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第12章 御教示願うは筋違いらしいですよ⁈

171話 回帰

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 暇を持て余していた闇精霊は、無精霊との騎馬ごっこにも飽きがきた様で、いつの間にか居眠りをしていた。

『起~き~て~よ~』

 殻の上で寝ている闇精霊の顔を、ペチペチと長い触角を使い叩く。
 この触角は、一般的なカタツムリみたくこの触角に目が付いているわけではなく、物を掴んだりと手に似た役割を担っている。
 肝心の目は触角の付け根にあり、小さなおちょぼ口と相まって可愛く見える。まるで幼児向けの絵本のキャラクターの様である。

『んん、どうしたのさ?』

『向~こ~う~の~仲~間~達~が~『ああ、見つかったのね?』見~つ~…』

 喋る口調が遅い無精霊の言葉を遮り、闇精霊は隣の部屋へと移動する。そこには4人の人間が椅子に座っており、ガクンと首をもたげて眠っていた。

『ダイゴ~』

『どうした?』

 その4人と向かい合う様に座る怠惰魔王イトウが、現れた闇精霊パートナーを見下ろして尋ねる。

『向こうで無精霊達が捕獲されたみたい。そろそろ、結界破られちゃうかもよ?今のうちに空間を離しちゃう?』

『フム…。切り離しはしない。デンデンにもう少し耐える様に伝えてくれ。あと少しで完了する。それまで耐えるのだ…』

『了解~』

 闇精霊が退室すると、イトウは再び4人と向き合い瞳を閉じた。

 
       ◇    ◆   ◇   ◆    ◇    ◆   ◇


 戦闘を始めたものの、かすり傷や火傷等はアラヤと同等の技能持ちのアヤコは自己再生してしまう。
 状態異常の耐性も強いので、行動不能に追い込む決定打が無い。最初の噛み付きを【弱肉強食】にしなかったミスが痛い。仲間や家族に対して使用するのを躊躇ってためらってしまった。
 しかし、攻めあぐねているアラヤと同様に、マンモンも思った以上に強かったアラヤに対して苛立ちを隠せなかった。

【どうもやり辛いな。既に大半は支配したというに、まだ抗うか…】

 時折、器にされたアヤコが、マンモンの体の動きを抵抗して邪魔しているのだ。

「あ、アヤ⁈」

 部屋の壁にはジャミングしていたが、振動や魔導感知で異変に気付いたサナエが、止めるオードリーを振り払って玄関に来ていた。

「来ちゃダメだ!」

 マンモンがその好機を逃す筈も無く、狙いをサナエに向けて瞬歩で接近する。
 アヤコの変貌に驚き、たじろぐサナエにマンモンは手を伸ばした。

ドンッ‼︎

【むっ⁉︎】

 マンモンの横腹に突然の衝撃が走り、サナエの前から突き離された。魔導感知には、また反応は無かった。

【獣無勢が私の邪魔をするな!】

 現れたのは、銀狼姿のクララだった。彼女は既に敵意剥き出しで、マンモンをアヤコとは感じていない様だ。

「クララ!接近し過ぎるな!【技能与奪】の範囲外から戦うんだ!」

 既に主従関係が成立しているだけに、接近戦では技能を奪われてしまうという、初めから不利な戦いなのだ。

「ちょ、ちょっとアラヤとクララ!相手はアヤなんでしょ⁉︎何してるのよ⁈」

 さっきはボロボロな姿や気迫に動揺はしたけれど、家族である彼女と戦うだなんて間違っている。

【ああ、そうだとも!私は強欲魔王アヤコ=クラトだ!あの男の愛を独占しようとするお前を妬み、恨み、それを強奪しようと願ったアヤだ】

「アヤ…。私は独占なんて考えてないよ?」

【口ではなんとでも言える。お前は知っている筈だ。あの男を私から奪い続けている事を】

「そんな事無いよ⁉︎」

 マンモンは、アヤコの深層心理で感じていた思いを代弁する様にして、サナエへとゆっくりと近付いていた。

「サナエ様、お下がり下さい!」

 間に入ったオードリーが、サナエを後ろに退がらせる。しかしその瞬間を狙っていた様で、オードリーはマンモンに肩を掴まれて一瞬で【技能無し】にされてしまった。

「うわぁっ⁉︎」

 途端に一般人と同等のステータスに落ちたオードリーは、そのままマンモンに空高く掴み投げされた。
 直ぐ様クララが救助に飛び、落下する前にキャッチがなんとか間に合った。
 しかしその間に、マンモンがサナエと肉薄していた。

