【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎

153話 ドワーフだけの街サトカラン

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 翌朝、野営シェルターをハウンの亜空間に収納してみたら、ギリギリ収納できた。しかし、このままだと馬車を入れるスペースは無い。テレポートする際には廃棄処分するしか無いね。手間と魔力消費があるけれど、その度に作成すれば済む話だからね。

「さぁ、サトカランに向けて出発しようか」

 アラヤ達は、最寄りの街であるサトカランに向けて出発した。
 道はやがて峡谷の道へと繋がり、陽の当たらない影が道の見通しを悪くさせている。アラヤには問題無いが、暗視眼と操縦士の技能スキルを持たないハウンには難しいかもしれない。

「じゃあ、私が代わりに操縦するわ」

 誰か頼める?と聞いたらサナエが向かってくれた。技能無しでアラヤ達の馬車の速度に合わせていたハウンは、やはり気を張っていた様で、すみませんと代わって後ろに座るなり安心して寝てしまった。
 道は進むにつれ悪くなり、落石箇所や崖崩れはアースクラウドで補強・拡張し、途中から所々に現れたアイスバーンには、ホットブローで溶かしながら進む。
 この道自体を、普段から領内の住民は使っていなさそうだ。これはますます他領からの来訪者は減るだろうな。

「地図だとこの辺りの筈だけど…あっ、あの横穴かな?」

 横穴の大きさは、高さも幅も軽く馬車が通れる程で、端には凝ったデザインの柱が建ててある。
 ライトを飛ばして中を照らすと、柱の横に松明を着ける場所が見えた。
 フレイムで灯りを着けると、連鎖反応の様に洞窟内の松明が灯って行く。あっという間に洞窟内は明るくなった。

「凄いな。外と中では道の整備も段違いだ」

 闇雲に掘り進めて作った洞窟では無く、前世界のトンネルの様に天井・壁は綺麗に整えられ、地面も平らに整地されている。

「アラヤ君、あそこに標識らしき物が見えます」

 そこは十字路で、標識には行き先が書いてあった。但し、全て山の名前だった。

「右に向かえばレニナオ山ですね。左はコアノフ山、直進はオリドバ山…サトカランの街は直進ですかね?」

 痕跡視認で確認してみても、ここ数日は誰も通った形跡は見当たらない。

「地図でも入って直ぐの場所に表記されているから、そんな遠くにはないと思う」

 アラヤ達はとりあえず直進してみる事にした。しばらく進むと道は右折し始め、カーブを曲がり終えた辺りで、道の横に柱が並ぶ入り口が見えた。

「あった!サトカランの街だ」

 柱にも街の名前が刻まれているから間違いない。アラヤ達は地下通路の情報収集の為に入る事にした。
 入り口を入ると直ぐに、馬車を止める駐車場が設けてあり、2人のドワーフがこちらに気付いて歩いて来た。

