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第2章
第15話 扉を開けたその先に
しおりを挟む長く続く廊下をしばらく歩き続けていると、とうとう突き当たりまで来た。
そこには2つの扉があり、側には木製の看板が置かれている。
「ええと……なになに……――『好きな道を選べ』か。この二つの扉のどちらかを選んで進めっていうことだな」
俺は各扉に視線を向ける。
一つの扉には――『カゲボーシの部屋』
もう一つには――『ドリームイーターの部屋』
そう記された掛札が目に入る。
「カゲボーシ……ドリームイーター……どっちも聞いたことない言葉だな。この名前のモンスターが扉の先にいるってことなんだろうな。」
「にゃお」
「うーん……どっちにしようか。ドリルには各フロアのボスモンスターは教えてもらったけど、ほかに出てくるモンスターは詳しく教えてもらえなかったし」
ボスモンスターに限っては情報共有されているのだが、その他出現するモンスターは各々の技量を試す場のために教えてもらえない。
ダンジョンは戦闘力を確かめる場であり、戦闘時の考察力や対応力を試す場でもあるのだ。
「んー……ミーコ、お前はどっちがいい?」
「みゃおっ」
ミーコは小さくなくと、一つの扉の前へと足を進める。そして再度小さく鳴いた。
「おっ! 『カゲボーシ』の部屋か。分かった、そっちにしてみよう」
「にゃ」
「にしても、どうして二者択一なのかよく分からないな。どうせなら、どっちの部屋も通らないといけないようにした方がいいのに」
二つの部屋を一つの道に組み込んだ方が、ボスモンスターまで行くのを阻む事ができる。……ダンジョン側としてはそっちの方が良いのではないだろうか。
もっとも、ダンジョン自体に意思があるわけではないだろうが。
「よし、それじゃ扉開けるぞ」
俺は扉のドアノブに手をかけ、ゆっくり捻る。
すると中には――。
「……――この部屋は…………と、図書室? な、なんでだ……」
「にゃーお?」
「本棚と本がたくさんだ。意味がわからん」
俺は壁まである棚の中にぎっしりと詰まった本が多く並んでいる部屋を見渡す。
そう。
まるで日本で俺が住んでいた場所の近所にあった図書館のようだった。
大きすぎる場所というわけでもなく、かといって狭いというわけでもない、落ち着いた空間。
俺はそれを訝しみつつ、歩み進める。
すると、いきなり周囲の本棚から黒い影がたくさん飛び出してきた。
実態のないそれは、俺たちの周囲をふらふらと浮遊する。
ミーコに《魅了》と《幻惑》をかけてもらうが、まるで実態がないかのようにかけた瞬間に消えてしまう。
「……はっ? な、なんだこれ……」
「にゃお」
「黒い影……これが扉に書かれていた『カゲボーシ』っていうモンスターか?」
そう俺が呟いた途端、周囲の影はいきなり動きを止め、地面へと降り立つ。
そして次第にその姿形を変えていった。
俺はその異様な光景に目を見張り、息を飲む。
攻撃を仕掛けてみたものの、どれも煙を切り裂くように実態すらなかった。
俺は困惑した。
実態のない相手をどう倒せばよいのだろう。
悩みながらも敵の弱点がないかどうか、観察を続ける。
攻撃すらできなかったそれは、しばらくして人型となった。
身長などはすべてバラバラ、体つきもてんでバラバラだ。
そして俺は、そのモンスターたちの顔を見た瞬間、この世界に来て一番といえるほど滑稽なほど驚愕の表情を浮かべてしまった。
なぜなら――。
「……え!? か、母さん……父さん!」
そう――その影たちは己の父や母の容貌へと変化したのだ。
他にも見知った顔が多数あり、弟や友人知人、学校の教授や幼馴染などなど。
名前は全く覚えていないが、まるで魂に刻みつけららているかのように、その相貌には見覚えがある。
知己の顔ばかりだったのだ。
俺は息が止まりそうになったが、同時に冷静になっていくのも感じた。
――カゲボーシというモンスターは、敵対するものの見知った人間の格好をとり、攻撃しづらくさせる。
そんなことが容易に想像ができた。
よく見ればこの世界にやってきてから知り合ったものたちも並んでいる。
その姿形を変えないモンスターらは、次の瞬間、俺に向かって薄紅色の霧のようなものをかけてくる。
それを察し、《瞬足》でギリギリ避けきった。
ミーコも《俊足》によって難を逃れたようだ。
「……っ! な、なんだあの霧は! もしかして、《幻惑》みたいなスキルか!?」
「にゃお」
なんとなくだが、あの霧を浴びてしまえばしばらくの間、ここに戻ってこれない気がする。
目を細め、旧知の者らの容貌をしているモンスターを苦々しい面持ちで一瞥した。
たしかにこのモンスターたちの攻撃の仕方は理にかなっている。
俺は今、猛烈に攻撃しづらい。
本人ではないと分かっているのだが、見知った顔に親愛の念を抱いてしまうことは仕方がないだろう。
だが、俺は戦って進まなければならない。
戦う理由はないが、一度決めたことを曲げるのは嫌いだ!
