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第2章
第1話 その管理者の頼みとは
しおりを挟む部屋の中には警戒心を露わにして毛を逆立てているミーコ。
そして、その隣で俺は困惑した面持ちをしていた。
「――欲しいスキルって言っても、いきなり思いつかないですよ……。第一、どんなスキルがあるのかも分からないのに」
『ああ、パーカー様は知らないのですね。取得できるスキルにどんなものがあるのか。……確か、モンスター専用のスキルばかりを取得なさっていましたよね?』
ベラベリアンは、柔らかな声色で尋ねてくる。
先ほどの脅迫のときから変わらないその声は、余計に恐ろしさを助長させる。
俺はぶるりと体を震わせながら口を開いた。
「え、ええ。なぜか分からないんですけど、人間用の四文字スキルじゃなくて……これ、どうしてなんでしょうか」
ベラベリアンが知っていることに一縷の望みをかけて聞いてみる。
すると――。
『簡単ですよ。全てあいつーーパーカー様を転移した男の仕組んだことです。なにかあの人に与えられませんでしたか? スキルや記憶……あとはギフトなど』
……なんとなく思ってたんだけどもしかして彼女、俺を転移させた男のことめっちゃ嫌ってないか。
言葉の節々に棘を感じるし。
「あ、はい。なんか固有ギフトで《魔物大好き》っていうものを貰いました。……これ、どんな効果がわからないんです」
『《魔物大好き》ですか。聞いたことのないギフトですね。スキルボードで調べてみましたか?』
「……スキルと同じように詳細わかるかなと思って文字をタップしてみました。でも、全然反応しなくて。……普通は反応するものなんですか?」
『そうですね。この世界はそういう仕組みになっているので、反応しないはずはないんですが。……それだけパーカー様のスキルが人並みはずれた――人智を超えたものなんでしょう』
ベラベリアンは複雑な心境を滲ませるよう、小さくため息みつく。
『さて、それは置いておき。パーカー様のスキルは固有ギフトによってモンスター専用のものばかり与えられています。よってここは、人間専用のスキルをお求めになればよろしいのではないでしょうか?』
「人間専用のスキル……」
『はい。簡単なことです。あなたは今、何が欲しいですか。何が必要ですか。……そこから考えれば、おのずとうってつけなスキルが見つかるでしょう』
……結局のところ、どんなスキルがあるのか教えてはくれないようだ。
スキル一覧なんて出してくれればいいのに。
いっそ、スキルを知るスキルでも頼もうか。
俺はそんなことを思っていたが、偶発的に自分が欲しいと思っていた能力を思いつく。
「……アイテムボックス。俺、アイテムボックス的なやつが欲しいです。なんかありませんか? そういうスキル」
そう。
俺が異世界に来て不便だと感じたことの一つ――取得アイテムの管理が思った以上に大変だということだ。
俺は今、家を持っていない。
日本で言えば、住居不定だ。なにせ、宿屋暮らしなのだから。……テイマーなので無職じゃないところだけは救いだな。
家があれば、そこに保管しておくという手もある。
だが仮住まいの宿屋で、しかもはっきり言えば広くはない部屋。
ものを置くスペースは限られている。
それならばいっそ、自分専用の倉庫ともいえるアイテムボックスがあればと考えたのだ。
『アイテムボックス……ああ、この世界でいう《空間収容》のことですね。《空間収容》は人間専用のスキルの中でもレア度は高めです。よって、この場で得られるスキルとしては最適ではないかと思います』
「そうなんですね! よかった。それなら《空間収容》のスキルでお願いします」
そう俺が告げると、ベラベリアンは『分かりました』と口にする。
そしてその途端、いつものスキル獲得と同じように天から光が差し込む。……屋内なので、正しくは天井からなのだけれど。
『はい、終わりました。パーカー様。ステータスボードのご確認をお願い致します』
「あ、は、はい」
俺は急いでステータスボードを呼び出し、中身の確認をした。
・・・
識別No.4548714【パーカー】
固有ギフト:魔物大好き
スキル一覧:《怪力》《瞬足》《挑発》《強堅》《空間収容》
・・・
「お、おお! 増えてますね。……やっと俺は、人間のスキルを手に入れたんだ」
なんだか感慨深いものがある。
モンスターから脱却とはいかないが、少しだけ人類に近づけたような気持ちになった。
俺はそんなは自分の進化に歓喜し、打ち震える
「うおおおお!」と叫びながら、両手を上に突き上げた。
『……えっと、おめでとうございます……?』
ベラベリアンは困惑した様子の口調で祝いの言葉を告げた。
なんだか少しだけ羞恥心を覚えた俺は、軽く咳をしたあとに喋り始める。
「……あ、えーっと。こちらこそ、新しいスキルをありがとうございます。早速これから利用させてもらおうと思います」
『そうですね。スキルは利用できるときは最大限に利用すべきだと思います。パーカー様の住んでいた地球にはない力で、最初は使用も大変だとは思いますが。慣れるまで、ガンガン使っていってください』
俺は同意するように「はい」と口に出した。
『……さて。この話はここでおしまいに致しましょう。早速なのですが、パーカー様に仕事の依頼をさせてもらいます。――大丈夫ですか?』
……ぶっちゃけ大丈夫じゃないと叫びたい。
大変な出来事に巻き込まれたくはない。
諦めの悪い自分の心にうんざりとする。
だが、スキルも与えてもらったのだし、もう受ける道しか残されていないのだ!
