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第14章 面会は穏便にお願いしますよ⁉︎
205話 観戦
しおりを挟むコロシアム自体は、街の中心にシンボルの様にある。建物の高さは5階建くらいで、地上部分は全て観客席みたいだ。受付に来たアラヤ達は、挑戦者専用入り口と書かれた門から地下へと階段で降りて行く。
既にロビーは人集りで、受付窓口にも行列が出来ていた。
「ああ、あそこにルールが書いてあるね」
窓口の上に、パガヤ字で大きく記してある。その大半はカオリが話した通りで、日が経つに連れて技能が開示されるというもの。但し、持ち込める武器は1種類としている。魔法は原則として技能持ちのみ使用許可。魔剣・魔石・魔道具による魔法は認めない。
それとは別に、勝利条件と敗者条件が記されている。
勝利条件、制限時間まで生きている事。
敗者条件、死亡。又は舞台からの逃走。尚、敗北宣言による途中棄権した場合は、次回以降の参加は認められない。
「死亡確率が高いのに、何故これだけの参加者が多いのだろうか?」
「何だ坊主、参加する理由?そんなもの、雄に産まれたからには、頂上を目指すのは当たり前だろうが」
前の列に並んでいたブルドックの犬人が、鼻息荒くして腕の力こぶを見せる。
「肉食系の考える事は単純だよなぁ。土の大精霊ゲーブの加護が手に入る意味を全く理解していない」
今度は隣の列に並んでいたヘラジカの鹿人が話に加わってきた。装備は片手斧みたいだけど、自分の抜けたヘラを加工した物じゃないかな。
「どっちでも良いよ、そんなの。出場して3日まで生き残れば、衛兵に就職できるんだ。名誉や加護より、俺は安定した仕事が欲しいね」
今度は天井から声が聞こえた。見上げると、小柄な蝙蝠人が見下ろしていた。
3人は、睨み合っている。もう既に戦いは始まっているのだろうね。
「理由は人それぞれです。貴方は貴方の理由で参加するのでしょう?ただ、見たところ貴方はまだ来たばかりよね?昨日の決闘をご覧になりまして?」
係員らしき人兎の女性が、3人を再び列に戻る様に指示しながら、アラヤに羊皮紙のビラを渡した。
そこには、現在の生き残り者の登録名と開示された技能が書かれていた。
「参加するのであれば、前日に相手の戦い方を見るべきですよ?」
彼女はそう告げた後、他の参列者にもビラ配りに去って行った。その先に、壁に大きく貼り出されたビラと同じ羊皮紙があった。毎日、こうやって開示されているのか。ただ、開示された技能が分かっても、登録名では顔も種族も分からない。まぁ、アラヤの場合はその点は鑑定を使用すれば良い話だけど。
「確かに下見は必要だね。参加は明日にして、今日の試合を観に行ってみようか」
アラヤ達は引き返して、今度は観客席入り口に向かった。観覧費用に1人300ガムを支払い、観客席へと階段を上る。
観客席は5階あり、最上段まで既に半分以上の座席が埋まっている。もうすぐ参加登録締め切りだったから、決闘が始まるまでは後2時間はある。
最上段には、明日参加するつもりの亜人達が多い様だ。間近で鑑定したいアラヤ達は2階の観客席に場所を確保した。
「あれ?既に前日の参加者達が居ませんか?」
クララが指差した先には横穴があり、そこに片腕の無いサイ人が休んでいた。他にも傷だらけの亜人達が穴の中で休んでいる。あそこが与えられた休憩室らしい。闘技場から外部に出る事はできないみたいだ。逃走と判断されるのかも。
「あのシロサイ…鑑定では名前はポポス。ビラで見ると…ああ、3日目の闘士みたいだ。技能も3つ開示されてる。身体強化・一点突貫・槍技って、元々彼が持ってる技能がそれで全部だから、かなりヤバイ状況だな」
他の生き残り闘士を鑑定していると、先程の係員がアラヤの下にやって来た。
「注意勧告でございます。闘技場での鑑定技能の使用は罰則がございます。場内の至る場所に貼られている鑑定除けの護符により、使用者は即座に特定され出禁、及び100万ガムの罰金が課せられます。今回は、初回なので免除されますが、鑑定技能の使用はお控えください」
「は、はい。分かりました。教えて頂きありがとうございます」
罰金高っ!…というか、真っ直ぐ俺に言いに来たあたり、鑑定使用者の特定の話は本当みたいだな。
「あの、それでしたら、どうやって登録名の人物を見分けるんです?」
「…。もしかして、お客様は観覧は初めてでございますか?」
「は、はい」
「そうですか。やはり山から降りて来たばかりなのですね。安心してください。決闘中は、神の御力で闘士の頭上には名が表示されます。それに、解説者が居て実況も行いますので、注意すべき人物等は分かると思いますよ」
