1 / 50
第1章 チュートリアル編
第1話 これはプロローグであり初戦闘であり①
しおりを挟む気がつけば、俺は眠っていた。
体は鉛のように重い。まぶたを開くことさえ出来ない。
何故自分が“ここにいる”のかだろう。自分は一体何者なのだろう。それさえも分からない。
どうやら記憶が混濁しているようだと理解する。
俺は記憶の糸を手繰ろうと頭を働かせた。
――キィィィィィ!!! ガシャン!!!
耳障りな音と、腹部に感じる温かい生き物の存在。そして全身を襲う強烈な痛み。
そういえばと、俺は俺の最期を思い出した。
俺は野良猫が道路に飛び出すのを見て、それを庇おうとしたのだ。しくじった。最悪だ。なんて無様な最期なのだろう。
自分に呆れながらも、体を張って守った猫は無事だったのだろうかと思案する。死んでしまった俺には分からない事だが、無事でいてほしいと心の中で小さく願った。
そんなことを考えていると、なにやら誰かが近づいてくるような気配を覚える。
体をぴくりとも動かすことのできない俺はただ目をつむり、その誰かをひっそりと待つことしか出来なかった。
『死んでしまったか……そうか』
近くにきたのは男のようだ。低く、同時に不思議と威厳を感じさせるような声色をしている。
『なんて満足気な顔なんだ。人生が終わってしまったというのに』
――あれ? この人、俺のこと心配してる?
その人の声に悲哀とやり切れなさが含まれているのを感じ取った。男は言葉を続ける。
『動物一匹を庇うとは、実にお前らしいな』
――ああ、俺は動物大好きだ! 当たり前じゃないか! ……というか生き物は素晴らしい! 愛らしくて見目麗しくてモフモフでフワフワでときにはキモカワのやつもいて……断言する。生き物は人間の百倍は魅力的だ! ま、そういう人間だって生き物なんだけどな……と、いけないいけない。あっちの世界にトリップしてたわ。
『仕方ない……これでお前の人生が終わってしまうとたいうのも癪だ。ゆえに次の転生……いや転移先は私が直々に厳選したものにしよう』
――お、そうですか。ご苦労様です。それはありがたい! ……って一体あなたは誰だ!! …………まあこの声も全く届かないんだろうけどな!!
『それでは、次の人生に幸あれ!! 《転移》』
声とともに、俺の意識は深く深く沈んでいく。
どこへいくのか分からない。けれど、俺のこれからの命運を左右する人物に何故だか温かさを覚え、不思議と心は安心している。
そして意識はぷつりと途切れた。
○
「んんっ」
俺は身じろぎした。
頰になにか違和感を覚える。温かい。けれど――なにやら獣臭い。いや、俺の中でそれは最高の褒め言葉なんだけどさ!
