【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎

155話 馬泥棒

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 包まれた光から解放されると、そこはアラヤ達の馬車の中だった。
 テレポートの移動先は、術者が行った事のある場所に限られている。故に馬車の中も該当するのだ。

「魔導感知に反応は無い。アスピダ、馬車を降りましょう」

 アヤコとアスピダは素早く馬車から飛び出すと、今いる場所を確認する。
 そこは街に来た際に馬車を預けた駐車場だったが、馬車からは既に馬達は離されていて姿は無い。

「痕跡視認によると、馬車内を物色したのは2時間前。フィアー達を切り離して連れ去ったのは北西方向ね。まだ匂いが残っているわ。強化して走りましょう!」

 2人は自身にムーブヘイスト・ヘイスト・マイディガードを使用して、超嗅覚を頼りにドワーフ達の後を追った。それは通常の移動速度ではありえない速さとなっていた。

『アスピダ、貴方は体重があるのですから、グラビティを自身に掛けてもう少し速度を上げなさい』

 喋ると舌を噛むので、念話でやり取りをしながら走り続けた。向かった先は、駐車場から裏地へと続く緩い下り通路で、街からどんどんと離れていく。

『アヤコ様!あまり先行されては危険です!アラヤ様達を待つべきでは⁉︎』

『それではあの達を助けれないかもしれない!それに、アラヤ君達なら直ぐに追って来てくれる筈よ!』

 その頃、駐車場にはアラヤ達資材調達班と、日用品調達班のクララ達が集まっていた。

「ハウンから念話で、カオリさんは仮死状態デスタイムに入ってて、今は彼女の亜空間収納内にいるらしい」

「サナエ様は、上手くテレポートが発動しないらしく、走りでこちらに向かっているそうです」

 実質、この場にいる戦闘向きなのは、アラヤとクララとオードリーの3人だけの様だ。

「アフティ達はここで、サナエさん達が来るまで馬車を守ってくれ。俺達はアヤコさんを追う。奴等が2人だけとは限らない。だから急いで向かうとする!」

 クララを銀狼に変身させて、その背にアラヤとオードリーが乗ると、アヤコ達と同様に身体強化魔法を施したクララが全力疾走する。


       ◇   ◆   ◇    ◆   ◇   ◆   ◇


「おい、調子はどうだ?」

 レンガと丸太で作られた簡単な造りの小屋に、老ドワーフの1人がやって来た。手元には大きなナタを持っている。

「ああ、ようやく。やけに酔いが回るのに時間がかかったが、ひょっとしてノーマルの奴等、普段から馬に酒を飲ましてるんじゃなかろうな?」

 そう話すもう1人の老ドワーフの前には、無理矢理に酒を飲ませて酔い潰れた6頭の馬達が居た。馬達は皆、朦朧とした意識でピクピクと痙攣を起こしている。

「よし、肉も柔くなった頃じゃろ。掻っ捌いて精肉に仕上げるぞ」

 ドワーフは馬の頭を掴み、首を切断しようとナタを振り上げた。

「エアカッター!」

「ぐわぁっ⁉︎」

 振り上げた腕に魔法の斬撃が当たり、持っていたナタを落とす。魔法が小屋の丸太を貫通した場所を、1人の男が盾で突き破って来た。

「アスピダ、左にも居ますよ!」

 その直後に現れた女は一目散に馬達の下へと走って行く。まるで何処に誰が居るかも分かっていた様だ。

「気配感知持ちか!まさかこの場所まで嗅ぎつけるとはな!」

 馬の状態を見ている女の背後を、近くにあった皮なめし棒で殴りかかる。ところが、目前で大楯を持つ男に防がれた。

「ちぃっ!」

「アヤコ様、馬達の容態は?」

「…泥酔だわ。アルコール中毒になり掛けてる。命の心配までは無さそう」

 馬達に酔い覚ましにも使えるオオアザミを与えると、アヤコはドワーフ達へと向き直る。

「私達の大事な達に、よくも酷い仕打ちをしてくれたわね?」

「ハハッ、預けたのはお前達だろうが?今年の冬は肉不足だからな。貴重な馬肉にする予定だ」

 ドワーフ特有の馬鹿力で、なめし棒で何度も盾を殴りつけてくる。その力はアスピダよりも高く、彼は逸らす弾くで対応せねばならなかった。歳をとっていても、大抵のドワーフは身体能力は落ちないのだ。

