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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎
156話 闇精霊達の暴走
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「アラヤ君、あのドワーフ達には精霊が付いていて、魔法は効果が薄いです!」
「分かった。力比べしかないんだね?」
「ガハハ!チビが儂等と力比べだとよ!」
「身長差は大差無いと思うけど?まぁ、体格が痩せて見えるからね」
瞬歩で笑っているドワーフの目前に移動すると、腕をバルクアップさせてこめかみを掴む。
「ぐわぁぁっ⁉︎」
メキメキと頭蓋骨の軋む音が聞こえ、慌てて隣にいたドワーフがアラヤに飛び掛かる。
それを難なく躱したアラヤは、竜鱗の裏拳を顔面に打ち込んだ。
「こ、このっ‼︎」
アラヤを引き剥がそうと、長槍や斧を持ったドワーフ達が襲い掛かる。
流石に間合いが違うので、アラヤは距離を取り竜爪剣を取り出した。
「おい、あのガキの持つ小剣、なかなか上物じゃねぇか?」
そりゃそうだろうね。ゴードンさん特製の【大業物】だし。斬れ味も素晴らしいよ?
「ああ、それにしても…ゴツゴツした腕だなぁ。脂肪があまり付いてない。まぁ、あばらのスペアリブならいけるかな?」
「う、うわぁ⁉︎俺の腕がぁっ⁉︎」
アラヤの手には、切断されたドワーフの太い腕が握られていた。
「あ、切り離したら弱肉強食使えないじゃん。ま、このままでも良いか」
アラヤはそのままガブリと1噛みする。その状況にドワーフ達は恐怖の顔に染まった。
「アラヤ君…?」
平然と生腕を咀嚼するアラヤに、アヤコは感じた事の無い違和感を感じる。
今まで、魔物や獣を散々齧ってきた彼だが、今回のソレは今までとは違って見えたのだ。
「アヤコ様、今のうちに馬達をテレポートで運びましょう。馬達を庇いながらではアラヤ様の邪魔になります」
「そ、そうですね。クララ、貴女も手伝…」
クララにもテレポートをさせようと彼女を見たアヤコは、自身の目を疑ってしまう。
「グルルルッ…!」
クララもまた、押さえ付けたドワーフの腕に何度も噛み付いていたのだ。相手のドワーフは既に麻痺して動けなかったのだが、喰われる恐怖に打ち勝てず気絶していた。
彼女の表情は、理性が少し失われているかの様だ。
「ば、化け物かコイツらは⁉︎」
「彼奴等に異常なくらいの闇精霊が集まっていやがる!女にも居るが、あのガキは異常な数だ!このままじゃ巻き込まれる、お前達、逃げるぞ!」
仲間が来た扉から逃げようとドワーフ達は走り出すが、突然、辺りの松明が一斉に消えた。途端に暗闇になり、ドワーフ達は悲鳴を上げる。
「…アースクラウド」
アラヤはその扉を土壁にする。しかしそのおかげで、暗闇の中でも老ドワーフに見えている土精霊達から扉の位置を知る事ができた。
「頼む、扉を開けてくれ!」
土精霊にお願いし土壁に触れるも、扉を覆った土壁は反応しない。それどころか、触れている彼の腕に土壁が纏わりついてきた。
「うわぁぁぁっ⁉︎」
「ど、どうした親父⁉︎」
恐怖が広まり、一気にパニック状態に陥るドワーフ達。アスピダとオードリーも、暗視眼を持っていないので、途中からの状況が分からないでいた。そこへ2人の手をアヤコが掴み、テレポートを唱えた。
「あ、戻って来た!」
駐車場で待機していたサナエ達の下に、アヤコ達が現れる。直ぐに駆け付けたサナエは、余裕の無いアヤコの表情に何かがあったと理解した。
「ハァ、ハァ…サナエちゃん、カオリさんは?」
「まだ仮死状態よ。アヤ、…何かあった?」
「…詳しくは分からないの。ただ、アラヤ君が相手を喰う事に、少しも躊躇いが無いみたいに感じる。クララも彼の影響か、理性が無い様なの」
