侵入者 誰が彼らを殺したのか?

夜暇

文字の大きさ
17 / 68
第三章 隠し部屋

しおりを挟む
 
 微かにかび臭い、暗闇の中を下へ。スマートフォンのライトを頼りに、ゆっくりと階段を進んでいくと、目の前に鉄製の扉が現れた。
 若月は、ライトを階段の上方へと向ける。暗闇の中に一筋、道標のような白色光、真琴の部屋の光が漏れたものだ。随分長いこと降りてきたように思えたが、十数段程度の距離だったらしい。その気になれば、五秒足らずで真琴の部屋に戻れそうである。
 ここまで一本道だった。両側の壁を確認しつつ降りてきたが、怪しいところはなかった。
 扉と向き合う。視線を上下に動かす。すると、扉の縁から、微かに光が漏れ入っていることに気がついた。扉の向こう側は、電気がついているようだ。クローゼットの中みたく、隠された場所にある訳では無いのだろうか。
 ただ、大っぴらな場所には出ないという確信が、若月にはあった。こんな、隠し階段に繋がる扉であり、登った先は藍田製薬代表取締役の寝室。恨みを買うことも多いだろうし、繋がる先が誰にも分かりやすく在るのは危険だからだ。
 そうは言っても緊張はする。両方の掌は滲んだ汗でしっとりしている。その手で、目の前にあるドアノブを握る。ひんやりとした感覚。冷たいと感じる刺激が、体全身に駆け巡る。息を飲み、ゆっくりと扉を前に開いた。

 開いた先は、簡素な場所だった。
 広さ四畳半もいかない程度の、一見して狭い部屋。四方は剥き出しのコンクリートで囲まれており、無機質な灰色は部屋の異質さを際立たせていた。
 真琴や勝治の寝室から一変、廃ビルの様。どことなく冷たさを感じる。若月は恐る恐る、室内に踏み入った。人気は無い。入ってきた扉を背に、部屋は右に延びている。天井まで届く、壁全域を覆う古びた本棚が、部屋の奥に二つ。本は入っていない。
 明るい。白色の光を発するランタンを模した電球は、室内全体を照らしている。左右の壁、本棚の真横にそれがあり、明るさには困らない。
 真正面少し右の壁に、また扉があった。少しだけ開いている。全開にしてみると、目の前に階段が現れた。
 下に続いているが、先は長くないらしい。スマートフォンのライトでかざしたところ、十段程度下がったところにまたも扉。何者かは、ここから下へと降りていったのだろうか。
 しかし若月の考察はそこで途切れた。そこで、それに気がついたからである。
 埃臭さに紛れていたが、生臭さが鼻の奥に漂ってきた。長期間生ものが放っておかれたゴミ箱のような、嫌な臭いだ。
 黒目を左右に動かすが、臭いの元になりそうな物は何もない。ランタンと本棚だけ——。
 若月は本棚の端に近づくと、両手で力を込めて内側に、横に引いた。すると、ほんの僅かながら、壁と本棚の間に空間ができた。
 隙間を覗く。本棚の後ろには壁が無かった。どうやら、奥に空間があるようだ。
 やはり。ここに入ってから、どこか違和感があった。中途半端な広さに、電球の設置位置。天井まで届く本棚。なんてことはない、本棚をパーティーション代わりに、部屋は二つに分けられているのである。
 この臭いは、向こう側から漂ってきているようだ。しかし隙間は細く、何も見えない。
 若月は本棚に目を向けた。縦に長いそれは、十枚の棚板が差し込まれている。試しに、上から四つ目の棚板を両手で掴む。と、棚板の縁に若干の窪みがあることがわかった。手前に引け。本棚に、そう言われているような錯覚に囚われた。
 豪邸に隠し部屋。その部屋の中の隠された空間。ドラマであれば胸躍るが、当事者となればひどく不安になるものである。
 若月は一息つくと、両手でその棚を手前に引いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

タダで済むと思うな

美凪ましろ
ライト文芸
 フルタイムで働きながらワンオペで子育てをし、夫のケアもしていた井口虹子は、結婚十六年目のある夜、限界を迎える。  ――よし、決めた。  我慢するのは止めだ止め。  家族のために粉骨砕身頑張っていた自分。これからは自分のために生きる!  そう決めた虹子が企てた夫への復讐とは。 ■十八歳以下の男女の性行為があります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

処理中です...