【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

文字の大きさ
386 / 418
第26章 楽しいばかりが人生ではないそうですよ⁉︎

382話 消えた3人

しおりを挟む
 空中公国月の庭モーントガルテンは、今や姿を隠す事無く大陸の上空を横断している。
 各国にその存在を認知させる為でもあるけど、不可視結界はいざという時以外には使わない事にしたのだ。

「アラヤ君、後2時間程でゴーモラに到着予定です。サナエさんが、礼服を受け取りに来てと言ってましたよ?」

「うん、分かった」

 アヤコと入れ替わる形で、アラヤは管制室からサナエの下に向かう。
 冥界の国ゴーモラで行われる式典に呼ばれたので、それに合わせてサナエが礼服を新調したのだ。

「あ、やっと来たわね!細かい調整をするから着てみて?」

 部屋に入るなり、サナエが赤子を抱きながら真新しい礼服を差し出してきた。

「それにしても、ネガトの方が選ばれるとは思わなかったわ。彼女はてっきり、相手をもてはやすソルテの方が好みな気がしてたんだけどね」

「まぁね。でも波長が合ったのかもよ?」

 着こなし具合を確認していると、寝ていたヨウがぐずつき始めた。

「おっと、起きちゃったね。調整はしておくから、そこにあるドレスを風の大精霊エアリエル様に渡してくれる?」

 今回はエアリエルも参加するらしく、彼女用のドレスも新調していたらしい。

「うん。じゃあ、後でね」

 ドレスを持ち部屋から退出する。到着前ということもあり、みんなバタバタしている。

「あ、大公様」

 廊下でおめかしした子供達と遭遇した。タオとハル今も師匠呼びだけど、人犬オレオの娘ハナとポッカ村出身のリズ達は、バスティアノの教育方針でアラヤを大公呼びになっている。

「ミネルバ様は、もう月の庭ここにはお戻りにならないのですか?」

 どうやら、ラエテマ王国に親善大使の公務で一時的に戻っているミネルバを心配しているらしい。
 王女という垣根無く、みんなが彼女と仲良くしてくれている事はありがたい。

「そんなこと無いよ。7日後には迎えに行く予定だからね」

「良かった~!でも、あのお兄ちゃんは帰って来なくても良いけどー」

 彼女の護衛として付いているリッセンは、子供達からかなり嫌われている様だ。まぁ、彼女への会話や態度に口出ししていたから無理もないが。

「タオ、贈呈予定の絵画はできているの?」

「はい、サナエさんの念写を元にして描いた風景画と女王の肖像画は完成してます」

「良かった。タオの絵画なら彼女もきっと喜ぶよ」

 みんな着々と準備を終えているな。

 自室に戻ったアラヤは、出迎えたエアリエルにドレスを渡した。

『新作か!どれ、着てみるとしよう』

 エアリエルは早速、新作ドレスへと着替えだす。オシャレに目覚めて以降、彼女の美しさは止まる事を知らない。

『どうした、浮かない顔をしているな?』

「うん、ちょっとね」

『居なくなった3人か…』

 それは3日前。急なことだった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 アシヤが持ち帰った禁呪魔導書【躍動の藤黄とうおう】で、全ての禁呪魔導書(カオリの複製本も含む)が揃った。
 なので大精霊達との約束通り、火の大精霊ムルキベルの寝床へと焼却処分する為に向かった。

『良くやった、アラヤ。全大精霊を代表して、其方に感謝を述べる』

 頭を下げる大精霊に恐縮しながら、全ての魔導書を差し出した。
 ムルキベルは其れ等を、自らのマグマへと引き込んだ。
 魔導書はそれぞれの色の炎を見せて燃え尽きていく。

『これで、我等大精霊の力を強制的に使う者は現れなくなった訳だな』

「ええ、そうですね」

 ムルキベルは知らないが、天変地異を引き起こす禁呪魔導書は、後はカオリのカメラアイの記憶内だけとなった。
 これは、彼女を知るエアリエルは黙認している。
 それは無論、彼女が悪用しないと信じているからだ。