アヤコ自身も、かなり気怠い感覚を感じてきていた。そこへ、イシルウェが心配そうな表情で駆け寄ると、ファブリカンテにライトを作ってもらいアヤコへと近付けさせた。
「アヤコ殿、これで幾らかは楽になっただろうか?」
「ええ、何故かしら、大分体が楽になった気がします」
「良かった。先程の貴女には多くの闇精霊が集まっていた。ここは洞窟内だから外よりは多いのだが、1人に集まるにしては多すぎだ。光属性魔法を使えば、光精霊が集まって来る。今は光精霊が集まって来た事で闇精霊達が離れて行ったんだ」
「闇精霊…そう言えば、ドワーフ達が闇精霊が多過ぎると騒いでいました」
あの時、私よりもアラヤ君にかなりの数が集まっていたのかもしれない。
「ああ。戻って来た貴女にあれだけの数が付いていたのだ。その場所はもう、闇精霊で溢れている可能性がある」
「何それ、アラヤ達危ないの⁉︎」
「サナエ様、アラヤ様達ならば大丈夫だと思います」
そこへ、ハウンが魔力電池を沢山抱えてやって来て、そのままアヤコへと手渡す。
「そうね。先ずはアヤに指示をもらおうかな。優先すべき事は何?」
「…フゥ。アラヤ君とクララは、…まだ大丈夫だと思います。優先すべきはフィアー達の脱出です。彼等は泥酔状態で危険です。私とサナエちゃんで、テレポートで救出しましょう。ファブリカンテは治療薬の調合をお願いします」
「我々も…」
アスピダ達も向かいたいと言い掛けたが、自分達では邪魔になると理解して口を噤んだ。アヤコも気持ちはありがとうと頷いて返す。
「サナエちゃん、着いたら直ぐに暗視眼で私の後をついて来てね?」
「分かったわ」
魔力電池で充分に回復したアヤコは、サナエと手を繋いでテレポートを唱えた。
2人を包んだ光を嫌ってか、テレポートで到着した空間から闇精霊達が離れる。
(うっ、血の匂いが充満している⁉︎)
アヤコの言った通り、辺りは闇に包まれていた。漂う血の匂い以外にも、奥からはドワーフの悲鳴らしき声が聞こえる。
今はそっちに気を取られている場合では無い。
暗視眼を発動してアヤコの後をついて行くと、プシュアートやツワイを見つけた。確かにグッタリとしていて危険な状態だ。先にアヤコがテレポートをすると、辺りが光に包まれる。その光で惨状が見えそうになると、サナエも急いでテレポートをした。
「後一回向かいます!」
サナエが駐車場に戻ると、入れ替わる様にアヤコが再びテレポートで飛んだ。確かにあと二頭だが、次はアラヤとクララを助けねばならないのに少し焦り過ぎだ。
カオリが居たら何とかなるのに、今は自分が頑張るしか無い。サナエは自身の両頬を叩き、自分を奮い立たせる。
「アスピダ、私と一緒に来て!」
「はい!」
「私も行こう!」
イシルウェも、皆の力になりたいと歩み出る。確かに、精霊が見える彼なりのできる行動があるかもしれない。
「分かった、行くわよ!」
サナエは2人に触れるとテレポートを唱えた。
「グルルルッ‼︎」
到着するなり、クララの威嚇する声が聞こえる。暗視眼には、アインズとヒルシュを守るアヤコに、クララがジリジリとにじり寄っていた。
『アスピダは私達を守って!』
サナエは2人と感覚共有をして、今の現状を感覚で伝えた。直ぐに理解した2人は行動に出る。
サナエは、ライトの玉を無数に生み出して拡散させる。洞窟内に走る光に、痛みに悶え苦しむドワーフ達と、肩に噛み付いているアラヤの姿が見えた。
「私が光の精霊を集めて話をする。サナエ殿、ライトを出来るだけ増やしてくれ!」
「分かった!でもその前に、アスピダ!クララが来たわよ!」
「承知‼︎」
サナエのライトに触発されたクララが、目標をアヤコからサナエに変えて飛び掛かって来た。
クララの体当たりの強い衝撃を、アスピダは上手く逸らして弾く。
「アヤ、今の内に早く!」
