【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第23章 力のご利用は計画的にらしいですよ⁉︎

341話 ベヒモス奪還作戦

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 オモカツタの街の騒動は、街の人々達には半ば夢を見た感覚でしかなかった。
 というのも、そのほとんどの人が思考停止により無気力症だったからだが、気が付いた時に寝起きの感覚に近かったからの様だ。

「ん~それにしても凄い状態よねぇ、コレ」

 街長でもあるグスタフは、防壁の外側の土地がにより5m幅で抉れているのを見ていた。

「まるで、巨大な竜巻が街だけに直撃したみたいよね~。まさかねぇ?」

 見上げる先には空に浮かぶ島、空中公国月の庭モーントガルテンが見える。
 その可能性はあるのだけど、それ以上は恐ろしさもあって口にすることができなかった。

「グスタフ様、近隣に被害はございませんでした!」

「此方も同じく、被害は見受けられませんでした!」

 調査を終えた兵士達の報告を聞き、グスタフは馬へと騎乗した。

「被害無いなら帰るわよ~」

 街にあった結界だけを、ピンポイントで風の衝撃により削っていたとしたら、そんな事が狙ってできる存在は大精霊しかいない。

(絶対に敵にまわしちゃダメよね~。ベヒモスより怖いわぁ~)

 触らぬ大精霊になんとやらねと、モーントガルテンに追及する事はしないと決めたのだった。


 一方、地下街の被害は甚大で、商業施設と研究施設の大半が戦いに巻き込まれて倒壊していた。

「アラヤ殿、素晴らしいですな!以前よりもかなりの硬度の封土ですよ!」

 施設の高所で作業しているアラヤの手際に、教団員達が称賛している。

「ええ、ベヒモスが2しなければなりませんからね」

 崩落箇所は全てアラヤにより復旧していて、外壁の鉱石の内側には見えない様に魔力粘糸の網が入っている。
 コレならば、魔法による地震にも効果があるだろう。

 下で待っていた勇者ウィリアムが、降りて来たアラヤを迎え入れる。

「お疲れ様。もう敵は全て捕らえたんだ。君は少し休んだ方が良いよ?」

「ウィルさん、ありがとう。ひと段落した事だし、そうするよ」

 渡されたタオルを受け取り汗を拭う。ウィリアムはすっかり、アラヤに気を許してくれている。

「カザックさんは忙しそうだね?」

「そりゃあね。冒険者達を割り振って、地下街のクエストが大量に出たから管理でまたしばらく動けないと思うよ」

 冒険者ギルドマスターの彼は、前回もだったが、今回も冒険者達の冒険には関係ないクエストへの不満を聞かされているに違いない。

「ベルフェル司教殿の葬儀には、参加できないかもしれないね…」

「そうですか…」

 ベルフェル司教は、倒壊した建物に埋まった状態で発見された。
 もちろん、これはアラヤが分身体の遺体を仕込んだものだ。
 世間的には、ヌル虚無教団との戦闘中に死んだ事にしようと考えたのだ。
 その方が、この街のフレイア大罪教支部の教団員達にも、教団に不信感が生まれずに良い筈だ。

「…捕虜からは何か情報を?」

「セパラシオン司教様が取り調べをしているけど、誰一人として口を割らないらしい」

「リーダーらしき人が居たよね?手掛かりになりそうな物を何か持っていなかったのかな?魔導書や地図とか」

「ん?いや、捕まえた際には杖と薬ぐらいだったかな。鑑定士が仲間を調べたけど、収納技能スキル持ちは居なかったようだよ?」

 禁呪魔導書も無しか。幹部の1人なら、ひょっとして所持しているかと思ったんだけど。
 いや、他にも仲間が居てソイツが所持している可能性もあるか。

「ともかく、対策前にも関わらず、ベヒモスをヌル虚無教から守れたのは大きい」

「…そうだね。でも、まだ警戒は解けない。モザンピアの事もあるからね」

「大丈夫、俺がベヒモスは死守する」

 ウィリアムは、自身の胸元をドンと叩き任せてくれと笑顔を見せた。

「…なら安心だ。それじゃ、俺は一度国に帰るよ。また後でね」

「ああ、後で」

 アラヤはテレポートを使い、モーントガルテンへと帰還した。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「はぁ~、疲れたよクララ。…それで、作戦は上手くいったのかな?」

「マジでギリギリだったと、ニイヤ様が騒いでいましたが、無事に成功した様です。今は皆様、広場に居られますよ?」

「そっか。なら、彼等が帰る前に挨拶しなきゃね」

 アラヤはそのまま広場へと向かった。
 広場に着くと、アラヤの姿を見て皆が集まってきた。
 ラエテマ王国親善大使であるミネルバ達は、どうやら仲間の配慮でこの場には居ないようだ。