この係員、アラヤが滅多に下山しないという竜人だと思って親切に対応してくれていた様だ。
「そうなんですか。親切にありがとうございます」
「いえ、お仕事ですから。明日、登録をお待ちしていますね?」
彼女は笑顔で手を振り去って行った。
「ひょっとして、俺に気があるって思ってる?」
サナエがからかう様にアラヤを覗き込む。人狐姿の彼女の悪戯顔は、普段と違う魅力があるな。
「違う事くらい、分かってるよ」
あの営業笑顔、親切心というよりも、コロシアム運営側としての対応だろう。珍しい竜人の参加は目玉だろうし、簡単に負けてもらっても困るというわけか。
「あ、準備を始めたわ」
やがて観覧席も満席になり、開始30分前にもなると、生き残り闘士達はゾロゾロと横穴から出て来て、体を解したり装備の確認を始めた。
それから程なくして、闘技場の四方にある鉄扉が開かれた。本日の初参加闘士の入場だ。受け付け並んでいた先程の3人も居る。
入場者は、それぞれが開始前の場所取りに急ぎ、辺りを警戒している。無論、生き残り闘士の周りには我先にと集まっていた。
「開始と同時に討つつもりでしょうか?」
「だろうね。だけど、そんな事は生き残った彼等も想定済だろうよ」
張り詰めた殺気と緊張が闘技場に充満し、ざわついていた観客達も静かになる。そこに、人蝙蝠のウグイス嬢らしき係員が現れた。
「さぁ、本日も始まります命を賭けた魂のぶつかり合い!進行アンド解説はお馴染み、私ベッキーがお送りします!さて、本日が最終日となる闘士は1名!連日見せた彼の突進には、誰もが魅了され心躍らせた!果たして、今日も彼を止める者は現れないのか⁉︎熱き猛牛の闘士、ルトーザ‼︎」
紹介された牛人の闘士は、軽く手を挙げて観客達に手を振る。その表情は、溜まった疲労とダメージを見せまいとしている。
「そして3日目の闘士は8名!どれも強者揃いだが、注目すべきはやはりこの雄!大鷲とガゼルの混血変異種、シューバッツ‼︎」
上半身が鷲で下半身がガゼルの脚となった姿で、上半身には鷲の大きな翼があるだけでなく、人間の腕も別にある。つまりは腕が4本有るという訳だ。やはり魔物と勘違いしそうになるな。
「現状で有翼種は彼1人!今日こそは、彼に地を踏ませる新たな参加者が現れるのか⁉︎他にもまだまだ油断ならない挑戦者はいるぞー!総生き残り闘士数32名!初参加闘士50名!計82名による大決戦!間も無く開始です‼︎」
全ての観客が固唾を飲んで見守る中、戦闘開始のドラが激しくコロシアムに鳴り響いた。
それと同時に一斉に始まる大乱闘。初めに犠牲になるのは、場に飲まれた臆病者が数名。そして、始まる前から満身創痍の生き残り闘士達。
「おおっと!やはりいつも通りの展開かぁー⁉︎脅威となる猛者を、始めのうちに襲い掛かるぅ!」
張り裂けんばかりの声で実況するベッキー。会場も熱気も釣られたように一気に高まる。早速、ポポスは標的にされて、抵抗叶わず地面に突っ伏した。無論、最終日であるルトーザも的である。結託したかの様に、同時に数名が襲い掛かる。
だがそれも、ルトーザには予測していた事態で、攻撃に合わせてバックスステップしていた。
しかもその体勢は、突進の構えの前段階。一瞬にしてその場にいた数名を返り討ちに弾き飛ばした。その威力に、近くにいた闘士は動きを止めた。
しかし、それを予測していたシューバッツが、上空からルトーザの脚を弓矢で射抜いた。
休む間も無く襲い掛かる360度からの攻撃に、7、8人は返り討ちにするも、ルトーザは倒れ力尽きた。
それからも、次々と生き残り闘士の脱落者は増え、3時間という長過ぎる制限時間は、迂闊に攻めようとはせずに、後半からは翌日の為の余力を残す駆け引き戦となった。
膠着状態となったまま、制限時間のドラが再び鳴らされる。
やはり30名程しか残っていない。あの3名も、何とか残れたみたいだが、その表情には疲労感と少しの後悔が見える。
気になったのは、いつのまにか倒れた者達の姿が消えていた事だ。誰が退かしたのだろう?
「ひょっとしたら、味方で組んで戦えば早く済むと思っていたけど、やっぱり、参加は俺とクララだけの方が良いかもね」
コロシアムからの帰り、アラヤは2人の参加中止を決めた。
「そんな!アラヤ様と共闘できる良い機会でしたのに!」
「うん、そうだけど。それは、ああいう場じゃないんだよね」
ガッカリするオードリーとアスピダ。だけど、先程の戦い方を見ると、2人は確実にアラヤとクララの盾にならんと先走る筈。しかし、目下で戦う闘士の大半の速度に、今の彼等では対応できないと分かった。それなら、巻き添えを食わせる味方が居ない方が、思いっきり暴れられるというものだよね。
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