「分かりました!直ぐに戻ります!」
アヤコはアインズ達に触れて直ぐ様テレポートで飛んだ。
「ライト、ライト、ライト!」
言われた通りライトを量産すると、イシルウェが言語理解でも翻訳できない言語でブツブツと独り言を話している。
「ぐっ‼︎」
その間にも、クララの猛攻がアスピダに続けられていた。だが彼女に理性が無いおかげで、単調的な攻撃が続きギリギリ耐えていた。
「私だって!精霊の祝舞!」
本来なら魔力回復の舞なのだが、周囲に集まる魔力に精霊達が集まってきていた。その影響か、辺りに浮かぶライトの光が強さを増す。
「光の大精霊ミフルの眷族達が、この周辺の闇精霊を追い払ってくれるそうだ」
イシルウェも、精霊達と何とか話がついたと座り込んだ。
「まだ安心するのは早いわ!」
クララはまだ正気を取り戻していない。サナエ達を睨む様は、獲物を狙う野生のハンターそのものだ。
「成功率は低いけど、試してみるしか無いわね!お願い、発動して!ホーリーレイン!」
カオリから教わった光属性中級魔法で、状態異常回復効果もある優れものだ。但し、アヤコは熟練度LVが足らず、サナエは成功率が低かったのだ。
「くっ、出ないわ!」
確実性を上げる為の詠唱を、サナエはまだ覚えていなかった。こんな事なら無詠唱にこだわらず、ちゃんと覚えるべきだった。
「肉…美味そう…だな…」
ゆらりと、クララの後ろにアラヤが現れた。アラヤの目は焦点が合っていない。彼もまた闇精霊に強く影響を受けてしまったらしい。クララは唸るのを止めてそっと横に避ける。理性が無くとも主従の関係は続いている様だ。
「フッ!」
アラヤが笑ったと思った瞬間、アスピダの大盾が分断された。彼自身は無事だったものの、防ぐ術が無くなってしまった。
「ホーリーレイン!ホーリーレイン!ホーリー…」
両手を突き出し、何度も連呼する。血が滴る竜爪剣を持つアラヤが、フッと笑い剣を突き出した。
「ガァッ!」
サナエを庇い、アスピダが腰を貫かれる。膝を突きながらも、彼は何とか耐えてサナエを守ろうとする。
「バカチビッ‼︎目を覚ましなさいよ!ホーリーレイン‼︎」
叫びにも似たサナエの詠唱に、遂に魔法が発動した。アラヤ達の真上に魔法陣が現れ、やや生暖かい小雨が範囲内にいるアスピダやクララ、不思議そうに見上げるアラヤに降り注ぐ。
「あ、あれ?俺、何で?えっ⁉︎」
冷静を取り戻したアラヤは、辺りを見て驚愕する。クララも同様に、口の中の生臭い血肉の匂いと味に驚いた。
「もう、バカアラヤ、世話焼かせないでよね?」
緊張の糸が切れたのか、サナエは気を失ってアスピダに受け止められた。
アスピダの腰も、ホーリーレインにより外傷は塞がっていく。
その後に再びテレポートで駆け付けたアヤコによって、アラヤ達は駐車場に引き返した。
最後にアヤコとオードリーが、しばらく残っていたが、何をしていたかその場で詳細は話してくれなかった。
ただ、確かにアラヤには、遠くで地響きが聞こえた気がしたのだった。
「分かった。力比べしかないんだね?」
「ガハハ!チビが儂等と力比べだとよ!」
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瞬歩で笑っているドワーフの目前に移動すると、腕をバルクアップさせてこめかみを掴む。
「ぐわぁぁっ⁉︎」
メキメキと頭蓋骨の軋む音が聞こえ、慌てて隣にいたドワーフがアラヤに飛び掛かる。
それを難なく躱したアラヤは、竜鱗の裏拳を顔面に打ち込んだ。
「こ、このっ‼︎」
アラヤを引き剥がそうと、長槍や斧を持ったドワーフ達が襲い掛かる。
流石に間合いが違うので、アラヤは距離を取り竜爪剣を取り出した。
「おい、あのガキの持つ小剣、なかなか上物じゃねぇか?」
そりゃそうだろうね。ゴードンさん特製の【大業物】だし。斬れ味も素晴らしいよ?