【フフ、お前が死ぬ事で、我は完全体として誕生できる。さぁ、母子共に贄となれ‼︎】

 マンモンは短剣を取り出して、サナエへと振り下ろした。

「うわぁぁぁぁぁっ‼︎」

 マンモンの腹部に、アラヤの投げた竜爪剣が突き刺さっていた。

「アヤ…。何で…?」

 アラヤが剣を投げる直前、振り下ろした短剣は止まっていた。口から血を滲ませながら、マンモンはアヤコの表情へと変わっていた。

「フフフ、…サナエちゃんに私が手をあげる訳無いでしょう?」

 マンモンの支配を、直前にアヤコが奪い返したのだ。膝をつくアヤコに、アラヤは駆け寄り支える。

「ああ、アヤコさん!ゴメン!俺、俺、ああっ、こんなに血がっ…!」

「アラヤ君、すみません…。私が弱いばかりに…。屋敷を買う際に会った司教には気をつけて…下さい。カオリさんも、私も、彼の甘言に負けてしまった。ケホッ…」

「無理しないで!今直ぐ剣を抜いて治療を…!」

 剣を抜こうとするアラヤの手を、アヤコが止めて首を振る。

「まだダメ…。アイツは死んで無いです…から。今のうちに、私の技能を全て奪って下さい…」

 アラヤを掴む手が弱々しく震えている。目には涙を浮かべ、掠れた声でお願いしますと微笑んだ。

「い、嫌だ!きっと助けるから!死んだらダメだ‼︎」

「フフ…。こんな時に、まるで弟みたい…。じゃあ、私からあげちゃうね…?」

 アヤコは、最後の力で【技能与奪】を使い、自らが手に入れた全ての技能をアラヤに譲渡した。

「アヤコ…さん?」

 プランと力の抜けた腕が垂れて、アヤコの瞳から光が消える。
 アラヤはブルブルと体が震えて、目の前が白くなりプツンと何かが切れる音がした。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 バタン!

 扉が蹴破られる音がして、バタバタと大人数が室内に雪崩れ込んだ。

「見つけた‼︎」

 椅子に座る4名を確認したクララ達は、直ぐ様駆け寄り意識を確認する。

『テメェが、元凶かぁ⁉︎』

 火精霊サラマンドラが飛び出し、何食わぬ顔をしている男に高熱のフレイムを放った。しかし、男はそれをサクションで吸い込み消した。

「驚いたな。精霊を従えてた情報は無かった。しかもエルフも仲間に居たとはな。どうりで結界が破られた訳か…」

 平然としている男の肩から、闇精霊と無精霊が現れる。

『沢山来ちゃったけど、どうするの~?』

『どうもしないさ。私の仕事は終わったからな』

 戦う意思は無いと大人しく両手を上げる男に、クララは牙を剥き出して激しく威嚇する。

「貴様の、狙いは、何だ‼︎言え!喉元を、喰い千切られる前に!」

「狙いも何も、私はただの傍観者だよ。疑うのは当然だが、先ずは彼等に話を聞いてみたらどうかね?」

 振り返ると、光精霊キュアリーが4人に対しての状態異常回復を終えたところだった。

「「「「……」」」」

 4人共目覚めたというのに、床を見つめているままだ。まだ意識が朦朧としているのだろうか。

「気分はどうかな?」

 男の声に、4人は視線を向けた。死んでいた瞳に光が灯り、4人はいきなり立ち上がった。

「「「「先生‼︎⁉︎」」」」

 隣から聞こえたその声に、4人はようやくお互いに気付き、泣きながら抱き合った。

「生ぎでたぁ!良がっだぁっ~!」

「アヤのバカ~!」

「フフッ、酷い言われようです。グスッ…」

「ゔわぁ~ん!怖かったよぉ~!」

 状況についていけないクララ達は、アラヤ達が落ち着くのを大人しく待った。
 やがて落ち着きを取り戻したアラヤ達は、クララ達を見て笑顔を見せた。

「良かった、皆んな居るね。会いたかったよ!」

 別れてから2時間程度しか経っていないのだが、何故だろう、彼が本心でそう言っていると分かり、皆んなはドキッとする。

「…イトウ先生、いや、怠惰魔王。俺達が見た…体験した事の意味、もちろん聞かせてもらえますよね?」

 アラヤはイトウに歩み寄り、涙を擦り過ぎて少し腫れぼったその目で訴える。

「ああ、少し面倒だが話してやる。大人しく席に戻れ」

 また何かしないわよね?と、クララと精霊達がデンデン達に睨みを効かす。少しでも怪しい動きをしたら食べそうな雰囲気だ。

「では、どこから語るとしようか」

 イトウは葉巻に火を着けて、軽く一服すると、ククッと思い出し笑いをした。
 その後無愛想の表情へと戻り、事の真相をゆっくりと語り始めるのだった。
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