「来客か珍しいな」

「馬車はここで預かる決まりだ。馬も滞在中はこちらで預かり世話をする。但し、利用料として1日銀貨8枚だよ」

 背が低い年寄りのドワーフ達だが、決して無愛想ではなくどちらかと言うと友好的だ。

「じゃあ、とりあえず2台の2日分支払います」

 アラヤ達は代金を支払って馬車を預ける。ドワーフ達は御者台によじ登ると、空いている場所に馬車を移動する。

「街はその道を真っ直ぐだ」

 アラヤ達はインターロッキングの歩道を歩いて進むと、宿屋らしき建物が見えて来た。
 宿屋と言っても石造りで、ここでも手の込んだ彫刻が至る所に見られる。

「教団施設が無いなら、情報収集は酒場でかな?」

「でもまだ昼前ですからね。開店してるでしょうか?」

 しかし、そんなアヤコの心配は杞憂に終わる。前世界と違い、酒場だけで無く他の店も朝から開いている様だ。

「いらっしゃい。ん?見ない顔だね。ひょっとしてあんた達、余所者かい?」

 ぞろぞろと入店するアラヤ達を見て、カウンターに居た女ドワーフがニカっと笑うと、直ぐ側でカウンターに突っ伏して寝ていた男ドワーフの頭を叩く。

「ほら、お客様だよ!いい加減起きなよ!」

「イタタタタッ、痛ぇよ。もっと優しく起こしやがれ」

 寝癖のついたあご髭を摩りながら、アラヤ達を見て首を傾げる。

「俺の見間違いか?そこの坊主と娘2人に、滅多に懐かない闇精霊が集まっている様に見えるんだが…」

 マジマジと、アラヤ・アヤコ・カオリの魔王3人を見ている。集まっていると言われても、イシルウェには分かるんだろうけど、俺達には視え無いから分からないんだよね。

「ん?風の精霊までいやがる?何だ、金髪の兄ちゃん。あんた、風の加護持ちかよ。まるでエルフみたいだな」

 イシルウェは、念の為にジャミングとウィッグで変装をしている。彼が、ドワーフはエルフ嫌いだからと何度も言うので、朝起きた際に変装を施していたのだ。

「まぁ、エルフが俺達ドワーフの街に来るわきゃ無いんだがな。ガハハハ!」

 大口を開けて笑うドワーフの頭を、再び女ドワーフが後ろから叩く。

「馬鹿な事言ってないで、さっさと注文取りな!」

「だから痛ぇって!分かってるよ、注文だろ⁉︎」

 ドワーフは、石版のメニュー表をドカッとアラヤ達の前に置いて、書いてある事の説明を始めた。このおっさんがウエイターなのか?

「この岩蜥蜴の唐揚げがオススメでな。あと、蝙蝠の薬膳スープは疲れを一発で吹き飛ばしてくれるぞ?お酒はアルコール度数が高い奴しか無いから、坊主には無理だな」

 強化胃酸と酒豪の技能持ちのアラヤ達に、そのセリフは挑発行為でしか無い。

「じゃあ、注文は…全種類の品と強い酒をください」

「は?全種類って、そりゃあ…」

「あいよ~。直ぐに作ってやるから待ってな」

 戸惑う彼とは対照的に、女ドワーフは腕の裾を捲り上げ、やってやるよと厨房へと入って行った。

「そんな小さいなりで、食べ切れるわけ…」

 彼の言葉はそこで止まった。口を開けたまま、ただ呆然とアラヤ達の食事を見ていた。

「うん、なかなか癖があって新しい感じだね。結構、好き嫌い別れそうだけど、俺は好きかな」

 あっという間に料理を平らげて、酒も平然と飲んでいる。その食べっぷりに、女ドワーフも笑顔になっていた。

「あんた、ノーマルなのにやるねぇ。ドワーフでもそこまでは食べないよ?」

 机の上には、30枚近く食べ終わった皿が重ねてある。因みに、アラヤ1人での枚数である。

「それで?ノーマルがわざわざ飯を食べにこんな街に来た訳じゃ無いんだろう?目的は何だい?」

「ああ、コルトバンに向かいたいんだけど、地下通路は初めてで。標識も山名が書いてあるだけだし、詳しい道順か地図が欲しいんです」

「…観光って感じでも無い様だが…。まぁ、道順なら教えても良いかな」

 彼女はそう言うと、口頭で進路順の説明を始めた。それをアヤコが、手帳に一言一句抜かさないように書き記して行く。

「おい、坊主。最北のコルトバンを目指すって事は、まさかつもりじゃ…」

「おい!」

「あっ⁉︎すまねぇ、忘れてくれ」

 彼女が、彼の言葉を突然遮った。彼も、しまったという表情をして口を噤んでしまった。
 何か気になるままで店を出る事になったが、最初の目的の道順は聞けたので良しとしよう。後は買い物をして、一泊したら出発という流れかな。

「それじゃ、宿屋の場所は念話で連絡入れるから、 5時に宿屋集合で各自買い物に別れようかな?」

「「「分かりました」」」

 食料調達班・日用品調達班・資材調達班・資料収集班・宿屋確保班にそれぞれ別れ、アラヤ達は街の中を回る事にした。

「お、ノーマルがいるぞ?」

 若者ドワーフ達がニヤニヤと、アラヤ班(アラヤ・アフティ・ファブリカンテ)の後をついて来る。何処にでも居るんだな、この手の輩は。と言っても、相手は腐ってもドワーフだ。身体能力の高さは注意しなきゃいけない。
 アラヤ達は脇道に逸れて、後ろから来たドワーフ達を出迎えた。

「何かようですか?」

「な~に、簡単な話だ。身包み全て置いてけ」

 3人のドワーフが、コキコキと肩や指を鳴らして威圧してきた。うん、腕力に自信があるから、武器は持たずに素手で来るんだね。

「ふぅ…久しぶりに動いた気がするよ」

 ビルドアップと竜鱗防御で難なく3人を地面に沈めたアラヤは、他の班の方にもこんな輩が行ったかもしれないなと考えたが、心配する必要も無いだろうとそのまま資材調達に向かうのだった。
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