魔物大好き《モンスターマニア》は気づけば華麗にモフモフ天下無双していました

王子様の白馬

文字の大きさ
39 / 50
第2章

第20話 俺とミーコ

しおりを挟む

 白いたまごカードを購入してから数日が過ぎた。

「んー、まだ孵化しねえなー」
「みゃーお」

 その日はテイマーの冒険者業はお休みということで、一日だらだらごろごろするということに決めていた。

 ここ数日はたまごカードの購入した出費を取り戻すため、ギルドに出されていたランクに見合った依頼を受けていたのだ。

 ……例えばラピットの討伐や、カムカム草という何かの薬の原材料になる草の採集とかな。雑魚はいくらか相手したけど、ちゃんとした戦闘はしなくて済んだのはよかったぜ。

 とは言ってもそれなりに動き回ったし、素材の買取にも赴いたのだ。……結構余裕がない日々だった。
 追記するとフート草原での依頼だったためか、新たなモンスターとの出会いというものはなかった。残念無念。

 そして俺は現在、昼下がりであるのにベッドに寝転がっている俺は相当だらしない姿だ。なぜなら――。

 今日は休みだって数日前から決めていたのだ!

 週休2日制だもんな! 労働者には当然休日も必須だ! 何より冒険者は自由だからな!

 ……とまあ、そんなことを必死に自分に主張し、ダラシなく1日を過ごしていた。
 人にほぼ会うことなく1日を過ごしたかったのだ。そういう日もあるだろ? うん。

 思えば異世界へ転移してから常に余裕がなかった。
 やらなければならないことが多すぎて、最新の疲れを取る暇も少なかったのだ。

「たまご、ほんとに孵化するのかね? ……孵化しなくても交換してもらえるらしいけど……いやーその場の勢いって怖いな」

 ……もちろん後悔しているわけではないが、ただその場のノリでロマンを求める選択肢を選んでしまったこは否めないだろう。

 小さく息を吐き、目の前にある白いたまごに目を移す。

 サイズは普通のたまごよりも確実にでかい。
 俺の拳三つ分ほどの大きさだ。

 たしかに鶏の卵と比べれば確実に大きいだろうが、ここからたちが生まれてくるのは想像しがたい。……だって、俺よりもでかいモンスターもわんさかいるんだぜ?

 たまご自体が皆一様に同じ大きさなのか、それともそれぞれ異なる大きさなのかは分からない。
 ……またベニートにあったときにでも教えてもらおうと思う。

「…………にゃ」

 俺がそんなことを考えてたまごに視線を向け続けていると、ベッドに寝転がっていたミーコが小さく鳴く。
 心なしか元気のない鳴き声のように感じた。

「どうした、ミーコ?」

 思わず頭と腹を撫でてやりながら尋ねるが、ミーコは何の反応もなくただ寝転がっているだけだった。


 ――。

 ――――。


「…………んっ」

 俺はぼんやりとしながら身を起こす。
 どうやらごろごろしている間に眠ってしまったようだ。

 この世界には漫画やテレビなどのインドア派が楽しめるような娯楽がないため、ぼんやりとするか寝るしかなかった。
 昼寝をしようと思っていたわけではないが、寝落ちってやつだった。

「……って、あれ」

 夕日(と呼ぶのかは分からないけど、そんな感じの空にある天体)が差し込む宿の部屋で、俺は小さく独り言を呟く。
 眠気に抗いながらも、小さな温もりを探すようにしてベッドを探る。

 何のぬくもりも感じず、続いて部屋の中を見渡す。
 けれど、俺の他に生物の影は見当たらず――。

 次の瞬間、俺の顔は一瞬にしてに青ざめた。

「……っ! あ、あれ? み、ミーコは……ミーコはどこだっ?」

 部屋の中にいるはずのミーコは、姿形すがたかたちもなかった。





 俺は宿を勢いよく飛び出し、人の行き交う通りで必死にミーコを探した。

 カード化しているのかと考えたが、俺は一度もカード化を願ってはいない。
 部屋の中にあるものを全てひっくり返すようにして調べたが、やはりミーコもミーコのカードも見つかることはなかった。

