魔物大好き《モンスターマニア》は気づけば華麗にモフモフ天下無双していました

王子様の白馬

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第2章

第19話 孵化不可?

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「育てるって……それは……」

 俺はベニートへと困惑の表情を向ける。
 あまりにも無謀で、無茶なことだ。

「言葉の通りです。ただし、パーカーさんに損をさせるようなことはさせません。これは、こちらからのお願いなのですから」
「ええと……」

 強い眼差しに言い澱む。

「えっと、よく分からないんですがとにかく説明の方をお願いできませんか? ……それによって判断しますので……はい」
「あっ! す、すみません。唐突すぎましたよね……。是非とも詳しくお話しをさせていただければと!」
「……お願いします」

 駆け出しの初心者テイマーである俺にとって、色々と荷が重そうな予感しかしない。
 けれどベニートの真摯な姿勢を見て、話くらいは聞くべきだと思った。

 ……それに、損はさせないって言ってくれたし、大丈夫だろう? ……多分。

 そんな悠長なことを考える俺を前に、ベニートは話し始めた。

「先ほども申した通り、たまごカードの返品返金は受け付けることは出来ません。もちろんこちらの不手際でしたら例外となりますが。ですが――ならば、それは特例として秘密裏に許可されているのです。……ボスのお墨付きを頂けたテイマーならば」
「交換ですか……それに、ボスって」
「はい、ボスというのはこのMonsterモンスター Cardカード Shopショップを統括するトップの総称です。ギルドで言えばマスター、ホワイトラボラトリーであれば所長ですね」

 ……ん? ホワイトラボラトリーって何だ? 初めて聞く名だぞ?

 内心初めて耳にした単語に引っかかりを覚えたが、話の趣旨を曲げてしまいそうなので問うことはやめた。
 気になってはいるので、あとで機会があったら誰かに聞こうと決意する。

 俺は理解を示すように相槌を打った。

「ここのトップがボスと呼ばれているということですね。よく分かりました」
「つまり、そのボスがパーカーさんにお墨付きを与えてくれればの使用も利用可能となるわけです。……そして、すでにそのお墨付きは頂いております」
「えぇ!? ま、まじですか……いつのまに」
「それは、まあ……新聞の紙面を飾っていましたしね……」

 ベニートは言葉を濁すかのように、から笑いをする。
 非常に……怪しい。

 俺の疑惑の視線を受けて、ベニートは焦ったように瞬きを繰り返した。

「ええとその……つまりっ! 交換はすでに可能なわけです」
「……はあ、そうですか。それで……その交換と何か関わりが?」
「ありますとも! この白いたまごをお引き取りくださり、もし仮に何日経っても孵化しなければMCS販売所にいるテイムド可能なモンスターたちの中から交換させて頂きます。パーカー様には規定として白いたまごカード代の30万ルブはお支払いして頂きますが、損をさせることはございません」

 ベニートは息継ぎ無しで述べる。
 意気込んだその様子に腰が引けた俺は、引きつり笑いを浮かべながら話す。

「……はい……あのMCS販売所というのは……」
「たまごカードから孵化し終わっている生体化可能なモンスターを販売する部門です。この建物に入る際、パーカーさんはカード買取のためにこの個室へと案内されますが、生体化可能なモンスターを購入したいと申された場合は販売所へとご案内させて頂くのです」

 ふむ。
 つまり、たまごカードの他にテイムドを得る方法として生体化したモンスターの取引で……という選択肢もあるわけか! ……知らなかったぜ……。

 ベニートもドリルもたまごカードばかり押していた。
 たしかにたまごカードから育て上げるほうが、俺としてもいいんだけどな!

 そんな俺の内心を見透かしたかのように、ベニートは口を開く。

「初心者の方にはたまごカードを推奨しているんです。値段的にもそちらのほうが断然お得ですし、これから一生涯ともにいるかもしれないモンスターなのですから。テイムドを大切にする心というものを0からモンスターを育て上げらるという経験を通して築き上げていただきたいのです」
「それは――とても大切なことですね。俺もその意見には同感です」

 絆は大切だ。
 生物と過ごしていく上で、心が通じ合うことは最高に素晴らしいことだ!

 ベニートは口元を綻ばせながら話を続ける。

「それに、この生体化可能なモンスターたちはある程度レベルが上がり、各地方のクエストや依頼、ダンジョンなどで躓いてしまった場合の応急的処置ということもあります」

 応急的な……処置。

 あっ、そうか! 例えば火山地帯だったら、水系のスキルを持ってるテイムドがいるほうがいい。だけど、テイムドの成長がその人間の資質や性格に影響するなら偏りが出てしまう。……火系のスキルはたくさん持っているのに、水系は一個も持ってない、とか。
その時に、MCS販売所で水系スキル持ちのモンスターを購入する……みたいな感じということだな。

 理解したことを伝えるようにして頷くと、ベニートは話を再開した。

「ゆえに、販売所のモンスターは普通ならば経験を積んだテイマーに案内する場所なのですよ」
「そうなんですね」
「ええ。さて話を戻しますが、どうでしょうか? ……白いたまごカード、引き取っては下さいませんか?」