「…………はい。それで……その依頼ってのは?」
俺はおそるおそる尋ねた。
声はひどく緊張している。
ベラベリアンはそんな俺の心の機微を悟ることもなく、淡々と依頼の内容を告げた。
『セントラルダンジョン――あそこの5階層に行って、異常の確認をしてきていただきたいのです』
「異常の……確認?」
『ええ。……近頃、今言った箇所に何かしらの変異、そしてイレギュラーが発生しているようなのです。このまま放っておいても構わないのですが、せっかく手足を得たのですから利用しない手はありません。重箱の隅をつつくようなことではあるかもしれませんが』
「あ、はい……そうですか……」
この人、はっきり俺のこと手足だって言ったぞ!
訂正させてくれ。ベラベリアンさんは物腰柔らかなように思えるが、やはり限りなく自分本位な人だ!
敬語で話しているからって侮ると大変なことになるタイプ。
そして……敵に回すと意外と粘着質そうで、面倒だろうな。そんな予感がした。
俺は逆らえない自分を苦々しく思いながら、聞き流すことにする。
「さっきギルドで聞いたばかりなんですけど……セントラルダンジョンの5階層って、たしかB級昇格をかけてC級の人が挑む場所ですよね」
『そうですけれど、一体何か?』
「あの、ベラベリアンさんには申し訳ないんですけど、俺まだG級になりたての下級も下級で。B級って上級テイマーだって聞きましたし、世界で上級テイマー自体20人ほどしかいないらしいですし……今は精神的余裕もないですし……今はちょっと難しいっていうか……その」
『――大丈夫です』
ごにょごにょと呟く俺を遮るように、ベラベリアンは断言した。
俺はその声に冷やっとする。なにか嫌な予感を感じ取ったからだった。
『パーカー様の実力なら、ダンジョン5階層まですいすいいけるはずです。……まあ、目の前で実力を見させてもらったことはありませんけど。あの男が贈った固有ギフトがあるのなら、どうにかなるはずです』
「いや……そんな風に決めつけられても――」
いきなりダンジョン5階層目指せって言われたても、こっちは困るわ!
夢はおっきくとかいうけど俺は堅実に一歩一歩堅実に歩きたい派閥の人間なのだ。
大まかな理想を叶えれる自信は今の所ない!
声を大にして主張させてもらいたいが、あいにくと相手は顔も見えない上司。(一応、雇用され始めたからな)
小心者の俺は面と向かって対峙する意思は持てなかった。……俺、穏健派で波風立てたくないタイプだし。
そんな女々しい俺の様子を見かねた――いや、聞きかねたベラベリアンは痺れを切らしたようだった。
次の瞬間、俺の顔は血の気が引くこととなる。
『どうにか出来ないんですか? ――それならいっそ消滅、してみます?』
…………。
「イエ、ダイジョウブ。オレ、ダンジョンコウリャク……デキル。マカセテオイテ」
……俺はやっぱり巨大権力とやらに弱いのだと実感した。
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