【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎

154話 対応の悪い買い物

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 食料調達班(サナエ・コルプス)は、市場らしき通りに来ていたが、並んでいる食材を見てガッカリしていた。

「食材の声に元気がありませんね」

「無理もないわ。地上の食材は、新鮮な状態では入手困難でしょうから。新鮮なのは洞窟内に生息する生物やキノコの様な野菜類だけね」

 一応目を通すも、アラヤ以外は食べたいとは言わない虫系の食材はスルーする事にした。だって調理もしたくないんだよと自分を納得させる。

「でも変ですね。確かに肉の声が聞こえた筈なんですが…」

「そうなの?」

 サナエは店主のドワーフをみると、明らかに自分達から目を逸らしている。

「ねぇ、ひょっとして出してない肉類があるんじゃないの?」

「ちょっと聞いてみます」

 コルプスが店主に探りを入れてみると、店主の態度が突然悪くなった。

「ノーマルに出す肉なんざ、今出している蜥蜴や蝙蝠で充分だろ!」

 店主のそのセリフに、サナエは頬を引きつらせる。
 鑑定で見ても、店主の職業は採掘家と商人では無い。彼にガルムさんみたいな接客を望んでも無理だろう。

「でも、言い方ってあるよね?ちょっとだけカチンと来たわ」

 サナエは店主に魅惑の艶舞を数秒だけ見せる。すると、店主は目を輝かせて店先に出て来た。

「おほ~っ‼︎よく見たらべっぴんじゃのぅ⁉︎」

 コルプスは警戒して短剣に手を添えるが、サナエが待ってと止める。

「私達、もっと大型の肉が欲しいんだけど?」

 店主の頬を優しく撫でてあげると、彼は鼻息を荒くして喜んだ。

「ま、待っとれ!今、ジャイアントモールの最上肉を持って来てやる」

 店主は店内へと急いで戻り、肉の塊を担いで来た。やっぱりあったじゃないか。

「コレはどうして出品しなかったのかしら?」

「んふ?ワシ等は自分達用の肉は販売せんよ?ドワーフはどの店も必要無い品しか売らないからの。肉類は自分達で調達するのが普通じゃ。だから誰にも売らんよ」

「なるほど。じゃあ、私にも売ってくれないの?」

 サナエは店主に寄り添い、あご髭を優しく撫でると、彼は持っていた肉をそのまま差し出した。

「いや、流石にタダは駄目よ。この質と量なら金貨2枚が妥当かしら」

 サナエが金貨を渡すと、店主はその金貨に頬擦りして喜んでいる。2人はその隙に店から離れる事にした。
 弱目の魅惑の艶舞なので、この程度の魅了と時間で済んでいるが、本来なら襲われる可能性もあるから多用しないで下さいと、サナエは後でコルプスに注意を受けたのだった。

       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 情報収集班(カオリ・イシルウェ・チャコ・ハウン)は、書店や図書館みたいな場所を探していた。ところが、何処を探しても図書館等はありもしない。彼等は外部の情報をどうやって知っているのだろう。

「ああ?外の情報だぁ?んなぁもん、俺の人生には1ミリも関係無ぇな!」

 道中に見かけたドワーフに尋ねるも、仕事の邪魔だと相手にされない。それと、イシルウェを見ては皆が顔をしかめている。例の風の精霊が見えているのだろうか。

「アロマ(カオリ)様、どうやらこの街には本自体が無いかもしれません」

「みたいね。要は、他人から得る知識は要らないという考えのドワーフばかりという事でしょう?」

 カオリがハァと溜め息をつくと、チャコが不思議そうに彼女を見上げている。

「お姉ちゃん、本って面白いの?」

「そうね、楽しいわよ。楽しみもいろいろあってね、自分が知らない知識だったり、驚きの発想だったり、共感できる体験だったりと、本を読む事によって頭と心が喜ぶのよ。チャコちゃんは本は嫌い?」

「…チャコ、見た事も読んだ事も無いの」

 村での生活で、チャコは一日中馬子として働いていたらしく、村人ともまともに会話もしていなかった様だ。

「あ、アロマ殿!この子に本を貸してもらえないか?貴女なら、幾つかの本をお持ちだろう?」

 いたたまれなくなったイシルウェは、今直ぐにでも彼女に本を読んでもらいたかったのだ。

「う~ん、私も手持ちの本は、著書しか児童書は持って無いわ」

「アロマ様の本でしたら、教団でも拝見しましたが、児童も楽しめる素晴らしい本でしたよ?」

 ハウンの推薦もあり、カオリは恥ずかしいと感じながらも、一冊の本を亜空間から取り出してチャコに渡す。

「うわぁ!ありがとう!」

 本来なら、「字が分からないだろうから、お父さんに読んでもらうといいわ」となりそうだったが、イシルウェ自体がラエテマ王国の言語を知らないし、チャコは言語理解の技能スキルを貰ったばかりだ。