 ベニートはひどく緊張したように言葉を紡ぐ。

 俺はそれを見て、ふと疑問の芽が顔を出した。

「ひとつお聞きしたいんですけど……どうして、俺にそんなことを?」

 小さな沈黙が個室を支配する。
 完全防音なのか、互いの呼吸の音がひどく耳についた。

 ベニートが小さく息をつき、そして一拍おいて俯きながら口を開く。

「パーカーさんに可能性を感じたからです。――ボスも、そして……僕も」
「可能性、ですか?」
「はい。……この白いたまごカードの孵化の条件は未だにほとんど解明されていません。けれどひとつ、分かっていることがあります」
「それは?」

 今まで俯きながら話していたベニートがゆっくりと顔を上げる。
 そしてはっきりと声を上げた。



「……選ばれし子。英雄の気質を持つもの。――世界を変える人間」



「…………っ!」
「そう、あなたにはその可能性があります」

 俺はその言葉に戸惑いを覚えた。
 誤解だ、そんな大層な人間ではないと主張しようと思った。
 けれど、ベニートに一切の迷いもなく言い切られ、言葉が出なくなった。

 そんな俺に気づかないまま、ベニートは続ける。

「かの英雄、ラフェール・オリビエの代表的とも言えるテイムドのドラゴンも白いたまごから生まれたと聞きます。パーカーさんに白いたまごカードをご提示したのも、初めからこの理由があったためです。他のカラーのたまごカードについての説明も致しましたが、実のところ本命は白でしたし」

 少し緩んだ空気の中、ベニートは少し笑った。

 俺はゆっくりと机に置かれた白いたまごカードに視線を落とす。

 ただのカードに見える。
 そんな大層なものには見えない。
 けれど――どうしようもなく、目を奪われてしまう。

 まるでカード自体が俺を呼んでいるような気がした。

 今思えばはじめに提示された時からそうだった。
 他のたまごカードも並ぶ中、何をどうされても白のカードに目がいってしまっていた。
 気になって仕方がなかった。

 俺は瞼を閉じ、深呼吸をした。

 何をどう選ぶのか。
 俺の手のなかには選択肢が用意されている。

 俺はどうしたいのか――選択肢の一つに手を伸ばす。
 そして――。

「…………――はい。分かりました。俺は……――白いたまごカードを選ぼうと思います」

 そう告げた。

 博打であるのとは理解している。
 けれど、もし孵化しなくても生体化済みのテイムドと交換してくれるのならば、安心して賭けることもできるってもんだ。

 俺は俺自身に英雄の気質があるとか、特別な人間になれるとは思ってないが、ある意味ではこの世界の人類の枠外の存在であることは確かだ。

 せっかく異世界にやってきたのだから、やってみたいことを己の意思に従って遂行しなければ!

 ベニートへと意識を向ければ、随分と嬉しそうな様子だった。
 ……なぜ、こんなに喜んでくれるのかはよくわからない。ただ、カードを買うってだけなのに。

「よかったです、パーカーさんならそう言ってくださると思っていました! あのですね…………――パーカーさん。頑張って、くださいね?」
「え、あ、はい。えっとそれで、頑張るって――」

 一体何を頑張るんですか? ……という疑問を伝えようとすれば、言葉を被せられる。

「支払いについてなのですが、分割も一括がございますがどちらにされますか?」
「あのっ…………ふぅ……30万なら足りそうなんで、一括にしちゃいます。分割にすると、借金みたいな感じでモヤモヤするんで。それと先ほどの――」
「御意に。では続いて――」

 そのまま口を挟む時間もなく、そそくさと手続きが行われた。
 そして気づけば全ての過程が終了。
 俺の手元には白いたまごカードがあった。

 結局、頑張れの意味を問いただす暇もなかったのだ。……どういうことだ……。

「さて孵化の方法についてなのですが、こちらは完全にランダムなのでいつになるかは分かりません。ただ、街中でいきなり孵化というのは困りますよね? ですので、こちらで移動石をお渡しいたします」
「あっ、これってテイマー認定クエストの時も渡されたやつですね」
「そうです。テイマーは基本、たまごカードを手に入れた場合、たまごを生体化して持ち歩いて頂きます。そしてたまごが孵ると思った時にはこの石を使って転移してください」
「移動先は?」
「MCSの孵化専用の部屋です」

 この建物の中にはそんなマイナーな感じの部屋もあるのか。……どんな場所なのか、気になるな!

 俺は目を瞬かせ、キラキラとした瞳でベニートを見つめる。
 すでに浮かんだ疑問を問うことすら忘れていた。

 どうやら移動石は孵化した後に返せば良いのだという。

 俺は孵化に関して興味津々な様子でベニートに詰め寄る。

「どれくらいの期間で孵化するのが普通なんですか?」
「大体は2日~10日くらいの間ですね。もし2週間しても孵化しなければ、またMCSを訪ねてください。その際はきちんと交換いたしますから!」

 俺は頷き、同意を示した。
 そしてMCSの黒い建物を出る。

 いやあ、白いたまごカード孵化するかどうか…………めちゃめちゃ楽しみだなっ!

 俺は不安や疑問よりも期待感に胸を膨らませ、手元のたまごカードを天にかざすのだった。

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