「良かった!もう、結界が解けたならこっちにも連絡しなさいよ!」

「まぁ、私は信じてるから心配はしてなかったけどね?」

 連絡が取れなかった事で、みんなに心配をかけてしまったとつくづく思う。


「これは、ご無事で何よりです暴食魔王殿!盟主自らの活躍、感動しましたぞ!」

 冥界の国ゴーモラの宰相、ジョスイが感動を大袈裟に表現する。

「いやいや、もう時間が無さ過ぎて、「このままでは女王陛下にお叱りを受ける!」と泣き叫んでいたじゃないか」

 ニイヤのツッコミにジョスイは慌てふためく。

「ごめん。今回はいろいろとイレギュラーな事態が重なっていたからね。対応が悪かったと思うよ、すまない」

「いやいや、謝らないで下さい!結果的に、ベヒモス奪還作戦は無事に成功したわけですから!」

 頭を下げるアラヤを直ぐに止めるジョスイは、アヤコに助けを求めた。

「アラヤ君、まだ双方の報告をまとめていません。一度整理したいのですけど、良いですか?」

「そうだね、軽く食べながら話そう」

 アラヤ達は、とりあえず大食堂へと移動した。
 すると、風の大精霊エアリエルが待っていたようで、アラヤに笑顔を見せる。
 アラヤは隣の席に座り手を添える。

「ただいま。心配掛けたかな?」

『フフ、アラヤならあの程度、心配するほどでは無い。だが、無事で何より』

 うん、少しは心配してくれたようだね。そりゃあ、大精霊に比べたら俺なんてか弱いからね。 

「では、今回の件をまとめたいと思います。よろしいでしょうか?」

 席に着いたみんなに、紅茶と焼き菓子が配られ、さっそくアラヤと分身体達が手を伸ばしている。

「先ず、オモカツタの街を突如包んだ結界ですが、情報遮断の魔道具結界だったようです」

「ああ、それはベルフェル司教が張ったものだった。彼はヌル虚無教団側だったようだ」

「うわー、おっさん、やっぱりそっち側だったかぁ」

「狸だったわけね」

「結界を調べていたら戦う羽目になった」

「じゃあ、アラヤが結界を破壊したのね?」

「まぁね。魔道具はサンプルとして幾つか回収したよ」

 地中に埋められていた結界魔道具は箱型で、魔法陣が描かれた面に窪みが幾つかあり、魔石を埋めて発動する物だった。
 全て拾うとバレるので、3個程回収したのだ。

「ベルフェル司教の目的は、おそらくモーントガルテンの介入を阻止したかったのでしょう。ただ、首謀者のダフネ=トランスポートとの連携は無かったように見受けられます」

「確かに。俺達が、ヌル虚無教団の動きに気付いて対策をしていた事を彼女に伝えていたら、タイミングも戦力も変えていただろうね」

 教会でカザック達と会って話をしていた時に、ベルフェルは動こうと思えば動けた筈だ。
 何故か放置して、街中に無気力症が出だしたタイミングで結界を起動したとみえる。

「結果として結界は解かれたわけですが、この結界が無ければ、先に潜入する予定だった私と宰相さんとポルカの計画を変える必要はありませんでした」

「それで、仕方無しに自然洞穴側から来ていた俺達と合流したんだな?」

「はい。元々の私達の計画は、日数を掛けて施設の侵入でしたが、今回は洞穴側から地中を掘っての侵入に変更になりました」

 ニイヤ達に合流したアヤコとジョスイ達は、自然洞穴内に横穴を掘り進め、施設とは反対側のベヒモスの背後に回っていたのだ。

「ベヒモスを発見した私達は、先ずは露出部である右耳と右足部の付け根まで穴を掘り進め、幾度も氷結させ破壊。ベヒモス本体は、ポルカを仲介にしてゴーモラのリリルカが本土に召喚サモンしました。本土の贄数にはまだ余裕もありましたし、ベヒモスに大量に魔力が集められていたおかげで、召喚に必要な条件は楽できましたよ」

 当初の計画では、魔力供給は分身体と大量の魔力電池で賄うつもりだった。その手間が省けたのは時間的にも幸運だった。

「しかし、切り離しのタイミングが遅れていたら危なかったでしたよ⁉︎妙な結晶が飛び込んで来ましたから!」

「それに地震な。本体が消えて空洞化していたから、危うく生き埋めになるところだったぜ」

「ああ、あの時は君達の姿が一瞬見えて焦ったよ。急いで隠さなきゃってね」

 だからこそ、率先して封土の復旧にアラヤは取り組んでいたのだ。証拠隠滅の為に。

「結果的に、ベヒモスの露出部はそのままで、本体だけを奪う計画は成功でした。魔力が枯れて壊死するのは2、3ヶ月くらいでしょうね」

「いやぁ、我らがゴーモラの守護神たる1柱を取り返して頂き、誠に感謝しております!」

 つまり、アラヤ達はオモカツタに着いた時点で、ベヒモス奪還作戦を計画、即座に始動し、誰にも怪しまれずに完遂したのだった。

 もちろんコウサカには、ベヒモスはゴーモラ国土の守護以外の目的の使用は禁ずる条件を出してある。

 ヌル虚無教団からはベヒモスを守り、ゴーモラとの友好を深める。
 ウィリアム達に多少の背徳感はあるものの、ヌル虚無教団に対抗する為の一手を打てたのではないかと、アラヤ達は喜ぶのだった。
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