魔物大好き《モンスターマニア》は気づけば華麗にモフモフ天下無双していました

王子様の白馬

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第2章

第4話 赤い玉と危ない女店主

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 異世界に来て三日目の朝。
 その日は雲ひとつない晴天だった。
 俺は寝起きの頭をしゃっきりとさせるため、手洗い場へと階段を降りていく。

「あっ! パーカーさん、ちょっと!!」
「……へ? あ、女将さん。おはようございます」
「おはようって呑気に挨拶してる場合じゃないですよ!」

 女将さんはいつもの落ち着いた雰囲気(?)は何処いずこへ、慌ただしい様子で話しかけてくる。

 ……ん? そんなに慌てること、なんかあったか?

 俺は楽観的な考えのまま、頰をぽりぽりと掻いた。
 女将さんは呆れた様子で腰に手を当て、大きく息をつく。

「ほら、これ! 今日の一面ですよ。しっかりと目に焼き付けておいてくださいね」
「え、えーっと」

 目の前に突きつけられたのは、どうやら新聞のようだった。
 日本のもののように細かい記事が載っているわけではなく、大きな話題がいくつか掲載されているようだ。

 ……なんか、嫌な予感。俺、何か忘れてる……。

 俺は新聞に顔を近づける。

【ラフェール超えの新星現る!その名もパーカー!】

「…………」
「ほらね、呑気にしてる場合じゃないでしょう?」
「……………………はい」

 俺は小さく返事を返す。

 わ、忘れてたああああああ!
 そういえば昨日、ドリルが言ってたんだった! 明日の新聞の一面はお前かもなって。

「……っこれ、どこの地域に配布されてるものなんですか? 一部の宿屋だけ、ですよね?」

 強張った顔で恐る恐る尋ねる。

「なあにを言っているんですか! この新聞はセントラルバーンで一番の新聞社のものですよ。当然、セントラルバーンだけじゃなく、他の都市にだって配布されるに決まっているでしょう。全国配布ですよ」

 まるで死刑宣告のような言葉。
 俺はその瞬間、顎が外れそうなほど大きく口を開けていた。……相当間抜け面だろう。

 だが、今はそんなことどうでも良い。なりふり構ってはいられないのだ。

「俺、どこかに雲隠れしなきゃ……」
「雲隠れなんてどこへいく気だい、パーカーさん? この新聞は全国配布のものだって言っただろう? 隠れることができる場所なんて、果ての村かモンスターがうろうろいる所くらいしかないですよ」
「…………そうですか。……あ、顔写真は出てないんだし意外と分からないものですよね……そうですよ、うん」

 ひとりでに相槌を打ち、納得している俺を横目で見る女将さん。

「……パーカーなんて珍しい名前の人間が他にいるとは思えませんけどねえ。それに、あんたはテイマーになりにわざわざ田舎から来たんでしょう? 今更郷里に帰るわけにもいかないんでしょ。諦めて、受け入れなさいな」

 女将さんの指摘は正しいものだった。
 俺はもう、この道を受け入れる他にないのだ。

「……はぁ。そう、ですよね。前向きに行かないと。そこそこポジティブなのが俺の唯一の取り柄なのに。そうだよ、少しだけ名前が知られたぐらいでどうにかなるもんじゃないし!うん、大丈夫。俺は出来る子」

 そう声に出すと、少しだけ力が湧いてきた気がする。
 女将さんは微笑ましそうに俺を見守っているのだった。





 俺は素材屋の目の前に立っていた。
 荷物は全て手持ちのショルダーバッグの中に入れてきている。
 ただ、クレイジーナポリタンの剣だけは入らないため、己の手で柄を握りしめていた。

「……んじゃ、行くとするか」

 こくりと唾を飲み、決心してから店の中へと足を踏み入れる。

 ちりん、と鈴の音がする。
 扉についている出入りを知らせるベルだろう。

「あのー……お邪魔します……」

 のそりのそりと、まるで泥棒のごとく歩きながら、一昨日きたばかりの店内を見渡した。

 客らしき人間が6名ほどいた。
 みな一様に売り物を吟味しているようすだ。

 と、そこへ、聞き覚えのあるハスキーボイスが耳に届いた。

「あらあら! あんた、パーカーじゃないか!」
「……えっ! あ……ケーリィさん。一昨日ぶりです」
「新聞みたよ。あれ、あんただよね?パーカーなんてくそマイナーな名前、ほかに聞き覚えもないしね」
「……はい」

 あいかわらず気配もなく声をかけてきたのはケーリィだった。
 俺は苦虫を噛み潰したような面持ちで対応した。

 ……やっぱり知ってんのかよっ! いかにも新聞とか読まなさそうなタイプなのに……。

 そんな失礼なことを考えていると、ケーリィは続ける。

「すごいねぇ……テイマー認定クエストの最高記録保持者! ……あたし、びっくらたまげだよ」
「……あ、ありがとうございます」
「どーお? インタビューとか来たら、素材屋のケーリィが師匠なんですって言ってもいーのよ?」

 俺は、あははとから笑いをした。

 ……んな嘘ついて、なんの特になるんだよ。
 というかこの人、相当曲者なんじゃないか? 全然気配感じ取れなかったんだけど!
 只者ではなさそうだ……。

 ケーリィはニヤニヤとからかうような表情で、俺を見ていた。
 新聞の一面に載るという目立つ行動をしてしまったためか(意図的ではなのに!)、ケーリィの興味を引いてしまったようだ。