「ああ、それにしても…ゴツゴツした腕だなぁ。脂肪があまり付いてない。まぁ、あばらのスペアリブならいけるかな?」
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アラヤの手には、切断されたドワーフの太い腕が握られていた。
「あ、切り離したら弱肉強食使えないじゃん。ま、このままでも良いか」
アラヤはそのままガブリと1噛みする。その状況にドワーフ達は恐怖の顔に染まった。
「アラヤ君…?」
平然と生腕を咀嚼するアラヤに、アヤコは感じた事の無い違和感を感じる。
今まで、魔物や獣を散々齧ってきた彼だが、今回のソレは今までとは違って見えたのだ。
「アヤコ様、今のうちに馬達をテレポートで運びましょう。馬達を庇いながらではアラヤ様の邪魔になります」
「そ、そうですね。クララ、貴女も手伝…」
クララにもテレポートをさせようと彼女を見たアヤコは、自身の目を疑ってしまう。
「グルルルッ…!」
クララもまた、押さえ付けたドワーフの腕に何度も噛み付いていたのだ。相手のドワーフは既に麻痺して動けなかったのだが、喰われる恐怖に打ち勝てず気絶していた。
彼女の表情は、理性が少し失われているかの様だ。
「ば、化け物かコイツらは⁉︎」
「彼奴等に異常なくらいの闇精霊が集まっていやがる!女にも居るが、あのガキは異常な数だ!このままじゃ巻き込まれる、お前達、逃げるぞ!」
仲間が来た扉から逃げようとドワーフ達は走り出すが、突然、辺りの松明が一斉に消えた。途端に暗闇になり、ドワーフ達は悲鳴を上げる。
「…アースクラウド」
アラヤはその扉を土壁にする。しかしそのおかげで、暗闇の中でも老ドワーフに見えている土精霊達から扉の位置を知る事ができた。
「頼む、扉を開けてくれ!」
土精霊にお願いし土壁に触れるも、扉を覆った土壁は反応しない。それどころか、触れている彼の腕に土壁が纏わりついてきた。
「うわぁぁぁっ⁉︎」
「ど、どうした親父⁉︎」
恐怖が広まり、一気にパニック状態に陥るドワーフ達。アスピダとオードリーも、暗視眼を持っていないので、途中からの状況が分からないでいた。そこへ2人の手をアヤコが掴み、テレポートを唱えた。
「あ、戻って来た!」
駐車場で待機していたサナエ達の下に、アヤコ達が現れる。直ぐに駆け付けたサナエは、余裕の無いアヤコの表情に何かがあったと理解した。
「ハァ、ハァ…サナエちゃん、カオリさんは?」
「まだ仮死状態よ。アヤ、…何かあった?」
「…詳しくは分からないの。ただ、アラヤ君が相手を喰う事に、少しも躊躇いが無いみたいに感じる。クララも彼の影響か、理性が無い様なの」
アヤコ自身も、かなり気怠い感覚を感じてきていた。そこへ、イシルウェが心配そうな表情で駆け寄ると、ファブリカンテにライトを作ってもらいアヤコへと近付けさせた。
「アヤコ殿、これで幾らかは楽になっただろうか?」
「ええ、何故かしら、大分体が楽になった気がします」
「良かった。先程の貴女には多くの闇精霊が集まっていた。ここは洞窟内だから外よりは多いのだが、1人に集まるにしては多すぎだ。光属性魔法を使えば、光精霊が集まって来る。今は光精霊が集まって来た事で闇精霊達が離れて行ったんだ」
「闇精霊…そう言えば、ドワーフ達が闇精霊が多過ぎると騒いでいました」
あの時、私よりもアラヤ君にかなりの数が集まっていたのかもしれない。
「ああ。戻って来た貴女にあれだけの数が付いていたのだ。その場所はもう、闇精霊で溢れている可能性がある」
「何それ、アラヤ達危ないの⁉︎」
「サナエ様、アラヤ様達ならば大丈夫だと思います」
そこへ、ハウンが魔力電池を沢山抱えてやって来て、そのままアヤコへと手渡す。
「そうね。先ずはアヤに指示をもらおうかな。優先すべき事は何?」
「…フゥ。アラヤ君とクララは、…まだ大丈夫だと思います。優先すべきはフィアー達の脱出です。彼等は泥酔状態で危険です。私とサナエちゃんで、テレポートで救出しましょう。ファブリカンテは治療薬の調合をお願いします」
「我々も…」
アスピダ達も向かいたいと言い掛けたが、自分達では邪魔になると理解して口を噤んだ。アヤコも気持ちはありがとうと頷いて返す。
「サナエちゃん、着いたら直ぐに暗視眼で私の後をついて来てね?」
「分かったわ」
魔力電池で充分に回復したアヤコは、サナエと手を繋いでテレポートを唱えた。
2人を包んだ光を嫌ってか、テレポートで到着した空間から闇精霊達が離れる。
(うっ、血の匂いが充満している⁉︎)
アヤコの言った通り、辺りは闇に包まれていた。漂う血の匂い以外にも、奥からはドワーフの悲鳴らしき声が聞こえる。
今はそっちに気を取られている場合では無い。
