【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第25章 喰う、それは生きる為ですよ⁉︎

362話 試練の時

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「おっと、この通路もか!」

 魔導要塞の内部は、改造魔人達だけでなく魔人の兵士も多く居て、多彩な魔法攻撃による迎撃を受けていた。

「来たよ、風中位精霊シルフィー闇中位精霊エキドナ!」

『『はーい』』

 だが、大抵の魔法攻撃や魔導銃撃は、2人の力には到底及ばない。
 通路内の空間はシルフィーの支配下にあり、魔法は押し戻されるか掻き消される。
 その上、術者や兵士達はエキドナにより戦闘不能に陥っている。

『この人間達の魔力、全然美味しくない…』

 倒れている兵士達から、エキドナが魔力を吸い取ってみたが不味かったようだ。

「改造魔人は、無理矢理魔素を注入されているからそうかもね。でも魔人なら美味しいかもよ?」

『いらない、アラヤの頂戴』

 仕方ないなと、2人に魔力玉を渡す。最近、俺の魔力玉は更に美味さが上がっているらしい。
 2人が夢中になって魔力玉をハムハムしている間に、アラヤは敵を捕縛していく。
 魔人は、見た限り指揮官に多いようだ。今回の中にも1人だけ居た。
 見た目が普通の人間の改造魔人と違い、魔人はやや肌が紫色になっている為判別しやすい。

「職種は魔術士で魔力量は400以上あるけど、上級魔法を持っているのに熟練度は初級魔法と同じLV1か。魔導武器ばかりに魔力を使っていて、魔術士としての努力は何もしてなかったみたいだな」

 魔導科学が普及し過ぎて、職種とは違う努力をする者もいるのだろう。

「さてと、そろそろ魔導武器や魔導具の工場へ向かおうか」

 通路の標識を見る限り、工場らしき場所は2階に集中してあった。
 そこを目指して進んでいるのだが、近付くにあたって暗号ロックの掛かった隔壁が多くなっていた。

「ここも隔壁か。まぁ、関係ないけど」

 暗号がいくら難しいものでも、痕跡視認でカンニングできるから問題ない。
 今回も難無く暗号を解除して隔壁を開けると、初めて広い部屋に出た。

「おっ?ここは…ロボットの製作所か?」

 先程戦ったあのロボットと似たような体が、腕無し足無しで並んでいる。この姿を見ると、やはりゴーレムというよりはロボットだな。
 どうやらボディは同一で、腕や足のパーツを変えるだけの様だな。

『侵入者発見、侵入者発見、魔導人形生産区で侵入者を発見、警備隊は直ちに現場に急行せよ!』

「おっと、見つかったか」

 アラヤは入り口の隔壁をアイスで固めて開かない様にした。これでもう暫くは入って来れない筈だ。

 ブーッ‼︎ブーッ‼︎ブーッ‼︎

 突然、大きなブザーが室内に響き渡り、赤い回転灯が光り出す。

「あー、既に居たのね?」

 肩に4型と刻まれた大型ロボットが2体、眠りから覚めて動き出していたのだった。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 地下遺跡の最深部。
 祭壇の部屋に居たダクネラは、上の神殿入り口が襲撃されたと気付き、早々に団員達を所定の防衛に向かわせる。

「サイルが先に出ているから、杞憂に終わるやもしれないが、念には念を入れるべきだからな」

 この神殿の構造は、1階は入り口がある大広間と大衆用の礼拝堂、地下1階は修道院となっていて、団員達が生活できる居住区となっている。
 地下2階は修練場と牢屋などがあり、放置されている刑具等から、太古から拷問の習慣があった事が分かる。
 地下3階は書物庫や倉庫があるが、これといって価値がある物は残っていない。
 そしてダクネラの居る地下4階には、立派なフレイア神の像がある礼拝堂と、祭壇の部屋があり計4階層になっている。
 その各部屋の入り口や通路に団員を配置して待ち構えさせる。

