【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第14章 面会は穏便にお願いしますよ⁉︎

202話 亜人の国

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 浮遊邸を取り囲む防壁の端には塔があり、それぞれの精霊達が結界を繋ぐ為の拠点でもある。と言っても、浮遊邸内であれば精霊達は自由に行動できるので、寝床と表現した方が正しいかもしれない。

『また来てる。変わった子ね』

 水精霊シレネッタの寝床である塔に、タオが眼下に広がる風景を描きに来ていた。
 どの塔も、監視塔の役割の為に壁はガラス張りになっている。それを、精霊達が各自でデコレーションしているのだが、シレネッタの場合は苔岩に囲まれた水場(ベッド)と大小異なるカエルの置き物が飾ってある。

「……」

 カエルの置き物の横に座ったタオは、無言でカリカリと鉛筆でデッサンに夢中になって描いている。

『この子は、声も聞こえないし、姿も見れない。でも、不思議と嫌いじゃないわ』

 少しばかり悪戯をしようかしらと、小さな水玉を浮かせて彼のうなじに落としてやった。

「ひゃっ⁉︎」

 タオは雨漏れかと天井を見上げるが、当然そんな箇所があるわけない。彼の反応が面白かったシレネッタは、彼がデッサンを再開しては悪戯を繰り返した。

「ああ、もうっ!これじゃ集中できないや。ここの精霊さんは大人しいって、チャコちゃんのオススメだったけど…他の塔に行こう」

『え…?』

 どうやら、私とこの住処はチャコに勧められていたらしい。だけど、チャコの期待を裏切ってしまった。

『ねぇ、彼に謝りたいの。技能スキルを彼に与えてもらえないかな?』

 アラヤに頼ってみたけれど、家族以外にはと彼は難色を示す。

「タオはしばらくしたら帰る子なんだよ?違うやり方を考えてみて?」

 結局断られて、シレネッタは膨れっ面でタオのもとに向かう。

『見えない、話せない、触れないの相手に、他の違うやり方って、何?』

 空中を泳ぐようにして進んでいると、飛竜をデッサンしているタオを見つけた。その後ろにはハルとチャコが仲良く話している。更にその後ろの影からイシルウェが覗いていて、その彼を風精霊モースに姿を隠蔽させているアルディスが見つめている。
 この場には、言葉を代弁できる対象が3人も居るじゃないか。シレネッタは姿も見れるチャコに頼もうと決めた。

『チャコ…』

 チャコに話しかけようとした時、チャコが突然用事ができたと飼育場から出て行った。彼女はこちらに気付いていた様だし、明らかに不自然である。

『アラヤの仕業?』

 アラヤは、他に頼るなという事なのだろう。全く不親切なパートナーである。
 タオが描くデッサンを覗き込むと、その躍動感ある飛竜のデッサンに見入ってしまう。

『この子、本当に上手く描けるなぁ』

 今更だが、邪魔してしまった事を深く反省したシレネッタは、タオを見て閃いた。

「ん?」

 タオはふと手を止めた。空中に水の文字が浮き上がっていたからだ。

「絵、上手だね。さっきはゴメン?」

 浮かび上がった言葉は、反省を表した後で人魚の姿に変わり頭を下げた。
 彼が見たものの感情を絵で表現する様に、シレネッタも目に見える形で言葉を表現したのだ。

「わぁ、妖精さんから褒められたのは初めてだよ!その姿が君の姿なのかな?描いても良い?」

 シレネッタは嬉しくなり、自分と瓜二つの姿を水で作り出した。見栄が出て多少のボディラインが変更されているが。

「上手くいったな。ありがとう、チャコちゃん」

「うん、タオ君とシレネッちゃんは仲直りしたんだね?良かった~」

 離れた場所から見ていたアラヤとチャコは、2人が仲良く表現会話している姿を見て笑顔になった。

「アラヤ君、そのまま皆んなと遊んでみてくれませんか?相撲か水掛け遊びとかで…」

 背後でアヤコがハァハアと少し興奮?している。子供が増えた事で、彼女のこの手の要望も久々だな。
 これをきっかけに、妖精達には属性を使って文字を描くという新たな表現方法が広まった。


 2日後。目的地であるズータニア大陸北部の亜人の国パガヤの空域に到達した。
 その国土は、ムシハ連邦国みたいに巨大樹に覆われた深緑の国ではなく、田や畑が広がる農耕地が大半で、自然と人との共存がやや人寄りな国といった感じだ。