 ……俺はどうやら弄りターゲットとして捕捉されてしまったらしい。
 これからの俺の苦労と心労が予想できる。

 思わず精神に多大な傷を負った敗者のような気持ちで、己を奮い立たせて無理やり言葉を紡ぐ。

「……えっとそれより、これを売りたいんですけど」

 俺はずるずると長引きそうな話を打ち切るように、ショルダーバッグと剣を机の上に乗せた。

 本来ならスキル《空間収納》で異空間から物を出し入れ出来るが、やめておくことにした。
 人間用のスキルとは言えど不用意に他人に見せるものではないからだ。

「はいはい、分かったよ。期待の新星パーカーの坊やが頼むんだから、仕方ないねぇ」
「俺、坊やじゃないですから! もう21で、とっくに成人してますから!」

 ケーリィは俺の置いたバッグからドロップアイテムを取り出し、鑑定を始める。
 懐にしまっていたらしき鑑定用のゴーグルでアイテムのチェックを行う。
 それと同時に口も動かしていた。

「へえ、そうなのかい。てっきりクリスの坊やと同じくらいの歳だと思ってたよ。21ならあたしと3つしか変わらないな」
「…………え」

 俺と3つしか変わらない。

 どう見ても俺より年上なことは確定だから……ケーリィは24歳ってことだ。

 年相応な見た目にも見えるが、姐さんの風格から考えれば……もっと年上にも見える。本人には絶対言えないけどな!

「この量ならもうあと10分くらいかかるかもね。自由に店内でも見ときな。まあ、このまま私と話していてもいいけど」
「いえ、店内を見させてもらいます」
「……そんなに怯えなくても、とって食ったりしねえよ!」

 ケーリィはガハガハと豪快に笑って、次の鑑定アイテムを手にとっていた。

 俺は引きつった笑いを浮かべながら、そそくさとその場から離れた。

 ――。

 ――――。


「合計――27,500ルブだね」

 ケーリィは俺の渡したドロップアイテムは机の上に満遍なく広げられている。
 彼女は赤い髪を掻き上げながら言った。

「おっ! 結構儲かったな! これで一週間分の宿代が一気に払える」
「……パーカー、あんたさ……これってテイマー認定クエストで狩ったモンスターのドロップアイテム?」
「はい、そうですけど……」
「この量を、1時間でってこと?」
「ええ」

 そう答えると、まるで化け物でも見るような目で俺を見つめるケーリィ。

 ……ちょ、視線が痛い! やめてくれ、そんな風にじっと見つめるのは……照れるわっ!

 俺のガラスの心臓は、(狂人だが)美人であるケーリィにじっと見つめられてドキドキと早鐘を打っている。

 そんな風にトンチンカンとも言わざるを得ない俺の様子を見て、ケーリィは長いため息をついていた。

「………………選ばれし子は、やっぱり違うね」
「…………え?」

 ケーリィが何を口にしたのかはいまいち聞こえなかった。
 俺は疑問をぶつけるように彼女に視線を向ける。

「……なんでもないよ。あ、そうだ。アイテムの値段の詳細聞いていくか? それとも、紙に書いて渡すかい?」

 何か言っていたのだろうか、聞き返すのも面倒で。
 それになんとなくだけれど、聞いても意味がないような気がしたから。

 俺は頭を掻きながら答える。

「値段聞いても分からないので、紙でいいです。……そうだ、そういえばそのってなんなんですか? 種類の違うモンスターから同じものがドロップしているんですけど……」

 このビー玉のような赤い玉を見てからずっと思っていたのだ。――これはなにかありそうだと。

 ケーリィは「ああ」と頷いたあと、俺の疑問に返答した。


「これはモンスターの生命石せいめいせきだよ。強いモンスターになればなるほど大きくなる」


「生命石、ですか」
「そう。なかなかドロップ確率も低いから、このサイズで2,000ルブの値段をつけたよ」
「……こんな小さな石で2,000ルブ……あまり高そうには見えないのに、そこそこの値段するんですね」

 これ一個で宿一泊分だ。
 それを考えれば結構いい値段で買い取ってもらえたような気持ちになる。

「これはエネルギーの塊だから、いろんな場面で使われるからね」

 ビー玉のような赤い玉がケーリィの手の中でキラリと輝いている。
 俺はそれをじっと見つめた。

「モンスターの中だと比較的人に近い形状のやつが落としやすい。二足歩行で武器を使用する――そうだな、例えば……ゴブリンやコボルト。あとは少し強くなるとオーガやオークなんかもドロップしやすいか」
「……へえ」

 うわあ! 異世界定番のモンスターだよな、それって!

 俺の心はファンタジー小説の中では聞き馴染みのあるモンスターの名を耳にし、少しだけ舞い上がった。

 ケーリィは赤い玉を置き、机に頬杖をついた。
 そして底が知れない闇深い笑みを浮かべた。――厨二病風にいえば、いわやる暗黒微笑ってやつ。

「パーカー。あんたのサイズのモンスターなら、拳一つ分の生命石が取れる」
「……え?」
「意外とあんたも人間じゃなくてモンスターだったりして。それだけ化け物じみた量のモンスターを倒せるんだし。……一度、腹を掻っ捌いて生命石あるかどうか確かめてみたいねぇ」



 沈黙が二人の間に落ちる。



 俺はこめかみには薄っすらと汗が滲み始めた。

 そうだった。……ケーリィ、この人は危険人物でした。気を許してはいけない相手だというのを忘れていました。

 凍りつく俺とは裏腹に、彼女はくつくつと悪魔じみた笑いをこぼしているのだった。

 …………その笑いを今すぐ止めてくれっ!!

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