 つまり、ミーコは外へと出て行ったのだ。

 扉へと視線を向けると、鍵が開いていた。
 扉は閉まっていたが、おそらく頭のいいミーコならば己の力で出入りすることは可能だろう。

「まっ、ま、まさか…………家出!? 家出なのか、ミーコッ!!」

 唇を戦慄かせながら、都市内を駆け回った。
 スキル《瞬足》を使用しつつ、体力オバケの俺が息切れするほど全力で。

「み、ミーコは猫なんだから気まぐれなんだ。そうだ。きっと宿にいればそのうち帰って…………――いや。ほ、ほんとに帰ってくるのか……」

 元は野良猫だったのだから、自由気質だったはずだ。
 このまま俺を捨てて、どこかへと飛び出してしまったのかもしれない。
 そんな嫌な予想が頭をよぎってしまう。

 心配しすぎだと他のテイマーにも言われるかもしれないが、都市内でテイムド1匹なのだ。
 何かあったらどうすればいい! ……ミーコは相手を足止めするようなスキルは持っているが、攻撃手段は一つもないのだから。危険だらけだ!

 こんなんではいけない。
 冷静になろうと、俺は心を落ち着かせるために呼吸を整える。

「……ミーコはこの都市内にいるはずだ。テイムド1匹で検問を抜けることは危険だし、難しい。……それじゃあ一体どこに……。くそっ、こんなことならGPSでもつけておけばよかった」

 ぼんやりとテイマー登録での機能を思い出し、かぶりを振る。
 俺は自暴自棄になりそうな心を諌めつつ、小さく舌打ちをした。
 そしてそんな中、ふと思った。

「ミーコはこの都市を知らない。街中では一度も生体化させてないからな。あとは……人の危険性も分かっている。……ってことは、あまり人目につかないような場所を通っているはず。とにかく人の少ない場所を探してみよう」

 俺は闇雲に探すことは止め、人気のあまりない場所を中心に探し始めた。

 そんな中感覚を尖らせると、ミーコの居場所がなんとなく伝わってくるように思えた。
 これも固有ギフト《魔物大好きモンスターマニア》の効果かも知れないと思ったが、今はとにかくミーコの存在を感じる場所へと足を動かし続ける。

 そしてセントラル地区の広場に辿り着いたそのとき――。

「――っ! ミーコっ!」

 白い柔らかな毛並みをしたモフモフが広場中央にある噴水の淵に見えた。
 間違いなくミーコの麗しい毛皮だろう。

 駆け足で近づくと、ミーコはじっと水面を見ていた。
 その背中が不思議と悲哀と孤独を背負っているように見えて――。

「…………ミーコ。一体、どうしたんだ?」

 俺は噴水の淵に腰をかけ、ミーコに声をかける。
 するとミーコは「……にゃー」と小さく鳴いた。

 言葉自体は分からないが、なんとなく伝わってくる。
 ミーコの苦しみと悲しみが。

「……そうか、おまえ……落ち込んでるんだな」
「……みゃ」
「……最近の戦闘では役立たずだって? ……――そんなわけないじゃないか。お前は敵の足止めもしてくれるし、なにより俺のことをいつも応援してくれるだろ?」

 そう主張するが、ミーコは未だもの悲しげな雰囲気のままだ。

 戦闘にてボス戦ではほとんど手伝えなかったことを悔いているのかもしれない。
 ……そんなこと、あるはずもないのに。ミーコはきちんとスキルで足止めもしてくれたというのに。

 オッドアイが目を惹く頭をあげ、ゆっくりと俺の方へと近寄る。
 そして、太ももに置かれていた俺の手をペロリと舐める。
 そこは少し前に戦闘にて負った傷の残った跡で――。