「今晩、パパに読んであげる~」

「ああ、楽しみにしてる!」

 立場が逆だが、これはこれで良いかもしれない。因みに、チャコに渡した本のタイトルは、【本好きウサギと物無くしのタヌキ】である。

「また書きたくなったなぁ」

 ボヤいても仕方ないのでカオリ達はその後も街中を探したが、本の一冊も見つける事ができ無かった。

       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 日用品調達班(クララ・オードリー・羅刹鳥)は高台にある商店街へと来ていた。
 洞窟内の街の天井には、ポッカリと大きな通気口が幾つも空いているのが見える。

「クララ様、その…他の服装をお持ちでは無いのですか?」

 ドワーフだけが暮らす領なので、クララは人狼ヒューウル姿をしたら彼等がどんな反応をするか知りたかったのだ。ただ、自分が持つ服はメイド服ばかりだ。
 オードリーは、側から見たら自分が彼女を連れている主人に見えやしないかと冷や冷やしていた。

「問題無いわ。そのためにメイピイを連れて来たんだし」

 メイピイとは最後の羅刹鳥に付けた名前である。

「ああ、そういう…」

 メイピイをアラヤの姿に擬態してもらい、無口ながらに先頭を歩かせる。これならオードリー的には気が楽になるだろう。見た目は子供のお使いに付き合わされているメイドと護衛に変わっただけだけど。

「こんな洞窟で日用品の期待は薄いけど、せめて食器類は良い物を見つけましょう」

 2メートルを越す長身のクララを見上げるドワーフ達は、ただただ驚いているだけで文句や軽蔑をするでも無い。初めて亜人を見た様だった。

「まぁ、ドワーフの寿命は最高で約60歳ですからね。外の情報を知らなければ、クララ様の様な亜人を見ずに亡くなる方も、この領内では多いでしょうね」

 そう考えると、農園からアラヤについて来た私は恵まれていますねと、クララはバルガスと母親のクレアに心から感謝したのだった。

       ◇   ◆    ◇   ◆   ◇    ◆    ◇


 宿屋確保班(アヤコ・アスピダ)は、街に入った際に見かけた宿屋に来ていた。
 来た際には気付かなかったが、どの宿屋も管理が悪く荒れている。その中でも割りかしマシな宿屋を見つけると、アヤコは入り口の扉を開けた。

「おやおや?ノーマルのお客様とは珍しいね。一応聞くけど、泊まる気かい?」

「宿屋に来たのですから、泊まる用事以外無いと思いますが?」

 2人が受付に居た女ドワーフの前に行くと、彼女はやれやれと溜め息をついた。

「貴女達、このサトカラんの街にどうやって来た?馬車じゃないのかい?」

「ええ。そうですけど。何か問題が?」

「この街に泊まりに来る外客は、ドワーフ以外に数十年と久しく無いんだよ。おかげで宿屋は次々と潰れる始末でね。機能している宿屋はうちが最後という訳だよ」

「…?それと馬車の話に何の関係が?」

「もしも、うちの宿屋を御利用してくれるんなら、とっておきの情報をあげるけど?」

 先程から、話の流れや内容が今ひとつ要領を得ない。ただ、魔導感知には、辺りがドワーフに包囲されている事が分かる。どうやら賊の類いの様だ。

「宿屋としての機能も、疑わしく感じますけど。私達が大人しく捕まるとでも?」

 アスピダは担いでいた大楯を徐ろに下ろすと、女主人を睨みつけた。

「アハッ、気迫は中々の良い男だね?その娘っ子は何か勘違いしてる様だけど、ひょっとして気配感知持ちかい?それなら、お前達出ておいで!」

 すると、ぞろぞろと若いドワーフ達が現れた。見たところ敵意は無く、初めて見るノーマルに興味があると言った眼差しである。

「この子達は私の子供達さ。生まれて初めての客に、興奮しちまった様でね」

 それは随分と、この宿屋にも来客が無かった事を意味する。潰れる手前じゃないのか?

「私達は全員で13人居ますが、ちゃんとした対応で泊まれるんですかね?」

「おおっ⁈泊まってくれるのかい?部屋数ならちゃんとあるし、室内も新品に近い状態で綺麗にしてあるよ!」

 その気があると分かると、女主人と子ドワーフ達は上機嫌になる。

「まだ泊まると決めた訳ではありませんよ?貴女が言う、とっておきの情報次第ですかね?」

「ああ、そうだったね!貴女達がもし、この街に来た時に駐車場に馬車を止めてるんなら、馬はもう諦めた方が良い。あそこにいる年寄りは馬肉好きでね。預かるって言って、昔から馬を盗んでしまうのさ」

 その話を聞いたアヤコは、直様アラヤ達に念話する。

『アラヤ君、駐車場のドワーフは馬泥棒らしいです!今直ぐに向かえる方に数名でテレポートの指示を!私達も向かいます!』

『分かった!』

 報告を済ませて直ぐに、アヤコは女主人に詰め寄る。

「手続きには後から来ますから、準備だけしててくださいね」

 アヤコはそう言うと、アスピダの肩に触れてテレポートを唱える。白い光に包まれて、目の前から忽然と姿を消した2人に、女主人達は唖然とした。

「…ちゃんと、戻って来るんだろうね?」

 子供達も、初めて見る来客の人間が突然姿を消したので、客を待ちわび過ぎて幻でも見たのかと瞬きを繰り返すのだった。
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