「亜人の国と言っても、農耕だけではやはり無理だよね」

 眼下には放牧された牛や豚の家畜場もチラホラと見える。畜産が安定していないと、肉食である亜人達には耐えられないからね。

「それにしても、もっと野性味ある生活をしていると思っていた」

『昔はそうであったが、転移者である其方達の先輩の影響というのが大きいだろうな』

 風の大精霊エアリアルは、その変わりようを見ていたのかもしれない。当時を思い出し様に辺りを見渡すと、感慨深いなと優しく笑った。

『命あるものは、我ら風の眷族達が種を運び、それを糧とした命が芽生え増えるとやがてまた朽ちていく。その亡骸は風化して土へと帰る。この繰り返しは森羅万象で変わらぬ神々が決めし宿命さだめ。しかし、我々や神々を魅了して止まないのは、その中で輝く命の進化という成長だ。その生物の中で亜人達は筆頭と言えるかもしれない』

「それはどういう意味でしょうか?」

『それは、見た方が早いだろうね』

 エアリアルが指差す先には、小さな集落が見えた。放牧してある家畜が多い事から、酪農農家達の集まりだと思う。

「分かりました。降りてみましょう」

 アラヤは浮遊邸を停止すると、クララと共に偵察に地上へと降りた。クララは狼人ライカンスロープ姿で、アラヤはジャミングで人狼ヒューウル姿に変装している。

「クララ、先ずは手前の牧場を見てみよう」

 放牧されているのは見た事の無いブル系の動物で、鑑定にはホースブルという名が出ている。毛が長い見た目は、ヌーに似ているというのが1番近いと思う。

「毛や乳とかの畜産用、いや食用かな?」

 癖のついた長い毛は硬そうで毛糸としてはあまり向いてなさそうに見えた。だが体の方は程良く脂肪が付いていて、思わずヨダレが出そうになるところだった。

「アラヤ様、誰か来ます」

 2人はそっと茂みに隠れて気配を消す。やがて鼻歌を歌いながら歩いて来る人影が見えた。

『ブルパカの獣人だ』

 そもそもアルパカの頭が牛であるブルパカだが、獣人となると更にその奇妙差が増す。
 見たところ1人の様だし、話しかけてみる事にした。

「あの~すみませ~ん」

 2人は茂みから出て、さりげなく声を掛けてみる。すると、ブルパカの獣人は2人を見ると眉を寄せる。
 それは無理もない。アラヤは毎日の事で忘れていたが、クララの服装はメイド服なのだ。
 見た目は子供連れのメイド。農家ではない綺麗な格好で、しかも街から離れた場所にあるこの牧場に来るとは、事件もしくは事故か、不審な人物に違いない。

「このホースブルは食用ですか?」

「は?」

 第一村人発見への第一声が食用かとは、クララも流石に冷や汗を流してしまう。まぁ、彼らしいと言えばそうだけど。

ホースブルコイツが食用なのは当たり前だろう。お前さん肉食系カーネヴォーなら良く食べてるだろう?」

「すみません、ご主人様は肉用になる前の姿を知らなかったのです」

 クララが咄嗟にそう説明すると、彼は納得した様でそうかとアラヤの頭をポンと撫でた。

「うちの肉は王国献上用だ。特級ランクの肉だからな!分ける訳にはいかないぞ?」

 聞く前に肉の販売要求を分かるとは、なかなか鋭いなとアラヤは苦笑いする。するとそこへ、別の従業員らしき者が現れた。

「そろそろ牛舎に入れる時間だよ~」

 その者を見たアラヤ達は目を疑った。それは今までに見た事の無い獣人だったからだ。
 上半身は猫の獣人で下半身が馬という魔物と間違えてしまいそうな容姿。鑑定には、種族はクララと同じ亜人族と表記されているが、その科目は混血変異種ミクストレースと出ている。

「ん?お客さんだったの?」

「ああ、そういや、ここに来た用事を聞いてなかったな。お前さん達、この牧場に何の…あれ?」

 アラヤ達は素早くその場から離れ、浮遊邸へと急ぎ帰っていた。帰って来たアラヤの顔を見たエアリアルはニヤリと笑う。

『まさしく進化だろう?』

「あの亜人は一体…?」

『混血変異種。つまり、他科目である獣人同士の間に産まれた子さ。亜人は本来、同科目か人間としか子を成さないとされていた。だが彼等は進化した。神の理を捻じ曲げ、新たな可能性を証明してみせたのさ』

 新たな可能性と簡単に言うけど、人間ノーマルから見たら彼等はまだ亜人として見えるのだろうか?
 少なくとも、人間は未知なるものに対して恐怖と興味を持つ。むしろ恐怖を感じる者達がほとんどだろう。
 人は、逃げられない恐怖の対象に直面した時、2つの行動に分かれるという。その存在に服従し傘下に加わるか、その存在を消し去るかだ。
 アラヤ達は、驚きはしたが恐怖したわけではない。だが、その耐性を強くする必要があると強く思った。そういった存在が居る事を知ると知らないとでは、全く対応が違うからね。

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