暗視眼を発動してアヤコの後をついて行くと、プシュアートやツワイを見つけた。確かにグッタリとしていて危険な状態だ。先にアヤコがテレポートをすると、辺りが光に包まれる。その光で惨状が見えそうになると、サナエも急いでテレポートをした。
「後一回向かいます!」
サナエが駐車場に戻ると、入れ替わる様にアヤコが再びテレポートで飛んだ。確かにあと二頭だが、次はアラヤとクララを助けねばならないのに少し焦り過ぎだ。
カオリが居たら何とかなるのに、今は自分が頑張るしか無い。サナエは自身の両頬を叩き、自分を奮い立たせる。
「アスピダ、私と一緒に来て!」
「はい!」
「私も行こう!」
イシルウェも、皆の力になりたいと歩み出る。確かに、精霊が見える彼なりのできる行動があるかもしれない。
「分かった、行くわよ!」
サナエは2人に触れるとテレポートを唱えた。
「グルルルッ‼︎」
到着するなり、クララの威嚇する声が聞こえる。暗視眼には、アインズとヒルシュを守るアヤコに、クララがジリジリとにじり寄っていた。
『アスピダは私達を守って!』
サナエは2人と感覚共有をして、今の現状を感覚で伝えた。直ぐに理解した2人は行動に出る。
サナエは、ライトの玉を無数に生み出して拡散させる。洞窟内に走る光に、痛みに悶え苦しむドワーフ達と、肩に噛み付いているアラヤの姿が見えた。
「私が光の精霊を集めて話をする。サナエ殿、ライトを出来るだけ増やしてくれ!」
「分かった!でもその前に、アスピダ!クララが来たわよ!」
「承知‼︎」
サナエのライトに触発されたクララが、目標をアヤコからサナエに変えて飛び掛かって来た。
クララの体当たりの強い衝撃を、アスピダは上手く逸らして弾く。
「アヤ、今の内に早く!」
「分かりました!直ぐに戻ります!」
アヤコはアインズ達に触れて直ぐ様テレポートで飛んだ。
「ライト、ライト、ライト!」
言われた通りライトを量産すると、イシルウェが言語理解でも翻訳できない言語でブツブツと独り言を話している。
「ぐっ‼︎」
その間にも、クララの猛攻がアスピダに続けられていた。だが彼女に理性が無いおかげで、単調的な攻撃が続きギリギリ耐えていた。
「私だって!精霊の祝舞!」
本来なら魔力回復の舞なのだが、周囲に集まる魔力に精霊達が集まってきていた。その影響か、辺りに浮かぶライトの光が強さを増す。
「光の大精霊ミフルの眷族達が、この周辺の闇精霊を追い払ってくれるそうだ」
イシルウェも、精霊達と何とか話がついたと座り込んだ。
「まだ安心するのは早いわ!」
クララはまだ正気を取り戻していない。サナエ達を睨む様は、獲物を狙う野生のハンターそのものだ。
「成功率は低いけど、試してみるしか無いわね!お願い、発動して!ホーリーレイン!」
カオリから教わった光属性中級魔法で、状態異常回復効果もある優れものだ。但し、アヤコは熟練度LVが足らず、サナエは成功率が低かったのだ。
「くっ、出ないわ!」
確実性を上げる為の詠唱を、サナエはまだ覚えていなかった。こんな事なら無詠唱にこだわらず、ちゃんと覚えるべきだった。
「肉…美味そう…だな…」
ゆらりと、クララの後ろにアラヤが現れた。アラヤの目は焦点が合っていない。彼もまた闇精霊に強く影響を受けてしまったらしい。クララは唸るのを止めてそっと横に避ける。理性が無くとも主従の関係は続いている様だ。
「フッ!」
アラヤが笑ったと思った瞬間、アスピダの大盾が分断された。彼自身は無事だったものの、防ぐ術が無くなってしまった。
「ホーリーレイン!ホーリーレイン!ホーリー…」
両手を突き出し、何度も連呼する。血が滴る竜爪剣を持つアラヤが、フッと笑い剣を突き出した。
「ガァッ!」
サナエを庇い、アスピダが腰を貫かれる。膝を突きながらも、彼は何とか耐えてサナエを守ろうとする。
「バカチビッ‼︎目を覚ましなさいよ!ホーリーレイン‼︎」
叫びにも似たサナエの詠唱に、遂に魔法が発動した。アラヤ達の真上に魔法陣が現れ、やや生暖かい小雨が範囲内にいるアスピダやクララ、不思議そうに見上げるアラヤに降り注ぐ。
「あ、あれ?俺、何で?えっ⁉︎」
冷静を取り戻したアラヤは、辺りを見て驚愕する。クララも同様に、口の中の生臭い血肉の匂いと味に驚いた。
「もう、バカアラヤ、世話焼かせないでよね?」
緊張の糸が切れたのか、サナエは気を失ってアスピダに受け止められた。
アスピダの腰も、ホーリーレインにより外傷は塞がっていく。
その後に再びテレポートで駆け付けたアヤコによって、アラヤ達は駐車場に引き返した。
最後にアヤコとオードリーが、しばらく残っていたが、何をしていたかその場で詳細は話してくれなかった。
ただ、確かにアラヤには、遠くで地響きが聞こえた気がしたのだった。
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