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第四章 見つかった死体

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 永塚辰馬の死体は、成都大学から数キロ離れた所に流れている、小川沿いに遺棄されていた。

 見つけたのは近隣の住民である。日課の早朝ジョギングをしていたところで、それを見つけたそうだ。
 永塚は全裸で、身元を示す物は一つを除いて何もなかった。その一つというのが、成都大学の学生証だった。産まれたままの姿のそれは、首にストラップをかけていた。その先についていた、小さなスマートフォン用のケース。その中に、被害者の学生証が入っており、身元はすぐに判明した。
 雄吾が何故、それを知っているのかというと。今、まさに彼は目の前の刑事達から、その話を聞いたのだ。
 唖然とした表情で、雄吾は二人の刑事を見る。年配で、無精髭に白髪の方が榎本えのもと、肌艶が良く、背が高い童顔が三宅みやけと言っただろうか。

 立花雄吾君だね。

 雄吾と結衣が東京に戻ったのは、午前四時前のこと。その後結衣を家に送り、自宅に戻ったのだが、夜通し起きていたことによる眠気と気怠さ、結衣の突然のキス。それからの雄吾は、気がすっかりと抜けていた。
 そのまま彼は寝落ちてしまったようで、目覚めると既に午後二時前の時刻になっていた。
 来客は、起きてすぐにやってきた。
 寝ぼけた雄吾の目の前に、彼らは四角く、何やら黒い物をかざした。刑事ドラマや探偵物の漫画で目にするもの、警察手帳だ。警察は本当に、相手に警察手帳を見せつけてくるのかと、ぼうっとした頭でふと思ったものである。

 君は、永塚辰馬君のことを知っているかな。
 知っているも何も、同じサークルの先輩ですけど。
 少しショックかもしれないんだけど…

 三宅から、雄吾は永塚の死体が発見されたことを聞いたのである。開いた口が塞がらない雄吾を見て、今度は榎本が、淡々と凄みのある低い声で続けた。
「君は永塚君のことをどう思っていたのか、教えてもらえないかな」
「ど、どうって」
「何でも良いよ。例えば彼の印象とか。あと、周りは彼のことをどう思っていたのか、とか」
 雄吾が答えあぐねていると、三宅は「いやいや」と両手を振る。「永塚君の知り合い全員に聞いているんだよ。特に彼、君達のサークルにいることが多かったみたいだから。まずは君達にってね」
「そうですか…」
 雄吾の頭には、警察が近隣住民に聞き込みを行う刑事ドラマのワンシーンが浮かんだ。

 雄吾は平静を装いながら、言葉を紡ぐ。
「永塚さんは、なんというか。剽軽っていうのか」
「剽軽?ムードメーカーだったってこと?」
「まあ。大半はそう思っていたんじゃないかと」
「大半ね。ということは、彼のことをそう思わない人も、中にはよく思わない人も、いたかもしれないってことかな」
 そこで一瞬、雄吾の頭には絵美の顔が浮かんだ。
「…まあ、人が多くいたらそりゃ一人や二人はいるでしょうが」
 三宅はその、雄吾の若干の動揺を感じ取ったのだろうか。眼光が気持ち少しばかり、鋭くなったように思えて、雄吾は心臓が締め付けられたような気がした。
「永塚君をよく思わなかった人、立花君的に誰が思い浮かぶか。直感でいいから教えてもらえないかな」
「直感って、そんなの」じんわりと、全身に汗が滲む感触。「そんなの、わかりませんよ。無責任なこと、言えないですし」
 ここで絵美の名前を出してしまっても良かった。絵美と永塚の間には、因縁がある。永塚を殺害するだけの因縁に、なり得るそれが。それに、彼女は一昨日の夜、群馬まで足を運んでいるかもしれないのだ。永塚殺しの実行犯の可能性が高い、詩音や直樹と一緒に。
 しかし…それとは無関係に、何かしらの事情があって、絵美が詩音達に脅されて一緒にいるのだとすれば?それがわからない以上、根拠なく彼女の名前を口に出すことは出来なかった。
「落ち着けよ。立花君は被疑者じゃないんだからさ」
 そこで三宅の前に出てきたのが、年配刑事の榎本だ。榎本は、顎にびっしりと生えた白髭を片手で触りながら、悪いねと申し訳なさそうに眉を寄せる。
「若い者がぐいぐい聞いちゃってさ。ただこいつも俺も、君の先輩を殺害した犯人を、早く逮捕したいと思っているんだよ」
「永塚さんは、YHクラブの誰かに殺されたんですか」
「YH…ああ、君達の旅行サークルか。いや、まだそういう訳ではないよ」
 まだ。
 疑っていることは、まず間違いなかった。
「誰か、もう目星があるんですか」
「目星ねえ。それを探しているから、君達のもとを訪れているんだよ」と榎本。その口ぶりは、嘘や隠しているようには思えなかった。
「気になるのかい」
 三宅は首を傾げる。目は笑っていない。
「そりゃ、まあ。先輩でしたし」
「そうだよね。辛いよな」
 彼の平坦な言い方は、本気で相手に同情するようなものでは無い。事実、雄吾も彼の死にそこまで感情を揺さぶられることは無かった。それは、直樹の家で彼の死体を見た時も、こうして死んだことを伝えられても。
「とにかく、君も気になることはあると思うけど。三宅の質問に答えてもらえると嬉しいな」

 永塚を快く思わなかった者。

 雄吾は、ある一つの考えを思いついた。
「もしかすると、ぐらいでも良いんですか」
「全然良いよ」
 三宅は強く肯く。そんな彼に、雄吾はその名前を告げた。三宅が「ちょっと待ってね」と、私物の手帳を取り出し、ページをぺらぺらとめくっていく。黒目はぶんぶんと、左右をいったりきたり。何かを探すかのよう。雄吾からは見えないが、手帳には永塚殺害に関する者達の名前が記されているのかもしれない。
「榎本さん、ありました」
 三宅の手帳に書かれた内容を見て、榎本もふむうと戸惑いの色を表情に浮かべた。
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