『また大精霊同士で集う機会を作ろうぞと、エアリエルに伝えておいてくれ』

「分かりました」

 アシヤは、ムルキベルの土産(ドラゴン肉)を受け取り、モーントガルテンへと帰国した。
 すると、アラヤに気付いたカオリが寄ってきた。

「大丈夫だった?」

「うん、カオリさんが記憶している事は知らないみたいだった。知っていたとしても、ムルキベル様も、エアリエルみたいに悪用しないと信じてくれるさ」

「カメラアイで覚えた事は、忘れたくても忘れられないのよね…。コレは、私が墓場まで持って行くしかないわ」

 技能スキルとしてのカメラアイには容量に限界が無い。
 絶えず情報整理している脳とは別に記憶しているらしい。

「ああ、そういえばアヤコさんが、帰ったなら直ぐに管制室に来てと言っていたわよ?」

「なんだろう?」

「ゴーモラから通信が来たって言ってたわ」

 アラヤが管制室へと向かうと、入れ替わるようにしてカオリの下にアシヤがやって来た。

「大丈夫だったんだね?良かった」

「ええ。自衛策として覚えたことだけど、いざ私だけが使えるとなると、怖くてしょうがないわ」

「地下通路で禁呪魔導書をしばらく保有していたドワーフは、言語理解持ちじゃなくて解読に時間が掛かった上に、内容を理解しても悪用しようと考える奴じゃなかった。書き写しも暗記もしていないようだから、彼の事も放置して大丈夫だろうね」

 アシヤ達は、店主のドワーフをマンモンから救った後、彼がどこまで禁呪魔導書の危険性を理解しているかを確認していた。

「だけどそもそも、禁呪魔導書を作り出した奴って、どんな奴だったんだろう?」

「私が思うに、巫女だったと推測しているの。キッカケは分からないけれど、使われている術式には必ず精霊言語が含まれている。つまりは加護を得ていた人物。ただ、どんな接点があったか分からないけど、悪魔の呪詛言語まで入っているの。…魔導書には、厄災の悪魔の詳細と召喚方法も記載されている。其れ等を踏まえると、祭壇を利用した召喚方法を思い付くのは、神殿に近しい者に限られているもの」

 禁呪は、属性魔法術式、精霊言語術式、呪詛言語術式の3つ以上の複合魔法であるらしい。
 太古に、其れ等を持ち合わせていた者を考えれば、当時の巫女、即ち魔王ということになるだろう。

「そうかもね。でもまぁ、7つの神殿に支えていた巫女が、それぞれに作ったとは考えられないけど…。対抗策として作り合ったならあり得るのかな?」

「さぁね。どちらにせよ、後世にはいい迷惑だったって事よ。でも、それも今日で終わったわけよね?」

「そうだね」

 アシヤの返した笑顔に、カオリはこの時少しだけ違和感を感じた。

「アシヤ殿、準備が終わりました」

 そこに、ベルフェル司教が現れた。

「何処か行くの?」

「うん。彼と今から、大罪教教皇様の下に禁呪魔導書消滅の報告にね?」

 アシヤはそう言って、ベルフェル司教と共に出て行った。
 身柄が捕虜扱い(戦犯)のダフネも連れて、3人はこの後姿を消したのだった。

 丁度来たゴーモラからの通信で後回しになっていたが、3人の行方は分からないまま、忽然と消息が途絶えてしまったのだ。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


『私の大気感知にも、アラヤの水中感知にも反応は無い。きっと何らかの理由で気配を完全に消しているのだろう。仮にも貴方の分身体だ。無事でいる事は間違いないだろう』

 エアリエルは、心配し過ぎるなとアラヤを後ろから優しくハグする。
 確かに、ステータスは落ちているとはいえ、自分の分身体が事件に巻き込まれたくらいで負けるとは思えない。
 となると、3人は何らかの理由で姿を隠している説が1番正しい気がする。

『今は、ネガトの結婚を祝う事を優先したらどうだ?』

 確かに、エアリエルの言う通りだ。方法は違うとはいえ、彼等は自分から生み出された同じ分身体だ。

「そうだね。今はヌル虚無教団の様な脅威的な存在はいないから、アシヤ達なら大丈夫だろうね。彼等を探すのは、ネガトをちゃんと祝ってからにするよ」

 アラヤは衣装を正し、ゆっくりと振り返る。

「うん、花嫁より目立ってしまう事、間違い無しだね?」

 気持ちを切り替えたアラヤは、ようやくエアリエルの新しいドレス姿をじっくりと鑑賞できたのだった。
 
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...