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終章 彼女は蜃気楼だった
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しおりを挟む「言ってなかったこと?」
「私が龍介さんの旅に同行した理由、覚えていますか」
「確か…理乃の恋人だった俺がどんな人間なのか。それを知るため」
「それは、表向きの理由でした」
「表向き?」
「私はお姉ちゃんを殺した人間全員に罪がある。そう思っていました。龍介さん、あなたもそのうちの一人だったんです」
「つまりは、俺を殺そうと?」
「そこまで極端には考えていませんでしたが」
訥々と、深青は話を続ける。
「最初、私はお姉ちゃんを殺したのが龍介さんと疑ってました。龍介さんはお姉ちゃんの一番近くにいた存在だから」
彼女が言うように、客観的にはもっともな容疑者として自分が挙げられるだろう。
「お姉ちゃんのスマホで、龍介さんの名前や連絡先、GPSで住所を知りました。また、何日間か尾行したことで、貴方が死のうとしていること…それを知りました。
この人が死ぬ理由。それは、お姉ちゃんを殺したことへの懺悔や後悔か。復讐するにしても、まずはそれを見定めてからと思い、死ぬための旅に同行しようと思ったんです。
でも、一緒にいて、あのだるま夕日を見て。この人は犯人じゃないと直感しました」
あの時、俺の瞳から自然と滴り流れた涙。あれは表裏のないものだった。はからずも、それが深青が俺を善であると判断するに至ったということになる。
「ただ、それならこの人はどうして死のうとしているのか。そこで仮説を立てました。龍介さんが、お姉ちゃんを殺した犯人を知っていたとしたら?と。
そうなるとどうなるのか。そこで、私は龍介さん目線で考えてみました。犯人を知っているのに、死を選ぶ理由です。…すぐにピンと来ました。犯人と一緒に、自分も死ぬ。それが目的なんじゃないかって。
あなたはお姉ちゃんを愛していた。お姉ちゃんもまた、そんな龍介さんを愛していた。それが、あの時一緒に旅をしてわかったんです。ここで死なせちゃいけない。お姉ちゃんも、それを望んでいるって」
「…それで警察を呼ぶような真似をしたのか」
「はい。車の中で、あの動画を見つけたんです。思わず連絡していました。すると東京から警察が向かってきてくれているって聞いて。ここにいるって教えたんです」
「だからあれだけ警察が早く来たってわけか」
理乃は肯く。「でも、本当に良かった。そうじゃなければ、龍介さんも私も無事じゃなかったかもしれません」
警察が来なければ俺は腹部を刺されていて、深青は一人だ。頭に血が昇っていた田上は、意地でも彼女の口を封じにかかっただろう。
「いや」
しかし俺は、彼女の言葉を柔く否定する。
「深青。君は大丈夫だったはずだよ」
「それはどうして…」
「声」
「え?」
「俺があいつに飛びかかる直前にさ。声が聞こえたんだ。理乃の」
「お姉ちゃんの?」
「ああ。深青は大丈夫だからって。あの子を助けてって」
「…お姉ちゃん」
深青は涙ぐみつつ、「見ていてくれたんですかね」
俺は涙をハンカチで拭う深青をそのままに、何気なく水平線上に目を向けた。
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