【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第12章 御教示願うは筋違いらしいですよ⁈

163話 証明

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 最初に気付いたのは空気の違いだった。決してラエテマ王国が空気が悪かった訳では無い。前世界に比べたら、遥かに空気が綺麗だと言える。しかし、このムシハ連邦国来た時、より澄んだ空気だと感じたが巨大樹の森による深緑の香りとマイナスイオンの影響だろうか?

「確かに、辺り一面が沼ですね」

 廃屋から出たアラヤ達は、今回は馬車を取り出さず、銀狼になったクララにアラヤが乗り、6頭の馬にはそれぞれペアになり騎乗した。因みに、羅刹鳥(オウムに擬態している)とスライムはアフティの馬に同乗している。
 沼地の中にアースクラウドで道を作り、ゆっくりと進む。
 よく見ると、沼にはチラホラと建物の瓦礫が沈んでいるのが分かる。

「元は村か街があったのかな?」

「ああ。これは私が王国に流れる前、降り止まぬ大雨の被害に遭った村だよ」

「災害レベルの大雨だったんだね」

「だから我々【天候操者ヴェターベディーネン】が呼ばれた訳だが、我々が来た時にはこの村は既に被害に遭った後だった。幸い、住民はバエマシの街に避難していたから無事だったが…」

 イシルウェは辺りを見回し、一箇所に積み上げられた瓦礫の山に気付いた。

「この辺りは沼地も多く、今回の様な大雨で雨水が溜まりやすい事が分かった筈だ。だけどやはり、此処に住もうと復興を考えている様だな…」

「それはやはり、この場所に愛着があるだろうからね」

 多くの人がそう簡単に、生まれ育った場所を離れる事は出来ないものだからね。

「私が行き先を決めるのは失礼だと思うが、バエマシの街もわりと近いから向かってみないかい?」

「俺も行く予定だったから気にしなくて良いよ。それじゃ、案内してもらうかな」

 イシルウェを先頭にして、アラヤ達は近くにあるバエマシの街に向かった。
 巨大樹の数が減るに連れて、山肌が少しずつ現れてきた。それと共に、階段や整備された道が見え始めた。

「止まれ!」

 階段をゆっくりと登っていると、崖の上から声が聞こえた。見上げるとイシルウェの様に整った顔立ちのエルフが、こちらを対象に弓を構えている。おそらくは街の守衛なのだろう。アラヤ達は当然気付いていたが、この様な場合は敵意を見せたらダメだからね。

「お前達、何処から来た?街には何用だ?」

 更に守衛が現れ前後の進路を塞がれた。

「私は天候操者のイシルウェという者。この地域の仕事中に転落事故を起こし、瀕死だったところを彼等に救われた。彼等は大罪教団の巡礼者の一行だ」

 この連邦国では、行商人としての立場ではなく、大罪教団員として行動する。これは事前にアヤコとハウンの提案で決めた事だ。

「そう言えば、確かに天候操者の1人が大河に落ちたと聞いたな。そうか、生きていたのか。それで、他の者達は大罪教団員だと証明できる物はあるか?」

「これを確認してください」

 ハウンが人数分(銀狼姿なのでクララを除く)の団員証なる物を取り出して渡す。それは超硬質磁力鉱石アダマンタイトで作られたカードで、名前の横には、左にはフレイア様の肖像画が、右には持ち主の顔が転写されて描かれている。
 教団の招待用にと、以前、ベルフェル司祭からテレポートの魔導書と共にアラヤ達の証明書を渡されたらしい。

「…確かに。間違い無いようだ。しかし、その子の証明書が無いな」

 チャコの証明書は流石に用意していなかった。その時にはまだ出会ってもいなかったからなぁ。

「この子はチャコ。俺の娘だ!」

「しかしその子はエルフでは無いようだが?混血とも違うようだし…」

 イシルウェは、渡してなるものかと同乗するチャコの肩を抱き寄せる。

「この子は亡き妻の連れ子だ。血が繋がっていなくとも、紛れも無く私の子だ」

「ああ、そういう事か。そう睨むな、別に引き離したりはしないよ。ただ確認しただけだ。通ってかまわん」

 イシルウェの熱演?の甲斐あって、アラヤ達はバエマシの街に入る許可が下りた。クララに乗るアラヤの事は意外にもスルーしていた。
 バエマシの街は、街の大きさ的には広さはそこまで広く無い。だが、4・5階建ての木造の団地が多くあり、人口はそれなりに居るようだ。人種も人間が多く、次にエルフとそのハーフという割合だ。

