【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第15章 その力は偉大らしいですよ⁉︎

217話 王都の現状

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 デピッケルに到着したアラヤ達は、タオとハルを連れてバルグ商会に来ていた。
 というのも、タオの両親とハルの母親はバルグ商会で働いているからだ。

「母さん!」

 2人は親の姿を見つけると、一目散に駆けて行った。親達も我が子を抱きしめ、無事を喜んでいる。

「さて、俺達も用事を済まそうか」

 アヤコは商業ギルドの銀行に、サナエはナーシャに頼んでいた硬化魔力粘糸による戦闘服バトルスーツを受け取りに、クララはバスティアノに会いに向かった。
 アラヤはというと、店員に商業ギルドの会議室に向かう様に言われて向かっていた。
 会議室の前に案内され行くと、廊下に聞こえる程に何やら騒がしい。
 ノックをしても気付かないようなので、そのまま入る事にした。

「ん?」

 扉を開けて中に入ろうとしたら、中に居た全員がこちらを見ていた。

「アラヤさん!」

「おお!アラヤ殿!」

 会議室内には、ソーリンやガルムさんだけでなく、武器商人のレギン=リトゥル等、デピッケル商業の大手の商会が参加していた。

「丁度良かった。アラヤ殿も参加してくれ」

 席を用意されたので座ると、1枚の紙が目の前に置かれる。それには、食材や衣類の数量が表に記されている。

「戦地となっているモザンピアや、突然現れた悪魔による被害が甚大な王都に、我々は物資を迅速に届けねば成らぬ。だが、それらの物資を運ぶ人手が足りないんだ」

「現状では、各商会が物資調達に赴き、このデピッケルに集めている。おかげで物資自体は一定量は確保できた。運搬用の馬車(バルグ商会考案のグラビティ魔鉱石搭載)は残り20台。戦地であるモザンピアにはレギン殿の3台(火薬や武器資材)が向かう事が決まっておる。残り17台の割り振りを考えているところだ」

 用紙には運搬先が書かれているのだが、モザンピア領では運搬先が分かれている為に馬車が多くいる様だ。その点、王都は一箇所の様だ。

「この王都に運ぶ物資は俺が担当しましょうか?」

「「「え⁉︎」」」

「よ、宜しいのか⁉︎とても馬車一台で運べる量でも無い上に、今の王都はある意味、前戦よりも危険ですぞ⁉︎」

「運搬だけなら、何とか大丈夫ですよ。あ、その分の危険手当ては期待して良いですかね?」

 周りの反応がやけに驚いているけど、この物資量ならギリギリアラヤ1人分の亜空間収納に入り切る。

「ソーリン、早速、王都運搬用の物資置き場に案内してくれ」

 ソーリンは慌てて後を頼むとガルムに伝えてから、アラヤと共に会議室から出た。

「アラヤさん!分かっていますか?今の王都には悪魔が居るんですよ⁉︎」

 商会の倉庫へと向かう途中、ソーリンは心配そうにアラヤを引き止める。

「ごめん、正直に言うとラエテマ王都の現状をあまり把握して無いんだよね。教えてくれない?」

「知らないで引き受けたんですか⁉︎」

「まぁね。だってほっとけないだろ?あそこにはミネルバ王女も居る。彼女はカオリの数少ない友人だし?見捨てたら俺が危険だからね」

 それに、悪魔の事が気になっているのも事実だ。戦争が起きているこのタイミングで、魔王が死んだ際に現れるとされている悪魔が現れたのだから。

「分かりました。私も現地から逃げ延びた商人情報と、両教団から一般公開された情報しか分かりませんが、商業ギルドで整理した内容をお話しします」

 こういう時、情報伝達が念話を主流とする教団の情報の速さは貴重みたいだ。そこに都合の良い隠蔽がある可能性も否定できないが、情報が命の商業ギルドの情報と照らし合わせたのなら、ほぼ正しい情報だと言えるかもしれない。

「現状の国内は大混乱状態です。先ず、帝国が侵攻してきたモザンピアですが、防戦一方だった戦況はバルガス様率いる元王国騎士団の活躍により好転し、砦を奪い返す等優勢になったのですが、グラーニュ領側から現れた分別の勇者と彼が率いて来た兵団により、戦地は大混戦となりました。そんな中、再び飛行戦艦が現れたのですが、その1船を勇者が奪い帝国側を攻撃。そのまま帝国本土へと進路を変えて去りました。もう、敵も味方も大混乱ですよ」