「……お前は――――優しいな」
「…………にゃ」

 ミーコは完全に治っていた傷すらも労わってくれているようだった。

 優しく丁寧な様子でもあるが、同時に子供が親に甘えているような愛情の表現にも見えた。

 猫の表情は意外とわかりにくいが、ミーコについては例外だ。

 ミーコは自分の無力さを嘆いているように見えた。
 強くなりたいと思っているものの顔つきだった。

 どうしてそこまで追い詰められているのだろうか。それは――。

「ミーコ、お前もしかして……新しいたまご……いや、テイムドが来たら自分の出番がなくなるとか思ってるのか?」
「……――にゃぉ」

 普段の数倍小さな声で、頼りなく鳴く。

 そんなミーコはまるで、親に見捨てられてしまった子猫のようだった。

 そうだ。
 ミーコは元々あの世界では野良猫だったのだ。

 車に引かれる事故。その少し前のミーコの様子を俺は知っていた。見ていたのだ。
 ミーコは公園に遊びに来ていた子供に近寄られ、不自然なほど怯えていた。人間に恐怖心を抱いていたのだろう。
 とてもではないが、誰かの飼い猫だとは思えなかった。人と触れ合うことに慣れているとは思えなかった。
 むしろ、人に痛めつけられたことでもあるかのような様子だったのだ。

 痩せぽっちで、薄汚れていて、ようやく子猫から脱却したくらいのまだまだ幼い猫。

 ミーコはなんとなくだけど愛情に飢えているようにも思えた。

 頼ることも知らず、猫なのに八方美人に生きることが出来なかったからか、あんなにも細かった。
 もう少し人間にいい顔をしていれば、ご飯を恵んでくれる奴はたくさんいただろう。
 でも、それをしなかった。おそらく出来なかった。

 甘いとも言える。
 世界を舐めてるように見えるかもしれない。
 ――けれど、俺はそんな真っ直ぐで純粋で、優しいミーコが大好きなのだ。

 出会ってからまだそんなに時間も経っていないが、俺にとってのミーコは仲間で、友達で、そして――相棒なのだから。

「俺さ、ミーコのこと充分頼ってるよ。それに――大切な相棒だと思ってる」
「……っ! みゃ……」
「……本当だよ。それに、ミーコは直接攻撃で戦闘に関わるより、司令塔向きだと思ってる。俺の様子もよく見てスキルかけてくれたりするし、視野も広い」
「にゃお……」
「――だからさ! 新しい仲間が増えたらミーコがそいつを引っ張ってやってくれないか。そりゃ、たまに間違ったりミスすることもあるかも知れないけど、それはまだまだ俺たちは駆け出しテイマーとテイムドなんだから。そんなこと仕方ねえ!」

 明るく、そして正直に言葉を紡ぐ。

 真っ赤な夕日が俺たちを照らす。
 人々は帰路を急ぐのに忙しく、俺たちの様子など目に入っていないようだった。

 俺はミーコに満面の笑みで笑いかける。


「だからさ、俺と一生相棒でいてくれよ。頼りにしてるぜ、ミーコ!」


 心地の良い風が頰をくすぐる。
 耳には優しい風の音と草の擦れる音が届く。

 そんな中、ミーコは――。

「…………――にゃおっ!!」

 元気よく、そして力強く鳴いた。
 少しだけ、元気を取り戻した様子に見えた。


 テイムドモンスターの気持ち。
 まるで人間のように複雑で、悩みも抱える。

 この日、俺は初めてその繊細な心に触れたのだ――。



 ……とそんな和やかな空気も束の間。
 温かい空気をぶち壊すような出来事が起こり始める。

 ――ガリガリガリ。

 まるで何かが割れるような奇怪な音がいきなり頭の中に響き渡りはじめた。

 突然の自体に俺は困惑した。
 とにかく呆然と瞬きを繰り返した。

 ――ガリッ。ガリガリ。

 それでもまだ、頭の中を奇怪な音が支配する。
 音は鳴り止まない。

 割れるような、引っ掻くような普段は耳にすることがないような不思議な音だ。

「……ん? 割れる……引っ掻く…………そ、それって」
「…………にゃ?」

 一つの可能性にたどり着いた瞬間、俺は身を強張らせた。
 急いでその可能性の真相を確かめるべく、《空間収納》にあったそ・れ・を取り出す。
 《空間収納》内にあるものが響かせる音は、脳内に直接伝達されるのだ。

 ――そして可能性は、事実へと確定した。

「や、やべえ。たまごが……孵化するっ!?」

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...