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第1章 チュートリアル編
第1話 これはプロローグであり初戦闘であり②
しおりを挟む…………なんだこれ。やけに親しみを感じさせる手紙だな。名前も一切書かれてないし、これを書いたのは俺の家族か? それとも友達なんか? まあ恐らく俺を《転移》させたやつだろうと思うが。……もうどうでもよくなってきた。答えが出ないことを考えるのは疲れる。
見るものが見れば腹立たしく思うかもしれないが、俺はやけに落ち着いていた。やはり不思議と手紙を書いた人物に親近感さえ覚え始めている。
「まぁしゃない。起こってしまったことは変えられないし、これからどうするか考えないとな」
「にゃーお!」
「おしおし、お前も一緒に考えてくれるのか!! 偉いな賢いな!」
俺は白猫をモフモフする。
「そういえば、お前名前はあるのか? ……ってか俺、名前…………なんだっけ?」
「みゃー?」
俺はなぜか俺の名前を忘れていることに気がついた。
どういうことだ? いきていた頃の記憶は……所々抜けてるけどあるにはある。だけど、名前が思い出せん。転移してそこだけ抜けたのか?
「まぁいいか。俺は俺だし、この世界で新しい名前をつければいい」
「みゃーおっ!」
「そうかそうか。お前も名前が欲しいか…………って普通に会話っぽいのしてたけど、さっきからなんでこいつの考えてることが分かるんだ? なんでやねん」
俺はテンプレ的な一人ツッコミを入れる。
やけに虚しさを覚えた。冷たい風が背筋を通り抜けた気がする。
「これも手紙の主の特典ってやつか? 便利で素晴らしいな」
「にゃ」
白猫も同意するかのように胡座をかいた俺の太ももに顔を擦り付ける。
愛くるしいその姿に俺は頬を緩ませ、優しく背を撫でた。
「そうだな……お前に相応しい名前、つけないとな。なにがいいか」
俺が安心して悩んでいると、ふと、嫌な気配を覚えた。薄ら寒くなるような空気に白猫を抱え、立ち上がる。
――ズドン!!
いきなり大きな地響きが聞こえ、大地が揺れる。
なにか恐ろしく、そしてありえないものが近づいてくるのを感じた。
俺は“それ”の気配のする方に体を向け、警戒する。
訳も分からない湧き上がる恐怖を覚えながらも立ち上がっていられるのは、手元で震える己よりも小さな白猫がいたからだった。
「ヴォォォォ!!」
鳴き声とともに姿を現したのは――全身真っ白な毛に覆われた猿のような“バケモノ”だった。3メートルはゆうに超えているように見える。
「なっ……あ、あれは……なんだ」
俺は目の前の非現実的な生き物に対し、恐怖で体を竦ませる。そのバケモノは俺の記憶が確かであれば、まるで地球上でいう『イエティ』のようだった。
いや、イエティは雪の中で目撃されてる生き物だ。ここは見た限りでは森の中である。
イエティは雪に隠れるため白い体毛をしていると考えていたのに。こんな森の中じゃ逆に目立つじゃないか!
……とまぁ、俺は混乱と恐怖でおかしなことを考えていた。
「……って、うぁわぁ!!」
そのイエティのようなバケモノは右手に持っていた俺の身長程は確実にあるバトルアックスを俺たちに向けて大きく振りかざす。
それを間一髪避け、地面に転がる。
「な、なんでイエティがバトルアックス持ってるんだよ……ありえねぇ」
元いた地面を見ると、バトルアックスの刃が見えなくなるほど深く突き刺さっていた。それを見て、俺は顔を青ざめさせる。
「これ、積んでね? あはは」
「み、みゃーお」
から笑いを浮かべると、腕の中の白猫が励ますかのように鳴いた。
避けたときに転がった俺は、未だ腰が抜けて立つことが出来ない。
その隙にイエティもどきは地面に突き刺さったバトルアックスを抜き、俺に体を向けた。絶体絶命、大ピンチ。それなのに、震える体は言うことを聞かない。
「く、くそ……お前は逃げろ」
「にゃー」
「逃げろって!」
バケモノは一歩また一歩と近づいてくる。
白猫の体を掴んで逃がそうとするが、当の猫本人は絶対嫌だと言わんばかりに爪を立ててしがみつく。
そんな小さな攻防をしているうちに、イエティもどきは俺たちの目の前に来ていた。
頭の中で過ぎるジ・エンドの文字。
俺はせめて腕の中の小さな命を守ろうと全身で白猫を覆った。
だがその猫は俺の体をするりも抜け出し、バケモノの目の前に立つ。威嚇のつもりか尻尾が立ち、毛が逆立つ。
イエティもどきは白猫に視線を移し、大きなバトルアックスを振り上げた。
「や、やめろおお!!」
その瞬間。
「みゃーーーーお」
白猫は今までで一番大きく鳴いた。いや、吠えたという方がニュアンス的に近いかもしれない。
俺はなぜか、空気が揺れているかのような錯覚に陥った。
イエティもどきはまるで彫刻のように動きを止めていた。白猫の鳴き声によって攻撃されたように見え、それはまるで魔法のようだった。
「え……あっ……い、今のうちに逃げよう!」
俺は白猫を持ち上げようとするが、猫自身はそれを拒否するかのように暴れる。
「どうしたんだ! はやく行こう」
「にゃお……」
「なんだと……この場を離れられないって? 攻撃したから逃走を選べない? どういうことだ……」
悩んでいる暇はない。俺はそう思った。
この膠着状態がいつまで続くのか分からないが、永遠ではないのは確かだろう。もしかして白猫に負担を強いる力なのかもしれないのだ。
だが、どうする。逃げない白猫を置いて一人で逃げる? ……ありえない。そんなんじゃ全国動物らぶらぶ愛好会ナンバー31の名が廃る!