「まぁ、4階とはいえ他の神殿に比べて各階が広過ぎるからな。無の大精霊ケイオス、各階層にグラビティの負荷を掛け皆にはヘイストを頼む」

 ダクネラの背後に居たケイオスは、ムクリと立ち上がると両手を天井へとかざした。

『完了シタ。…ダクネラヨ、ヌル様ノ召喚ハ阻止サレテシマッタゾ』

「なんと…?まさか本当に救世主が現れたと言うのか?」

『アア、人ノ身デアリナガラ、神ノ代ワリヲ成シ遂ゲタ』

「フフフ、ベルフェゴールの悔しがる顔が目に浮かぶな。さぞや無念であったろうな」

 立場的に喜ぶべきことでは無いのだが、かつて友人と3人で立てた約半世紀の計画が、突然終わりを迎えたと知ると不思議と笑いたくなったのだ。

「とはいえ、いつまでも笑っている場合では無いな。世界浄化の法は敗れたが、次なる手を出せば良いだけの事だ」

『ダガソノ前ニ、襲撃者達ヲ止メネバナラヌ。1階ハ既ニ、彼等ニ制圧サレタ様ダ』

「何?サイルはどうした?鉢合わせなかったのか?」

『イヤ、サイルハ2階デ何故カ、牢屋区域ニ向カッタ。…ドウヤラ、別ノ侵入者二気付イタヨウダ』

「…まるでタイミングを合わせたかのように新手か?どうやら我々は優位から一転して、追い詰められている様だな?」

『運命神ノルンハ、全テノ者ニ平等ニ試練ヲ与エル。我々ニハ、今ガソノ時ナノダロウ』

 不死の存在であるケイオスは、もちろん慌てる素振りを見せない。
 我々と言いつつも、試練を受けるのは結局のところ私1人なのだ。

「ケイオス、エレボスも出せ。この4階層には私と其方だけで構わない」

『分カッタ。ダガ、ドチラニ向カワセル?』

「数の多い方で構わん」

 ケイオスは頷くと、前室の礼拝堂に移動する。
 そして、参列席の最後列に寝そべるフード男に呼び掛けた。

『起キロエレボス、貴様ニモ侵入者ノ撃退ニ出テモラウ』

 ムクリと上体を起こした拍子に、フードがはだけて素顔が露わになる。
 その姿は竜人ドラッヘンと類似していた。見て分かる違う点は、目が眉間にも有り三つ目の竜人だというくらいだ。

『ケイオス様、こんななりをさせられて俺は腹減ってるし、体が怠いんです。代わりに行ってくれませんかね?』

『馬鹿ヲ申スナ。黙ッテ眷属竜ノ役目ヲ果タセ』

『へいへい、まぁやりますよ。大精霊様の命令は絶対ですからね』

 エレボスは気怠るそうに立ち上がり、上層部へと向かう。

『まぁ、撃退ってことは暴れて良いってことだよな?』

 それは捕食も許されたに等しい。エレボスは、久々の人肉にありつけると舌舐めずりをするのだった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


「こんなのオカシイわ。だって気配を感じなかったのは2度目よ?」

 地下2階の、最奥にある牢屋の中に辿り着いた純潔の勇者フローラ=ミュゲットは、穴から出るなりため息を付いた。

「これはこれは、どんなモグラが出て来るかと思えば、火の眷属竜リンドヴルを討伐した勤勉の勇者御一行じゃありませんか?」

 神殿内にこっそりと潜入するつもりでいたのに、またもや出口で人と会うミスをするとは思わなかったのだ。

「奴は、サイル=ササキ=フェスマン=ボールドだ。ヌル虚無教団1番の実力者だと言える」

 勇者達の後から現れたベルフェル司教は、小声でその危険人物を教える。

「ほぉ、それはそれは良い出迎えだな。是非ともお相手願いたい!」

 考え方が戦闘狂に近い勤勉の勇者クリスチャート=高須=スタディは、早速邪魔となる牢屋の檻を大剣で破壊した。

「随分と大きな剣を使う。竜殺しもそれで成し遂げたのか?」

 クリスチャート程では無いが、サイルもまた大剣を取り出し構えた。

「俺は、良い経験値となってくれれば、相手が竜だろうと人間だろうと変わらない。より満足できる戦いを期待するだけだ」

 既に暴走気味の彼に、フローラは錫杖を鳴らしバフを掛ける。

「あの彼の相手は、クリスに任せましょう。私達は確実に邪魔になる」

 彼女には分かっていた。
 クリスチャートが初めから大剣を使う場合、手が抜けない強者が相手だと、彼自身の直感が感じているのだ。

「ならば、サポートに我々は徹するのだね?」

 ベルフェルも、彼女と同じくクリスチャートへとバフを掛けた。

「ええ。どんな相手だろうと、私達のスタイルは変わらないわ」

 フローラは【不可侵領域】を展開して、仲間達を守る。
 今正に、赤竜に次ぐ長い戦いが始まろうとしていたのだった。
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