拳で語るは村娘

テルボン

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第1章 奇跡の村娘降臨

第9話 不穏

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 翌朝、アルテは全員の起床を確認していた。全員起きていて、身嗜みを整えて玄関広間に集まってきた。

「おはよう!」

「おはようございます、アルテさん!って、どうしたんですかこの人達?」

 挨拶に来る娘は皆同じ様にして驚き尋ねてきた。何故かというと、入り口の壁際に正座で座らされている男達がいるからだった。
 捕らえた奴隷商人とその一味は総勢十名で、全員起きていてボロボロの状態だった。
 暴れる者、逃げ出そうとした者をアルテがしっかりとしてあげたのだ。何より、足まで縛った状態では運ばなくてはならないので、足の拘束は解き自分達で歩いてもらわなければならないと分からせる上で仕方なかったのだ。決して楽しんでなんかいないよ?

「さぁ、準備が終わったなら出発するよ。この男達も連行して行くから、必然的に注目浴びちゃうかもしれないけど、アレックスが牽引して進むから多分皆んなは大丈夫だと思う」

 アレックスは僕も注目されたく無いですよと声には出さないが、泣きそうな顔で口をパクパクさせている。

「まぁとにかく、今日の大事な目的はナイトバロンによる被害と討伐の報告。自分達の村に起きた悲劇をちゃんと国に理解してもらわないとね」

 当時の事を思い出したのか、目に涙を浮かべる娘が多数いたけれど、今後の人生を考えるなら乗り越えなければならない事である。

「さぁ、行こうか」

 娘達が馬車に乗ると、アルテは再び御者台に座る。アレックスは奴隷商人達を芋づるの様にして引っ張って歩く。
 アレックス達のペースに合わせて、馬車もゆっくりと移動を開始した。距離も400m程度なので歩きでも直ぐに門へとたどり着いた。
 朝もまだ早い時間帯なのにもかかわらず、受付をする為に入場審査待ちの人々で行列を作っていた。
 最後尾に並ぶと、守衛の一人が駆けてきた。

「君達、何だねその連中は?!」

 どうやらアレックスが引き連れている男達がボロボロの状態で拘束されているのが目につき、只事ではないと思ったらしい。

「なるほど、ではコイツ達が奴隷商人で、君達に危害を加えて来たから返り討ちにして捕まえたと…女性達ばかりで俄かには信じ難いが、確かに今までも人攫い的な事件は報告されている。分かった、それならコイツ達は私が連行しようか?」

「ん~その必要は無いかなぁ。大丈夫だと思うよ。ねぇ?」

 アルテの睨みを効かせた問いかけに、男達はビクッと肩を震わせ、皆一様に何度も頷いた。

「そ、そうか。くれぐれも注意してくれよ?」

 守衛は不思議そうに見ていたが、自分の持ち場に戻って行った。

「面倒だから預けちゃって良かったんじゃないの~」

 「まぁな。でも、コイツ達の仲間が他に居ないとも言い切れないからね」

 別に今の守衛を疑う訳では無いのだが、一人に預けるという行為自体、逃げられる可能性は増えると思う。引き渡すなら大衆、又は多くの目撃者が居るべき場所というのが悟の持論である。

「次の方?前にどうぞ」

 どうやら自分達の番になっていた様で馬車を進めるように言われる。

「証明証の提示を」

「はい、これです」

 アレックスが腰に付けているポーチの中から、免許証程のサイズの金属製のプレートを取り出して、守衛の一人に差し出した。

「アレックス=ムーア。確かに我がナゲイラ国の冒険者の様だな。事情は仲間から聞いている。全員、通っていいぞ。ソイツ等は軍の詰所に連れて行ってくれ」

 証明証を確認すると、すんなり通行の許可が下りた。証明証は信用されている商人や冒険者ギルドに登録されている者といった、少なからず王都内で生活する為に何らかの契約を結んだ者達に与えられるようだ。

「それでは先ずは軍の詰所にこの人達を預けて、その後に冒険者ギルドに討伐報告に向かいましょう」

 アレックスを先頭に、昨日は閉ざされていた西門をくぐり抜ける。アルテは異世界に来て初めての都市と呼べる王都にとうとう訪れたのだ。
 城下町の光景は、自分の住んでいた日本の都会とは別物で、石畳みの通路やレンガ壁等、西洋の街並みを想像した方が早いだろう。
 行き交う人々も賑やかで、仕事に追われて無表情な者達ばかりの自分の知る世界とは全く違う。

「こういう雰囲気も嫌いじゃないな」

  アルテ達はゆっくりと賑わう大通りを進んで行った。引き連れている男達が多少の注目を浴びているが、騒ぎにまでは成らずに済みそうだ。


  一方、城の東の塔の中にある迎賓室から街を見下ろす一人の男が居た。
 その身なりは上流階級の貴族と同様に品のある良い生地の正装を身に纏っている。

「ふむ、面白い奴が居るな」

 その男の頭髪はやや長く、整った顔立ちで優男に見えるその甘いマスクが、ククッと子供っぽい笑みをこぼす。

「失礼します!」

 早めの強いノックと同時に、一人の騎士が入ってきた。
 兜を外すと、黒髪で短髪の綺麗な女性の顔が現れる。
 少し息切れをしていたが、一回の深呼吸をすると落ち着きを取り戻した。ピンと背筋を伸ばし男に敬礼をする。

