戦ったのに完敗したのだ。
 負けて泣き崩れるフィリアに、テレサが折れる形で結婚を許した。後に、フィリアの父との大事に発展するわけだが、フィリアは強さも器の大きさも、テレサには敵わないと感じて自分は第二夫人との位置付けを決めたのだった。

「とりあえず、ベッドは私が使用していた物で我慢してもらうよ?」

 亜空間倉庫を開き、ベッドとその他の家具を取り出す。痛みの酷い家具を作り直すまでは、これで我慢してもらうしかない。

「もちろん構わない。ヨハンが居てくれるから」

 フィリアに抱き着かれてベッドに押し倒される。頬を染めているその表情は妖艶でとても美しい。見惚れながらも、ヨハンは彼女から距離を取ろうと試みる。

「もうすぐ族長が着くかもしれないよ?」

「野暮なこと言わない…」

 彼女が変化させていた衣を解除して裸体になると、ヨハンは抵抗するのが無駄だと悟る。優しく接吻を交わすと、タガが外れた様に二人は求め合った。

 行為を終えた後、フィリアは満足そうに寝てしまった。ヨハンは服装を正し部屋を出ると、辺りは紅く夕陽に染まっていた。ヨハンは亜空間ゲートを開き、カイン達の下に向かった。
 ゲートが使用できる範囲は、一度訪れた事がある場所で五㎞圏内までである。ギリギリ届く範囲内で助かった。

「あ、父上。今しがた族長達が到着致しました」

 カインに促され広場的な場所へと向かうと、一際目立つ大きさの、年老いたエンシェントドラゴンが隻眼でこちらを睨んで待っている。

『良くお出で下さいました、父上様。お変わりなくお元気でいらっしゃるご様子で』

『…御主も年老いもせずに元気そうだな。娘の頼み故、御主の国に在籍はしてやるが、御主の命が終わる時、我等はここを離れるやもしれん事を先に言っておく』

 ヨハンの喉元に大きな爪の先を突き付けて、族長は不敵に笑う。

『ええ、もちろんそれで構いません』

 それでも笑顔を辞めずに、ヨハンはその爪に軽く口付けをした。

『ふん、我が子等には好きに協力を頼むが良い。子等が納得すれば、我は口出しはせぬ』

そう言うと、族長は我は寝ると目を閉じてそっぽを向いた。未だに好かれていないのを肌で感じ、ヨハンは頭を下げて大人しく城へと帰る事にした。
 これで、アシューミード王国の上空からの侵略も、白竜一族の存在で不可能と言わざるをえなくなったのである。



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