「アラヤ様、我々は一度教団に報告と情報収集に参りたいと思います」

「うん、分かった。その間、俺達は街中を少し散策するよ」

 教団支部へと向かうハウン達と別れ、アラヤ達は繁華街を見て回る事にした。

「ああ、見た事無い野菜や果物だなぁ。あそこの精肉も黄緑色って、一体何の肉なんだ?」

 店に並ぶ様々な品を見ていくも、アラヤ達にはムシハ連邦国の通貨が無い。欲しくても買えないのだ。

「アラヤ君、前もって下ろしていたラエテマ王国の金貨等は、この街の教団で通貨の為替をハウン達に頼んであります」

「そうなんだ、良かった!じゃあ、下見しておこう」

 ただ、ハウンにも為替レートにより価値は下がるのは間違い無いと言われている。その事は、はしゃぐアラヤには言うのはまだ止めておこうと、アヤコ達は後ろで話し合っていた。

「…そうですか、ありがとう」

 アラヤ達がひと段落していると、イシルウェとチャコが、集会所みたいな場所から出て来た。きっと、そこが前に言っていた仕事斡旋所なのだろう。

「イシルウェ、ひょっとして仕事に戻るの?」

「いや、戻って早々に君達から離れる筈が無いだろう?まだ何も恩は返していないというのに。斡旋所に寄ったのは、その後の仲間達の動向を聞いたのと、私の生存としばらく休養する事を仲間達に伝える様に頼んだんだ」

「パパ、いっぱい驚かれてたね!」

「ま、まぁな。死んだと思われていたから仕方ないさ。それに、驚かれていた理由は私だけじゃ無いからな」

「ああ、なるほど」

 死んだと思っていた者が、1月程経ってから子連れで現れたら、そりゃあ驚かれて当然だと思う。しかも人種が違うだけでなく、いたいけな幼女が彼の事を疑う事なくパパと呼んでいたら、知り合いからしたら彼の誘拐を疑うレベルかもしれない。まぁ、似たようなものだけどね。

「アラヤ様、お待たせしました」

 丁度そこへハウン達も帰って来た。皆、黒の大罪教団服に着替えている。確かに一種の身分証明にもなるけど、自分達も着ないといけないのだとしたら、ちょっとだけ嫌だなと思ってしまう。

「アラヤ君、立ち話もなんですし、報告を聞くのはどこかで食事をしながらにしませんか?」

「そうだね。どこの店にしようかな」

 下見で目星を付けていたのは3店舗。エルフが営む菜食料理屋と、人間が営む郷土料理屋が2店舗だ。

「時間的に夕飯になるから、宿屋も決めなきゃね。一階が店になっているエルフの店にしようか」

「でもあの店、肉料理無いかもだけど良いの?」

「最近の俺には、野菜が足りて無いかもしれないからね」

 本音を言うと肉料理を食べたいところだけど、エルフの料理も一度は食べてみたいからね。それに下見の段階で女性陣が興味あるみたいだったし。

「では、宿泊の手続きをしてきますね」

 アヤコとハウンが手続きをに行っている間に、アラヤ達はそのエルフの店へと先に入り待つ事にした。
 店内はエルフと、おそらくはハーフの店員が2人ウエイトレスとして居て、こちらに気付いて軽く笑顔を見せてくれた。しかし、その笑顔はイシルウェだけに向けられていたのだと気付いた。

「ん~、エルフにもノーマル嫌いが多いのかなぁ?」

「アラヤ殿、それは違うと思う」

 席案内の接客すら無いようなので、自分達で席を決めて座る。サービス過剰な日本とは違い、この世界ではこれが当たり前な環境なのかもしれないけど。

「違うって、どんな風に?」

「我々エルフは基本、他種族には興味が少ない。急激な変化を嫌い、平凡な日常を好む。故に変化を求める他種族との関係を、避ける者が多いんだ。人間はだってね」

 興味が無いって、ある意味、嫌われるよりも悪くない?でも、全員がそうって訳じゃ無いんだよね。
 それは、イシルウェを見ているから分かる。チャコと出会って、劇的に環境が変わったけど、彼はそれを受け入れているからね。
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