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第一章 旅は道連れ
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しおりを挟む昔から、俺は人前で目立つ事が嫌いだった。
持久走大会では真ん中あたりをキープして走り、高校の時は好きだった女子に、告白できずに卒業した。何にも挑戦することなく、荒波を立てず、のらりくらりと過ごし、社会人になってからも既に五年が経過した。
振り返ってみても、特に輝いたといえる思い出が無い人生。客観的にも、主観的にもそう断言できる人生。そんな人生の持ち主だった。
だが、今回は違う。
凡庸な俺の、最初で最後の大勝負。
俺は、それに出たのだ。
貯金は百万円弱。一生どころか、半年生活するにも足りないかもしれない。娯楽に金を注ぎ込めば、一ヶ月ももたずにすっからかんだ。ただ、後先考えなくて良い数日間を過ごすとすれば、豪遊しても有り余る程の金だった。
びゅおおお。
車内に耳を切り付けるような強風が入り込んでくる。ばたばたばたと、ダッシュボードの上に置かれた旅行雑誌が風に煽られ、捲られる。
「なあ」
ハンドルを両手で掴み、視線はまっすぐ目の前。速度は80キロをキープ。晴れの日の高速道路の速度制限は100キロまでだが、先程まで雨が降っていただけあって、通りすがる標識は80を示している。この車の速度と同じだった。
「深青。聞こえてんだろ」
「はい?」
助手席に座る少女は、笑顔を俺の横顔に向けた。強風で、彼女の空色のワンピース、スカートの裾がパタパタとはためく。
「龍介さん、何か言いました?」
「窓、閉めてほしいんだけど」
「なんでですか」
「見てわかるだろ。風で車内が大変なことになってるだろ」
「えー。でも、もうすぐ海沿いなんですよね」
それと窓を開けたままにすることの関連性はなんだと突っ込みたいところである。しかしにわか雨が止み、雲の合間から覗く青空も相まって、単に気持ちが良いといった理由だろう。
「良いから、しめるしめる」
「仕方ないですねぇ」
しぶしぶといったふうに、深青は窓を閉める。途端、荒ぶりを見せていた旅行雑誌がぴたりと鎮まり、何事もなかったかのような佇まいで鎮座した。
俺はちらりと、それを視界の片隅に置いた。
俺は、観光目的で車を走らせているわけではない。
目的地は、決まっている。
しかしそれは、この世には無い。
俺と彼女の二人は、この旅の最後に死ぬのだから。
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