――俺は今日、ダンジョン2階層を攻略完了させるのだから!
「……そうだな……ミーコ。さっきと同じように《魅了》と……あとは《浄化》をかけてみてくれっ」
「にゃお」
ミーコは鳴き声と同時に、スキルを2つ作動させる。
《幻惑》もかけたいところだが、《浄化》と相反するスキルのため、効果がかき消されてしまうのか辛いところだ。
発動したスキルが俺たちを取り囲むモンスターにかかったのか確認するため、周囲を見渡す。
――けれど、残念なことにスキルはかかっていなかった。
目で確認した俺は《瞬足》で移動し、持っていた槍でモンスターの体を斬り裂こうとする。
けれどやはり実態はなく、その体に当たることはできない。
俺は内心汗を流しながら、観察に努めた。
モンスターたちがまた薄紅色の霧を出し、俺たちをスキルにかけようとする。
「……っ!」
幸いなことに、反射も行動も遅い敵。
物言わず、ただ薄紅色の霧を俺とミーコのいる場所に向かって吹きかける。
先ほどの攻撃により、敵の手札を知っている俺は次の攻撃を余裕で避けることができた。
…………あれ? ……避けたあと、タイムラグがある。というかありすぎる。さっきから思ってたけどこのモンスターたち、俺が避けたりして動いたあと、全然視線で捉えられてないよな。
俺は完全に避けたはずなのに、モンスターたちは薄紅色の霧を元々俺がいた場所だけに吹きかけ続けている。
「これは……――もしかして!」
一つの可能性に至った俺は、この部屋――図書館全体を見渡す。
本棚が所狭しと並んでいる中、そのすぐ下――地面に視線を向ける。
「影がない!」
どの本棚にも影があらず、明らかに異様だ。
一番大きな本棚を視界で捉える。
そしてその本棚の影があるのか確認すると――。
「……っ! あの本棚だけは影がある……俺とミーコ以外でこの部屋の中唯一!」
俺はすぐさま部屋の中で最も大きな本棚へと駆け寄り、そのすぐ下の影を槍で刺す。
「……おっらぁ!」
「グュアアアアアア!!!!」
その途端、悲鳴ともつかない声が図書館中に響き渡る。
そしてとうとうそ・れ・が姿を現したのだ。
そ・れ・――影に潜んでいたモンスターは、実態があった。
「やっぱり……襲ってきた影たちは、みんなこいつが操ってたんだな!」
戦闘中の敵のタイムラグを感じた時、なんとなく思ったこと。
それは、『このスピードと反射神経なら、ヒットアンドアウェイ戦法の方がいいんじゃないか』ということだった。
けれど敵は頑なに猪突猛進に攻撃し続ける。……それは何故か。
――影が倒される心配がなかったから。
今、俺たちに攻撃を仕掛けてくるモンスターは本当に実態がない。
なにせその影はモンスターが操っている攻・撃・手・段・で・あ・り・、死・ぬ・は・ず・の・な・い・も・の・なのだ。
俺はそういう結論に至った。
それに、どんなに攻撃しても声一つ漏らさず、部屋中の本棚の影がなくなっているのもおかしい。
この戦闘は普通じゃないことがたくさんあったのだ。
影に隠れ、他の影を操作していたのなら俺たちの前にわざわざ姿を現し、動揺を狙う策略も腑に落ちる。
気が動転している敵の隙をつき、絡め取るのが本当の攻撃なのかもしれない。……まあ、そういう戦法なのかどうかは直接聞いたわけではないため不明なのだが。
俺は実体のある本体を槍で突き刺す。
「グュッアアアアア!!」
モンスターは敵を耳障りな悲鳴をあげ、闇の靄に包まれていった。
その場に残ったカードとドロップアイテムの瓶に入った赤色の液体を手に取り、次の場所へと進んだ。
――。
――――。
影のモンスター――カゲボーシを無事に倒した俺たち。
図書館にはもう一つの扉があり、そこからダンジョンを進むべく、一本道として続く廊下を再び歩みを進めていた。
途中にはフート草原にいたスリープゴートや、一度だけ依頼の際に出会ったカラスのように真っ黒な鳥のモンスター、フッケバインに遭遇した。
それらを跳ね除け終えると、新たな部屋の入り口が用意されていた。
その扉を潜ると今度は大量のリザードマンの群れに遭遇し、《怪力》と《強堅》等の物理的スキルで圧倒した。
「リザードマンのカードでちょうど登録できる狩猟モンスターカードも25種類か」
「にゃお」
「新しいスキル、取得できるな。……ん、やるか!」
周囲を探っても敵の気配はない部屋。
先ほどまで膨大な数のリザードマンがひしめき合っていた場所。
元は会議室なのか司令室なのかは分からないが、モンスター達によって踏み荒らされている。……俺が暴れたせいで、壊れたところもあるけどな……。
そんなことを考えながら、俺は新たなスキルを得るためにカードをバインダーに登録する。
そして新たなスキルを得るための環境は整った。
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