ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「こんなとろけた顔してんのに、嫌だって言うんだ?」

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 いきなり始まった同居生活は、最初こそハラハラドキドキとした。
 一度は関係を持ってしまったから、また羽琉に強く迫られたら拒めないような気がして。
 あの手で、あの唇で触れられてしまったら力が抜けてしまうから。
 だけど、予想に反して羽琉はそこまで迫ってくるようなことはしなかった。
 ただあるとしても、こっそりとキスをするだけ。
 それに拍子抜けをしている自分がいて、そんな自分が嫌だった。


「羽琉、まだ寝てんの?」

 朝食を摂りながら、琉生がそう聞く。
 羽琉が使っている部屋は閉まっていて、まだ起きてくる気配はない。

「あぁうん、羽琉くんも朝強くないみたいだね」
「まあ一応これでも兄弟だし」
「でも、顔は全然似てないよね。兄弟って言われてもわかんないくらい」

 もっと顔とか雰囲気が似ていれば、あの日になにか気付けたかもしれない。
 関係を持つことも、もしかしたらなかったかもしれないのに。

「羽琉は母親似なんだよ。っていっても、写真でしか見たことないけど」

 そうだ、二人は母親が違うんだった。
 いくら父親が同じだとしても、母親似なら似てるわけがない。

 琉生が羽琉の存在を知ったのは、高校生の時だったと聞いた。
 羽琉の母親が亡くなったことがきっかけで同じ家に住むようになった、と。
 いきなり知った弟の存在に戸惑い混乱しただろうし、そしてそれは羽琉もそうだったはずだ。
 羽琉が琉生を嫌っているのも、それが関係しているのかもしれない。

「ごめんな、羽琉みたいにかっこよくなくて」

 冗談交じりにそう言われて、「なに言ってんの」と口元に笑みを浮かべた。
 確かに羽琉はかっこいいけどそれだけで、紗奈が好きなのは琉生だ。
 体の関係を持ったからと言って好きになったわけでもないし、それはこれからもそうで、好きになんてならないしなったらいけない。
 これからも琉生と付き合っていく気でいるのなら、なおさら。


「ご馳走様」

 琉生は朝食を終えると、食器をシンクに片付けて洗ってくれる。
 なにも言わなくてもそうしてくれる思いやりが嬉しくて、とても心地いい。

 琉生との生活で、どちらかがどの家事をやるのかは基本的には決まってない。
 空いた時間にやれることをする――それはお互いを想うからこそできることで、琉生だからこそ成り立っている。
 セックスのことを抜きにすれば、琉生は本当にいい彼氏だと思う。
 ちゃんと愛してくれているし、紗奈との時間も大事にしてくれる。

「じゃ、行ってくる。紗奈も気をつけて行くんだよ」
「うん」
「遅刻しないように、羽琉のこともちゃんと起こしてあげて。あと仲良くな」
「わかってるよ。琉生の弟は、私にとっても弟みたいなものだからね」

 紗奈の頭を撫でると、琉生は玄関のドアを開けて仕事に出掛けていった。


 見送った後で、玄関のすぐ側、羽琉が使っている部屋に視線を向ける。
 そのドアをノックする時は、いつもドキドキする。
 迫られたりしたら、流されたりしたらどうしよう、って想いが奥底にあるから。
 それでもなんでもないふうを装い、部屋のドアを軽く叩いた。

「……羽琉、くん?」

 そう呼びかけても返事がなく、何度やっても返答もなくドアが開くこともなかった。
 そっとドアを開けると彼はいまだにベッドの上で、瞼はまだ落とされたまま。
 こうして目を閉じていても羽琉のかっこよさは健在で、そう思うのがなんだか悔しい。

「起きて、朝だよ。ねえ――」

 体を揺らすと、不意に彼の瞳が少し見開かれる。
 その次の瞬間、いきなり腕を引っ張られたの思うと羽琉の上に体が沈んだ。
 そのまま抱きしめられる形になり、囁くように耳元で「おはよ」と声をかけられた。
 たったそれだけでゾクッとしてる隙に、耳朶を軽く食まれた。

「ちょ…っ」

 離れようとしても体はなおも捕まったままで、なにもできない。
 体の逞しさを服越しに感じると、抱かれた夜のことを思い出す。
 それにドキドキせずにはいられなくて、それを誤魔化すように引き剥がそうとするも無理だった。
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