殺人計画者

夜暇

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第五章 本多瑞季の場合

九 ◯本多 瑞季【 1月9日 午後8時50分】

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 すっかり日も暮れた。
 自宅である七畳ワンルームのマンションの一部屋は、無駄なものはあまり置かないため、いつも整然とした様相である。ごちゃごちゃと物ばかり増えると掃除も大変だし、部屋にある物について、必要か不必要かの判断を下す手間がかかる。日常的に整理整頓を心がけていれば、その手間は全て軽減されるのだが…それをしようという意気込みが湧かないのだ。
 檜山さんと別れて帰ってきてから、着替えや残っていた家事を片付けていたら、いつのまにかこんな時間になってしまっていた。その間も、私が考えていることは一つ。
(誰が檜山さんの名を騙り、私にメッセージを送ったんだ?)
 やはり問題はそこだった。もし、彼ではなく別の人間がメッセージを送ってきたとすれば、それは私と柳瀬川の密会を知っている者に限られる。
 例えば玲子さんだ。彼女に直接言った記憶は無い。しかしアフターで一緒に店を出ていくところを見られているし、何より彼女は勘が良い。私たちがどんな関係か知らずとも、「あの二人は恐らくそうだろう」と、推測しているに違いない。
 大和もそうか。彼は先述のとおり、人の弱味に漬け込み悪事を働く、汚い人間である。
 いや、でも他にも。私と柳瀬川は頻繁にとは言わずとも、二人で街中を歩き、ホテルに入ることもあった。その姿を目撃した人間が、私を脅迫してきているのかもしれない。そもそもその何者かが彼女にペットボトルを送って、一体何の意味があるのか。動機…そう、動機が無いのだ。
「ああ」
 したがってこう、あれこれ考えてもこれといった結論は出てこない、という訳である。
 私はテーブルの前に座った。それを考え続けるよりも、やはり私はあのロッカーのパスワード…五桁の数字に、檜山さんを騙る人物につながる糸口があると睨んでいた。いかに他に謎があろうとも、何度もここに戻ってしまう。
「…」
 少し、本気で考えてみようか。腕を組み、一人頷く。
 「90124」。…そうだな、数字を文字に置き換えてみてはどうか。いわゆる語呂合わせである。例えば、9であれば漢数字で「九」、音読みであれば「キュウ」「ク」だが、訓読みでは九つで「ここの」つと呼べる。つまり、数字一つで読み方が何通りもあるのだ。その考え方で、あてはまりそうな並びを頭から考えてみる。
「ク、ゼロ、いや…レイとも呼べるかな。イ…いや、イツとも呼ぶかなあ。ニ…」
 駄目だ。口に出して読んでみようにも、それらしい文章になり得る気が全くしないし、上手く文章が合う気もしない。
 それなら。私は早々に、他のやり方を考え始めた。モールス信号…とか。あまり詳しくないが、昔金田なんとかの事件簿とかいう推理漫画で、見たことがある。電信でよく使われた、「・」をトン、「 ― 」をツーとして表現する文字コードのことだ。
 それで自分なりに考えてみれば、1は「・」でトン、2は「 ― 」でツー、4は、うーん、「 ― 」二つでツーツー…
 顔を平手打ちする。自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。それなら9と0はどうなるというのだ。そもそも、パスワードをモールス信号にすること自体、ナンセンスだろう。それこそ、死者が死に際に遺すダイイングメッセージのように、見た者に情報を伝えたいのであれば分かる。しかし、これはそんな目的のものではない。
 それだったら、単に数字を区切ってみてはどうか。まずは一桁ずつ。9、0、1、2、4。うーん。何の意味も無さそうだ。
 次は二桁。90、12、4。…これも、意味、無い、か。三桁も同じだろうか。901、24。予想通り。
 溜息をつき、手元に置いてあったテレビのリモコンで、何の気なしに電源ボタンを押した。数秒後に、テレビのスクリーンに明かりが灯る。考察の間に九時を過ぎていたようで、昔からあるシリーズものの刑事ドラマが放送された。
 刑事ドラマ、か。そこで、私は達ちゃんを思い浮かべた。一月九日の今日、彼は午後九時まで仕事だと言っていたので、まさしくちょうど今、仕事が終わったところだろう。
 最近、私は達ちゃんと会えていなかった。年末年始、彼と共に過ごす予定だったが、突然仕事が入ったとか何とかで、結局一人で過ごすことになったのだ。以降、今に至るまで会っていない。つまり、新年になってからは顔を一度も合わせていないのである。連絡も、無い。
 やはり、警察は年末年始忙しいのだろうか。何だか、急に顔を見たくなった。
(少し…少しだけ、寄ってみようかな)
 そうだ、私は彼の恋人なのだ。仕事が終わって家にいるなら、会いに行っても構わないのではないだろうか。
 それに。ふと、テレビの右上にかけてあったカレンダーを見た。考えたら、どちらにせよ私は彼と再来週には会う必要がある。なんたって…
「あっ」
 そこで、思わず声が出てしまった。
「これって」
 あのパスワード、五桁の数字。90124。
 これは。
「え…」
 一体、どういうことか。まさか。
「そんな」
 ことが。いや、でも。90、1、24。
「…」
 馬鹿な。
 やはり思ったとおり、パスワードには意味があったのだ。分かってしまえば単純なものである。私の推測が本当に正しいのであれば、だが。
 どうして。どうしてこんな…
 しかし分かったとして、これからどうすれば良いのか。本当に、その推測が正しいのかどうかは定かでは無い。
「…そうだ」
 私はバッグから、件のペットボトルと携帯を取り出す。
(あの人に…あの人に会わないと)
 私はそれを手に、すぐさま家を出た。
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