ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「それ、誘ってるふうにしか見えねえよ?」

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「紗奈」

 そう呼ぶ声は甘い。
 琉生がいる時、紗奈さん、って呼ぶ時とは違う艶のある声にドキッとして、目を離すこともできそうになかった。
 嫌だと言うことができないのは、きっとこの停電のせい。
 ペットボトルランタンのことを知ってたりして、羽琉の意外な一面を知ったから。

 ゴロゴロ、と雷の音が聞こえる。
 でも、それもどこか遠くて、視界に入るのは目の前の羽琉だけ。
 なにをどうすればいいのか迷って、でもなにもできなくて、抵抗ひとつできない優柔不断な自分が情けない。


 その時だった。
 どこかでなにかが物音を立て、紗奈は一瞬だけ体を縮こまらせた。
 外の悪天候のせいで部屋が少し揺れただけで、それ以上のことはないのかもしれない。
 いつもならなにも感じないようなことなのに、今日はなぜか怖く感じた。

「ちょっと見てくる。紗奈はここにいて」

 羽琉は柔らかく笑いながら「大丈夫だから」と言うと、紗奈から離れた。
 ポンポンと頭を撫でる手が優しくて、温もりが遠ざかることに寂しさを覚えた。

 相手は琉生じゃない、その弟の羽琉なのにどうしてこんな気持ちになるの。
 自分の中でぐちゃぐちゃになってる寂しさとか不安とか、羽琉なら受け止めてくれるかもしれないなんて思ってしまうの。
 たった一夜、あの日になにもかもを受け入れてくれただけなのに。


 それは無意識だった。
 背中を向けた羽琉の服を軽く掴んでしまったのは。

 一人になるのが嫌だった。
 こんな荒れた天気の日だからこそ、誰かに側にいてほしくて。
 琉生が今はいないから代わりに羽琉を求めたのか、それとも羽琉だから求めたのか、それはわからない。
 どっちにしても、今ここにいる彼に側にいてほしいと思ったのは事実だった。

「……紗奈?」

 羽琉がほんの少し振り向く。
 紗奈はどうすればいいのかわからなくて手を離すこともできなくて、さっきよりも手に力を込め、自分より背の高い弟みたいな彼を見上げる。

「……ひ、一人になりたく、ない」

 羽琉に甘えるべきじゃない。
 琉生の弟でしかない彼に縋るなんて間違ってるし、きっとおかしい。
 だけど今は、他でもなく彼に側にいてほしいと望んだ。

「側にいて、って聞こえるんだけど」

 はっきりと言えない。
 羽琉とは付き合ってるわけじゃなく、ただの同居人でしかないのに。
 たとえそう思っていたとしてもそんなことは言えそうになく、ただ手を小さく震わせながら服の裾を掴むだけだった。

「俺、兄貴じゃねえよ? ちゃんとわかって言ってんだよな?」
「…う、うん」
「本当にわかってる? それ、誘ってるふうにしか見えねえよ?」

 力強い腕に引っ張られたと思うと、そのまま腕の中に体が収まった。
 雨の匂いに交じって感じる羽琉の香水の匂いが鼻先をかすめて、優しく包み込まれるとあの日の夜が昨日のことのように蘇り、ドキドキしてしまう。

 そうしてると電気がついて、部屋に明かりが戻った。
 目の前の羽琉の顔もはっきり見えて、今さら恥ずかしくなる。
 視線から逃れられずにいると、羽琉の唇がまたそっと触れた。
 それを嫌とは思えなくて、そのまま素直に受け入れてしまったのはきっと雷のせいで、そして琉生が側にいないせい。
 そうやって〝なにか〟に責任転嫁して、自分に都合よく言い訳を並べる。
 そうじゃなくて、羽琉を抵抗できないだけに過ぎないのに。

「紗奈、抱きたい。ってか、抱くから」

 えっ、と声を上げる間に、細身ながらも逞しい腕に軽々と抱っこされた。
 それが恥ずかしくて「…お、下ろして」と懇願しても、羽琉は聞いてくれない。

「紗奈が悪いんだよ? 煽ったりするから。ちゃんと責任取って」

 羽琉は妖しく笑ってキスを落とした。
 それがもう気持ちよくて、ギュッと彼に抱き着いてしまっていた。
 多分、最初から彼を拒絶したりなんてできるわけがなかったんだ。
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