「何それ?分別の勇者は帝国側の人間じゃなかったって事?」

「分かりませんが、王国軍にも帝国軍にも多大な被害を与えて居なくなりました。現在のモザンピアは、士気の下がった帝国兵を追い込んでいる状況です」

 それにしてもバルガスさん、農園に居ないと思ったら、まさか戦地に駆り出されていたとはね。せっかく引退してスローライフを満喫していたのに、有能な人はままならないんだね。

「そして問題の王都ですが、悪魔が現れる前日に訪れた大罪教司教が、国王や王族に避難と警護の増強を訴えていたらしいです」

「大罪教の司教が?」

「はい。しかし城から避難せよ等という進言が当然信じられる訳もなく、王族が避難する事はありませんでした。その次の日の深夜、王城の結界が突然破壊され、王城に火の手が上がり、城下街には悪魔が魔物の大群を率いて現れました。現状では王の無事は確認されていますが、王城が半壊しており、他の王族達の安否は確認されていません」

 怠惰魔王に受けたカオリの仮想未来経験から察するに、悪魔はアスモデウスだと思うのだけど、悪魔復活は大罪教団の仕業というよりは、個人的な犯行の可能性があるな。

「悪魔は王都全体に毒の霧みたいな魔法を掛け、魔物達を残して姿を消しました。街の魔物は居合わせた冒険者達が討伐したそうですが、霧は消えずに新たな魔物が現れているとの事です」

「そんな状態で、何処に物資を運ぶの?」

「城下街の繁華街を中心に、冒険者達が住民を避難させた区域がありまして、そこに運ぶ予定です。そして、これが運ばないといけない物資です」

 着いた倉庫の中に入ると、急を要する為に整理する間も無く置かれた物資の山が目の前にあった。

「…なるほど。確かにこの量は、普通の馬車が一回で運べる多さじゃないね」

 量としては、通常の馬車荷台の最大積載量まで乗せたとして(グラビティ魔鉱石搭載車でもバランス維持できる量に限る)、馬車10台で足りないくらいだ。これは既に収納している物を少し減らさないと入らないかも。

『アヤコさん、まだ商業ギルドにいる?』

『はい。今、銀行から帰るところです』

 そのまま倉庫に来てもらって、事の経緯を説明する。

「分かりました。では、皆んなにも準備をお願いしましょう。カオリさんも早く向かいたいでしょうし」

 皆んなに念話で連絡を入れた後、2人で種類事に亜空間収納へと物資を収納する。彼女の亜空間に空きがあって助かった。
 相変わらずの規格外の技能に、ソーリンは呆気に取られている。

「あの、何でこんなにも魔力粘糸の布が多いのですか?」

 言われてみると、確かにタオルサイズの魔力粘糸の布がかなりの数量用意されている。

「それが、先程話した毒の霧を吸うまいとこの布で口を塞いでいた者が、毒や幻惑といった症状にならなかったと報告がありまして、兵士や冒険者達に顔をこの布で保護しようという話になりまして…」

「それって…」

 アラヤとアヤコは顔を見合わせた。お互いが同じ考えだと分かると、アヤコは一足先に浮遊邸へとテレポートする。

「な、な、消えて…⁈」

「驚いているところ悪いけど、次からはこの形に加工してから出して欲しい」

 アラヤは念写で完成品を見せる。ソーリンは、その形に感動を覚えた。わざわざ布を巻き付けて固定する必要性が無く、使用する布も口から耳に引っ掛けるだけの面積だけで済む。

「こ、コレは⁈」

「付箋する布、マスクと呼ばれる病気の感染予防目的の品だよ。魔力粘糸を使用している事により、今回の毒霧は魔法によるものだから防げるんだ」

「なるほど!流石です‼︎」

「今回は、向かいがてらに作成するから、次回の分はそっちで何とかしてくれ。あ、それと、今回はお針子さんとしてナーシャさんを借りて行くから」

「ええっ⁉︎でも、馬車の中ではとても作業できないと思いますが⁉︎」

「その辺は、ナーシャさんが帰った時に聞いて?それじゃ、サナエさんが彼女から了承得たみたいだから、早速向かうね?」

 アラヤもアヤコと同じ様に光に包まれて消える。あまりの早い展開に戸惑っているソーリンだが、あらゆる問題もいとも簡単に解決してしまうアラヤ達に、どこか懐かしさと同行できない寂しさを感じていた。

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