「このノーマルが!」

 蹲っていたドワーフが、抉られて出血の酷い腕を布でぐるぐる巻きにして立ち上がると、ナタを無事な手で掴み駆け寄って来た。

「くっ!」

 流石に2人の攻撃にはアスピダも耐えられずに、後方へ押し飛ばされた。

「アースクラウド!」

 アヤコはドワーフ達の足をアースクラウドで固定して、アスピダへと駆け寄りヒールとヘイストを掛ける。

「ノーマルの魔術士か。フン、儂等ドワーフに土を使う魔法など片腹痛いわ!」

 固定していた筈の足元の土は、ボロボロと脆く崩れ去った。

「魔力は注いだままだったのに何で⁉︎」

「くははっ!儂等ドワーフは土精霊に愛されてるからな!」

 その言葉を確かめる為に、アヤコは再びアースクラウドを放ち下半身を固定して、危険を承知で瞬歩で背後に回ると、それを鉱石化させた。

「無駄だと言ってるだろ⁉︎」

 完全に鉱石化したのにもかかわらず、目に見えない精霊達によって、鉱石は土砂となり崩れてしまった。

「ならば、アイス!」

 アイスで足を固定しようとするも、氷結する直前で見えない何かによって魔力が飛散された。

「ノーマルが、この領土で儂等に魔法で勝とうと思うな!」

 ドワーフ2人は狙いをアヤコに絞ったらしく、挟み撃ちしようと左右から襲い掛かる。寸前で瞬歩を使い躱したアヤコは、ドワーフの1人に触れて次の魔法を試みた。

「デス!」

 成功率15%の闇属性即死呪殺魔法だ。成功率は低いが、彼女が気にしていたのはそこでは無い。

「なんじゃ貴様、闇の精霊も従えとるんか⁉︎」

 発動したデスの魔法は、ドワーフに何の効果も与えずに飛散した。

「アスピダ、もう良いですよ!」

 その合図と同時に、長槍が2人のドワーフ達を薙ぎ払う。その槍の威力と重さはグラビティにより加重していて、彼等をレンガ壁へと直撃させた。

「よ~く、分かったわ。貴方達は火・土・闇の精霊に愛されているドワーフで、有効な魔法は水・風・光だけど相殺もされちゃう訳ですね」

「痛たた…。例え分かったところで、ノーマルのお前達に儂等が負けるかよ!」

 瓦礫から這い出て来たドワーフ達は、小さな角笛を吹き鳴らした。洞窟内で反響するその音は、魔導感知で離れた地点にあった複数の反応を呼び寄せた。

「残念だったな、ノーマル魔術士。馬は美味しく頂いてやる。だがその前に、お前は仲間達の慰み者にしてやろう!」

「ハァ…。本当にクズの様なドワーフね。彼等(ガルム達)と同族だとはとても信じられないわ」

 アヤコは亜空間収納から弓を取り出す。魔法が効かないなら、戦い方を変えるしか無い。どのみち、この洞窟内で広範囲魔法は危険だ。それに、背後には馬達がまだ寝ている。

「どうした親父?」

 奥の扉から、ぞろぞろと新たなドワーフ達が現れた。老ドワーフ達よりも体がデカく、猟に出ていたのか既に武装している。その数は合わせて12人だ。どうやら身内の様で、とても似ている。

「アヤコ様、私の後ろに。私が耐えれない場合にはテレポートで脱出してください」

「ありがとう、アスピダ。でも大丈夫よ。私もフォローするから、アラヤ君達が来るまでに少しでも数を減らしますよ?」

 アイスの魔鉱石の矢尻を構えて、老ドワーフに向けて連射した。ところが、若いドワーフ達は彼等よりも身体能力が高い様で、矢が当たるよりも早くに叩き落とした。

「親父、今回は肉だけじゃ無く、女も拐って来たのかよ?本気でありがてぇ」

 そのドワーフ達は卑猥な表情を浮かべて、アヤコを凝視する。アヤコは背筋に悪寒が走った。
 物理戦では自分は非力だ。いっその事、自爆覚悟で道連れにしようかしらと思った。
 その時、1番手前に居たドワーフが視界から端へと吹き飛んだ。

「アヤコ様、無事⁉︎」

 吹き飛ばされたドワーフを見ると、クララが腕に噛み付いて押さえつけている。

「ギャアアアッ‼︎う、腕が痺れて痛ぇぇっ‼︎」

 クララが、ナーガラージャの技能のパラライズドバイトを使用したらしい。

「お待たせ、アヤコさん」

 振り向くと、既に全身を竜鱗で覆ったアラヤと息を切らすオードリーが居た。その姿を見て、安心したアヤコは肩の力が抜けた。

「さて、馬泥棒達を成敗といこうか?」

 アラヤはドワーフ達を睨み付け、舌舐めずりをした。少しぐらいなら、罪人相手だし許されるよね?
 アラヤのそれは殺意では無く、明確な食欲の暴走が現れ始めていた。
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