「報告します!西門側から魔物らしき反応が一体侵入した模様です」

「ああ、そうみたいだね。今確認したよ」

「如何致しますか?」

「一緒にいる全員、城に招待して」

「は?しかし、アレは魔物でございますが…」

 捕らえて処分するものと思っていただけに言葉の意味が理解出来ず異論を唱えてしまう。

「その魔物には余り害は無いよ。それより、魔物と共に行動している彼等に会いたいんだ」

「か、かしこまりました。直ぐに手配します」

 疑問に思いながらも、もう一度敬礼をして部屋を出ようとする。

「あぁ、ミアーラ。くれぐれも手荒な歓迎はしないでくれよ?」

 再び敬礼をして部屋を出る。外で待機していた連れの兵士達も直ぐに後を付いて来る。

「奴等は今どこに居る?」

「は、今は詰所に居る模様です」

「詰所?都合が良いな。そのまま確保しろ。ディオソニス様がお会いになりたいそうだ。全く、あのお方は何をお考えなのだ?城内に魔物を呼ぶなど前代未聞だぞ」

 兵士達は直ぐに詰所へと走って行った。ミアーラは一人、そのまま武器庫へと向かう。
 地下にある武器庫に辿り着くと、番をしている兵士の前に勢いよく詰め寄ったため、兵士は驚き仰け反った。

「封魔剣を出せ」

「え?封魔剣って、何処かに出撃要請があったんですか?」

「いいから出せ!必要になるかも知れないのだ!」

 迫力に気圧されて兵士は部屋の奥へと走って行った。ガサガサと探している音が聞こえる間もミアーラは苛々していた。

「王達に何かあってからでは遅いのだ」

 その頃、アルテ達は軍の詰所で奴隷商人達を預けて、その調書に答えていた。

「…という訳なんです」

 アレックスが事の真相を説明し終えると、待機していた兵士達が奴隷商人達を一人一人奥へと連れて行った。

「俺達は何もやっちゃいねーよ!」

 リーダーの男が最後で暴れている。アルテはゆっくりと歩いて近づき、かなり手加減して平手打ちをした。

「自分達は奴隷商人で、大人しく捕まれと私の胸ぐらを掴んで脅したじゃない!」

 演技の涙を浮かべて見せて、耳元で囁く。

「今更ジタバタするな。大人しく今までの罪を償えよ。それとも、生き地獄を味わいたいか?」

 そのまま硬直した男はズルズルと兵士に連れて行かれた。その光景にアレックス達は苦笑いしている。

「それでは次は冒険者ギルドに向かいましょうか」

 気を取直して、アレックスが席を立ち出口に向かおうとすると、兵士達が出口を塞ぐ様に立つ。

「あの、どいて頂けませんか?」

 兵士は無言のまま動こうとしない。アルテは辺りを見渡す。いつの間にか通路や窓の前にも武装した兵士が待機している。
 何やら不穏な空気になっているなと感じ、まさか危害を加えては来ないだろうが、不安そうにする彼女達の前にアルテは立つ。

「これはどういうつもりですか?」

 少し強めの口調で尋ねると、調書を作成していた兵士も聞かされて無い様でオロオロと戸惑っている。ところが仲間の兵士から何か伝えられ、こちらを何度か見て頷き驚いたかと思うと、今度はかなり警戒した雰囲気になる。

「すまないが、あるお方が貴女達とお会いになりたいそうでね。しばらく此処に居てほしいそうだ」

「あるお方?例えそうだとしても、対応が酷くないか?」

 少しイラッとしてしまい、口調が元に戻ってしまった。慣れてないから仕方ない。
 兵士の一人が袋を取り出して、目の前の机の上に置くと結ばれた紐を解き始めた。

「コレも渡す様に言われているんだ」

 アルテは近づいて袋の中を確認する。中には大量の金貨が入っていた。

「金貨を貰う意味分からないぞ?」

 そう言ったと同時に、背後で悲鳴が上がる。振り向くと、二人の兵士によって朱美の姿をしているリリムが両腕を背中に固定され捕まっている。
 
「おい、何のつもりだ?事と次第によってはただでは済まさないぞ?」

 最早口調など気にせず、苛立ちを抑える事で手一杯の状態だった。村娘とは思えない迫力に、兵士達はたじろぎ後ずさる。

「どうか驚かずに聞いて欲しい、今捕らえたこの女性は人間では無い!魔族の女なんだ!君達に気付かれない様に近づいて来たのだろうけど、この王都には魔物に反応するセンサーがあるんだ。襲われる前に捕まえれて良かった。そういう訳だから早く君達は離れてこちらに来なさい!」

 兵士はアンナ達にリリムから離れるように指示する。アンナはアルテにどうするの?と視線を送るが、アルテも正直悩んでいた。とりあえず手招きをしてアレックスの側に待機させる。
 (ヤバイな!バレてたのか。どうする?…この場合はアンナ達をアレックスに任せて、俺とリリムで王都を脱出するのが一番かな)
 決断しようとした時、兵士達に動きがあった。奥の通路から一人の女騎士が現れたのだ。

「ミアーラ団長、無事捕獲しました!」

「よし、ならば早速処刑する!王の御前に出させてなるものか!」

 ズカズカと歩いて来る女騎士に、とうとあアルテの苛立ちはピークに達したのだった。


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