「く、くっそおおお!!!」
俺は意を決して硬直したイエティもどきにタックルを仕掛けた。身長差がありすぎて、不恰好に違いないだろう。格闘技なんて全く習ったことはない。TVでみたオリンピック金メダリストの動きを真似るだけの素人臭い動きだった――が。
――ズドン!!
まるで小学生、しかも低学年の子どもにタックルを仕掛けたかのように、バケモノの体はいとも容易く地面に叩きつけられた。
「あ、あれ? なんかめちゃ軽い?」
俺も175くらいの身長はあるはずだか、目の前のバケモノはその二倍近くはあったはずだ。それなのに、こんな紙切れのようにぶっ倒れることなんてあるんだろうか?
けれどもう一度気を引き締める。
こんな攻撃では、目の前のバケモノを倒すことなんて出来ない。
俺はタックルの際にバケモノの手を離れたバトルアックスを手の届かない場所へ移動させるべきだと思った。
急いで武器を掴むと、驚愕の表情を浮かべる。
「……か、軽い。なんじゃこりゃ……本当にバトルアックスなのか?」
俺自身の身長は軽く超えるその武器は、まるで発泡スチロールで出来ているかと思うほど軽い。軽すぎる。絶対におかしい。
俺が不可思議な状況に頭を捻りながらバトルアックスを両手で持っていると、後ろでイエティもどきが動き始めた。
心臓が跳ね、急いで視線を白猫に向ける。猫は「みゃー」と申し訳なさそうに鳴き、パタパタと俺の足元に走ってきた。
「ははっ……よくやったな。大丈夫。……俺がこいつをーー絶対倒す。倒してやる!! そして隙があればちょっとだけイエティもどきの毛皮をモフモフして、生態を調べ尽くしてやる!」
心は不思議と凪いでいた。攻撃を一度仕掛けて、箍が外れたのかもしれない。
俺はバトルアックスを右手で持ち、今にも飛びかかってきそうなバケモノに相対する。
「ヴオオオォォォォ!!!!!」
「このおおおおお!!!」
突進してきたバケモノに向かって俺も突撃をかけ、右手のバトルアックスをその巨体に向かって振り下ろした。一瞬、イエティもどきが楽々と巨大な武器を扱う俺に怯んだように見えた。
ぐさりと巨体に刃が沈むが、この程度では致命傷にもならないだろう。けれど、巨体を傷つけられたイエティもどきは痛みのせいか苦しげな鳴き声を上げた。
俺の胸は密かに苦しさを訴えた。生き物を痛めつけているという事実に。
もう一度、バトルアックスを振り上げ、そして下ろす。肩、腹、顔、手足。何度も振るい傷をつけたところで、ようやくバケモノは小さく唸り声を上げ、巨体を地面に沈めた。
「ごめんな……」
明らかに殺意を向けてきたバケモノだった。けれど、生き物を手にかけたのは初めてで――。
「……みゃーお」
白猫は小さく鳴いた。
息絶え絶えのイエティもどきを見下ろしていると、やがてそれは息を引き取った。
俺は血のついた武器を近くに投げ捨てる。
すると突然。
その巨体から黒いもやが溢れ、そしてイエティもどきを包み込み始めた。それはどんどん広がりらバケモノ自身が持っていたバトルアックスさえも飲み込む。
「……え、なに」
俺は少しだけたじろいだ。呆然とその光景を眺めていると、まるで空気に溶けてしまったかのように巨体は消えてなくなった。
ありえない……今まで目の前にあったはずなのに、こんなにあっさり消えたよ。こんなの普通じゃねえ! それに…………モフモフ出来なかったな。まあ死体だけど……でもあの毛皮……あああ。
「……これは紛れもなく異世界だ。そうじゃなきゃ、ありえねえ……」
「にゃあ」
俺は軽く落ち込みながらも、イエティもどきのいた場所に目を向ける。
「あれ? なんだ?」
そこには消えたはずのバトルアックスと、よく分からない紙のようなものが落ちていた。
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