俺は頰に温もりを感じながら、意識を浮上させた。
ゆっくりと目を開く。
「うっ……」
俺は体を動かそうとした。
だが、体全体が驚くほど自由に動かない。まるで数ヶ月間入院して、ベッドから動けなかったときのようだ。いや、それよりも酷い。
「体いってぇ」
ゆっくりと体に力を入れ、ようやく起きがることができた。
周囲の様子を探ろうと、寝起きの回らない頭で状況整理に励もうとする。
そこは森だった。光がほとんど届かない鬱蒼とした森。
見たことのない木がたくさん。それも摩訶不思議なほどの巨大な。
俺を包み込むようかのように緑色の柔らかな植物が生えている。これのおかげで今着用中の白パーカーと黒のスキニーパンツはほとんど汚れていなかった。感謝感激だ。
そして取り囲むように周りには目に優しくないド派手な植物が生え、巨大化した可憐とは程遠い花々が咲いている。
「なんじゃここ……」
初めてみる鮮烈な光景に俺は目を見張った。
これは――これはもしや日本ではない? アマゾンの中とか? いや、だけど俺は海外旅行に行った記憶もないし。もしかして誘拐? いやいや、それこそ誘拐ならなんでこんな人気のない森の中に寝てる? 見張りもいないし。
全身に冷や汗をかく。手汗もやばい。
訳も分からない状況に唾を飲み込んだ。
「にゃーお」
突然、なにやら猫の鳴き声が聞こえ、そういえばずっと頰に生き物の温もりを感じていたということを思い出す。
振り向くと、そこには真っ白な可愛らしい猫がいた。
俺はその瞬間、まるで雷が落ちたかのような錯覚に陥った。それほど強烈な出会いだった。
なにこいつ……可愛すぎる!! この愛くるしいモフモフ様!! あっ! こいつオッドアイなんだ……薄めの青と琥珀色か! キレーだなぁ。真っ白で毛並みも最高すぎる。…………おおっと。またまた暴走してしまった。
俺は反射のようにその白猫をモフモフとしてしまっていた。いくら可愛らしくても、いきなり言葉なくモフモフするのは失礼だ。そう考え、泣く泣く両手を引っ込める。猫は警戒心が強いことは周知の事実のはずなのに、この湧き上がる衝動を抑え込むことは出来なかった。一生の不覚だ。
「みゃー!」
おっ! いいのか……もっとモフモフして!
けれど白猫はもっと撫でてほしいと言わんばかりに体を擦り付けてくる。なんて優しいやつなんだ!
俺は鼻息を荒くし、それを思う存分堪能した。
「ふぅー! ありがとう白猫さま。このモフモフを糧に、力強く生きていきます」
ようやく興奮が落ち着いた俺は、冷静になろうともう一度周囲を見渡す。そして目の前の白猫に視線を移した。
俺は微かだが、こいつに見覚えがある。
もっと薄汚れていて瞳はオッドアイではなかったけれど、俺が動物を見間違えるはずがない。
なにせ俺は全国動物らぶらぶ愛好会ナンバー31にて、創立者のひとり。そして大学では動物愛護サークルにて部長を務めていたのだ! ……まぁ、それがすごいのかどうかは各々の判断に任せる。だが、そんな生き物大好きな俺が見間違えるはずがない!
「お前、俺が道路で庇った猫か?」
「にゃー」
白猫はそうだと言わんばかりににペロペロと俺の手の甲を舐め始める。可愛いくて鼻血が出そうだ。
それがきっかけで突然、濁流のように記憶が流れ込んでくる。蘇ったという方が近いだろうか。
俺は野良猫を庇って車に轢かれた。
そして何やらよく分からん男によって、ここに《転移》させられた。
俺は死んだのか? でも体は無事だ。……いやいや! 無事なのはそれこそおかしいだろう! 普通なら事故で全身包帯まみれになって病院のベッドに寝ているくらいの重症、いや重体じゃないのか!
動作のぎこちなさとか、多少のだるさは感じているがおかしすぎる。
ツッコミどころの多さに辟易してくるぞ……。
「そうだ……なにか持ち物とかないか?」
俺はあらゆるポケットという名のポケットに手を突っ込む。とは言ってもスキニーパンツとパーカーくらいしか付いていないのだが。
そしてパーカーの前ポケットには小さく折りたたまれた紙が入っていた。
「なんだこれ? 噛み終わったガムを包んだ紙か?」
一見ゴミのように見えるそれを開く。
そこには日本語で文字が書かれていた。どうやら手紙のようだ。
『この手紙を見ているお前へ。
この世界はお前に相応しいと思い、勝手に転移させることにした。ああ、お前は死んだんだから文句は言わせん!
だが……ただ、一つ問題がある。その世界は私のいる場所から遠く離れすぎているせいか、上手く座標を固定して転移させることができん。だがら、変な場所に飛ばされたらごめん!
そうそう、だからと言うわけじゃないがいくつか生きやすいように特典? みたいなのをつけておいた。上手く使え!
それじゃあ、また会おう』
0
あなたにおすすめの小説
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる