拳で語るは村娘

テルボン

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第2章 新たなナニゲ村

第33話 フロウの戦い

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 村の入り口にたどり着いた馬車は全部で6台。その荷台からはぞろぞろとギルドの冒険者が降りてくる。御者も含めて総勢54名の冒険者が集まった。

「おい、アルテ殿、あの煙はなんだ?まさか…しかも今、魔法弾らしきものが弾かれたようにも見えたが…」

 ギルドマスターのトーマスが、降りてくるなり村の後方で上がる煙を指差す。

「ええ、奴等が勘付いて早めに動き出したんです。村にはディオソニス様に結界を施して貰っています」

「そうか、ならば早めに行動せねばな。それで状況はどうなっている?」

「今、ゴッズは行方不明のまま。ジョージ、サエルは突如死亡しました」

「な⁈死んだだって⁉︎」

「はい。死んだといっても、二人共おそらくゴッズもでしょうけど、奴等は寄生型の中級魔族です。寄生していた体を乗り捨てて別の体に乗り換えて村に潜入しています。私も戦闘には参加しますが、村内にはまだアンナ達が居ます。先ずは彼女達を逃がしたいので、トーマスさん達は奴等が侵入して来るだろう村の北部を中心に部隊を展開してもらえますか?北部の森には、先に勇者の藤浪雲水さんが来てくれています」

「おいおい!帝国の勇者が来てるのか⁉︎それなら鬼に金棒だな!とは言え、アルテ殿も彼女達の安全を確保したら、直ぐに加勢してくれよ?寄生型の魔族なんて、正直俺らも戦い辛いからな」

 トーマスはそう言うと、後方で待機する冒険者達に指示を出し始める。アルテは任せたと、急いで村へと引き返した。




「メグ姉さん、アネットちゃんをどうするつもり?」

 アルテが入り口に向かった数分後…旅館では、MPと体力を消耗してあまり動けないアネットを、メグが重力支配の技能スキルで宙に浮かせていた。

「ここも狙われる可能性はあるもの。直ぐに移動できるようにしなきゃ。私達でアネットちゃんを守りながら皆と合流しましょう」

「でも、ここでアルテさんが帰るのを待ってた方が良いんじゃないかな?」

「いいえ、移動するべきよ」

 ナミーが窓から入って来るなりそう言うと、三人に静かにするようにと口に指を当てる。

『一階の地下で物音が聞こえたわ。どうやら奴等に姿を見られたみたいね』

『あ、私⁈』

 メグが先程窓枠から外に顔を出した事を思い出した。

『全員、主人の身体強化ステータスをシェアされているんだから、普通の人間より強いわよ。安心してついてきなさい』

 小さな胸を張って、ナミーは一階へと三人を慎重に導く。正面玄関へ向かう途中、

ギィッ……。

 三人は動きを止めた。食堂から音が聞こえたのだ。鼓動が高鳴り冷や汗が止まらない。フロウは深呼吸して自分を落ち着かせる。アネットとメグ姉さんを守らなきゃと、以前見たアルテの構えを真似てみる。
(大丈夫!シェアで身体強化やオートチャクラは付与されている。私が二人を守るんだ!)

『生体反応が四体…窓際にいるわ。今のうちに玄関に向かいましょうか』

 反応に気付かれないように、三人はゆっくりと玄関に足を進める。

「⁉︎」

「皆さん!無事ですか⁉︎」

 突然、三人の目の前に見覚えのある姿が現れた。

「アレックス君⁉︎」

 アレックスは、全身泥やほこりまみれの状態だけど、元気そうで三人は安堵した。

「すみません、遅くなりました。びっくりしましたよ。村に帰ったら魔物が居るんだもの!それで、アルテさんは何処ですか?」

「え、あ、今は入り口でギルドの方達と…」

 メグが説明しようとしたら、ナミーがアレックスが前に飛び出して遮った。

「うわっ?よ、妖精⁈」

「ナミーよ。ワザとらしく騒がないでくれる?おかげで魔物に気付かれたじゃないのよ」

 ナミーは、アレックスの鼻頭をコツンと叩く。

「ご、ごめん」

 食堂の扉が勢いよく開けられ、四体の武装したゴブリンが飛び出して来た。フロウはメグ達の前に出て、直ぐに戦闘態勢を整える。

『私が前で戦うから、姉さん達はアレックスさんの後ろに下がって!アレックス君……あれ?アレックス君って、索敵サーチ持ってなかったっけ…?』

 そう、彼なら索敵サーチでゴブリン達が居る事は知っていたはず…
 振り返ったフロウは、驚きの声を上げた。

「ナミーちゃん‼︎」

 背後からのアレックスの剣により、ナミーが斬り付けられた。

『に、逃げなさい…私は…一時的に消えるだけ…』

 ナミーは体から白い煙を出してポン!と三人の前から消えた。

「うるさい羽虫にはご退場してもらわないとね?」

 アレックスは、三人が見た事の無い悪い顔でニヤリと笑う。
(違う!アレックス君じゃないわ!)

「大人しく…してもらおうか」

 背後に居るゴブリンの1人が、フロウの腕を掴んできた。フロウは腕を振り払い、ゴブリンを突き飛ばした。身体強化により、ただの突き飛ばしでゴブリンが壁にめり込んだ。

「ヤズー⁉︎おいっ、大丈夫か⁉︎」

 驚いたアレックスが、壁にめり込んだゴブリンを心配したその隙に、メグはアネットを連れて玄関から出た。

『フロウ!貴女も出て‼︎』

 しかし、フロウは囲まれていた。アレックスは、剣先を彼女へと向けて威嚇する。

「嬢ちゃんよ、大人しく捕まれや。コッチもその体を傷付けたく無いんや」

 明らかに口調が変わったアレックスに、フロウは泣き出しそうになる。

「あなたはサエルね…あ、アレックス君に、寄生したの⁈」

「はっ、その通りや。俺らが寄生できるんを知ってたんか。なら、話が早い。お前の体をヤズーに、ジョージに譲ってくれや」

『アルテさん、助けて‼︎』

 ジリジリと間を詰めるゴブリン達に、フロウは壁側に追い詰められた。構える手も震えている。戦えるはずなのに、アレックスの体を傷つけられない。

「大事に…使ってやるからよ」

 ゴブリンの首元から、液体がニュルッと伸びていく。

 ドガガッッ‼︎‼︎‼︎‼︎

 突如、壁が爆発し煙が立ち込めた。その衝撃でゴブリンは爆死したが、ヤズーは寸前に液体の状態で逃げていた。
 パラパラと埃と破片が落ちていき、視界が徐々に戻る。フロウはゆっくりと瞼を開けると、自分の前に人影がある。

「誰だ、てめぇは⁉︎」

 アレックスの体に寄生しているバズーは、ヤズーを肩に乗せて距離をとる。バズーの目の前には、見た事の無い男が立っていた。

「俺の名は悟。新垣 悟だ」

  そこには、男姿になったアルテが立っていたのだ。悟はフロウの頭を軽く撫でて笑顔で頷く。

『後は任せろ』

 笑顔から一転、悟はバズー達に怒りの表情を向ける。その気迫にバズー達は後退りをした。こんな奴見た事無いぞ?焦るバズーは、アレックスの記憶に残る悟の姿を見逃していたのだ。

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