【BUT but バット 】異世界人を信用するのは愚かなことだろうか?

テルボン

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ヒルキルの憂鬱 ②

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『人間は無理ね~』

 甲羅鼠を観察していた女神ノルニルの悩んだ末に出した言葉が、その一言だった。

「あ、はい。やはり、魂が釣り合わないという事でしょうか?」

 もっと情報が欲しいと、ヒルキルは積極的に質問することにした。

『魂は、まだなんの経験も無い赤ちゃんだから大丈夫よ~。呼ぶ方も多分、同じ赤ちゃんになるだけ~。あくまでも、トレードなの~』

 召喚対象も、年齢的なものは同等になる?

『身体が無理なのよ~。既に成長過程は決まっちゃってるからね~』

「成長過程?」

『この子の成長限界って言ったら理解できるかなぁ~?つまり~、人間の成長過程と違い過ぎるから、同等にはならないのよ~。簡単に言うと~、転移時に私が新たにこの子の身体を創り変えてみても~、生涯、小人にしかなれない人間って事よ~』

 身長や体格の限界って事かしら?まぁ、人間としての生活はできないのは確かね。

「成人した人間を呼ぶとした場合、来る者は差し出した人間と知識量も同じという事でしょうか?」

『それは違うわね~。神々の選定は魂で判断されるのよ~。例えば罪人、これはあなたが用意しようとした魂だけれど、1人殺した罪人と100人殺した兵士も大差ないわ~。全ては魂の穢れで判断されるの~。つまり~、知識人を求めるなら~、知識欲の多い魂を用意しなきゃね~?』

 知識欲の多い魂?意味がわからないわ。知識を得ようとして、大事な知識人を差し出したら意味がないではないか。
 いや、まだそうと決まった訳じゃない。

「…年齢の制限はお願いできるのでしょうか?」

『先方の神々が認めればできるわよ~?』

「では、こちらが知識豊富な老人を用意した場合に、知識豊富な若者を呼ぶなんてことも?」

『その子の知識量は関係ないわ~。重要な事はあくまでも魂が欲する意欲よ~?でもそうね~、同等の魂なら、赤ちゃんと老人でも可能よ~?』

 赤ちゃんなみの魂を持つ老人など、居るかすら分かる筈ないが、個人が持つ知識量は関係ないらしい。

「しかし、意欲を持つ魂の人間をどうやって探せば…」

『ちょっと~、この子で異世界からのトレードをするのか、そろそろ決めて欲しいなぁ~?供物が少なくて私の負担が大きいんだよ~?』

 流石に質問ばかりで、女神も嫌気がさしてきている。

「は、はい。この甲羅鼠と異世界の動物のトレードをお願いします」

『分かったわ~』

 女神は、甲羅鼠の上に降り立って頭に手を当てる。

『…。はい、完了っと』

 女神が手を離した刹那、甲羅鼠は眩く光始め、輝きで姿が見えなくなった。

 しばらくして光が収束すると、視界も回復してきた。

「……?」

 甲羅鼠が居た場所には、見慣れない奇妙な小動物の赤ちゃんが居た。

 生後3ヶ月くらいかしら?
 私の掌程度の大きさだけど、先端が平で丸いクチバシ、体毛は鼠の様に短くも密で、前足には大きな水掻きがある…後ろ足の方は少しだけの水掻きが小さいのね。

 なんとも、ちぐはぐで奇妙な動物だ。私が知る限り、確かにこの世界には居ない動物のようだわ。

『この子は、異世界ではカモノハシと呼ばれる動物よ~。人間程ではないにしても、この世界に変化をもたらす事は、間違いないでしょ~う』

「…カモノハシ…」

 試験的な召喚だったとはいえ、世界に変化をもたらす動物だと聞かされると、急に責任という不安が多い被さってきた。

 どうしよう。変化をもたらせる前に始末するべきかしら?

 試験召喚後の事を、実は大して考えていなかった為に、この動物の処遇を迷う。

『異世界転移の特典としての人間同様に~、この子にも我々の恩恵を授けているわ~。大事に育ててね~?』

「は、はい。あ、その、トレードされた甲羅鼠の方は、どうなるのでしょう?」

 考えてみれば、トレードした異世界での甲羅鼠はどんな扱いなのだろう?

『大丈夫よ~?あの子もあちらで、世界に変化をもたらせる存在になるでしょうね~?』

 低級とはいえ、甲羅鼠は魔物だ。今頃になって、自分がとんでもない事をやらかしたかもという実感が湧いてくる。

『それじゃあ、私は帰るわね~?この子の送る生涯、神々みんなでいつも楽しみに観るから、頑張ってね~?』

「は、はい、頑張りま~す」

 女神ノルニルは、元気に手を振りながら姿を透明化して消していった。

「……」

 ダメだわ。私の人生、この子を責任持って育てる事が確定してしまった。

 流石に、神々が観ていると知っているのに、早々にテイマーギルドに売り払うのはダメだろう。

「ま、まぁ、結果的には、解明されていない事実がいろいろと分かった訳だし、…成功よね?」

 今回の事で、得た情報は素晴らしい。

 生け贄、…じゃなくて人材は、必ずしも罪人である必要はなく、求める人材と似た意欲を持つ者を選ぶ事。

 それと、神々が協力するのは、転移者の生涯を、娯楽として傍観する為だという事が分かった。

 しかし、なんと言っても、異世界人召喚が、生け贄とされる人材とのトレードだったことが一番のショックだった。

 もしも知らずに本番を迎えていたら、殺人能力ばかりを持ったヤバイ奴ばかりが、この国の建国祭で召喚されていたのだから。

 …だけど、師匠にどうやって説明しようかしら?
 …偶然にも文献を解読できた事にするのは、無理が…ある?いや、いける筈!

 残る問題は、この子よね…。

 …う~ん。流石に、この子を此処に住まわせるわけにもいかないわね。
 でも、研究室は師匠が居るからダメだし…。

 とりあえず、その道のプロに相談するべきよね。

 ここで言うプロとは、動物を飼う事に特化した人達のこと。つまりは、調教師テイマー
 私には丁度、甲羅鼠を購入したテイマーギルドの幼馴染がいる。

 そうと決まったら、テイマーギルドが閉まる前に、幼馴染との話をつけなければならない。

「…まだ起きないでね?」

 ゆっくりとカモノハシの赤ちゃんを布で包み鞄へと入れると、魔法陣の後始末もそこそこに、ヒルキルはバタバタと地下水道を後にするのだった。




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